↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強おじさん、裏ダンジョンを征く ~15年間ソロで密かに攻略してたらアイドル探索者に誤配信されてバズってしまった~  作者: 朴いっぺい
第五章 最強おじさんと国際テロ組織

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/40

5-2

お読みいただき、ありがとうございます!

 孤児院を出て一時間後、陽人たちは東京支局の会議室へと到着した。

 迎えの車で八王子支所まで行き、そこからヘリコプターで東京支局へ一直線。迅速な手配の賜物である。


 シンプルな縦長の会議卓が置かれた部屋には、すでに雄鷹と上木、瀬尾がいた。


「おう、来たな」


「お休みのところ、すみません」


「構わねえよ。こういう時は、こっちの都合なんざ関係ねえからな」


 頭を下げる上木に、陽人はひらひらと手を振って応じる。


「で、次はどこに出たんですか?」


 未だ私服姿の玲美が席に着く。

 その言葉に、例によって下座に控えていた瀬尾が口を開く。


「今回は前座があります。まずは、こちらをご覧ください」


 瀬尾が端末を操作すると、部屋のプロジェクターからホログラムが映し出される。

 映像からして、どこかの動画サイトの配信画面らしい。


 画面の中央には男が一人。背後には武家屋敷らしき建物が映っている。

 歳は三十前後か。無造作な髪型に鋭い目。長い前髪が顔の一部を隠している。

 黒を基調としたタイトなシャツの上に、薄手のコート。ひと昔前に流行ったビジュアル系バンドの体である。


 隣で、息を飲む音がした。

 ちらと見やれば、玲美の顔色が悪くなっている。


(玲美……?)


 疑問に思っている間に、映像の中の男がおもむろに手を広げた。


『我々は、神罰の執行者……“空虚なる運命(エンプティ・フェイト)”』


 機材による補正をかけているであろうことを差し引いても、よく通るいい声だ。


『人類よ、聞け。お前たちは進歩と称して大地を貪り、知恵と称して欲望を肥やした』


 服装こそ過去の流行だが、動作は洗練されていた。

 一挙手一投足に、妙な魅力が宿っている。


『だが神々は、お前たちの傲慢に鉄槌を下した。この世界に迷宮(ダンジョン)が現れたのは、決して偶然ではない。これは選別だ。誰が残り、誰が沈むか』


 男は言葉を切ると、意味深な微笑を浮かべる。

 こうしてみると、かなりの美男子だ。


『そして今、私は選ばれた。かつて全てを失ったこの身に、終末を与える資格があるのなら……』


 男が右手を掲げた。カメラの画角が引きに入る。


『ここに裁きの地を、創ろう』


 そこに映し出されたものを見た瞬間――


「……っ!」


 思わず、言葉を失った。

 男の背後で、景色が揺らぎ、破れた書き割りのようにめくれ上がっていく。

 やがて揺らぎが収まった時、そこには黒く染まった武家屋敷が並んでいた。


『貴様らが(リバース)迷宮(ダンジョン)と呼ぶ、罪を背負いし者たちの墓標。貴様らの文明がいかに醜く、脆弱で、そして腐りきっているかを示すために、神々は私にこの力を与えたもうた』


 男は静かに口許を歪める。


『宵原陽人。貴様は知るまい……貴様が称賛され、英雄となった影で、どれだけ多くの者が社会から置き去りにされているか』


 静かに、しかし怒りを滲ませるように、男は続ける。


『来い。貴様にも、同じ喪失を与えてやる……!』


 画面が暗転する。どうやらアーカイブをダウンロードしたものらしい。

 陽人は鼻を鳴らし、雄鷹に視線を移した。


「よく分からんが、ケンカ売られたってことでいいか? そもそも、こいつら何者だ?」


“空虚なる運命”(エンプティ・フェイト)、通称“EF”。人類文明の根絶による空白こそが世界の救済につながると謳う、国際テロ組織じゃよ」


「近年、迷宮(ダンジョン)災害の被災者を取り込み、急激に勢力を拡大しています。多数の魔素持ち(ホルダー)がゲリラ的に攻撃を仕掛けるため、各国とも手を焼いています」


 雄鷹の言葉を、上木が継いだ。


「なるほどね。で、さっきの男がリーダーってわけか」


「はい。黒鷺(ブラック・ヘロン)と名乗っており、これまで音声や文章で声明を出していました。姿を見せたのは、今回が初めてです」


「とはいえ、テロリストに因縁つけられる(いわ)れはないんだけどなあ」


「宵原さんにお聞きしたいのが、まさにそこなんですよ」


 上木が言葉を切ると、瀬尾が再び端末を操作する。

 画面が切り替わり、動画の中で男が微笑を浮かべているシーンの切り抜きが表示された。


「先ほどの動画からキャプチャした画像を基に、年代別の人相を作成。AIに捜索させたところ……こちらがヒットしました。とある都立小学校の卒業アルバムに掲載されていた写真です」


 ふたたび画面が切り替わり、小学生らしき男の子の画像が表示される。画像の下部には氏名。

 たしかに先ほどの男の面影がある。


 それを見た玲美が、ゆっくりと口を開いた。


「名前……天久(あまひさ)優吾(ゆうご)?」


「十五歳の時、始まりの黒禍(ビギニング・ネロ)の発生日に友人と出かけると言って外出した後、行方不明となっています。当該事件に巻き込まれたものとして、一年後に特別失踪の届出が受理されました」


「一年……。未だ生存を信じて、失踪届を出さない遺族もいると聞くがのう」


「調べた限り、両親は当時すでに離婚。実姉はアル中で事件を起こし服役中。家庭環境はあまり良くなかったようですね」


 雄鷹と瀬尾が話す間にも、玲美の表情が静かな怒りに染まっていく。


「……こいつです」


「舞木さん……?」


始まりの黒禍(ビギニング・ネロ)の時、私の両親を殺したの……こいつです」


 その場の全員が、玲美を見た。

 だが当の玲美は握りこぶしを作って俯いたまま、何も言わない。


「なるほど、始まりの黒禍(ビギニング・ネロ)の生き残りですか。あの演説にも合点がいきました」


 話を進めるためか、上木がわざとらしくため息を吐いた。


「政府が把握している以上に、生き残った人間は多かったようじゃからな。だが探索者協会(デルヴァーズ)が発足するまでは、それどころじゃなかったからのう」


 応じたのは雄鷹だった。

 どこか遠くを見るように目を細めているあたり、過去を思い返しているのだろう。


魔物(モンスター)迷宮(ダンジョン)から湧き出るわ、国は魔素(ヴリル)欲しさにいがみ合うわ、盛りのついた魔素持ち(ホルダー)たちは暴れるわ……まさに暗黒時代じゃった」


「たしかに当時は酷いものでした。私もあの惨状を目の当たりにしたからこそ、雄鷹さんに師事したんですから」


「お前さんみたいな(もん)ばかりならよかったんじゃがな。身寄りを失った挙句、環境に絶望して地下に潜った者も多いと聞く。彼もまた、その中の一人だったんじゃろう」


「だからこそ、英雄視されている宵原さんを目の敵にした、というところでしょうか。EFにいる連中の大半は、世間の爪弾(つまはじ)き者ですからね」


「はた迷惑な奴じゃのう。だからこそテロリストなぞやっておるんじゃろうが」


「ま、なんにせよ(リバース)迷宮(ダンジョン)が出た以上、放っておくわけにいかねえだろ?」


 ぼやく雄鷹に、陽人は敢えて笑いかける。


「すまんが頼む。他国の協会も、今回は静観の構えじゃ」


「長篠で懲りたかね」


「それもさることながら、お前さんへの名指しというのが大きいらしい。二人のお嬢さん方からは、臨戦態勢を取っておくからいつでも言え、と私信は来ておるがの」


(リバース)迷宮(ダンジョン)の場所は?」


「仙台、会津武家屋敷です。元はBランクの迷宮(ダンジョン)で、現在は探索者協会(デルヴァーズ)の部隊が周辺を封鎖しています。魔物の湧出は確認されていません」


 そこまで聞くと、陽人は立ち上がった。


「少数攻略には慣れっこだ。玲美……」


 今回はやめとけ――そう言いかけた時。


「……行きます」


 黙していた玲美が、ゆらりと立ち上がる。

 その表情に猛るものはなく、ただ静かな決意に満ちていた。


 *  *  *  *


 夕暮れ時の西日が差す中、陽人たちを乗せたヘリコプターは会津武家屋敷の駐車場へと降り立った。

 周囲には武装した探索者(デルヴァー)たちの他に、誰もいない。


「……やっぱり、見た目は変わらねえんだな」


(リバース)迷宮(ダンジョン)になった場所を外から見るの、初めてですもんね」


 駐車場から見える武家屋敷は、不気味なほど何も変わっていなかった。

 ヘリの中で聞いた話では――動画が投稿される少し前、観光客を装ったテロリストたちが施設を制圧したらしい。

 その過程で、少なからず犠牲者が出たとのことだった。


「出てるのは中だ。さっさと終わらせる」


「雄鷹さんたちからは配信頼む、って言われてますけど……どうします?」


「やらねえわけにもいかねえだろう。(リバース)迷宮(ダンジョン)を出せる奴が他にもいたって、世界中が知ってるんだからな」


「……分かりました」


 玲美はなおも何か言いたげだったが、傍らに浮かぶシャトの背中を操作し始める。


「始めます……Thank you for watching! 『Remiちゃんねる☆彡』のRemiです!」


〈待ってた〉

〈やっと着いたか〉

〈次はテロ討伐かよ大変だな(#英語)〉

〈てかあのテロ組織のリーダー、誰?〉


「今回も(リバース)迷宮(ダンジョン)、攻略配信ですっ! 毎度おなじみ、シャドウマスターこと宵原陽人さんをお迎えし、テロリストの手によって出現したとされる、会津武家屋敷の(リバース)迷宮(ダンジョン)に挑みますっ!」


〈シャドマ、ケンカ売られてて草〉

〈まあシャドマだしなんとかなるだろ〉

〈EF、最近無駄に頑張ってんな〉

〈ちょっとぶっ潰しちゃってくださいよシャドマさん〉

〈てか(リバース)迷宮(ダンジョン)ってどうやってできるんだ?〉


「攻略配信の免責事項ですが……途中、ショッキングな映像が流れるかもしれません。自己責任でご視聴くださいね。それでは早速、行ってみましょう!」


 歩きながら前座をこなしているうちに、いつの間にか屋敷の入口に到着していた。

 陽人は長巻を抜き放つと、左手をかざす。


「……影門招来(インヴォーク)


 景色が歪む。色彩を持った世界が一瞬でめくれ上がり、黒く染まった武家屋敷へと変わっていく。

 変容が終わった時、陽人と玲美は屋敷の中にいた。畳張りの部屋には、黒い影が陽炎のように揺らめいている。


〈相変わらず慣れねえなあ、この光景〉

〈この世の終わり感がすごい〉

〈ほんと、別世界に連れ込まれてる感じするよね〉

〈配信途切れないのが不思議〉

〈つまりシャドマは異世界勇者ってことか〉


「屋敷の奥の間ですね。ここの迷宮主(ダンジョン・マスター)は、かつてこの屋敷で自刃した奥方様だったそうです」


「……行こう。まずは屋敷の外に出る」


「なら表玄関ですね。こっちです」


 玲美が黒鱗盾を構え、先頭に立って走り出す。

 屋敷の中は荒れ果てていたが、それだけだった。以前の北の丸のように魔物(モンスター)が出現する気配はない。


「静かですね。そりゃ長篠みたいに戦場ど真ん中ってわけじゃないですけど……」


 玲美の言葉に応じず走ると、程なく表玄関が見えてくる。

 その瞬間、首筋にざわりと嫌な感覚が走った。理由は分からないが、行ってはいけない――そう感じる。


「玲美、俺が先に行く」


 そう言って先んじて屋敷を出た瞬間。

 飛来した何かを、すんでのところで躱す。


「え、ちょっ、陽人さん⁉」


〈名前呼びになってて草〉

〈ちょおおおお俺のRemiちゃん(#コメント一部省略)〉

〈↑お前のじゃない定期〉

〈長篠で一緒だった二人に対抗してんのかな〉

〈相変わらず緊張感のないインターネッツですね〉


 シャトが映し出すホログラムに、大量のコメントが流れる。

 だが、陽人の視線はそこにはなかった。


「こいつはまた……大層なお出迎えだな」


 屋敷の外には、銃を構えた黒足軽たちが横陣を敷いていた。それはいい。

 異質なのはその向こう――塀や長屋の上に陣取る者たちだった。顔はゴーグルとニットマスクで覆われ、炭素繊維鎧(カーボンアーマー)で武装している。思い思いの銃器を手にした姿は、明らかに魔物(モンスター)ではない。


「ウソ……ッ⁉ 人間が、魔物(モンスター)と一緒にっ⁉」


 玲美の声がかすかに震える。驚愕と、嫌悪と、戸惑いが混ざった複雑な声音だ。


 直後――。人と魔、双方の銃器が、一斉に火を吹いた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたらブックマークや評価、感想など頂ければ励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。