田舎武士
ギルド セリューディア支部
夜の帳が街を包む頃、アレンとセイラは報告を終えていた。
「どうだった?あの依頼なら2人でちょうどいいと思ってたんだけど。」
「実は大地の裂け目が発生していたんです。そしてーー」
報告を聞き終えると、信じられないというように目を見開いた。そしてカウンター越しに深々と頭を下げた。
「そんなことがあったなんて…。完全に私の調査ミスよ……。まさか、大地の裂け目が発生していたなんて……。
2人を危険に晒してしまった。本当に……ごめんなさい。」
アレン達はリリアの反応に慌てた様子で答える。
「そんな、顔を上げてくださいリリアさん!」
「そうです。この依頼で、私たちは多くを学びました。むしろ、感謝しているんです。」
「そうですよ。それにラミナを討伐したので魔石が手に入れることが出来ました。」
2人の反応にリリアは涙を流す。
「2人とも〜っ!そう言ってくれるととても救われるわ。本当にごめんなさいね。再発防止に務めるわ。ラミナの魔石も、ここで換金できるけど……どうする?」
「ぜひ、お願いします。」
アレンはカウンターに大小様々な魔石を提出した。
「これで全部ね。じゃあ明日の朝には用意できるわ。あとはなにかある?」
アレンはパーティ申請を思い出し、リリアに手続きをお願いする。
「あの、パーティ申請をおこないいたいんですが…。」
「あら!もしかしなくてもあなた達2人よね。わかったわ。じゃあここにパーティメンバーの名前と使用魔法をお願いね。」
アレン達は手続きを終え、宿へ向かった。
「今日はありがとございました。突然のお願いだったのに…。」
「気にしないでください。僕も依頼を探してたところだったので。それに、こうしてセイラさんとパーティを組むことが出来ましたから。」
「ふふ、それもそうですね。」
「それでは明日の朝、ギルドで魔石を受け取りましょうか。今日はいろいろありましたし、ゆっくり休んでくださいね。」
「はい。アレンさんも……おやすみなさい。」
そうしてそれぞれの宿へ向かうのだった。
朝日が昇り、街が日に照らされ始める頃、アレン達はギルドにて換金受け取りをおこなっていた。
「おはよう、2人とも。昨日の魔石の換金、終わってるわよ。」
リリアはアレン達に貨幣を差し出す。
「中魔石1つと小魔石6つで銀貨20枚よ。」
「す、すごいっ。こんなに…!」
2人は初の大金に緊張してしまう。
「まぁ、初めてならそんな反応にもなるわ。でもこれからはもっと稼げるかもしれないんだからね。頑張りなさいよ。」
「はい。」
「それで?2人は今日も依頼?」
「そうですね。今日はーー。」
3人が話ていると、ギルド入口が勢いよく開いた。喧騒に包まれていたギルド内の空気が一瞬止まり、冒険者たちの視線が一斉にその方向へと注がれる。そこには刀を携えた東方の武士がいた。
「…あ、すまない。勢いが余ってしまった。」
彼は頭を掻きながら気まずそうに受付に近づく。
「えっと、ここがギルドであってるよな?すまない、田舎上がりなせいで都会はちっとも…。」
「ええ、ここはギルド セリオンオース セリューディア支部です。今回はどのようなご要件ですか?」
「ああ、冒険者になりたくてな。」
「承りました。ではまずお名前と年齢をお願いします。」
「俺の名はトウマ・シラヌイ、今年で十六になるな。」
「…トウマ・シラヌイ、16歳ですね。では契約金の銀貨5枚をお願いします。」
「おう、銀貨5枚…5枚?」
トウマは懐を漁るが銀貨が出てくることはなかった。
「…まずい、銀貨が、無いッ!」
トウマは焦った様子で身体中を調べるが出てくることはない。その困った様子にアレンは救いの手を差し伸べる。
「…あの、これ、使ってください。」
「っ!!いや、名も知らぬ御仁に金銭を貰うことはあってはならない。」
「僕はアレン、ここの冒険者だよ。最近入ったばかりの新人だけどね。」
「私はセイラです。私も新人です。こちらのアレンさんとパーティを組んでいます。」
「これで、名前を教えたよ?」
「し、しかし…。」
躊躇しているトウマに半ば無理やり銀貨を渡す。
「じゃあ、貸すだけ、いつか返してね。これならいいでしょ?」
「ぐぬぬ、これ以上は無礼にあたるか。わかった、しかしこの恩は必ず返そう。」
トウマはアレンから受け取った銀貨5枚を契約金として支払う。
「はい、銀貨5枚確かに受け取りました。では、改めまして。ようこそ、ここはギルド セリオンオース セリューディア支部よ。使用はそうね、アレンくん達にお願いしようかしら。」
「分かりました。じゃあトウマくん、こっちへ。」
3人は説明を含めてギルド内の酒場の一角に腰を下ろす。
「じゃあ、改めて。ギルドへようこそ。僕はアレン・フレイアード。これからよろしくね。」
「私はセイラです。アレンさんとパーティを組んでいます。よろしくお願いします。」
「俺はトウマ・シラヌイ。東方の国 和陽国の小さな村から来たんだ。よろしくな。」
3人は笑顔で握手を交わす。そしてギルドの説明が始まった。
「ーーって感じかな。分からないことがあったら受付にいたリリアさんか他の冒険者に聞いてね。もちろん僕達もわかる範囲でだったら答えられるよ。」
「そういえばトウマさんはどのような魔法を使うのですか?」
「あぁ、俺は魔法は使えないぞ。こいつさえいれば十分だ。」
そう言うとトウマはアレン達に刀を見せる。
「へぇ、珍しいね。カタナ?だっけ。」
「そうだ。俺はこいつを使った剛心流って流派を使うんだ。」
トウマが鞘から刀身をチラつかせる。セイラはトウマと刀から不思議な繋がりを感じた。
「あら?トウマさんとその刀からなにか繋がりのような物が感じられます。」
「っ!そうか、俺もこいつに認められたのかな…。」
そんな談笑をしているとリリアが近づいてくる。後ろにはボイド達がついてくる。
「トウマくん。依頼の準備ができたわよ。」
「俺達が付き添い人だ。」
「ボイドさん!キールさんにリアさんも。」
「久しぶりね。元気にしてた?」
「よぉアレン!ラミナを討伐したんだって?さすがだな!」
「もう立派な冒険者だな。」
「ありがとうございます!」
依頼書を受け取ったトウマが席を立つ。
「じゃあ俺は行くぞ。また会おうぜ、アレン、セイラ。」
「うん。気をつけてね。」
そう言うとトウマ達はギルドを出発した。
「彼、行っちゃいましたね。」
「僕、彼とまた会えると思うんだ。そんな気がする。」
「そうですね。では私達も依頼に行きましょう。」
「そうだね。今日はどんな依頼にしようかな。」
そう言うと2人も席を立ち、掲示板へ向かった。