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最強おじさん、裏ダンジョンを征く ~15年間ソロで密かに攻略してたらアイドル探索者に誤配信されてバズってしまった~  作者: 朴いっぺい
エピローグ ”リバース・デルヴァー”

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39/40

幕間ー1

お読みいただき、ありがとうございます!

 打ち上げ配信から三日後。

 爽やかな朝の陽ざしが射しこむ、雑居ビルの台所。


「……俺の、ドローン?」


 陽人は焼き鮭を口に運ぼうとした箸を止め、訝しげに言った。


「そうです! 今後も配信を続けるなら、陽人さん用のドローンは絶対必要ですよ」


 大きく頷いたのは、対面で白飯を山と盛った茶碗を持つ玲美だ。

 最近の朝夕の食事は、こうして台所に集うのが恒例になっていた。


「つってもなあ……。シャトいれば十分だろう?」


 言いながら、玲美の隣に浮かぶネコ型ドローンに視線を移す。

 ピンク色の筐体からは、モーニングショーの天気予報を思い出すBGMが流れている。


「この子だけだと指示がないと、どっちつかずになっちゃうんですよ。あと性能的にも、陽人さんの動きについてくのがキツイんです。浅草寺のアーカイブ見たでしょう?」


「あ~。んまあ、たしかに……」


 実際、事が終わった後に確認した浅草寺のアーカイブ動画は酷いものだった。

 特に優吾戦の後半などは<夜纏業鎧(ナイトフォール)>を使ったのも相まってか、まるで動きを追えていない。


 打ち上げ配信のコメントによると、視聴者は音声だけでなんとなく状況を掴んでいたらしい。恐るべき想像力ではある。


「たしかに視聴者が見たいのはアキト様でしょうからね。専用ドローンはあったほうがよいかと」


 応じたのは、陽人から見て右側で味噌汁をすすっていたロズだ。

 その言葉に、左側で卵焼きを口にしていたカーチャも頷いた。


「一応、顧問とやらに就任した以上、アタシらも持っておいたほうがいいかもしれんな。備えあればなんとやら、だ」


「いいですね、わたくしも動画配信は興味ありますから。もしよければ、皆で買いに行きませんか?」


「そしたら秋葉原ですかね~。ちょうど年度の初めだし、最新機種がたくさん入ってるはずですっ」


「なあ、それはいいんだが……」


 勝手に盛り上がって話を進める女子勢を遮って、陽人はげんなりとした顔で口を開いた。


「……ロズとカーチャは、なんでまだここにいるんだ?」


 年代の違う三人の女子は、見計らったように顔を見合わせた。が、すぐに憐み混じりの視線を向けてくる。


「陽人さん……。それ、今さら聞きます?」


「だって二人とも本国に帰るんじゃねえのか? 打ち上げの次の日とかは、みんな酔っぱらってぶっ倒れてたけど」


 それを聞いたロズとカーチャが、呆れと悲しみ半々といった表情を浮かべる。


「なんというか、もう少し興味を持ってほしいものですわね……」


「今に始まったことじゃなかろう……。まあ単純に暇だから、ってのもあるしな」


「暇って、日本(こっち)の支局から引っ張りダコだろ?」


 日本が“迷宮(ダンジョン)大国”の異名をとる、新時代の資源国と認知されて久しい。迷宮(ダンジョン)の多さは、魔素(ヴリル)の採取量に直結するからだ。


 そのため主要各国の協会は自国の探索者(デルヴァー)たちの足場として、日本国内にも支局を設けているのだった。


「それがそうでもなくてな。暇だから攻略を手伝うと言えば、手を煩わせるまでもない、などと返される」


「わたくしも似たようなものですね。実家や協会からも、今戻ってこられると面倒だから少し羽を伸ばしてろ、などと言われる始末ですし」


「まあ報酬はたんまりいただいたし、祖国(くに)への義務も果たした。今は寝て過ごしたって、どうってことないさ」


「レミのご飯は美味しいし、こういう普通の暮らしって憧れてましたし……。しばし、ここでのんびりさせてもらいますわ」


 魔素(ヴリル)や宝の取り分は取得した探索者(デルヴァー)たちに委ねられるが、活躍が指針になるのは言うまでもない。

 この状況で二人が本国で探索に復帰しようものなら、現地の探索者(デルヴァー)たちから不満が出るのは目に見えている。


 両国の協会は今頃、二人の扱いについて協議を進めているのだろう。


「なるほどね。ま、俺と似たようなもんか」


 探索者協会・本部(デルヴァーズ・コア)からの扱いが定まったとはいえ、(リバース)迷宮(ダンジョン)が出てこない以上、陽人の仕事はない。

 雄鷹と上木が動いてくれてはいるようだが、諸々決まるのはしばらく先のことになりそうだった。


「つまり今日は~……みんなで秋葉原っ! 決まりですねっ!」


「分かったよ。行くからまずメシを食わせてくれ」


 びしっと指さす玲美に苦笑しながら、陽人は食べかけの焼き鮭を口に放り込んだ。


 *  *  *  *


 女子勢の準備を待って迎えの車に乗り、国道を南下すること二十分。

 秋葉原の駅前に着いた時には、早くも昼前になっていた。


 昭和通り口の近くで車から降りた矢先、好奇の視線が突き刺さる。


「おい、あれってシャドマ?」

「え、ウソ! マジ⁉」

「Remiにロズにカーチャもいる。間違いないだろ」

「みんな動画と全然、雰囲気ちがうね。デートかな?」

「なんでアキバなんだよ」


 変装のつもりでジャケパンスタイルにサングラスといった格好で来たが、まったく意味を為していなかった。

 これがあるから、ちょっとした外出でも協会の送迎は欠かせない。


「さ、行きましょ~! シャトちゃん買ったお店でいいですよね」


 そう言って先頭に立つ玲美は、ネイビーのニットにベージュのショートパンツ、上から薄手の白パーカーを羽織り、足元は黒タイツに白スニーカー。普段よりもラフで可愛らしい。


「お任せしますが……。そちらは量販店ではなかったですか?」


 金髪をポニーテールにまとめたロズは、薄ベージュのブラウスに紺のリボンタイ、チェックの膝丈スカート。ネイビーのジャケットとワインレッドのパンプスが上品にまとまり、育ちの良さと知性を感じさせるクラシックコーデだ。


「最近はロシアの店でも、ドローンは専有スペースを作ってる。探索者(デルヴァー)だけじゃなく、素人にも売れ行きがいいからな」


 最後尾を歩くカーチャは、白Tシャツにカーキのフライトジャケットを羽織り、黒のフレアスカートとスニーカーを合わせた動きやすいスタイル。黒いキャップの裾から、短い銀髪がのぞく。


「てか、なんでこんなに配信が流行ったんだ? 探索者協会(デルヴァーズ)ができた頃だって、趣味でやるヤツがいた程度だった気がするんだが」


 周囲を見れば、そこかしこにドローンを連れている者がいる。探索者(デルヴァー)らしき格好の者は言うに及ばず、一般人すら動物の形をしたドローンを使っていた。

 中には陽人たちを撮っているのか、目をこちらに向けているドローンもある。


「ん~、お金になるってのもありますけど……。一番の理由は証跡と自衛ですかね」


「証跡は分かるが、自衛ってのは……?」


「昔は迷宮(ダンジョン)の中で、他の探索者(デルヴァー)に襲われるとかしょっちゅうでしたから。撮っておいてD-LOOKにアーカイブで残しておけば、証拠になるじゃないですか」


「あ~なるほどね。ずっと(リバース)迷宮(ダンジョン)でソロだったから、考えてもみなかったわ」


 英雄視されることも多い探索者(デルヴァー)

 だがその実態は、死や揉め事と隣り合わせの危険な自由業だ。


 配信をやらずとも、動画を撮り貯めておけるアーカイブ動画を撮っておけば、取り分などで揉めた時の証跡にちょうどよい。


 害意を持った人物がいたとしてもドローンを飛ばしておけば、『お前の行動は見られているぞ』という示威行動になる。

 配信ならリアルタイムなので、さらに間違いは起こりにくい。


 肖像権などの問題も、超法規権を持つ探索者(デルヴァー)なら難なくクリアできる。もっとも、悪目立ちが過ぎれば協会の雷が落ちるのだろうが。

 これで副収入源も兼ねるのだから、浸透するのも納得である。


「女の子だと、ただでさえ危ないですからね。っていうか、ロズやカーチャはどうしてたんです?」


「わたくしは元々、実家の縁で知り合った探索者(デルヴァー)たちと一緒でしたから。彼らが動画を撮影していたので、わたくしがやる必要がなかったんです」


「同じく、つるんでた奴らといつも一緒だったからな。それでもケンカを売ってきたヤツはいたよ。半殺しを数回やったら、それっきり来なくなったが」


「ふふっ。たしかに狼藉者を成敗したことなら、わたくしもありますわ」


「そうだった……。この二人、最初からめちゃくちゃ強かったんだった……」


 などと話しつつ、駅に直結した電器屋のビルに入った。

 黄色い視線と声を浴びながら、なんとか最上階まで行くと、そこには多くのドローンが陳列されている。


 玲美の姿を認めると、黒髪ミディアムロングの女性店員が近づいてきた。

 歳の頃なら二十半ばか。玲美たちほどではないが、中々の美人である。


「玲美ちゃん、いらっしゃ~い! 皆さんもお揃いで、ようこそおいでくださいましたっ!」


「あ、塩生(しょうぶ)さ~ん! 今日はありがとうございますっ!」


 玲美は和気あいあいとした後、陽人たちのほうを振り向いた。

 どうやら事前に連絡していたらしい。


「こちら塩生さん。シャトちゃんを買った時に案内してくれた店員さんなんです」


「シャドウマスターさんはじめ、浅草寺の英雄をご案内できるなんて光栄です。なんでも聞いてくださいね」


「あ、ああ……。助かります」


 浅草寺を攻略したのは半ば自身の都合だったと思っている分、こうして持ち上げられると少々、居心地が悪い。

 そんな陽人の心中など露知らず、ロズとカーチャは早くもドローンのほうに興味津々だった。


「わぁ、可愛らしいのがいっぱいありますね」


「で、性能がいいのはどれなんだ」


「はいはい、その前にっ! 配信やりましょ、配信!」


 遮るように、玲美がしゃしゃり出る。


「買い物を配信してどうするんだ……?」


「だってぇ~、これからチャンネルのシンボルになる陽人さんのドローンですよ? それに、ほら……」


 玲美が指さした先では、他の客のスマホやらドローンやらが陽人たちに向いていた。

 撮影なのか配信なのかは定かではないが、ここにいることはすでにネット上に広まっているだろう。


「なるほどね。ネタにされるくらいなら……」


「……先にネタにしたほうがいい、ってことです! じゃ、始めますよ~」


 玲美はそう言うと、慣れた手つきでシャトの背中を弄り始めた。

 程なくして、明るくライトアップされた家電量販店のフロアに、シャトがふわりと舞う。

 それに合わせて、玲美が笑顔でポーズを決めた。


「Thank you for Watching! 『リバース・デルヴァー』の、Remiです♪」


〈うお突発〉

〈はい今が定時〉

〈↑判断が早い〉

〈わこつううう〉

〈え、(リバ)迷宮(ダン)⁉〉

〈早くも出たか!〉

〈でも私服じゃね?〉

〈私服かわええペロペロ〉

〈何よ、このクソ忙しい時に(#ドイツ語)〉

〈探索終わって帰ってきたとこだからちょうどいいぜHAHA(#英語)〉


「ご覧いただき、ありがとうございますっ! 『リバース・デルヴァー』、最初の生配信はぁ~……陽人さんはじめ、皆さんのドローン購入配信ですっ!」


〈おおおおお〉

〈ついに買うのかあ〉

〈浅草寺の動画、ひどかったもんね〉

〈あれはドローンのせいじゃねえよ〉

〈シャドマ速すぎ問題〉

〈ええええシャトちゃんリストラ?〉

〈シャト「()せぬ」〉

〈なんだ違うのね、楽しんでらっしゃい(#ドイツ語)〉


「ご安心くださいっ、シャトちゃんはこれからもわたしの相棒ですっ! ではさっそく……シャドウマスターこと宵原さんっ、どんなドローンをご購入予定ですかぁ~?」


「えっ、俺から……?」


〈これはなんも考えてなかったヤツだなw〉

〈機械オンチって自分で言ってたもんね〉

〈てか私服レアすぎん?〉

〈打ち上げの時もこんな感じだったろ〉

〈ってことはロズとカーチャも私服なのかあああ〉


「あ~、う~ん……。まあ、良さげなヤツで……」


〈マジで考えてなくて草〉

〈まあシャドマだし定期〉

〈↑上げにも下げにも使える名言〉

〈違う! こういうところもあるからシャドマはいいんだっ!〉


「ま、まあ、色々ありますからっ! じっくり見て決めていきましょうっ! おっと~……?」


 若干げんなりしていた玲美の表情に、喜色が差した。


「ロズさんは早速、候補を決めたみたいですねっ! どんなのか見てみましょうっ!」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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