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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
血と鉄の断罪と世界への胎動

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第93話、血と鉄の断罪と世界への胎動

神聖日本帝国、最高指導者邸の地下深く。無菌室のように清潔で、鉛色の遮蔽材に覆われた戦略指令室では、冷たい蛍光灯の光の下、『神威の剣』作戦の立案会議が連日連夜、極限の緊張感をもって続けられていた。


作戦の核心は、米本土へのD-W10改級ミサイルによる電撃的な先制攻撃と、それに続くT-99主力戦車を中核とした機動師団の展開である。この人類史上最大の賭けを成功させるため、各大臣は神経を削り、それぞれの専門領域に没頭していた。


兵站省大臣の渡辺拓也は、顔に深い疲労の影を刻み、巨大なホログラムスクリーンを前に唸っていた。膨大な物資輸送の最適化、特にT-99が消費する特殊燃料と、戦略兵器WA-P弾の備蓄・供給に関するシミュレーションは、数百万のパラメーターを考慮する必要があり、彼の部下たちは既に三日間徹夜を続けていた。彼の眼前で光るシミュレーション結果は、常に「失敗」か「壊滅的な損耗」を示唆しており、成功の確率は一向に上がらなかった。


一方、技術開発大臣の吉岡真司は、指令室から隔離された機密性の高い区画で、D-W10改級ミサイルの最終誘導システムに没頭していた。彼は、ミサイルの弾頭に組み込まれた超精密な量子コンピューターチップを指先で検分し、誤差の許されない最終目標座標を組み込んでいた。一国の存亡をかけた彼の作業は、一寸の狂いも許されない、静かで熾烈な戦いであった。




その日も、作業は深夜に及び、すでに午前三時を回っていた。東京湾岸、高層ビル群の最上階にある唯華の自宅の部屋は、外部からは窺い知れないほどの厳重な防備に囲まれている。唯華の自室の端た。彼女は、訓練された軍人の反射速度で、瞬時に回線へと手を伸ばす。


「緊急回線、応答します」


美咲が応答ボタンを押すと、画面には「最高機密レベル・山田剛大臣」の識別コードが表示された。通常、山田大臣からの連絡は定期報告に限定されており、この時間帯に最高機密の警報を鳴らすことは、尋常ではない。


美咲の顔色は、入電の内容を予測するかのように、一瞬にして血の気を失い、青ざめた。


「唯華様、山田大臣より緊急入電です。最高レベルの機密情報。欧州より…予期せぬ事態が発生しました」


美咲の声には、わずかな震えが混じっていた。


唯華は、静かにペンを置き、背もたれから体を起こした。その冷たい瞳は、緊急事態に対する動揺を一切見せず、むしろ研ぎ澄まされた刃のような光を放っていた。


山田剛大臣が、モニターに映し出された。彼の背後には、ヨーロッパの衛星画像と、無数の文字が流れる電文のフィードが表示されていた。山田大臣は、画面越しでも伝わるほどの焦燥と疲労の色を浮かべていた。


「唯華様、ご報告いたします。ドイツ連邦共和国において、大規模な軍事クーデターが発生しました。作戦コードネームは不明ですが、事態は進行中です」


「クーデター?」唯華は、冷静な声で問い返した。ヨーロッパの政治的、経済的な不安定化は彼女の計算に含まれていたが、大規模な軍事蜂起、それもこの『神威の剣』作戦の最終準備段階というタイミングは、完全に計算外であった。


「はい。現在、ミュンヘン市を拠点として活動する、極右の活動家たちが、突如として『ナチス第4帝国』を名乗り、決起しました。彼らは、驚くべきことに、旧東ドイツ軍の倉庫に秘匿されていた戦車隊、歩兵部隊、そして一部の航空部隊を、電撃的な作戦で指揮下に収めております。動員された戦力は、既に完全編成された連隊規模に達しています」


山田の声には、極度の動揺と、報告内容の信じがたさが滲み出ていた。


「彼らを統率するのは、元ドイツ連邦軍の強硬派の残党を中核とした士官グループです。彼らは一昨日未明、突如として電撃的な進撃を開始しました。目標は、首都ベルリン。すでに、バイエルン州やヘッセン州など、複数の州都が彼らの手に落ち、ドイツ連邦政府軍は、組織的な反撃の指示系統を失い、有効な抵抗ができていない模様です。現在、ドイツ国内は、激しい内戦状態に突入しています」




唯華の冷たい瞳に、鋭い、計算された光が宿った。彼女は、情報を迅速かつ正確に処理し、頭の中でヨーロッパ全土の戦略地図を瞬時に描き直した。


「ナチス第4帝国…愚かなイデオロギーの亡霊が、まさかこの時代に蘇るとは」唯華は、静かに、しかし深い含みを持って笑みを浮かべた。その笑みは、単なる嘲笑ではなかった。それは、予測不能な混沌の中に、自らの戦略にとって計算外の、しかし決定的な好機を見出した、冷徹な狩人のそれであった。


「山田大臣。彼らの指導者の素性と、軍事的な能力を即座に分析せよ。特に、彼らが保有する兵器の旧式性について、詳細な評価を急がせろ」


「分析を急いでおります。初期報告では、彼らが保有する戦車は旧式のレオパルト1や、東側から流出したT-72の改造型、航空機はMiG-29の旧型など、全て旧世代の装備であることは間違いありません。最新の第三世代以降の兵器は確認されていません。しかし、彼らの士気は極めて高い…そして、彼らの行動原理は、狂信的とも言えるイデオロギーに支えられています。彼らは、全世界の『腐敗した民主主義』を打倒すると宣言し、西欧諸国全体を巻き込む内戦を志向しています」


美咲が、唯華の耳元に身を寄せ、静かに、しかし情熱的な囁きを届けた。


「唯華様。これは…我々にとって、全世界を敵に回す前に、最も重要な『橋頭堡』を、混乱するヨーロッパ大陸に築く、絶好の機会かもしれません。彼らの狂信性が、我々の侵攻に対する国際社会の注意を逸らします」


唯華は、深く頷き、美咲の洞察力を評価した。


「美咲。正鵠を射ている。渡辺大臣と、吉岡大臣を直ちに呼び出せ。斉藤総司令官にも、最高機密での緊急招集をかける。即座に、この事態を検討する」




数分後、再び作戦会議室が招集された。渡辺大臣、吉岡大臣、そして斉藤総司令官が、深夜の緊急事態に、緊張した面持ちでモニターに整列した。


唯華は、一切の前置きなく、彼女の決定を電光石火で、幹部たちに断言した。


「諸君。『神威の剣』作戦は、一時保留とする。我々は、先にヨーロッパ大陸を掌握する。ドイツ内戦は、我々の戦略を一変させる、神の恩寵だ」


唯華の決定の速さと大胆さに、誰もが息を呑んだ。


「ナチス第4帝国は、腐敗し切ったドイツ連邦政府を内部から破壊する、我々の『戦術的尖兵』となる。彼らの狂信的なイデオロギーは、我々の神聖な思想とは相容れないが、目的、すなわち西欧の秩序破壊を共有できる、利用可能な敵だ」


唯華は、斉藤総司令官に向かって、冷徹な命令を下した。


「斉藤総司令官。直ちに、第2機甲師団(青木健太師団長)と、第4歩兵師団(佐々木隼人師団長)を、選抜された特殊作戦部隊の一部と共に、ドイツへ極秘裏に派遣せよ。彼らがミュンヘンからベルリンへと進軍する『ナチス第4帝国』の部隊に、合流させる」


斉藤総司令官は、驚きを隠せなかったが、すぐに長年の経験に裏打ちされた冷徹な軍人の顔に戻った。彼は、懸念事項を率直に述べた。


「唯華様!欧州への展開は、渡辺大臣の兵站の懸念をさらに増大させます。アジアからヨーロッパまで、数千キロにも及ぶ兵站線は、これまでに例を見ないほど脆弱です。隠密裡にそれを維持するのは…」


兵站省大臣・渡辺拓也は、顔面蒼白になりながらも、唯華の瞳に映る決意を見て、腹を括ったように言った。


「唯華様。仰せの通り、兵站線は極めて危険な状態になります。しかし、地中海ルートと、ロシア経由の密輸ルートを最大限に活用し、最優先でT-99の特殊燃料とWA-P弾を輸送します。…ただし、投入兵力は、初期段階においては最小限に抑えざるを得ません。これ以上の兵力投入は、兵站の崩壊を招きます」


唯華の決定は、微塵も揺るがなかった。彼女は、力強く、そして絶対的な自信をもって言った。


「最小限の兵力で、最大限の効果を上げろ。渡辺、兵站の維持は、貴官の命にかかっている。そして吉岡」


唯華は、吉岡大臣に向き直った。


「派遣されるT-99には、最新のステルス通信システムを搭載させろ。ドイツ連邦軍、そして西欧の情報機関に、我々の存在を、一瞬たりとも、一欠片たりとも察知させてはならない。我々は、あくまで『ナチス第4帝国』の内戦の一勢力として、その陰に隠れて動く」


彼女の命令は、明確かつ冷酷であった。ドイツの内戦に介入し、『ナチス第4帝国』に加勢する。そして、その勝利をテコに、ヨーロッパに神聖日本帝国の軍事的影響力を確立する。それは、世界戦略のチェス盤における、あまりにも大胆な一手であった。


唯華は、幹部たちを見渡し、最後に作戦名を告げた。その声は、氷のように冷たく、しかし熱狂的な意志を帯びていた。


「作戦名:『ヴァルキリーの盾』。欧州に、神聖日本帝国の旗を立てよ。我々の進むべき道は、開かれた」

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