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オーバークロック・ノア  作者: くじらちさと
ノアの胎動
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section4『開眼 - ミロクの片鱗』

その力は、眠っていたわけじゃない。


見えない世界に触れた少年が、初めて“現実”に対して牙を剥く。


神瀬 かんせ・きょうの導きのもと、三國見 みくにみ・まことが“ノア”の第一歩を踏み出す。

旧校舎で話した翌日。


朝、駅前で神瀬と待ち合わせた俺は、彼の車に乗っていた。




「この辺、見たことない……」




住宅街を抜け、舗装されてない山道を走ることしばらく。


神瀬が車を停めたのは、草と土に囲まれた広い空き地だった。木々に囲まれて、周囲に人の気配はない。




「ここ俺の持ち山。ここなら何が起きても大丈夫」




そう言って笑う神瀬を見て、不安がよぎった。



「よし!テストしようか」



神瀬は地面に木の枝で円を描くと、俺をその中心に立たせた。




「じゃ、始めよう。これは反射テスト」




ポケットから取り出した500円玉を、指ではじく。




カランッ!




その瞬間、世界のスピードが変わった。




硬貨がゆっくり空中を回りながら飛ぶ。まるで、スローモーション映像の中にいるようだった。




さらに——


“このあと硬貨が落ちる軌道”が、空中に光って見えた。




(……えっ?)




頭で考える前に、手が動いていた。


俺の左手が、その光っている場所に伸びて、


落ちてくる硬貨をピタリとキャッチした。




「おー、やるね。最初にしては上出来」




神瀬が軽く笑う。




「よし、じゃあ次いこう」




次は指先サイズの石を何個も用意し、いきなり俺めがけて投げてくる。




「円から出るなよ。避けるだけでいい」




石が飛んでくるたびに、視界が“反応”する。


もっとも危ない軌道だけが、他より濃く、赤く見える。


体が自然とその場所を避け、時には手で弾く。




(怖い……でも、どこに来るか“わかる”)




目の奥が熱くなる。


呼吸は早いのに、頭の中はクリアだ。




自分が今、何か異常な力を使っているのは確かだった。




「よし、一旦ここまでにしよう。今のが君の“ノア”の第一段階だ」




「ノア……俺の力……?」




「視覚の強化だな。名前は《ミロク》。


さっきやったのは、こういうことだ」




神瀬が指を立てて、ひとつずつ説明する。




「一つ目相手の動きが少し先に“見える”


二つ目特に危ない動きには“色”がつく


三つ目周囲の時間がゆっくりに感じる」




「……じゃあ、俺は」




「ああ、間違いなく“ノアに目覚めた”側の人間だ」




怖かった。


世界が変わったような感覚。


目に見えるもの、見えないものまで、どんどん入り込んでくる。




でも、それと同時に感じたのは——


「自分が今、何かを掴みかけてる」という確信。




(本当に、戻れないところに来たのかもしれない)




そんな不安を抱きながらも覚悟を決めるしか道はないと言い聞かせる。



訓練を始めてある程度時間が経った。



「……だいたいコツは掴めたな」




神瀬が言うと、俺は息を整えながら頷いた。




「まだ全然、思い通りにはいかないですけど……感覚は、ちょっとずつ」




「それでいい。焦る必要はない。むしろ、焦らないほうが早い」




彼はそう言って、ポケットから飴玉を取り出し、自分の口に放り込んだ。




「今日の分はもう十分だ。帰るぞ」




湿った風が、昼間とは違う匂いを運んでくる。




車に乗り込む直前、俺はふと聞いた。




「……神瀬さん、“ノア”って、結局なんなんですか?」




神瀬は、一瞬だけ空を見上げたあと、運転席に乗り込んだ。




「乗れ。話してやるよ、帰り道でな」

見えた。掴めた。そして、まだ遠い。


確かに力は芽吹いた。でも、それはただの始まりに過ぎない。


日常が崩れ始める音が、もう耳元まで近づいていた。

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