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最強おじさん、裏ダンジョンを征く ~15年間ソロで密かに攻略してたらアイドル探索者に誤配信されてバズってしまった~  作者: 朴いっぺい
第五章 最強おじさんと国際テロ組織

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5-4

お読みいただき、ありがとうございます!

 揺らめく影に包まれた武家屋敷を背にして、陽人たちは天久優吾と向き合った。

 ミツハと呼ばれた少女も魔素(ヴリル)を吸収してダメージが回復したのか、よろめきながらも天久の手から離れる。


 陽人は油断なく長巻を構え、天久に笑いかけた。


黒鷺(ブラックヘロン)さん、であってるかい? ああいや……天久優吾さん、ってお呼びしたほうがいいかな?」


「さすがに調べはついているようだな」


 動揺を誘うつもりだったが、天久はまるで否定しない。

 そんな彼の姿を、シャトがじっと見つめている。


 〈本名暴露キタ――(゜∀゜)――!!〉

 〈さすが探索者協会(デルヴァーズ)、あっさり特定〉

 〈特定板の奴らより速くて草〉

 〈日本人で国際テロリストって珍しいな〉

 〈なんか時代錯誤な服装w〉

 〈イケメンなのにもったいない……〉

 〈っていうか魔素持ち(ホルダー)ってなんでみんな顔イイの?〉

 〈容姿が整ってくるって話は聞いたことがある。知らんけど〉


 流れるコメントを映すホログラムを尻目に、陽人はふたたび口を開く。


始まりの黒禍(ビギニング・ネロ)の生き残りだって? 奇遇だね、俺とこの子もなんだよ」


「知っているとも。故にオレとミツハはここにいる」


(その子も生き残り、ってことか)


 天久の言葉に、ミツハがじりっと身構えた。

 玲美と同年代。本当なら、始まりの黒禍(ビギニング・ネロ)の時にはまだ幼子だったはずだ。


 〈始まりの黒禍(ビギニング・ネロ)の生き残りだから、(リバース)迷宮(ダンジョン)に入れるってこと?〉

 〈言われてみれば共通してるな〉

 〈当時赤ん坊だったワイ、まったく話についていけず〉

 〈↑そのほうが幸せだよ、あれの後の五年間はマジで酷かったから〉

 〈普通に日本滅びるかと思ったもんな〉

 〈ネタでも何でもなく世紀末だった〉

 〈魔素持ち(ホルダー)がヒャッハーしてたもんね〉


 コメントの流れが、心なしか緩くなる。

 始まりの黒禍(ビギニング・ネロ)とその後の暗黒の時代(ダーク・エイジ)は、未だに語られることを嫌がる者も多い。

 それほどまでに、思い出したくない記憶なのだ。


「なるほどね。演説を拝聴したが、選ばれし者ってなんだい? (リバース)迷宮(ダンジョン)を作る力のことを言っているのか?」


「そうとも、オレもミツハも、この力で黒の帳を生き延びた」


 天久はゆったりとした動きで、胸に手を当てた。

 その動作からは、どことなく自己への陶酔を感じる。


「あの時、悟ったんだ。このクソッタレな世界に”空白”を与え、あるべき姿に戻すために……この力を授かったのだと」


 〈あちゃ~、相当やられちゃってますわこれ〉

 〈今でもいるよね、この手の勘違い野郎〉

 〈シャドマさん、全部聞く必要ある?〉

 〈殴りましょ~!〉

 〈You! さっさとやっちゃいなYO!〉


 先ほどとは打って変わって、コメントの流れが早くなった。

 ホログラムに映し出された視聴者の声を、天久は鼻で笑う。


「だのに、貴様は何だ? 未だ魔物(モンスター)どもに怯え、魔素(ヴリル)をねだるしか能のない下等種どもを守ることに終始している。こんなまやかしの賛美を送るだけの下等種など、存在する価値はない」


「……それで、たくさんの人を殺したの?」


 口を挟んだのは玲美だった。俯いているせいで表情は分からないが、得物を持つ手がわずかに震えている。


「そんなことのためにっ……! あんたの鬱憤を晴らしたいだけのためにっ! 私のお父さんとお母さんを殺したのッ⁉」


 叫びとも言っていい声とともに、玲美が顔を上げた。

 泣き出しそうな表情だが、その目つきは怒りに染まっている。


 〈えっ、Remiって始まりの黒禍(ビギニング・ネロ)の被災者なの?〉

 〈とんでもねえ同窓会だな〉

 〈始まりの黒禍(ビギニング・ネロ)で暴れ回ってた魔素持ち(ホルダー)がいたって聞いたけど、こいつなのか〉

 〈つうか人の親殺しといてこのセリフって救いようねえな〉


 しかし天久はそんな玲美を見て、ふたたび鼻を鳴らした。


「「動画の女か……下等種ごときが何をほざく。貴様は選ばれていない。それが答えだ」


 かざした右手を握りこみながら、狂気を孕んだ笑みを浮かべる。


「……おとなしく、あの時、あの場所でっ! 死んでいればよかったんだよっ!」


 今度こそ。

 玲美は今にも飛び掛からんばかりに、前に出た。


「ふざけないでっ! 逃げただけのくせに……っ! 家から、学校から、逃げただけのくせにっ!」


 途端、天久の顔が引きつった。


「黙れ……黙れ黙れ、黙れぇっ!」


 天久が右手を払うと、影の大波が玲美へと押し寄せる。

 玲美が反射的に、盾をかざした瞬間。


「……<影揺壁(ウォール)>」


 現れた影の壁が大波とぶつかりあい、消滅する。

 ふたつの影が消えた後、陽人はゆっくりと前に出た。


「人に迷惑かけちゃいけない、って教わらなかったかい? お兄ちゃん」


「あくまで邪魔するか……っ! あの時と同じようにっ!」


 天久の言葉に、陽人はふっと笑った。


「そうか、お前……。浅草で止めたヤツのひとりか」


「やっと思い出したか。あの時の屈辱は忘れない」


「言われてみれば一人だけ、ケツ捲って逃げたガキンチョがいたな。ずいぶんヒネた見た目になってたから、気づかなかったぜ」


「貴様……ッ!」


 〈ヒネた見た目ってw〉

 〈顔なんだか服装なんだか〉

 〈両方だろJK〉

 〈始まりの黒禍(ビギニング・ネロ)の時から、そんなことやってたのシャドマ〉

 〈(リバース)迷宮(ダンジョン)を討伐してるのって、それの延長?〉

 〈あ~だからひっそりやってたのか〉

 〈たしかに人巻き込むことじゃねえわな〉


 ホログラムを流れるコメントには応じず、陽人はなおも口を開いた。


「ま、出てきてくれてよかったよ。俺にとってもお前は……あの時のやり残し、ってことだからな」


 長巻を、突きつけるように構える。


「もう一度言う、恨むなら俺だけを恨め。他人(ひと)様に迷惑かけてんじゃねえよ。中二病は服装だけにしとけ」


 〈決めゼリフFOOOOOO〉

 〈きゃああああシャドマさんドヤ顔してええええええ〉

 〈↑この状況下でドヤ顔したらすげえけどなw〉

 〈っしゃ、やったれシャドマああああ〉

 〈各国協会さん、これは共同討伐の対象じゃないんすかねえ〉

 〈たしかに国際テロ組織をシャドマだけにやらせるってなくね?〉


 コメント欄は、もはや目で追うのが困難な勢いだ。

 天久は沈黙を保っていたが、やがてニッタリと笑った。


「いいだろう。ここで仕留めてやるつもりだったが……気が変わった」


 言うが早いか、武家屋敷の上空に黒が渦巻いた。

 屋敷の周りから何体もの女の幽霊と思しき魔物(モンスター)がただよい、上天の黒へと吸い込まれていく。


「あれ、武家屋敷の鍵の魔物(ギミック・モンスター)……!」


 玲美の言葉とともに黒が収束し、ひとりの男の姿を取る。長いひげをはやした軍装姿の男だ。大刀を背負い、手にはライフル銃を持っている。

 天久は鼻を鳴らすと、虚空に手をかざした。灰色の空が歪んで、うっすらと外の景色が見える。


「もっといい趣向を用意してやる。貴様はこいつとでも遊んでいるがいい」


 天久とミツハの姿が、歪みの中へと消えていく。

 それを待っていたかのように、黒き軍人が汚らしい雄たけびを上げた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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