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オーバークロック・ノア  作者: くじらちさと
視えすぎる目
3/57

section2『世界の感覚』

異界に踏み込んだ少年の前に広がるのは、静かすぎる世界。


このセクションでは、主人公・三國見 真が「五感」を通して、

異常な世界を知覚していく瞬間を描いています。


音が消え、匂いが歪み、触れるものが現実とかけ離れていく──


これは、彼が最初に感じた「世界の狂気」。

何が正しくて、何が壊れているのか。

その境界線は、もう曖昧だ。

風が止んだ。

途端に空気が重くなる。


音が、ない。

静かすぎるのではない。“音が存在していない”としか言いようがない。


俺はその異常さに気づいたとき、ようやく気配に集中することができた。

けれど何も感じない。ただ、“音が死んでいる”という不快感だけが耳を満たしていた。


(何も聞こえない……風の音も……虫の声も……)


違う。

そうじゃない。

本当は聞こえているのに、脳が“音”として処理できない。そんな感覚だった。


「……聴覚が、機能してない……?」


そう呟いた声は、自分の中で反響していた。

空間の密度が変わったような、閉じた空間にいるような。そんな“気圧”があった。


そして次に、嗅覚。


喉の奥が乾いていく。

鉄と煙が混ざったような、刺すような匂い。

ただの焦げた臭いとは違う。“何か”が焼けた後の匂い。生物の痕跡が感じられない。


「……これ、何日も火が消えてないのか……?」


そう思っても不思議じゃないほど、空気の中に焦げの成分が染みついている。

呼吸をすればするほど、酸素じゃない“何か”が体に入ってくる感覚。


俺は自然と顔をしかめた。


次に、視覚。


目に映るものはすべて現実のはずなのに、違和感がある。

彩度が極端に落ちているのか、それともこの世界自体に“色”がないのか。

建物も地面も空も、まるで古い映像のように色がくすんでいた。


不自然だ。

暑くも寒くもないのに、空気は焼け焦げていているように感じる。


「……太陽はあるのに、熱が届いてない……?」


感覚が矛盾している。

世界の“物理”が狂っている。



そして、触覚。


背中にこびりついた粉塵。指先の切り傷。

一つ一つが現実で、確かに痛い。

この世界の全ては、俺を拒んではいない。ただ、徹底的に“狂っている”。


足元に画面の割れたスマホを見つけた。

拾って電源を入れてみるもつかない。

バッテリー切れか壊れているようだ。


(誰かがここに落としていったのか?)


“誰か“がここにいた可能性が出てきた。



(ここは……)


喉が乾く。

酸素が足りない。けれど、呼吸はできている。

不安と混乱が同時に押し寄せる。

けれど、俺はまだ耐えられる。


(まだ大丈夫だ。……五感が壊れてないなら、俺は生きてる)


ゆっくりと歩き出す。

どこかに誰かがいるかもしれない。

いや、いてほしい。

“自分以外の気配”が欲しい。

この世界が、完全な死ではないことを証明してほしい。


そう願いながら、俺は一歩ずつ瓦礫の上を歩いていった。

お読みいただきありがとうございました。


“異世界の異常さ”を感覚ベースで描くことを重視しましたに投げ出された真が冷静に観察し、自分の生存を確認していく様子を丁寧に追っています。


派手なバトルや展開の前に、「この世界は本当に危険だ」と読者が納得できる空気を作る──

その第一歩がここです。

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