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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
血と鉄の断罪と世界への胎動

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第94話、血と鉄の断罪と世界への胎動

ドイツ内戦への神聖日本帝国軍の派遣は、軍事史上でも稀に見る、極めて厳重な機密作戦として進められた。それは、単なる兵力移動ではなく、東洋の超大国がヨーロッパの勢力均衡に介入する、冷徹で計算し尽くされた戦略的行動であった。


主力の第2機甲師団は、その中核たるT-99主力戦車と、機動性に特化したK-01装甲戦闘車をロシア連邦との秘密軍事協定によって使用を確保した、巨大な長距離輸送船団に搭載された。艦隊は、極東の凍てつく港からベーリング海峡、そして大西洋を迂回する困難な航路ではなく、地中海を経由する最短ルートを取るために、ロシアの排他的経済水域内を航行するという外交上の裏取引がなされていた。


海上輸送が始まる数日前、第4歩兵師団の精鋭部隊—彼らは特殊作戦の専門家集団であった—は、巨大な軍用輸送機、C-30ステルス輸送機群に乗り込んだ。彼らは、空の旅路を選んだ。中央アジアの未確認の空路を飛び、燃料補給を隠密裏に敢行しながら、ナチス第4帝国(Fourth Reich)がすでに掌握していたハンガリーの軍事基地へと夜陰に乗じて降下した。


派遣軍全体の総指揮を執るのは、第2機甲師団長、青木健太少将。齢四十代前半にして、GNI随一の戦術家として知られる彼は、その冷静沈着な指揮ぶりと、いかなる状況下でも車両の性能を限界まで引き出す精密な運用技術に長けていた。欧州という未知の戦場で、彼に課された任務は重い。それは、圧倒的な技術的優位性を背景とした、少数精鋭による短期決戦での戦果確立であった。


青木少将が部隊に下したモットーは、彼の冷徹な哲学そのものだった。「技術による飽和攻撃と、冷徹な殲滅戦」。感情やイデオロギーに流されることなく、勝利という唯一の目的に対して最も効率的な手段を用いるという、機械的なまでの徹底ぶりであった。


派遣から二週間。兵站線が確立され、車両の最終調整が完了した直後。青木少将は、ナチス第4帝国が臨時の司令部として利用する、ミュンヘン郊外の古めかしいコンクリート建築へと入った。


そこで彼を迎えたのは、ナチス第4帝国の実質的な指導者であるルドルフ・シュタイナー大佐だった。シュタイナーは、体躯が非常に大きく、その冷たい眼光は、歴史の教科書に登場するかつてのSS(親衛隊)将校を思わせる、威圧的な風貌を持っていた。彼の制服は真新しいが、そのデザインは旧体制の狂信性を色濃く残していた。


司令部の室内は、古びた地図と、赤と黒の旗で埋め尽くされ、古い時代の熱狂的な空気が淀んでいた。


「私は、ルドルフ・シュタイナー大佐だ。東洋からの友軍よ、よく来てくれた。貴国が誇る『神の戦車』、T-99と、その技術的支援を、我々はまさに今、この時を待ち望んでいたぞ」


シュタイナーは、流暢なドイツ語で、歓迎というよりも、高圧的な査定のような口調で挨拶した。


青木は、彼の威圧的な視線に動じることなく、背筋を伸ばして通訳を介した。彼の声には、一切の感情の起伏がなかった。それは、最高指導者・神月唯華が、この東洋の遠い同盟国に対して抱く冷淡なスタンスをそのまま反映していた。


「我々は、神聖日本帝国最高指導者・神月唯華様の厳命により派遣された戦術部隊である。我々の目的はただ一つ、貴軍のベルリン制圧を支援し、ドイツ連邦政府という『腐敗した民主主義』の残滓を一掃することにある」


青木はそこで言葉を区切ると、瞳に僅かな軽蔑の色を浮かべた。


「我々は、貴軍の掲げるイデオロギーには、一切関与しない。我々GNIは、あくまで戦術的、かつ軍事的な協力者である。我々のT-99とK-01は、効率的に敵を殲滅するために存在する。それ以上でも、それ以下でもない」


青木は、目の前のナチス第4帝国の指揮官たちが持つ、旧態依然とした熱狂的なイデオロギーと、それに反比例するような旧式な兵器群に、内面で強い嫌悪感を抱いていた。しかし同時に、彼は彼らの持つ高い士気と、狂信的なまでに命令を遂行しようとする戦闘能力を、純粋な戦力として高く評価した。この狂信性は、GNIの冷徹な技術力と組み合わせることで、最大の破壊力を生むと彼は計算していた。




神聖日本帝国軍の介入は、瞬く間にドイツ内戦の戦況図を塗り替えることになった。


ナチス第4帝国軍は、そのイデオロギー的な狂信性と、ベルリン奪取という明確な目標に突き動かされ、内陸への進軍速度は速かった。しかし、その進撃はライン川流域で完全に停止した。そこには、ドイツ連邦軍が最後の牙城として築き上げた、強固な防御線が横たわっていたからだ。


連邦軍は、最新鋭のレオパルト2A7主力戦車を多数配備し、さらに高度な赤外線探知技術と、新型の対戦車ミサイルシステムを組み合わせ、ライン川沿いの防衛陣地を鉄壁にしていた。ナチス軍の旧式な戦車による正面からの突撃は、次々と高性能な防御網によって跳ね返され、戦線は数日にわたり膠着していた。


青木少将は、偵察衛星とK-01からの詳細な偵察報告を受け取るや否や、シュタイナー大佐に対して決断的な命令を下した。


「シュタイナー大佐。貴軍の突撃戦車は、連邦軍の防衛線を正面から突破するには装甲が薄すぎる。戦力を無駄にする必要はない。我々が、貴軍の『矛』となる」


青木は、戦術会議の場で、モニターに映し出された連邦軍の配置図を指し示した。


「T-99の持つ圧倒的な機動性と火力を、最大限に活用する。作戦は夜間、渡河を伴う電撃的な機動戦とする。目標は、連邦軍戦車集団の後背、補給線と司令部機能を叩くことにある」


作戦は、濃密な夜陰がライン川流域を覆う時刻に実行された。第2機甲師団のT-99戦車隊は、まるで亡霊のように、その夜に溶け込んだ。


先頭を切ったのはK-01装甲戦闘車だった。この車両には、吉岡大臣が開発した最新鋭の電子戦妨害装置(ECM)が搭載されており、広域にわたり連邦軍のレーダー周波数を飽和させた。さらにT-99本体は、限定的ながらも最新のステルス塗料と形状制御技術が施されており、連邦軍のレーダーがT-99を捕捉しようとしても、それはまるで「存在しないもの」として誤認識され続け、ただのノイズ信号として処理された。


T-99部隊は、最新の超高感度暗視装置(IR-VSA)を最大限に活用し、川底の地形変化まで正確に読み取りながら、ほとんど音もなくライン川を渡河。連邦軍の最も強固な防御陣地を迂回し、敵戦車集団が後背から攻撃されることなど全く想定していない、集結地域へと深く潜り込んだ。


夜明け前の闇が最も濃くなる頃、T-99部隊は連邦軍の戦車集団の真後ろ、補給用燃料トラックや弾薬集積所のすぐ近くで展開を完了した。


「全車、WA-P弾装填!目標、レオパルト2A7の後部装甲を狙え!一点集中射撃!殲滅を開始せよ!」


青木少将の冷徹な命令が、戦車内の無線を通じて響き渡った。


T-99に搭載された135mm滑腔砲から放たれたのは、タングステン合金の「劣化ウラン不使用徹甲弾(WA-P: Tungsten Alloy Penetrator)」だった。これは、従来のAPFSDS弾を遥かに凌駕する初速と貫通力を持つ、GNIの最新兵器である。


徹甲弾は、連邦軍の最新鋭レオパルト2A7の最も脆弱な後部エンジンコンパートメント装甲を容赦なく貫通し、瞬時に車内へと侵入した。炸裂した徹甲弾は、内部で火炎と超高熱の金属片を撒き散らし、次々とレオパルトの自動消火システムや弾薬庫を誘爆させた。


戦闘は一方的であった。連邦軍のパイロットや車長は、敵がどの方向から、どのような規模で現れたのか、何が起こったのかを理解する暇すら与えられなかった。彼らの戦車は、外部からの一方的な攻撃により、わずか数秒で内部を灼熱の地獄に変えられた。


わずか数時間の戦闘、夜明けと共に第2機甲師団が展開した突破作戦により、連邦軍のライン川防御線は完全に機能不全に陥った。補給線と司令部が破壊され、主力戦車部隊が後背から叩き潰されたことで、防御体制は砂上の楼閣のように崩壊した。


ナチス第4帝国軍は、神聖日本帝国軍が切り開いたこの突破口から、待ってましたとばかりに、狂信的な熱量と共に怒涛の勢いで進撃を開始した。ライン川の防衛線を越え、彼らはついにベルリンへと向かう戦略的な道筋を確立したのだ。


後方で戦況の報告を受けていたシュタイナー大佐は、T-99の冷酷な効率性と、その圧倒的な火力を目の当たりにし、思わず全身に戦慄を覚えた。


「東洋の技術は、まさしく悪魔的だ……。狂信的な忠誠心を持つ我々でさえ、これほどの効率で敵を屠ることはできない」彼は、己のイデオロギーを超越した、純粋な技術の力を前に、独り言ちた。そして、この「悪魔的」な技術を持つ同盟国に、一抹の恐怖を抱かずにはいられなかった。

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