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【前編】彼女の苛立ち



 ◆


「あと数年で世紀末!」

「で、人類滅ぶの?」


……などと世間がうるさかった頃。私は高校生になった。

 実家から1時間半。大きなバスと電車を乗り継いで、学校に行く。



 毎日が、ちょっとした旅行みたいだった。

 山に囲まれた「いかにも田舎(いなか)」な農村部から、のどかな谷筋を行く。

 やがてバスは山を越え、住宅地に入っていく。


「えっ、そんな(せま)(とこ)行くん?」


とか言ってるうちに、駅に着く。



 この駅がまぁ、大きな駅で。結構混む。

 だからいつも、やってきた普通電車に乗る。運がよければ、ここで隣町の友達と合流できてたね。

 やがて電車は県境の山を越え、(へい)野部(やぶ)に出る。最寄り駅で降りて、徒歩数分。



 そこは私立の女子校だった。

 田舎育ちの私にとって、それはもう刺激的な所だった。



 ◇


 私の地元に、私立校というものはなかった。だから(いま)だに、


「学校といえば公立、鉄筋コンクリートの3階建て」


……というイメージがある。

 で、地元の中学校は1学年3学級(クラス)、小学校にいたっては1学年1学級だった。



――――なんて話をすれば、周りがみんな驚いてた。



 あと、男子がいない学級、というのも初めてだった。

 だから力仕事がない……なんてことはなかった。

 軟式野球(ソフト)部や籠球(バスケ)部といったスポーツ系の部活の子たちが、進んで力仕事をしていた。あと吹奏楽(すい)部も。



 何もかもが新鮮で、光り輝いて見えた。



 今思えば、すべてに期待しすぎてたんだろうね。



 ◇


 半年後。私の期待は全部、不満に裏返っていた。


「周りと話が合わん。てか前提がおかしい」


 そして“人と自然の(かか)わり”をテーマにした授業で、それは爆発した。


「熊がかわいそう」


という意見が、学級の過半数を占めたのだ。


「人や家畜が犠牲になるんは仕方(しゃあ)ない。熊と(ちご)て自己責任なんやから。嫌なら引っ越したったらええやん?」


なんて極論まで、意外と支持されていた。“ええ士の子”たちを中心に。



「ふざけんなよ?」


 当時の私は、許せなかった。無知で傲慢(ごうまん)な田舎っ子だったから。

 冷静に考えれば、分かるはずだったのに。


「大都会の真ん中で“(ちょう)よ花よ”と育てられた人間に、農家の事情が分かるわけない」


ってね。

 あるいは、そんな彼女たちが、


「人間は“守るべき自然”(ちゃ)いまっしゃろ?」

「無知で無教養で向上心もない方々の生活環境が、“一番の環境問題”ですって? ご冗談を」


となるのは、むしろ普通なんだ……と。



 でもそうはならなかった。

 私はキレてしまったのだ。都会っ子たちの、小洒落(こじゃれ)た無知と傲慢に。


そして殴ってしまったのだ。同級生で、


「学園の大恩人」


とまで言われている投資家の顔を。


 彼女の鼻から、赤い(つゆ)が垂れるまで。



 ◇


「Kさん、謝罪か退学か選びなさい」

「じゃあ退学で」


 生徒指導の(じょ)(きょう)()(せま)られて、私は即答した。

 途端に教師のほうが動揺していたのを、よく覚えている。


 冷静に考えれば、たしかにおかしな話だった。極端な二択にもほどがある。

 でももう、どうでもよかった。学園(そこ)に居座る苦痛に比べれば。


 私は女教師に背を向け、部屋の出口へ向かった。


「っ……待ちなさいKさん!」

「失礼します」


 彼女の呼びかけを無視して、そのまま進路指導室を後にした。



 お読みいただき、ありがとうございます!

 面白かったら↓↓いいね↓↓等、押していただければ幸いです m(_ _)m



【追記】一部加筆/修正しました

(2025/10/09)



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