夢への第1歩
朝日が柔らかく差し込み、街のざわめきが少しづつ大きくなっていく。アレンは孤児院のベッドからゆっくり起き上がった。
(また、あの日の夢か…)
アレンは村が焼け野原になったあの日以降、何度も同じ夢を見ていた。
脳裏に鮮明に刻まれた、あの日の悲劇。焼け野原となった村。燃え盛る炎、瓦礫の下に埋もれる村人たちの叫び。それらが胸の奥を締めつける。
何とか振り払うようにアレンは深く息を吸い、目いっぱい身体を伸ばす。
「よし!今日も頑張ろう!」
アレンが机に目を移す。
そこには今日まで節約して貯めた銀貨5枚とロングソード、胸当てが置いてあった。
「ついに……夢が叶う日だ!」
熱い意思を胸に寝室を後にした。
「アレン兄ちゃん、おはようっ!」
元気な声と共に子ども達がアレンの元へ駆け寄ってくる。
「やっとこの日が来たね!」
「嬉しいけど、やっぱり寂しいよ…」
「みんな、おはよう!今日も早起きできて偉いね。」
「アレンお兄ちゃん、本当に行っちゃうの?」
一人の少女の瞳には涙が溜まり、声も震えていた。
「うん、僕は冒険者になるために今日まで頑張ってきたんだ。でも大丈夫、必ず帰ってくるから。約束するよ。」
「本当?絶対だよ?約束だよ?」
「もちろん!」
アレンは子ども達の頭を撫でる。
「君たちは僕の宝物だ。」
それを聞くと子ども達は照れてしまい、どこかへ行ってしまった。
「あれ?僕、変なこと言っちゃったかな?」
「みんなあなたの事が大好きなのよ。」
「グランマさん、おはようございます。」
グランマ
この孤児院の主で、身寄りのない子どもたちにとっては母のような存在。優しくも厳しく、時に誰よりも強い心で子どもたちを支えてきた。
「しかし、あの時の坊やがすっかり大きくなっちゃって。私も誇らしいわ。」
グランマは椅子に座り、柔らかな笑みを浮かべてアレンと出会った日を振り返る。
「もう、8年前になるのね。あの晩のことは今でも忘れないわ。誰かのノックで外に出たら、傷だらけのあなたが倒れていたのよ。驚いたけれど…あの時、あなたを助けて本当によかったと思ってるわ。」
「グランマさんが助けてくれなかったら今の僕はありません。ありがとうございました。そして、お世話になりました。」
「いいのよ。それに私もあなたに助けられてばっかりなんだから、お互い様よ!」
グランマは笑顔で答える。
すると
子ども達が何かを持って帰ってくる。
「アレン兄ちゃん!」
「これ、僕たちからのプレゼントだよ。」
少女の手のひらには指輪があった。ぎこちない模様が彫られているがそれが何よりもアレンの心に深く染みた。
「これで私たちのこと、忘れないでね。」
アレンの目には涙が溢れる。
「みんな…ありがとう。本当にありがとう…!大切にするよ。」
すると子ども達も涙を流し始める。
「アレン兄ちゃんっ!!」
「絶対…帰ってきてねっ!」
「約束したからね!」
アレンは子ども達を抱き寄せる。
アレンは身支度を整え、ついに冒険者ギルドへ足を向ける。
「みんなありがとう!元気でね!」
アレンは子ども達に力強く手を振る。
「兄ちゃん!頑張ってねっ!」
「ずっと応援してるよ!!」
「絶対に戻ってきてね!」
グランマは静かに見守りながら、優しく声をかけた。
「アレン、自分に自信を持って。あなたにとって悔いのない道を選ぶのよ。」
アレンは子どもたちの声援を背に歩みを進める。振り返ることなく、でも胸の奥で、皆の笑顔をしっかりと抱きしめながら。
アレンはついにギルドに辿り着く。
「ここが冒険者ギルド、セリオンオースか。」
ギルド内からは冒険者たちの騒ぐ声が絶え間なく漏れていた。酒の匂い、冒険者達の笑い声、その全てにアレンの胸は高鳴るばかりだった。
「よし、行こう。」
アレンはギルドの扉を開ける。そこにはアレンの憧れていた冒険者達がいた。
ある者は仲間と酒を飲み、ある者は依頼を精査し、ある者は作戦を練っていた。
アレンはこの中の一員になれることに心が踊った。
早速ギルドの受付嬢に冒険者登録を申請する。
「こんにちは。冒険者登録をしに来ました。」
「初めまして。私はギルド セリオンオース セリューディア支部の受付、リリアと申します。冒険者登録ですね?ではお名前と年齢、そして契約金の銀貨5枚をお願いします。」
「はい。名前はアレン・フレイアード。歳は16です。」
アレンは銀貨5枚を差し出す。
「ありがとうございます。お名前はアレン・フレイアード、16歳、銀貨は…ちょうどですね。では改めて、ようこそ。ここはギルド セリオンオース セリューディア支部。これからギルドの仕様について説明するわね。」
そこからはギルドの様々な説明を受けた。
ランク制度や依頼の流れ、補償制度について教わる。
「最後にギルドの信念について。ここセリオンオースは名前にもある通り、英雄セリオンが設立したギルド。セリオンの困ってる人を見過ごさない、必ず手を差し伸べる。その願いと共に生まれた。そのことを頭の中に必ず入れておいてほしいの。そしてここは絆、繋がりを大切にする場所。冒険者になったからには等しく仲間。困った事があったらいつでも言ってね。」
「はいっ!」
「そういえばパーティメンバーについてはどうする?新人冒険者はパーティを組む事が義務になってるんだけど…。」
「え?」
全くの予想外であった。アレンはパーティについて全く考えていなかった。
「あてが無いようだったらこっちで斡旋することも可能よ?」
「本当ですか?すみません、お願いします。」
アレンは少し申し訳なさそうに笑顔を浮かばせる。
「よくあることだから気に追わないで。新人だと危険が多いの。だから初回では一般冒険者と共に依頼をこなすようにしてるの。ちょっと待っててね。」
リリアは受付を離れ、冒険者に声をかける。
「では、こちらの方々と依頼を受けてくださいね。」
そこにはアレンより幾分か年上の冒険者パーティとフードを深々と被った娘がいた。
「こんにちは。付き添い人になる冒険者パーティのリーダー、ボイドだ。そして弓使いのキール、魔術師のリア。今回はよろしく頼むよ。」
「よろしくお願いしますっ!あの、そちらのフードを被った方は?」
「あ、その子も新人冒険者だからせっかくならアレン君と一緒にって思ったんだけど。」
「そう言うことでしたか。是非お願いします。」
「よし、じゃあ決定ということで。リリアさん、この件引き受けよう。」
「ありがと〜。じゃあ私は依頼の斡旋してくるからみんなは情報交換しててね。」
アレン達は席に着き、情報交換を始める。
「改めて、このパーティのリーダーを務めているボイドだ。ロングソードを使った近距離戦を主にしている。あとは身体能力向上の魔法が使えるな。」
「次はオレな。オレはキール、弓使いだ。遠距離攻撃が得意だ。魔法は風魔法を矢に付加させることができるぜ。」
「私が最後ですね。私はリア。体を動かすのは得意ではありませんが魔法は長けている方です。支援と雷属性の魔法が使えます。」
「凄いだろ?リアは魔法を2種類も使えるんだぜ?」
「そうなんですか?」
「ああ、魔法は基本1人1属性が基本だ。2属性以上は稀だな。だが訓練を積めばできないこともないらしいぞ?」
「そうなんですね。勉強になります。」
「じゃあ次は君たちの番だ。まずはそっちのフードの娘からいこうか。」
娘は姿勢を正し、緊張した様子で口を開く。
「名前はセイラ。体を動かすのは、あんまりで、魔法は光魔法が少しと精霊使い、です。」
セイラの言葉にボイド達は驚きの表情を浮かべる。
「マジかよ?!精霊使いって滅多に見ないぜ?!」
「しかも光魔法が使えるなんて、珍しいわ。」
「2人とも落ち着け。ところで、精霊はどんな”個体”を?」
(”個体”。この方も道具としか思ってないのですか。)
セイラはボイドの言葉に少し眉を顰める。しかしそれはフードが遮って彼らが知ることはなかった。
「水の下級精霊のミリュアと契約しています。おいで。」
セイラが手を出すとそこから水泡が生まれ、中から精霊が顔を出す。
「ミュ〜!」
「この子、可愛いね。僕、精霊初めて見たよ。」
アレンは初めての精霊に興味津々になる。
「ほう、これはまた可愛らしい精霊だな。どんな攻撃ができるんだ?」
「水泡で簡単な攻撃が可能です。」
「そうか、期待しているよ。次はアレンか。」
「はい!」
アレンは自信満々で答える。
「名前はアレン・フレイアード。ロングソードを使った近距離戦をメインとしています。そして魔法は炎を体に纏う炎鎧魔法を使います。」
リアは聞き馴染みのない魔法に首を傾げる。
「炎鎧魔法?聞いた事無い魔法ね。どんな魔法かしら。」
「言葉の通り炎を鎧のように纏います。身体能力向上はもちろん、炎を纏った攻撃も可能です。」
「へぇ、なんだか強そうな魔法だな。」
「そうだな、これはとんでもないルーキー達が来たかもしれないな。」
「炎鎧魔法…」
ボイド達が湧く中、セイラはアレンの魔法に興味を示していた。
情報交換がひと段落したところでアレンが周りを見渡す。
「そういえばここ、酒場も兼ねてるんですね。」
「そうよ。ここオスヴァリア王国のギルドは酒場を兼ねているの。他にも砂の国であるネブラセル王国なら避暑地と昼はカフェ、夜はバーをしているし、東方の国の和陽国ならお食事処と温泉をしているなんて聞いた事があるわ。」
「そうなんですね。他の国にも行ってみたいな。」
そんな話をしていると依頼を斡旋していたリリアが戻ってくる。
「みんなお待たせ。依頼が決まったわよ。今回の依頼は近くにあるセリューディア森林に出現した魔物の討伐よ。」
依頼内容を聞いたアレン達は席を立ち上がる。
「よし、アレンとセイラの初依頼だ。俺たちはいつも以上に気を使え。2人も必ず守れるとは限らない。いざとなったら覚悟しとけよ。」
アレンは気合いを入れ直し、子ども達から貰った指輪を撫でる。
「はいっ!」
そうしてアレンの初依頼が始まった。