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蛇に睨まれた村

そこは不用意の立ち入りを禁ずる森、セリューディア大森林。

入った者は帰ることを許されない森として有名な森の中にふたつの人影があった。

雲が月明かりを包む時、その人影は接触をはたす。

「…手短に済ませよう。報告を。」

「ギルドへの侵入は成功した。警戒すべき人間の目星もついている。」

「偽装に必要な人材は?」

「…接触済みだ。これから本格的に動く。」

その瞬間、片方の影が、鋭い殺気を放った。

「おいおい。ここで殺しても意味ないぞ?約束は守るさ。俺達はそういう組織だ。」

「大人を殺し、子供を攫っておいて何を言う。」

静寂が流れたあと、もう一人の影は、薄く笑った。

「それもそうか。…まぁせいぜい頑張れよ。」

そう言い残すと男は暗闇に姿を消した。

残された者は無言で得物を握り締めた。

「…待っていろ、アカリ。」

その得物は主の怒りを映したかのように、小さく震えていた。



「ねぇねぇ。2人ともこれ見た?」

リリアが軽い調子で声をかけながら、酒場の一角に座っていたアレンとセイラの隣に腰を下ろす。そして一枚の情報紙を差し出した。

「リリアさん?仕事はどうしたんですか?」

「ちょっと休憩。それよりもこっち。」

アレンとセイラが目を落とすと、そこにはこう記されていた。


『【号外】「光の鎮魂歌(ルクス・レクイエム)」と呼ばれる集団の暗躍が確認され始めました。関係者と思しき人物による不審な動き、または失踪事件との関連性が疑われています。読者諸君、警戒を怠らぬよう。』


「これは?」

「あら、知らないの?街で話題になってるのよ?子供の失踪や謎の人影、そんな噂が後を絶たないのよ。」

「聞きました。確か“次の標的はこの街”って、大騒ぎになってたような……」

「そうなのよ。だからここにも護衛関係の依頼が増えててさ。2人とも、もし手が空いてたら今度手伝ってくれると助かるんだけど…」

「もちろんです!」

「ありがと、頼りにしてるわ。…あ、もう時間ね。2人とも、これからも頑張ってね。」

そう言ってリリアはひらひらと手を振りながら、受付へと戻っていった。

光の鎮魂歌(ルクス・レクイエム)か、気をつけないとですね。」

「街の人たちに、被害が出ないことを祈りましょう。」

「おっ、アレン達じゃねぇか!」

後ろから聞き覚えのある声がかかり、2人が振り返る。そこには大きく手を振ってこちらへ向かってくるトウマの姿があった。

「トウマくん!久しぶり…ってほどでもないか。」

「こんにちは、トウマさん。もうすっかり馴染んでるようですね。」

「頑張ってるぜ。この間も依頼を2つこなしてるしな。」

「そっか、僕達も負けてられないね。」

「そうそう。実はアレン達に頼みがあったんだ。」

そう言うとトウマは懐から1枚の依頼書を取り出す。

「これなんだが一緒に行かないか?」

「…ポイズンスネークの討伐ですか。」

アレンはトウマが出した依頼書に目を通す。

「そう。村の作物がこいつら荒らされてるらしくてな、討伐依頼が出たってわけだ。」

「なるほど、僕は構わないけど、セイラさんは?」

「ええ。私も構いません。」

「じゃあ決まりだな!早速行こうぜ。」

アレン達は席から離れ、リリアの元に向かった。

「あら、3人ともこれから依頼?」

「はい。この依頼を受けます。」

アレンが依頼書を見せると、リリアはすぐに内容を確認した。

「ポイズンスネークね。それなら解毒薬は持っていくといいわ。ギルドでも売ってるから、忘れずにね。」

「そうですか。なら6本…あ、セイラさん、精霊って毒の影響受けますか?」

「いいえ、精霊たちなら問題ありません。でも…お気遣いありがとうございます。」

「いいんですよ、彼らも同じ仲間じゃないですか!」

「……ふふ、そうですね。」

「じゃあ6本ね。1本銀貨1枚だから、合計銀貨6枚ね。」

「うっ、結構するんですね。」

アレンは財布から銀貨を取り出し、リリアに渡す。

「これで準備は整ったかな。よし、じゃあ出発しよう。」

「では3人とも、英雄セリオンの加護があらんことを。行ってらっしゃい〜。」

3人の冒険者はリリアの声を背に受けながらギルドを後にする。




そこは一般的な農村だった。しかし、1つ違う点をあげるとすれば、

「人が居ないですね。」

「居ないというより皆さん家に籠ってると言った方が適切でしょうか。」

そう、村民が外を出歩いて居ないのだ。家屋の窓は固く閉ざされ、息を殺している村民の緊張感が肌で感じることが出来るほど空気はピリついていた。

「ここが村長の家か。」

トウマは扉を軽く叩き、村長を呼ぶ。

「我々はギルドの冒険者だ。ここが村長の家で間違いないか?」

すぐに扉が開き村長が出てきた。その姿は目に見えて怯えており、汗が滝のように流れていた。

「冒険者様っ、さ、さぁこちらへ…。」

疲弊した村長に促され、3人は席に着いた。

「それで、ポイズンスネークの討伐で間違いないな?」

「は、はい。数週間前からです。ある男性から不思議な作物の種を貰ったのです。男性が言うには3日3晩で成熟する優れもの。」

トウマは村長の言葉に怒りが込み上げる。

「……そんな馬鹿な話、あるわけがない。」

「ト、トウマくんっ!」

「…すまない、続けてくれ。」

「冒険者様の言葉はごもっともです。ですが私たちの村は不作続きだったので藁にもすがる思いで育てました。数日後、異例の速さで育った作物はこの村に一時的な豊作をもたらしました。しかし、それからここの生活は一変したのです。」

村長は立ち上がると窓の隙間から田畑を覗く。そこは魔物に食い荒らされた土地が広がっていた。

「この作物はふたつの魔法がかけられていました。ひとつは成熟させる魔法。もうひとつは…。」

「ポイズンスネークを引き寄せるものですね。」

「その通りです。収穫しようと朝から準備を進めていると大きな影が田畑に現れました。それがポイズンスネークです。奴らは穀物を食い荒らし、作業をしていた村民を殺害しました。そしてこの通り、誰も外に出歩けず、蛇に睨まれる村となったのです。」

村長が話を終えると静寂が訪れる。それを打ち破ったのはトウマだった。

「哀れだな。」

「トウマくん!」

「事実だ。…しかし、お前らも騙された身だ。理解はする。ポイズンスネークは俺達が討伐する。」

トウマはそう言い放つと村長の家を後にした。

「仲間が無礼を働いてしまい申し訳ございません。」

「いいえ……私たちが、欲に目が眩んだ結果です。どうか、この村を……救ってやってください。」

村長は深々と頭をさげた。この村を背負っていることが彼の頭をさらに重くする。

「もちろんです!この村は僕達が必ず救います!」

「なので頭を上げてください、村長さん。」

「……ありがとう…ございます。」

アレンとセイラはトウマの後を追うように家を出た。



「トウマくんっ!」

トウマに追いついた2人は村長に対する無礼について問いただす。

「どうしてあんな言い方をしたんですか?」

「そうだよ。村長さんもすごく辛そうだったじゃないか。」

するとトウマは足を止め、2人に向き直る。

「…悪かったな。事情を考えれば、責めるべき相手じゃないってのは分かってる。でもな、俺の故郷じゃ、自然の恵みに人間が過度に手を加えることは御法度だったんだ。教えをくれた師匠にも、そう叩き込まれててな。」

「そうだったのですね。」

「しかしここは異国の地。彼らには彼らのやり方があるんだろうな。」

「でも今回については悪意があると思うんだ。」

「確かに種を持ち込んだという男性も気になります。後でそのことについても調べてみましょうか。」

「まずは、ポイズンスネークを倒さなきゃ、何も始まらないな!」

「そうだな。すまなかった、2人とも。」

そうして3人の冒険者は再び歩き出した。

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