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あの日の思い出

新たな物語、楽しんでください。

その日の空は、どこまでも青く澄んでいた


「英雄セリオンの剣をくらえっ!!」

「うわーっ、や、やられたーっ!」


小さな広場で子どもたちの歓声が響きわたる。

その中でもひときわ元気な少年がひとり――アレン・フレイアードである。

アレンは木の棒を剣に見立て、村の友人と『英雄セリオンごっこ』に興じている。


「アレン、強すぎるよ。オレ敵ばっかでつまんないよ。」

「仕方ないよ、英雄セリオンは無敵なんだ!負ける訳にはいかないでしょ!」

「そうだけどさぁ〜」


英雄セリオン

昔、戦争状態にあった人族・亜人・魔族を仲間とともに平和に導いたとされる英雄である。

そんな英雄に誰もが一度は憧れる。アレンもその中の一人だった。


「ボクは英雄セリオンになるんだ!どんな時だって負けない、無敵の英雄になるんだっ!いくぞ〜!はっ!」

「うわっ〜!」

「はっはっは、英雄セリオンは無敵だーっ!!」






日が傾き、1日が終わろうとしている。


「もう夕方か。アレン、また明日遊ぼう!」

「うん、またね!」


家に帰ると夕飯の支度をしている母と狩猟道具を手入れしている父がいた。


「ただいま!今日はね、英雄セリオンになったんだ!」

「そうか、アレンはセリオンに憧れてるんだよな?」

「うんっ!僕は将来英雄セリオンみたいな立派な冒険者になるんだ!」

「そうかそうか、アレンは必ずなれるさ。」

「えへへ」

「2人とも、ご飯よ〜。」


アレンは食事をとり、眠りにつく。






「アレン、今日こそ倒してやるっ!」

「はっはっ、英雄セリオンに敵はいないっ!」


この日も英雄セリオンごっこに興じていたアレンだったが、ふと空を見上げると普段と違う景色に気づく。


「ねぇ、今日の空なんか変じゃない?」

「ほんとだ、なんだろう?」


曇天ではあったが、ただの悪天候ではなかった。雲が渦を巻き、不気味な顔のような形を浮かべていた。

生暖かい風がアレンの頬を撫でる。

その時、村の入口の方向から叫び声が響く。


「逃げろぉぉぉーーっ!」

「キャァァーッ!!」

「た、助けてくれぇーー!」


そこには家屋をなぎ払い、村人を焼きつくさんと襲ってくる黒い炎を鎧のように纏った大きな人型の謎の魔物がいた。


「うああああっ!!」

「逃げよう、早く逃げなきゃっ!!」


アレン達は魔物とは逆方向に逃げる。

魔物は村全体に炎を放ち、辺り一面が炎の海となった。


「あっ、あっちはオレの家がっ!」

「危ないよっ早く逃げないとっ!!」


アレンの元を離れた少年が道の角を曲がる。数秒後、魔物が少年が向かった方向に炎を放つ。


「ッ!!」


——もう、声は聞こえなかった。

アレンは涙を流しながらも、必死に村を離れようと走り出す。


(あぁっ、怖い、怖いよっ、お母さんっお父さんっどこなのッ?)


アレンは涙で視界が霞む。けれど足は止めなかった。すると大人の声が目の前から聞こえた。


「お母さんっお父さんっ!!!」


アレンは両親に抱きつき、嗚咽混じりに涙を流した。


「アレン、怪我はないかッ?」

「うんっ2人は?」

「私たちは大丈夫よ。さあ、早く逃げるわよ。」


3人は村の外を目指して走り出す。

村のあちこちからは助けを求める叫び声が響き渡る。


「いやっいやぁぁぁぁッ!」

「助けて、助けて、くれッ」

「だ、誰かッ!あああああっ!!」


アレンはただ目をそらす事しかできなかった。そのやるせなさにただただ歯を食いしばる事しか許されなかった。

村の出口、あと一歩で逃げ切れるというとき、目の前に魔物が降ってきた。


「なッ!!」

「アレンッ逃げるのよッ!」

「うわああああっ!!」


アレンは腰が抜けてしまい、その場で尻もちをついてしまう。2人は腹を括り、お互いを見つめたあと、アレンを抱き抱える。


「アレン、生きるんだ。お前はきっと、立派な冒険者になる。」

「心を強く持つのよ。あなたは優しいから、たくさんの人を助けてあげなさい。」


2人は隙を見てアレンを物陰に押しやった。


「お母さんっお父さんっ待ってっ!!」


2人は魔物の気を引くため大声で叫ぶ。


「こっちだッ魔物めッ!!」

「そうよっ、かかってきなさいっ」


魔物は答えるように、されど無慈悲に炎を放つ。2人は回避に間に合わずに焼かれてしまう。


「ああっ、ああああああああっ!!」


アレンはその場で泣き崩れてしまった。


(なにも、できなかった。ただ逃げることしか……目を背けるしか、できなかった。なにが英雄だ。なにが無敵だ。ボクは……ボクはただの平民なんだ)


アレンは魔物に見つかり、近くの建物と一緒になぎ払われ、吹き飛んでしまう。


「もう、終わりなの、?」


アレンは薄れる意識の中、魔物の顔を睨みつける。


「え?」


魔物の顔は悲しみに満ちていた。こんな事は望んでいない、助けてくれとでも言いたげな顔だった。その顔はどこがアレンと似ていた。


「なんで…なんでお前が……そんな顔…するんだよ……」


意識が途絶える刹那、アレンの周りが冷気に包まれる。そして魔物は一瞬のうちに氷漬けにされてしまった。


(どう、して?)


そこには深くフードを被った一人の青年が立っていた。


「アレン、すまない。今はこうするしかないんだ。不甲斐ない兄を許してくれ。これもお前のためなんだ。今ここで死なせる訳にはいかないんだ。」


青年はしゃがみこみ、アレンの頭を撫でる。


「兄?…ボクにお兄ちゃんなんて……いな……い、はず……」


そこでアレンは完全に意識を無くしてしまった。

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