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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
血と鉄の断罪と世界への胎動

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第92話、血と鉄の断罪と世界への胎動

作戦会議室。神聖日本帝国の最高指導部が、そこに集結していた。それは、ただの会議ではなく、人類の運命を決定づける儀式であった。


室内を照らすのは、無機質な白色光のみ。厚さ50センチの防音鋼鉄壁に囲まれたこの地下中枢は、一切の外部情報を遮断し、内部の決定を絶対化するために存在する。最高指導者である唯華の前の巨大なモニターには、かつて平和の象徴であったはずの世界地図が、今や冷戦時代を遥かに超える緊張感をもって映し出されていた。


北米大陸、ロシアの広大な国土、そして欧州連合加盟国の全てが、鮮烈な緋色の照準線で精密に囲まれていた。それは、殲滅のターゲットリストであり、唯華が語ろうとしている未来の青写真であった。


唯華は、座席に深く身を沈めながらも、その存在感は会議室全体を重圧で満たしていた。彼女の静かな、しかし氷点下の絶対零度を思わせる声が、厳かな沈黙を切り裂いた。


「斉藤総司令官、吉岡大臣、そしてここに集う全ての帝国幹部たち。これより、我々の最終目的である、世界秩序再編作戦、コードネーム『神威のかむいのつるぎ』の計画立案に着手する」


彼女の言葉を聞き、最高幹部たちの顔は、緊張と恐怖、そしてこの歴史的瞬間に立ち会うという高揚感がないまぜになった複雑な感情で硬直した。アジアの征服、中国大陸の掌握は、彼らの認識を超え、あくまでこの計画のための序章、資源と技術の確保という準備段階に過ぎなかったのだと、改めて悟らされた。


唯華は、ゆっくりと息を吸い込んだ。


「我が神聖日本帝国が、真の、そして永遠の平和と秩序を世界にもたらすためには、既存の覇権国家、特にアメリカ合衆国が過去二百年にわたって築き上げてきた支配構造を、根底から完全に無力化し、破壊する必要がある。この作戦は、全世界を敵に回すことを意味する。それは避けられぬ代償だ」


彼女は、ここで一度言葉を区切り、その眼差しは、冷徹な計算を示していた。


「多大な犠牲を伴う。非情に聞こえるかもしれないが、我が国の人口の、数パーセントの犠牲は覚悟しなければならない。これは、人類史上、最も冷徹で、最も巨大な外科手術だ。しかし、この一戦、この苦難を乗り越えれば、人類は恒久的な戦争のサイクルと、不公平な権力構造による永遠の支配から解放される。そして、私が定義する絶対的な秩序の下で、永遠の繁栄を享受できる」


唯華は、挑戦的な、そして拒絶を許さない絶対者の視線を幹部たち一人ひとりに投げかけた。


「誰もが、この冷徹な、非情な選択を、理屈ではなく、帝国の意志として理解し、受け入れる覚悟があるか? 私は、弱者の感傷を、この場で一切求めない」


最高指導者からの直接的な問いかけに、最初に立ち上がったのは、軍の頂点に立つ総司令官・斉藤隆一であった。彼の威圧的な体躯と、鍛え抜かれた軍人の精神は、揺るぎない忠誠心と絶対的な遂行力を示していた。


「唯華様。この斉藤隆一、唯華様の意志こそが、この国、そして世界の唯一無二の正義であると確信しております。私は、全ての感情を捨て、唯華様のご命令を遂行する機械となりましょう。米軍の戦力は、確かに強大であり、その歴史的背景から来る底力も認めなければなりません。しかし、彼らは、我々が開発した究極のC4ISR(指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察)破壊システム、E-M02の真の恐ろしさを、未だに知らない。情報優位こそが、この世界大戦を短期で、かつ最小の損害で制する鍵となります。我が軍は、唯華様のために、全力を尽くします」


その隣で、技術省大臣・吉岡健太郎が興奮を抑えきれない様子で、銀縁の眼鏡を押し上げた。彼の顔には、科学者特有の、倫理観を超越した知的好奇心と、技術への絶対的な自信が漲っていた。


「唯華様!新たな対米作戦のために、私たちは既に『D-W10改級』の超極超音速対艦ミサイルを開発完了させています!この兵器は、従来のミサイル技術を遥かに凌駕する、マッハ20級の速度とステルス性能を誇ります。その特化された目的はただ一つ――太平洋上を航行する、アメリカの全ての空母打撃群を、発見からわずか5分以内に無力化するために設計されました!技術は、必ずや唯華様の剣、いや、世界を裁く『神威の剣』の刃となります!」


吉岡の技術的な確信に満ちた言葉の後、兵站省大臣・渡辺拓也が、現実的な懸念の重さに耐えるように、額の汗を拭いながら発言した。彼の声は、他の二人の高揚感とは対照的に、低く沈んでいた。


「唯華様…作戦の実行は、アジア全域での兵站線維持とは、比べ物になりません。米本土への展開には、空前の資源と物資が必要となります。特に、洋上での燃料と新型弾薬の持続的な輸送は、中国戦で経験した困難を遥かに超える、絶望的なロジスティクス課題です。万が一、米軍潜水艦隊による輸送船団への飽和攻撃を受けた場合、あるいは米軍が太平洋の島嶼を足掛かりに海上補給路を寸断した場合、帝国軍は1ヶ月で継戦能力を喪失する可能性があります。このリスクを克服することが、勝利の絶対条件となります」


唯華は、吉岡の技術的な優位性と、渡辺の現実的な物流の懸念を交互に聞いた。技術の優位性は戦いを終わらせる鍵だが、ロジスティクスは戦争の血流そのものであることを、彼女は冷静に理解していた。


「渡辺。その懸念は理解する。そして、その懸念を現実のものとしないためにも、この作戦は、長期戦を絶対に避ける。『奇襲、そして殲滅』を原則とする。斉藤総司令官。作戦『神威の剣』の初期段階の具体的な内容を、渡辺の懸念点を解消する視点から、改めて説明せよ」


斉藤は、モニターに映し出された図を指し示した。図は、太平洋全域の電子情報を支配下に置くための三層構造の攻撃を示していた。


「『神威の剣』作戦、初期段階の目標は三点。全てを同時刻、即座に実行に移します。


目標一:情報中枢の破壊(E-M02による飽和攻撃): 米軍の指揮系統、衛星通信、そして全てのGPS測位機能を、アジア侵攻時と同レベル、あるいはそれ以上に完全に麻痺させます。我々のE-M02が生成する電磁パルスと量子干渉波の複合攻撃は、米軍の連携を完全にバラバラにし、個々の戦闘部隊を孤立した状態に追い込みます。彼らは、暗闇の中で手探りをするしかなくなる。


目標二:空母打撃群の殲滅: 吉岡大臣のD-W10改級ミサイルを、太平洋上を航行する全ての米空母打撃群に対し、同時に飽和攻撃し、一撃で海の支配権を奪取します。空母を失った米海軍は、その戦力の大部分を失い、渡辺大臣が懸念される輸送船団への飽和攻撃は、組織的な実行が不可能になります。


目標三:アラスカおよびアリューシャン列島の制圧: 目標一、二の成功と同時に、第1機甲師団(吉田悟師団長)を主体とした特別部隊を投入。極めて短期間でこれらを制圧します。これは、戦略的な米本土への足がかりを築くと同時に、北太平洋の制海権を完全に確保する上で決定的な意味を持ちます」


情報省大臣・山田剛が、自らの役割を冷静に、そして冷酷に付け加えた。「この初期段階が成功すれば、米軍は機能不全に陥り、国際的な介入を促す時間的余裕も、情報インフラも失います。しかし、全世界からの非難、特に国連を中心とした外交的な制裁は避けられません。外交省の藤原大臣は、第三国、特に経済的な利害関係を持つ中立国からの資源調達ルートの確保を最優先とし、非難をかわすための情報操作戦を同時に展開します」


唯華は、再び会議室を見渡した。幹部たちの顔には、この作戦の途方もない規模と、それが引き起こすであろう地獄の予感、そして、それに打ち勝つことへの陶酔感が複雑に交差していた。誰もが、もう後戻りできないことを理解していた。


彼女は、机上の赤い照準で囲まれた地図に、静かに指を置いた。


「よし。作戦は、三ヶ月後の『Xデー』をもって発動する。この三ヶ月間、全ての準備を、秘密裏に、そして迅速に進めよ。全ての疑問は、行動によってのみ解消される」


唯華は、立ち上がり、幹部たちを見下ろした。その声は、もはや人間のものではなく、運命そのものの宣告であった。


「我々は、世界にとっての、秩序をもたらす『神威の剣』となる。この剣を振るうことに、一切の躊躇はない。散会」

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