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最強おじさん、裏ダンジョンを征く ~15年間ソロで密かに攻略してたらアイドル探索者に誤配信されてバズってしまった~  作者: 朴いっぺい
第三章 最強おじさんと至高の鍛冶師

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3-3

お読みいただき、ありがとうございます!

 陽人は砥ぎが終わった得物を持って、玲美とともに(たまき)の工房を後にした。


 川沿いの道へと戻り、上流を目指して歩く。目指すは環から討伐依頼を請けた迷宮(ダンジョン)だ。


(しかし()()()()迷宮(ダンジョン)とは、な)


 山道を登りながら、環とのやり取りを思い出す――。


『ついこないだ、川の上流に迷宮(ダンジョン)が発見されてね。今は自衛隊が見張ってるんだ』


『別に珍しいことでもないだろうが』


 日本の領土内で迷宮(ダンジョン)が発見されると、一旦は地元の警察の預かりとなる。当然、警察では魔物(モンスター)が出てきた時に対処できないので、対魔物(モンスター)用の装備で武装した自衛隊に引き継がれるのがお決まりだった。


『それだけならね。ただあたし、これからひと仕事あるわけだろう? 探索者(デルヴァー)の連中に入ってこられると気が散るんだよ。この工房がバレると面倒だしね』


『ぶっ潰して来い、ってか? でも自衛隊がいるってことは引継ぎ前だし、俺らは手を出せねえぞ』


 迷宮(ダンジョン)の認定は自衛隊の立ち合いの元、その国の探索者協会(デルヴァーズ)による調査を以て行われる。正式に認定されると、晴れて探索者(デルヴァー)たちの立入が許可されるというわけだ。

 ちなみに他の国でも自衛隊が国軍に置き換わるだけで、大体の流れは同じらしい。


『あたしに頼まれたって言えば通してくれるよ。自衛隊の装備だってあたしが考案してるし、ここらの部隊の連中とは仲がいいからね』


『いいんですか? 越権行為だって怒られるんじゃ……』


『連中だって魔物(モンスター)が出てこないかビクビクしながら見張ってんだし、渡りに船さ。それに適当に散歩してた探索者(デルヴァー)迷宮(ダンジョン)見つけたんでぶっ潰しておきました、なんて珍しくもないだろ?』


『そ、それは環さん達だけだと思いますけど……』


『ま、どうせヒマだし行ってみようぜ。門前払いされるなら、引き下がればいいさ』


 ――という、やり取りを経ての今である。


「あの工房、結界とか張れば普通に大丈夫な気がするんですけどね。なんでわざわざ引継ぎ前の迷宮(ダンジョン)なんて……ランクも分からないのに」


「いいじゃねえか。制作費がタダになるなら安いもんだぜ」


 ぶつぶつ言う玲美に応じながら、山道の小さな分かれ道に入っていく。

 ちなみに玲美は剣と盾が使い物にならないので、工房で使わせてもらった柄の長い片手半剣を借りてきていた。


 傍らには例のピンク色のネコ型ドローン、シャトが浮いている。スマホにある機能はひと通り持ち合わせているので、配信をやらずとも連れている者が多いらしい。


「制作費、って……。そんなにかかるんですか?」


「なに言ってんだ。(たまき)さんの特注品(オーダーメイド)、1000万からだぞ?」


「い……っ⁉ いっせんまんっ⁉」


「もちろん一点あたりのお値段で、材料費は別な。さすが至高の鍛冶師(マーヴェル・スミス)だわ」


「……宵原さん。ひょっとして裏・(リバース)迷宮(ダンジョン)で採れた魔素(ヴリル)や武具、代金がわりに環さんに流したりしてません?」


「さて、なんのことだか……。おっと、見えてきたぞ」


 視線の先には、山の中腹にぽっかりと空いた洞窟があった。少し離れた場所にはテントが張られ、洞窟の脇には迷彩服を着た自衛隊員が二人。陽人たちが近づくと、身なりから探索者(デルヴァー)だと察したのか立ちふさがってくる。


「そこのお二人、止まってくださいっ!」


「この迷宮(ダンジョン)は、まだ探索者協会(デルヴァーズ)への引継ぎ前です! 探索はできません!」


 身振り手振りを交える隊員たちに苦笑しつつも、頭を掻きながら口を開く。


「あ~……この下に住んでる環さん、って知ってるか? その人にここの討伐を頼まれて来たんだが」


「環さんっ⁉ それはもう……しかし、なんでまた……」


 年かさの隊員がもごもご言っているうちに、もう一人の若い隊員は陽人と玲美の顔を交互に見比べていた。

 が、すぐにハッとした表情を浮かべる。


「先輩っ! この人あれですよ、シャドウマスターですよっ!」


「えっ、シャドウ……? ああ、あの裏・(リバース)迷宮(ダンジョン)の?」


「どっかで見たことあると思ったんですっ! うわぁ、ReMiちゃんもホンモノだ……!」


「あ、あはは……。どうも~、こんにちわっ」


 目の輝きを見るに、若い隊員は結構なミーハーらしい。

 すでにメッキが剝がれかけているアイドルモードで応じる玲美に苦笑しつつ、先輩の隊員に視線を移す。


「ま、そんなわけなんだ。なんかあったら俺らのせいにして構わねえから、通してくれねえか」


「……こんな場所にあるおかげで、調査がまったく進んでません。どんな魔物(モンスター)が出てくるか、分かりませんよ?」


「ああ、大丈夫だ。なんとかするさ」


 ちゃっかりサインをねだってきた若い隊員に応じた玲美を待って、洞窟へと入る。

 洞窟特有の、湿った空気を感じたのも束の間。入って10メートルも歩かぬうちに、ゆらゆらと揺れる光の玉が見えてくる。

 ――迷宮(ダンジョン)の入口だ。


「よっしゃ、行くぞ……って、配信やらねえのか?」


「え、ええっ、やるんですかっ⁉ 非公式調査ですよっ⁉」


「その辺のルールは知らねえけど、別にいいんじゃねえの? ”昇り詰めし者たち”(アセンデンツ)の一人、直々のご依頼なんだからさ」


「んもうっ……どうなっても知りませんよ?」


 などと言いつつも、玲美は意気揚々とした表情でシャトの背中を操作する。


「よし、接続正常。始まります」


〈わこつ〉

〈ゲリラ配信助かる〉

〈おっおっ裏・(リバ)迷宮(ダン)か⁉〉

〈共同攻略、まだ日程決まってなかったよね〉


 平日の午前中だというのに、映し出されたホログラムに続々とコメントが流れていく。

 玲美はシャトの前に立つと、配信用の笑顔を作って口を開いた。


「Thank you for watching! ReMiちゃんねるのReMiです♪」


 挨拶とともに、シャトが遠巻きに陽人の姿を捉える。


「今日は群馬県の奥利根より……コラボしてるシャドウマスターこと宵原陽人さんと、迷宮(ダンジョン)攻略配信ですっ!」


〈おおおおおお!〉

〈シャドマキター!〉

〈えっ、普通の迷宮(ダンジョン)?〉

〈なんだつまらん〉

〈勝ったなガハハ風呂入ってくる〉

〈↑フラグ立てんなw〉

〈でも実際余裕なんだよなあ〉


「さる方からのご依頼で……協会引継ぎ前の迷宮(ダンジョン)の事前調査を、みんなにお届けしますっ!」


〈いいのかそれは〉

〈もう何でもアリだな〉

〈未調査ってことはランク分からないってこと?〉

〈なにこれ初じゃね?〉

〈そりゃ普通は調査済のところしか入らんしな〉


「そんなわけで~、シャドマさんっ! 意気込みをひと言どうぞっ!」


「……さっさと行くぞ」


「えっ、ちょっ……もうっ、早速行ってみましょうっ!」


〈打ち合せしてないんか~いw〉

〈シャドマ、見た目通りの性格だな〉

〈ヤケクソReMiたん可愛いぺろぺろ〉

〈まあ十五年ソロってりゃこうなるかw〉


 コメントがわらわらと伸びていく中、光の玉に手をかざす。


 円形に拡がった光を潜ると、妙に明るい洞窟の中に出た。陽人がギリギリ屈まなくても歩けるくらいの広さで、人の手が入っていない地肌が延々と続いている。


「せ、狭いですねえ……」


「こりゃさすがに、長巻(こいつ)は振り回せねえな」


 苦笑しつつ、左腰に帯びた脇差を抜いた。

 長巻は例によって、ボストンバッグの要領で肩から下げる。


 しばし進むと、奥からひたひたと足音らしき音が聞こえてきた。

 すぐに洞窟の奥から、全身真っ赤な二足歩行の魚人が現れる。その真紅の眼が、陽人を捉えた。


血塗半魚人(ブラッド・サハギン)っ⁉ Aランクですっ、気をつけて……!」


 玲美の言葉が終わる前に、陽人は無言で空いた左手の親指を軽く弾いた。

 瞬間、魚人の頭がコミカルな音とともに弾け飛ぶ。


「……へっ?」


「ほら、さっさと行くぞ」


 玲美に声を投げかけると、シャトが器用に回り込んで陽人を映す。


〈ReMiちゃん、マジで驚いてて草〉

〈まあシャドマだしなあ〉

〈今のって雄鷹さんがやってたのと同じ?〉

〈だろうね、さすが師弟だわ〉

〈しかし威力がヤベえな〉

〈俺が食らったら……gkbr〉


 つらつらと流れる光の文字列をたまに見つつ、洞窟を奥へと進む。


 途中、血塗半魚人(ブラッド・サハギン)やら、大王巨蟹(グレートシザー)なるカニやらがわんさと出てくる。が、そのすべてを指弾か、魔素(ヴリル)を纏った拳で沈めていく。


〈ずっと素手で草〉

〈さっきから思ってるけど脇差いる?w〉

〈彼の前ではいかなる魔物も無力ですね(#イタリア語)〉

〈てかReMiちゃん、コラボなのに何もしてない笑〉


「うっ……そ、そんなことないもんっ! ちゃんと後方警戒してるんだからっ!」


 玲美が強がった時。


〈★:ほほ、やっとるの~〉


 光のディスプレイに見慣れぬ表示が現れた。

 それを見た玲美の顔が強張る。


「えっ、協会の公式アカウント……⁉」


 見ればコメントの脇には、たしかに『日本探索者協会:公式』と出ている。

 だが陽人には、その話し方に覚えがあった。


「なんかよく分からんが……これ話してるの、ひょっとしてじいさんか?」


〈★:バレたか。機械オンチのくせに、よく分かったのう〉

〈理事長出てきてて笑う〉

〈雄鷹さ~ん、非公式調査を配信していいんですか~?〉

〈たしかにシャドマは一応、Eランだよな〉

〈★:いいんじゃないかの? 引継ぎ前だからランク関係ないしの~〉

〈適当で草〉

〈まあ探索者協会(デルヴァーズ)できる前は、通りすがりで討伐とか普通だったからな〉


 視聴者たちと絡む雄鷹のコメントを見ながら、幾度目かの指弾を放つ。

 そうこうするうち、唐突に視界が開けた。天井こそ低いものの、教室ひとつ分くらいの広さはありそうだ。対面には、奥への通路がひとつだけ。


「こういう時って、大抵……!」


 玲美が言いかけた時。

 壁際のあたりから、水が染み出した。ごぼごぼという音とともに、尻尾つきの半魚人やら大きなカニやらが無尽蔵に湧きだしてくる。


「やっぱり魔物密集地帯(モンハウ)……ッ!」


 玲美が構えたと同時に、無言で駆けた。

 左手の指弾で駆け寄る半魚人たちを打ち倒し、右手の脇差を大きなカニの甲羅に突き立てる。

 そのまま壁に沿って移動し、湧き出てくる魔物(モンスター)を片っ端から討ち取っていく。


〈モンハウで単騎駆けは悪手だぞ〉

〈蹴散らしてるわけですが〉

〈★:お~お~すごいのう。だがワシの弟子ならもっとエレガントに戦わんかい〉

〈師匠がヤジ入れてくるとかw〉


(やかましいわ、クソジジイ)


 玲美はと見ると、壁を背にする位置で剣を諸手に持って戦っていた。

 強化魔法をかけているのか、得物がいいのか、はたまた両方か。Aランクらしい魔物(モンスター)たちを、一刀の元に斬り伏せていく。


〈ReMi、盾ねえの?〉

〈両手持ちとか初めて見たな〉

〈でも何気に堂に入ってるじゃん〉


 たまに追いかけてくるシャトのコメントを見つつ、玲美のほうへと向かいそうな魔物(モンスター)に指弾を飛ばすことしばし――。

 やがて、辺りが静かになった。


 呼吸を整えながら近づいてくる玲美も、ケガはなさそうだ。


「お疲れ様です。ちょっと休んだら……」


 などと、言い終える前に。

 飛んできたシャトが、ひょいと二人の間に割って入る。


〈危うげねえなあ〉

〈Aランは堅いよねこの迷宮(ダンジョン)

〈だな、魔物(モンスター)見るにSでもおかしくない〉


 普通のコメントに紛れて。


〈★:もうちょっと映えを意識せんとのう。どれ、久々に戦い方を教えてやろう〉


 光のディスプレイに映る意味深なコメントに、陽人と玲美は顔を見合わせた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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