第90話、血と鉄の断罪と世界への胎動
大韓民国での「断罪」が完了してから、わずか48時間後、神聖日本帝国による旧指導部に対する粛清の第二幕は、世界史における最も象徴的な舞台へと移された。それは、中国の政治的な心臓部であり、数世紀にわたる権威の象徴であった、北京の天安門広場であった。
広場全体は、もはや革命的な群衆や政治的なパレードを受け入れる空間ではなかった。それは、絶対的な敗北と征服の劇場へと変貌していた。
広場の中央、人民英雄記念碑と毛沢東記念堂の間、かつて国旗が翻っていたはずの場所に、巨大な「特別法廷」が設置されていた。それは、鋼鉄の骨格をむき出しにした、高さ三階建てに及ぶ漆黒の構造物であり、その外壁は艶消しの黒い大理石で覆われ、権力と冷酷さを体現していた。
その漆黒の構造物の上空には、天安門の楼閣を見下ろすかのように、神聖日本帝国の旭日旗が、中国全土の冷たい秋風をはらんで高々と掲げられていた。その赤と白の眩い光は、北京の空を貫き、古都が新たな支配者の下に置かれたことを、無言で宣言していた。
拘束された被告人の数は、韓国のそれとは比べ物にならないほど大規模であった。元政治局常務委員の序列第1位から第7位までのすべて、軍中央軍事委員会の幹部、そして何よりも、核兵器による最終抗戦を命じたとされる強硬派の軍司令官ら、総勢53名が、この歴史的な法廷に引き出された。
彼らは、薄い灰色の囚人服に身を包み、広大な広場を横切る際、無数の帝国兵の視線に晒された。その眼差しは、憎悪ではなく、まるで旧時代の遺物に対する、冷たい好奇心と侮蔑に満ちていた。彼らは、自国の最高権力の座から、文字通り、その政治的な墓場である天安門の目の前まで歩かされたのである。これこそが、神聖日本帝国が与えた、最も深い「歴史的な屈辱」であった。
特別法廷の警備は、総司令官・斉藤隆一が自ら指揮を執り、一切の隙のない鉄壁の布陣が敷かれていた。第4歩兵師団(佐々木隼人師団長)の精鋭歩兵が広場の内側を、一歩の狂いもなく固め、その周囲を、第3機甲師団(村田隆司師団長)の最新鋭T-99戦車、十数両が完全に封鎖していた。
T-99の重厚な砲塔は、威圧的に天安門の楼閣に向けられ、そのエンジン音の低いうなりは、裁判の静寂の中で、終末的なBGMのように響いていた。広場に集められた傍聴者(主に日本軍の選別を受けた市民と帝国関係者)は、この圧倒的な軍事力の前に、息をすることも忘れ、ただ立ち尽くすしかなかった。
特別法廷の議長席には、佐々木賢治が着席していた。彼の表情は、韓国での裁判と同様、一切の感情を排した能面のように静かであり、その声は、広場全体に設置された最新の音響設備を通じて、一音一音、冷たい定規で測ったかのように正確に響き渡った。
中国の裁判は、韓国のそれよりもさらに形式的であり、罪状の読み上げから証拠の提示、そして判決に至るまでのプロセスは、予め決められた台本通りに迅速に進行した。彼らが下した最も重大な罪状は、以下の三点に集約された。
侵略戦争の遂行と領土不当占領の罪(尖閣諸島): 歴史的な証拠を無視し、帝国固有の領土を不当に侵略・占領し、アジアの平和に対する最初の火種を作った罪。
非人道的な人海戦術の敢行と自国兵士に対する生命軽視の罪: 最新の軍事技術を持つ帝国軍に対し、旧時代的な「人海戦術」を繰り返し強要し、自国の若者数百万人の生命を消耗品として扱った非人道的な行為の罪。
国際条約を無視した核兵器使用計画の罪(作戦名『暁の盾』を誘発): 戦局の窮地において、国際条約で禁止された核兵器の使用を計画・準備し、全アジアおよび世界を滅亡の危機に晒した罪。
裁判がクライマックスを迎えたのは、情報省大臣・山田剛が証言台に立った瞬間であった。山田は、静かな自信に満ちた声で、傍受された証拠のプレゼンテーションを開始した。
「被告人らが、自国の体制維持という狭隘な目的のためだけに、実行寸前まで進めた最終作戦、作戦名『暁の盾』の全通信記録を、ここに公開する」
山田の合図とともに、漆黒の法廷内に設置された巨大なモニターに、暗号化された通信記録が、その復元された平文と共に映し出された。そこには、核ミサイル発射基地の具体的な座標、攻撃目標リスト(東京、大阪、名古屋など帝国の主要都市)、そしてそれに伴う「東京壊滅的な被害予測:即時死者一千万名以上」という血も凍るような予測データが、生々しく表示された。
この証拠の提示は、被告人席に座る中国軍の強硬派幹部たちに、決定的な衝撃を与えた。彼らが最も触れられたくない、隠蔽していたはずの最終作戦が、既に神聖日本帝国の手の内にあることを知った瞬間であった。長年、恐怖と秘密主義で支配してきた彼らの顔から、血の気が引いていくのが見て取れた。
「被告人らは、自らの体制維持のため、数千万の非戦闘員の生命を犠牲にすることを厭いませんでした。この非道な行為は、国家指導者として、人類に対する最も重大な裏切りであり、世界の秩序に対する宣戦布告に等しい」山田の報告は、彼らの沈黙を一層深いものにした。
その時、被告人席から、元中央軍事委員会のトップであった男が、座席を蹴立てて怒りに満ちた声で立ち上がった。彼の顔は紅潮し、その目には敗者の最後の抵抗の炎が宿っていた。
「黙れ!我が国は、自衛のために行動したに過ぎない!お前たちこそ、アジアの平和を乱した侵略者だ!この裁判は、勝者のプロパガンダに過ぎん!」彼の叫びは、一瞬、広場の静寂を打ち破った。
佐々木議長は、彼を一瞥しただけで、表情一つ変えなかった。彼は静かに、傍聴席の上段に設置された特別ブースに座る人物——神聖日本帝国女帝、唯華の映像に許可を求める視線を送った。
モニターに唯華の静止画が映し出された。彼女は、王冠や装飾品を一切身に着けず、ただ純白の軍服に身を包んでいた。その姿は、まるで神話の時代の女王のようであった。
唯華は、静かに、そしてゆっくりと、その冷たい声を天安門広場に響かせた。その声には、怒りも憎悪もなく、ただ絶対的な「断罪」の重みが宿っていた。
「貴国の『自衛』とは、我が国の固有領土を奪い、アジアの平和を乱し、そして最終的に、全人類を滅亡の危機に晒すものであった。これは自衛ではない。それは、腐敗した権力機構が、その生命を永らえさせるために起こした、利己的な集団的狂気である」
彼女は一呼吸置き、天安門の楼閣を、まるで旧時代の幽霊を見るかのように見つめた。
「貴国指導部の腐敗と慢心は、自国民をも巻き込んだ戦争の泥沼を作り出し、アジアの安定を永遠に損なった。貴国が、核を最後の手段として選んだ時、貴国は既に、指導者としての資格を失っていた」
そして、判決の言葉は、北京の冷たい風に乗って、広場全体に、逃げ場のない真実として響き渡った。
「貴国は、力を持続するに値しない、旧時代の遺物である。よって、判決は、大韓民国旧指導部と同様とする」
「核兵器使用を計画し、自国民の命を消耗品として扱った、政治局常務委員および中央軍事委員会幹部ら、主要な20名に対し、死刑を宣告する」
この判決が下された瞬間、広場に集められた市民の中から、ざわめきではなく、微かな「安堵の息」が漏れた。彼らにとって、この判決は、長年の政治的抑圧と、無益な戦争に巻き込まれたことへの、恐怖からの小さな解放の瞬間でもあった。それは、彼らの指導者に対する最後の裏切りではなく、抑圧からの逃走であった。
処刑は、その日の日没直後、天安門広場の片隅、かつて国旗掲揚台があった場所の裏手で執り行われた。
夕闇が迫る中、斉藤総司令官は、広場に整列した第4歩兵師団の執行部隊に対し、冷徹な命令を下した。彼の声は、もはや法の執行者のそれではなく、新たな神権政治の教義を宣言する祭司のようであった。
「神聖日本帝国の、アジアにおける絶対的な支配は、今日、この場所で確立される。旧時代の傲慢と、全ての抵抗の芽を、断ち切れ」
号令とともに、乾いた、重い銃声が轟いた。その銃声は、単なる二十名の人間を処刑する音ではなく、一世紀以上にわたる中国の「古き秩序」が、天安門の赤い壁の前に、音を立てて崩れ去る、歴史の終わりの合図であった。
夜空の下、天安門の楼閣は、血と灰の上に築かれた新しい時代の到来を、黙って見下ろしていた。




