【後編】彼女の清算
今回長めです(当社比)
◇
“決戦”に向けて一週間。県境の山を、毎日バイクで越えて。
ついにその夜が来た。
隣県ならぬ「隣の府」へ、川沿いの道を下る。
その先で、川は大きな別の川に合流する。土手道に上がると、目的地が見えた。
ウチの県にはない、広大な河川敷。その下流側に、数十人の女暴走族が集まっている。
彼女らの奥には、乗ってきたであろうバイクがズラリ。新車かと思うほど、ツヤッツヤに磨かれている。
……が、バイク屋で見たことない飾りの数々と、ドぎつい色味が、改造車だと仄めかしている。
「クソッ、都会っ子は金あるな!」
「ホンマそれ。ムカつくわぁ」
総長の愚痴に、数名の取り巻きが同意する。
でも今、それはどうでもいい。問題は数の差だ。
こちらも数十名で来たけど、向こうのほうが10人ほど多い。さて、どうしようか……
◇
参謀らしい策を思いつかないまま、河川敷に出た。
バイクを降りて、都会っ子らと向かい合う。目立った動きはない。全員揃うまで待ってくれるようだ。
このまましばらく睨み合いかな? と思っていた。
こちらが全員揃ったのを見て、前列中央の少女が前に出る。向こうの総長らしい。
今ここで一番小柄な少女が、ウチの総長を睨めつける。約30cmの身長差を気にも留めず、口を開いた。
「準備ええな?」
「あぁ」
「ほなやろ。ウチらが上じゃあ〜!」
「「「『ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ー゛ッ゛ !!! 』」」」
声高っっか! うるっっっさ !!
……などと思っているうちに、開戦の合図が出てた。
「押せ押せ、勝つんはこっちじゃい !! 」
「「「『応゛ォ゛ォ゛ー゛ッ゛ !!! 』」」」
敵味方が入り乱れて、殴り合いが始まった。
ほどなく、敵の1人が私を指して一言。
「あの一番デカいん囲め!」
「「「はいッ! うおおおおお !! 」」」
「えいっ」
「「「だぁ~ッ !!! 」」」
難なく蹴散らせた。
手足の長さが足らん。出直せ。
「で、アレが“参謀ちゃん”? ふぅ〜ん……舐めた面しとんな〜?」
あの総長……小便臭いガキの形して、この物言い。
腹立つー!
まあでも、自分が何か言われるのは仕方がない。まずは目の前の相手を……
「あんな策もへったくれもなさそ〜なアホ面が“参謀”ねぇ……アンタらの総長も見る目ないわぁ。あ〜可哀想!」
は? 何それ ??
私のアホ面、仲間と何の関係があるん?
「好きでこないしとん違う」
「はぁ? 言い訳 ?? ダッッサ……」
ウチの総長の言い分も聞かんと、勝手吐かしよる。
ムカつく……!
私は声を張り上げた。
「あ゛ァ゛? お前に私らの何が分かるんじゃあ !? オラ退け! 通さんかい !! 」
纏わりつく有象無象を、手当たり次第突き飛ばして。私は敵の総長を捕まえた。
左肩に担ぎ上げた彼女は、意外と重い。
……こいつ、着痩せするタイプかッ !?
「……触んな! 降ろせ !! 」
左後ろから聞こえるキンキン声を無視して、私は決意した。
ぶっ◯す。
まずは暴れる彼女の脚を、左腕で締め上げて。
彼女の尻めがけて、右手を振り下ろした。
「み゛ゃ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!? 痛゛っ゛っ゛た゛ぁ゛〜゛い゛!!! 」
右手を振り上げて、また彼女の尻めがけて振り下ろす。
「アンタ何すんア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!! 」
右手をまた上げて、振り下ろす。
「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!! マ゛マ゛ぁ゛〜゛ッ゛!!? 」
「喧し! アンタ今何時や思とんの !? 」
悲鳴を無視して、“百叩き”を続ける。
異変に気づいた女暴走族たちが次々に振り返り、呆然と立ち尽くす。
「あれって……昭和の“肝っ玉母ちゃん”……?」
何か聞こえたけど、無視無視。
◇
教訓。
人の尻なんて、100回も叩くものじゃない――
叩かれ続けた敵の総長は、声を押し殺して鼻を鳴らしていた。
私はそっと彼女を下ろし、俯せに寝かせた。そして小さく、
「ごめんなさい!」
と手を合わせる。
どう見てもやり過ぎた。私の右手は真っ赤っかで、かろうじて力が入る程度。
あちらの尻も、同じくらい腫れ上がっているのだろう。目鼻から流れた水気で、顔がぐしゃぐしゃだ。
あと彼女、やたらズボンを気にしていた。
どちらも運転できる状態じゃない。暴走族失格。
もう潮時か――
◇
翌朝。目が覚めると、見慣れた天井が見える。
自室だ。
あれでどうやって、家まで帰ったのか? 分からない。
右手は治ったみたい。けど今度は右腕が痛い。たぶん筋肉痛。
普段怠けてる筋肉を、急に動かすと危険……
ふと、窓の外を見た。バイクもある。
「……シテ……ドウシテ…………?」
ま、いっか。当分用はないし。
バイクにも、県境の山にも――――
お読みいただき、ありがとうございます!
長くなりましたのでもう1話、エピローグ的な話を追加します。
もう少しだけ、よろしくお願いします m(_ _)m




