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初めての依頼

ここはセリューディア大森林。

アレン達がいる街のすぐ東に広がる、魔物が多く住み着いている危険な地。森に入った人は帰って来ないことも少なくない。故にこの森林は、来るもの拒まず、去るもの許さずで有名な森であった。

「僕、よく叱られた時に言われましたよ。セリューディア大森林に連れていくぞって。」

「確かにこの森は子供への脅し文句で有名だからな。」

アレンはグランマによる教育のお陰か体の震えが止まらなかった。するとアレンの背後から忍び足を立てたキールが近づく。

「バァァァ!!!」

「うあああぁぁぁあ!!!」

「ハーハハハハッ!!」

「やめてくださいよ、キールさん!」

アレンは背中を丸め、キールから距離を取る。

「ハハハッ!オイ、アレン、まさかお前マジでビビってんのか?」

キールは肩を揺らして笑いながら、アレンの肩を軽く叩いた。

「キール、真面目にやれ。報酬は無しにするぞ。」

緊張感のないキールにボイドが低い声が向く。

「まぁまぁボイド、場を和ませただけだろ?」

「その気の緩みが危険を招くと言っているんだ。しかも新人冒険者が2人も居るんだ。真面目にやれ。」

「す、すまなかった。アレンも悪かったな。」

「いいんですよキールさん。緊張を解してくれてありがとうございます。」

アレン達は森を進む。すると奥に向かうに連れ霧が濃くなり、冷たい風が頬を撫でる。不気味な雰囲気に新人二人は身構える。

「リアさん、これはなんですか?」

「安心してセイラちゃん、恐らく近くに大地の裂け目が出現したんだわ。」

「大地の裂け目?」

「お、アレン知らないのか。大地の裂け目ってのはな、えっと、あれだ、その、」

言い淀むキールに代わり、リアが説明を始める。

「大地の裂け目って言うのはね、大気中の魔力を大地が急激に吸ったり、溜まり過ぎると起こる自然現象よ。」

「自然現象?」

「そうよ。魔力を溜めすぎた大地は亀裂を生み、光が漏れ出すの。そこからは魔力で出来た魔物、ラミナが生まれるの。規模もラミナの強さも場所や魔力の多さなんかで変わってくるのよ。2人とも、しっかり覚えておいてね。キールくんも。」

「うッ!!」

「ありがとうございます。リアさん。」

「じゃあ今出現した大地の裂け目はどうするのですか?」

ボイドが辺りを見渡しながら答える。

「そうだな、この大地の裂け目は規模が小さそうだ。それにここは街から遠い、一旦避けつつ移動し帰還後ギルドに報告しよう。」

「仕方ねぇな。ラミナから取れる魔石は結構稼げるんだがな。」

「そうなんですか?」

「ああ。あいつらから取れる魔石はギルドで換金してくれんだよ。臨時報酬みたいなもんさ。稼げる額は規模によるがな。今回のだと、ざっと銀貨20枚ってとこだな。」

「そんなに!?」

「ああ、だから冒険者にとっては大事な稼ぎ口って訳だ。」

「よし。場所が確認できた。進むぞ。」

ボイドが皆を先導し、森の奥へ進んだ。



森を進むと少し開けた場所に着く。

ボイドはアレン達に静かにするよう指示を出し、草陰に隠れるよう促す。

「よし、今回の獲物はここにいる。あそこだ。2人とも、みてみろ。」

そこには粗い獣毛に身を包み、荒々しい牙を携えた。バル ボア2体。

その奥に、ひと際巨大な体躯、体の1部には岩のようなコブをもつエルバル ボアが、地響きを立てながら、ゆっくり移動していた。

「あれが…魔物…」

「今回の討伐対象は、あそこにいるバル ボア2体とボス個体のエルバル ボア1体だ。奴らのでかい牙を使った突進攻撃とエルバル ボアの岩魔法に気をつけろ。」

「わかりました。」

「よし。まずはキール、風矢で奴らの注意を引け。リアは雷魔法でエルバル ボアの足を止め。その隙に俺とアレンがバル ボアを討伐する。セイラはアレンの援護。バル ボアを討伐した後、全員でエルバル ボアを叩く。いいな?」

「了解しました。支援魔法をかけます。身体能力向上、《ブーストボディ》」

リアが魔法を唱えるとアレン達の体がほんのり魔力を帯びる。身体中に熱い何かが走る。

「す、すごい。これが支援魔法!体が軽い!」

「あまり長くは続かないんだけどね。でもこれで多少ば動きやすくなったはずよ。」

「ミリュアおいで。」

セイラが呼び出すと水泡が現れ、その中からミリュアが飛び出し、セイラの肩にふわりと乗る。

「ミュ〜〜♪」

「初めての戦闘、頑張ろうね!」


辺りの風が静まり、鳥のさえずりが遠のく。

キールはここぞとばかりに立ち上がり、弓を構える。

「よし、いっちょやるか。いくぜ!《ウィン

ドショット》!!」

キールの放った5本の矢は風の魔力を帯びながらバル ボアの足元に刺さる。すると矢から発生した突風が土埃と枯葉を巻き上げ、バル ボアたちの視界を奪う。

「いきます。《ライトニングバインド》」

すると、エルバル ボアの足元に雷の魔法陣が浮かび、そこから鎖が走るように巻きついた。

「ボアアァッ!!」

エルバル ボアが雷に打たれたような激痛に悲鳴のように吠え、麻痺した体は動きを鈍らせた。

「完了です!」

「2人とも今だぜ!」

キールの合図と共にアレンとボイドがバル ボア目掛けて飛び出す。

「ハァッ!!」

「ブゴッ?!」

ボイドはロングソードを大きく振りかぶり、バル ボアの首を断つ。

「よし、僕も!はッ!……あれ?」

アレンの剣はバル ボアを傷つけるが討伐するには威力が足りなかった。

「ブゴォォォ!!」

バル ボアは己を傷つけたアレンに向かって牙を向けて突進する。

「うあぁ!」

「アレンあのままだとアレンさんがッ!ミリュ、お願い!」

「ミュー!!」

ミリュアが空中に浮かべた水泡が、次々とバル ボアに叩き込まれる。

「ブギャッ?!ブグゥッ!」

頭や腹に連続して命中し、バル ボアは足を止めてうめいた。

「今です、アレンさん!」

「ありがとう。今だッ《炎鎧魔法》!!」

アレンが魔法を唱えると、アレンの体を炎が包む。その炎は段々と形をつくり、アレンの上半身は炎の鎧を纏った。

「あれは…!」

「はああぁぁ!!」

アレンの炎を纏った剣がバル ボアを断ち切る。

「よし、討伐完了!」

アレンがバル ボアを仕留めると、麻痺していたエルバル ボアがうめき声を上げながら、起き上がる。

「ブゴッ…!」

その目はキール達を鋭く睨みつけていた。

「キール、リア、今だ!」

「こいつをくらいなッ!《テンペストニードル》」

キールが放った矢は鋭い風を纏い、回転しながらエルバル ボアの胴体に深く突き刺さる。

「ブガァッッ?!」

「《サンダーバイト》!」

エルバル ボアの頭上に雷の牙が浮かび上がる。それはバチバチと音を響かせながらエルバル ボアに噛み付いた。

「ブギァッ!!」

「《ビーストパワー》!ハァッ!」

ボイドの一撃で片方の牙が落ちる。

「ブォォッ…!」

ボイド達の攻撃に怯むエルバル ボア。

だが次の瞬間、茂みにいるセイラに目と目が合う。

「ヤバッ!」

「セイラちゃん、逃げて!」

エルバル ボアはセイラ目掛けて突進する。

「ッ!!」

セイラがミリュアを抱えて縮こまる。

(まずいッ!このままだとセイラさん達がッ!)

(また守れないのか…?これじゃあ…)

(違うッ…!今、夢が叶った…なら、やることは1つッ…!!)

エルバル ボアが茂みに入る、その瞬間、

「《バーンナックル》ッ!!」

「ブガッッ!!?」

アレンの拳が燃え上がり、炎が尾を引くように空を裂いた。

轟音と共に火花が弾け、エルバル ボアを撃ち抜く。

木々を倒し、地面をえぐりながらエルバル ボアは吹き飛んでいった。

「セイラさん!ミリュアちゃん!大丈夫?」

「は、はい…!ありがとうございます…!」

「2人とも無事ですか?」

「アレン!今のなんだよ!スゲェじゃねぇか!」

ボイド達が2人の元へ駆けつける。

「はい!こっちは大丈夫です。」

「しかし驚いた。まさかエルバル ボアを吹き飛ばしてしまうとは。とんでもないルーキーだ。」

ボイドが関心の言葉を漏らす。

「ホントだぜ。ありゃ喰らいたくないな。」

「何はともあれ、依頼達成です。素材を剥ぎ取って帰りましょう。」



日が傾き、茜色の空が道を染める。

柔らかな風が頬を撫で、街の灯りが遠くにまたたいていた。

アレンたちは森を抜け、ようやく街の手前まで戻ってきていた。

「…あの、アレンさん。」

セイラが小さく口を開く。

その声音には、どこか安心と戸惑いが混ざっていた。

「さっきは、本当に……ありがとうございました。アレンさんがいなかったら、私……」

「いいんですよ、そんなの。」

アレンは照れくさそうに笑いながら、頭を掻く。

「ほら、バル ボアのときはセイラさんが助けてくれたでしょ。だから、お互い様です。」

「ふふ……それも、そうですね。」

そのとき、不意に「ミューッ!」という鳴き声とともに、ミリュアがアレンの頭にふわりと乗った。

「わっ!ミリュアちゃん?」

「ミリュ、きっとお礼を言ってるんです。」

「そうか〜、ありがとうな!ミリュアちゃんも、すごく頼りになったよ!」

「ミュ〜♪」

その空気は、戦いの余韻と、少しだけ近づいた距離をそっと包んでいた。

「2人共、街に着いたぞ。これからギルドに報告に行く。依頼はそこで終了だ。」

「了解です!」



ギルドに着き、依頼達成報告を終える。アレン達は労いを兼ねてギルドの酒場で食事をしていた。そこは昼間にまして賑わっていた。

「どうだった、初任務は。」

「はい!とても勉強になりました。ありがとうございました。」

「私も知らないことが多くありました。今回手練であるボイドさん方と依頼をこなせることが出来て良かったです。ありがとうございました。」

すると酒が入ったキールはアレンに腕をまわす。

「おいおい、あんなカッコよく決めといて今さら他のパーティとかナシだぜ〜?な?一緒にやろうぜ〜、なぁアレン〜!」

「キールくん、お酒飲みすぎ。」

酒の匂いを漂わせるキールにリアは電撃を浴びせる。

「痛ッッ!!人をなんだと思ってんだよッ!」

キールは起き上がり、リアに文句を吐く。そんな2人を他所にボイドはアレンとセイラに真剣な眼差しを向ける。

「2人はああだが、どうだ?2人共、俺たちのパーティに入ってくれないか?2人が居てくれると今後助かるんだが…。」

アレンとセイラは考え込んでいた。今日1日様々なことがあった。それを経て2人はどんな答えを導き出すのか…

先に口を開いたのはセイラだった。

「そのお気持ち、とても嬉しいです。でも私は、今は一人で進むと決めています。すみません。お誘いはとても嬉しいのですが遠慮させていただきます。」

「そうか、アレンはどうだ?」

「僕は…、自分の足で強くなっていきたいです。ボイドさんたちと一緒にいれば、確かに強くなれると思います。だからこそ、自分の力でどこまで行けるか試したいんです。もちろん険しいのは承知の上です。それでも頑張ってみたいんです。なので、すみません…。」

「いや〜、フラれちゃったか〜。」

「いいのよ。自分で強くなりたい冒険者は少なくないもの。」

アレンの言葉を聞き、ボイドは笑みを漏らし、酒を勢いよく飲み干す。

「わかった、頑張れよ。アレン、セイラ。俺らは同じ冒険者だ。たとえパーティが違くても仲間だ。それだけは忘れるなよ?」

「はい。ありがとうございます。」

「ただ、次にまた会う時、ただの“新人”じゃ通用しねぇからな?」

「はい!」

喧騒と酒の香りが満ちる中、2人の若き冒険者は、確かにその第一歩を踏み出した。

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