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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
血と鉄の断罪と世界への胎動

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第91話、血と鉄の断罪と世界への胎動

両国の指導者層への断罪が終わった二日後。


最高指導者邸の地下深く、核シェルターを兼ねた作戦会議室。テーブルの最上座に座る唯華は、美咲と共に、パソコンを通じて、遠隔で国家評議会と軍の最高幹部を招集していた。


「斉藤総司令官、渡辺大臣。両国全土の武装解除と治安維持の状況を報告せよ」唯華の声は、もはや躊躇いのない、絶対的な統治者のそれであった。


斉藤隆一総司令官が、一歩進み出た。「韓国全土、及び中国沿岸部主要都市の武装解除は、ほぼ完了しました。大規模な抵抗は既に存在せず、残存勢力による散発的なゲリラ戦も、西村師団長率いる第3歩兵師団が徹底的に鎮圧しています。しかし、中国内陸部においては、広大な国土ゆえに、完全な制圧には時間が必要です」


兵站省大臣・渡辺拓也は、青白い顔をしながらも、毅然として報告した。「兵站線については、韓国全土を最短で利用することで、中国沿岸部への補給は安定化しました。しかし、内陸への物資輸送は依然として課題です。当面は、現地徴発と空輸を組み合わせ、最小限の部隊維持に注力します」


唯華は、静かに頷いた。彼女は既に、次の段階へと意識を集中させていた。


「よし。美咲。国際社会への声明文を、直ちに発表せよ」


副官・佐藤美咲は、迷いなく唯華の指示を遂行した。


その日、全世界に向けて、神聖日本帝国による、冷徹な「併合」の宣言が電波に乗って発せられた。




「本日をもって、旧大韓民国及び旧中華人民共和国は、主権国家としての地位を喪失する。これらの地域は、神聖日本帝国の秩序の下に置かれ、『朝鮮属領』及び『大陸属領』として、神聖日本帝国の永遠なる領土の一部とする。これは、アジアの平和と安定を永続的に保証するための、必要不可欠な措置である。


両属領の統治は、神聖日本帝国が派遣する総督府によって行われる。旧体制の政治、経済、軍事機構は全て解体し、神聖日本帝国の法と秩序が絶対的なものとなる。


世界各国に対し、この新秩序を尊重するよう求める。これに反するいかなる干渉も、神聖日本帝国に対する敵対行為と見なし、断固として、軍事力をもって対応する」


この声明は、世界中に衝撃を与えた。特に、アメリカ合衆国とロシア連邦は、この一方的かつ冷酷な「併合」を強く非難し、国連安全保障理事会の緊急会合が招集された。しかし、神聖日本帝国は、一切の外交的な調停に応じることなく、軍事的な威圧をもって、両属領の支配を固めた。


唯華は、この国際社会の反応を予期していた。彼女の目標は、アジアの小国としての地位を脱し、全世界をその秩序の下に置くことにあった。


「これで、アジアは一つになった」唯華は、会議室のテーブルに広げられた、アジア全域が赤く塗られた巨大な地図を見つめた。「だが、これは始まりに過ぎない。美咲。次の段階、『世界秩序再編作戦』の準備に移る」




併合宣言から1ヶ月。神聖日本帝国は、両属領の統治機構の樹立と、残存抵抗勢力の徹底的な鎮圧を急いでいた。ソウルには「朝鮮総督府」、北京には「大陸総督府」が置かれ、最高指導者の絶対的な意志の下、苛烈な統治が開始された。


しかし、唯華の視線は、既に遥か東と西、アメリカとヨーロッパに向けられていた。




作戦会議室の空気は、併合宣言直後の高揚感から一転し、重苦しい現実の熱を帯びていた。画面越しに並ぶ軍の最高幹部たちの顔には、疲労の色が濃く滲んでいた。彼らは、わずか一ヶ月で、日本という国家の抱える物理的限界に直面していたのだ。


総司令官の斉藤は、報告を終えた後も、その場に留まり、静かに唯華を見つめていた。「最高指導者。現在、属領統治のため、全陸軍の四割を割いています。特に大陸属領の維持は、補給ラインの延伸に加え、旧中国軍のゲリラ残党や、地方軍閥による抵抗が常態化しており、第3師団だけでは広範囲をカバーしきれていません」


斉藤の言葉は、率直な進言であった。中国内陸部では、広大な乾燥地帯と山岳地帯を利用した抵抗組織が、日本の占領部隊に対し、苛烈な非対称戦争を挑んでいた。彼らは日本の補給部隊を奇襲し、属領統治に協力的な現地当局者を容赦なく処刑した。


唯華は、テーブル上の地図から視線を上げることなく、冷ややかに応じた。「斉藤総司令官。犠牲は覚悟の上である。歴史上、大帝国の確立に、血と時間は必要不可欠だ。大陸属領の治安維持については、第5装甲師団より二個連隊を引き抜き、内陸部の要衝に配置せよ。抵抗勢力には、慈悲は不要だ。警告なしに、集落ごと焼き尽くす覚悟を持て。恐怖こそが、秩序の礎となる」


斉藤は一瞬、顔を顰めたが、すぐに敬礼をもって応じた。唯華の視線は、もはや人道の基準を遥かに超えた、純粋な戦略と支配欲に貫かれていた。


次に発言したのは、渡辺拓也大臣だった。彼は額の汗を拭いながら、最も深刻な問題を提示した。「兵站と経済の報告です。両属領からの物資徴発は進んでいますが、統治機構の維持、軍の展開、そして本土の経済活動への影響を鑑みると、この度の戦争で支出された国富の回復には、最低でも五年を要します。そして、最も重要なのは、国際社会の金融制裁です」


アメリカとヨーロッパ諸国は、神聖日本帝国を「侵略国家」と断じ、全ての金融取引を停止し、貿易を遮断した。世界経済の動脈から切り離された日本は、外貨獲得の手段を失い、備蓄していた資源と技術力だけで耐え忍ぶ、孤立無援の状態に置かれていた。


「我々は、今、世界から見放された島国に戻ったのだ」渡辺大臣の声には、絶望が混じっていた。


しかし、唯華は嘲笑した。「渡辺大臣。世界経済から見放されたのではない。世界経済から独立したのだ。そもそも、彼らの金融支配という砂上の楼閣の上に成り立つ平和など、脆弱極まりない。美咲」


美咲は、即座に暗号化されたホログラムスクリーンを唯華の前に展開した。そこには、日本が秘密裏に開発し、属領の鉱物資源と技術力を注ぎ込んで量産体制に入った、次世代のエネルギー・資源生産システムのデータが表示されていた。


「これこそが、我々の新たな生命線だ。属領の労働力を最大限に活用し、このシステムを稼働させよ。資源の自給自足こそが、次の戦争を制する鍵となる」唯華は、美咲に命じた。「そして、準備を急げ。『世界秩序再編作戦』の第一目標は、アメリカ合衆国だ」




唯華がアメリカ合衆国を第一目標に据えたのは、単に軍事力や経済規模の大きさからではない。アメリカが、神聖日本帝国の新秩序を最も強く、そして根源的に否定する「自由」という思想の象徴であったからだ。


「自由主義は、アジアの和を乱す病原菌だ。彼らが信じる普遍的な価値観という名の傲慢さを、太平洋の深淵に沈めてやる」


『世界秩序再編作戦』は、三段階で構成されていた。


第一段階:情報支配インフォメーション・ドミナンス

これは、軍事行動の半年前に開始される、情報戦と心理戦の徹底的な実行であった。神聖日本帝国は、旧態依然とした世界の情報インフラに、独自のAI技術を駆使した強力なサイバー部隊を侵入させ、アメリカ国内の世論を分断し、政府と国民の間の不信感を醸成することを目的とした。ソーシャルメディア、ニュース、金融システムへの散発的な攻撃は、アメリカを内側から疲弊させるための準備運動だった。


第二段階:戦略的陽動と資源確保

第一段階と並行して、神聖日本海軍は、北極海航路の制海権を確立するためにロシア連邦極東艦隊に対し、限定的な衝突を誘発する。この衝突は、アメリカの注意をヨーロッパとロシア方面に釘付けにするための陽動であり、同時に、世界で最も重要な資源の一つである、特定のレアアースの供給ルートを確保するための布石でもあった。


第三段階:電撃的太平洋制圧オペレーション・ヤマト

情報支配と陽動によって、アメリカの警戒心が分散し、防衛線が手薄になったと判断された瞬間、神聖日本帝国は、準備された全ての新兵器を投入し、太平洋を東進する。


会議室のスクリーンに、一つの兵器の設計図が投影された。それは、従来の空母や戦艦の概念を覆す、巨大な「洋上移動要塞フローティング・フォートレス」であった。日本独自の非対称技術—対地・対艦・対空全てに対応する指向性エネルギー兵器を搭載し、従来のレーダーでは捉えられないステルス加工を施した、文字通りの移動する島だった。


「この洋上移動要塞『フドウ』は、四基。これを中核とした機動部隊を編成する。目標は、ハワイ、そして西海岸。太平洋の防衛線を、一息に突破する」唯華は、計画の核心を告げた。彼女の目は、血の通わない、しかし確信に満ちた輝きを放っていた。


美咲は、一ヶ月間の苛烈な準備を経て、完璧に磨き上げられた計画書を唯華に提示した。

「最高指導者。作戦に必要な全ては整いました。しかし、この計画は、現在の国力と属領の状況を鑑みると、失敗の許されない、まさに一世一代の賭けとなります。この作戦が失敗すれば、帝国は瓦解し、本土すら危うくなります」


美咲の言葉は、ただの懸念ではなかった。彼女は、この作戦にかかる人命と資源の規模を誰よりも理解していた。中国内陸部の治安維持でさえ四割の戦力を要求する中、アメリカ本土への攻撃作戦は、全軍の六割、つまり国力の全てを賭けることを意味した。


唯華は、美咲の目を真っ直ぐに見返した。


「美咲。我々が、アジアの平和という名の停滞から脱却し、世界を新たな秩序に導くためには、一世一代の賭けは必須である。私は、運命の女神を信じない。だが、完璧な準備と、人類の未来に対する揺るぎない確信だけは信じる」


彼女は、テーブルを、指の甲で軽く叩いた。その音は、まるで、静まり返った深海で響く、次の大戦の号砲のように響き渡った。


「11月15日。作戦開始日を確定する。斉藤総司令官、渡辺大臣。この日までに、如何なる犠牲を払おうとも、属領の抵抗を完全に鎮圧し、兵站線を完璧にせよ。我々の『大いなる犠牲』は、この日のためにある」


唯華の決定は、絶対であった。この瞬間、神聖日本帝国の命運は、太平洋の遥か東、アメリカの海岸線を目指して、不可逆的に動き出したのだった。残された時間は、わずか五ヶ月。この五ヶ月で、属領の血と汗が、次なる戦争のための巨大な弾丸へと変貌していくことになる。

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