section7『―― 合流、そして激化』
死の気配が現実になったその時、二つのグループが交差する。
経験者としてこの地に戻った二人の少年が、それぞれの覚悟を胸に並び立つ。
守れるか、救えるか──それは、今この瞬間にしか決まらない。
廃ビルの間を縫って進んでいた真は、瓦礫の隙間を抜けた瞬間、風の流れが一変したのを感じた。
空気がざわついている。音ではない、視覚でもない。
何かが、近くにいる――そんな“気配”が肌を打った。
(……誰かが来る)
視線を巡らせる。
その先、半壊した建物の影から、ひとりの少年が姿を現した。
白い息。鋭い目。背後に数人を連れた、冷静な立ち姿。
「……凪!!」
「真!」
凪と真の視線が、同時に交差する。
わずかな静寂の中で、互いの存在を確認し合う。
「無事だったか……!」
「そっちこそ……何人か、一緒か?」
凪が振り返ると、数人の転写者たちが不安げに身を寄せ合っていた。
「……俺の方もどうにか生きてる」
「そっか……助かったよ、お前がいてくれて」
――その短いやり取りの直後だった。
風が、止まった。
空が、音を失った。
地鳴りも、棘の飛来も、全てが一瞬にして消え失せる。
「……静かすぎる」
「いや……来るぞ」
凪が低く告げた瞬間だった。
──ドウゥン、と空気が沈んだ。
それは、真上からだった。
巨大な影が、黒い雲を突き破るように降下してくる。まるで何かが“空ごと落ちてくる”ような圧迫感。眼前に現れたその存在は、漆黒の翼を広げた飛行生物だった。
姿は不明瞭で、まるで霧のように輪郭が曖昧。だがその目だけが、鈍い光を帯び、こちらを確かに見据えている。
「な……なんだ、あれ……!?」
隼人が思わず後退し、レイラは言葉を失っていた。
(見ただけで、まともに息ができなくなる……)
その威圧感は、ただ存在するだけで精神を削るような異質さだった。
「これが……この世界の、“本物”の脅威か」
真が呟いたその時、地面がうねった。
棘が、再び動き出す。今度は、“根源”が露わになった。
──それは、地を這う黒い四足獣。
甲殻のような外骨格、骨のように伸びた尾、その尾先から放たれるのが、あの棘。
何体もいた。地を駆け、咆哮し、群れのように迫ってくる。
「マズい……挟まれるぞ!」
真が振り返り、叫ぶ。
「 前に出るのは俺たちで十分だ。お前らは絶対に下がれ!」
「っ……わ、わかりました……!」
レイラは怯えながらも頷き、隼人も無言で頷いて後方へ動いた。鳴だけは、青ざめたまま、しがみつくように真の背後へ。
「お、俺……前にも来たけど、こんなの、見たことねぇ……」
「大丈夫だ、鳴。俺がいる。絶対に守る」
凪も氷剣を構える。
「前に出るぞ、真!」
「ああ!」
真と凪が同時に駆けた。
地を駆ける四足獣が唸り声を上げ、飛びかかる。空からは影の飛行生物が旋回しながら、光弾のような圧力波を地上に叩きつける。
「来るなら来いよ……こっちは二人だ!」
真が吠える。
「背中は任せるぞ、真」
「おう!」
荒れ狂う嵐の中心で、二人の“経験者”が前線に立った。
それは、生き延びるための、覚悟の戦いの始まりだった。
生と死の境界は、すでに目前だった。
二人の力は確かに強く、速く、鋭い。
それでも──“全員”を守るには、あまりにも手が足りない。
選ばれる者と、取り残される者。
その境目が、ひとつ、またひとつ、刻まれていく。




