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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
第2章、腐敗の黄昏と冷徹なる日の出

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第88話、腐敗の黄昏と冷徹なる日の出

夜明け前の東京。最高指導者邸の最上階、特注の強化ガラス越しに、唯華は首都のスカイラインを見下ろしていた。その光景は、ただの都市の灯りではなかった。五年前に彼女がその目に焼き付けた、無秩序な瓦礫と焦土の記憶とは、全く異なる、鋼鉄とガラスが放つ未来的な光であった。それは、彼女一人の冷徹な決断と、それに従った何万もの命の炎によって灯された、血と秩序の具現たる勝利の証であった。


神聖日本帝国軍は、長きにわたり世界を支配してきた「核の脅威」という絶対的な抑止力を、周到な計画と非公開の技術をもって戦略的・戦術的に完全に無力化していた。この鋼鉄の障壁が取り払われた時、残るはただ一つ、中国本土という巨大な塊への最終的な一撃であった。戦闘開始から丸五カ月目を目前に控え、全兵力が投入された最終攻勢、そのコードネームは「天翔ける剣」作戦。


この作戦は、中国という巨大な国家の心臓部と大動脈を、一瞬にして停止させることを目的としていた。政治の中枢たる北京。経済の心臓である上海。南部の軍事・産業拠点たる広州。これら三大中枢都市に対し、同時多発的な空挺降下と大規模な沿岸上陸作戦が、夜を徹して仕掛けられた。


最終攻勢の先鋒を担ったのは、第5歩兵師団長、宮本 徹率いる空挺部隊であった。宮本師団長は、この一連の戦争を通して、戦場の阿鼻叫喚の中でも常に血圧一つ上げない冷徹な指揮で知られ、部下からは「氷の宮本」と畏敬されていた。


その夜、北京上空は、ジェットエンジンの唸りと、僅かな風切り音だけが支配する静寂な侵入の舞台と化した。1,000名の精鋭空挺部隊が、最新鋭のステルス輸送機から射出され、漆黒の闇を纏いながら降下を開始した。中国軍の防衛戦略は、長年の慣習により沿岸部と国境線に重点を置いていたため、内陸深くにある首都の防空網は、この飽和攻撃に対して驚くほど手薄となっていた。降下地点には、微弱な高射砲の火線が散発したのみで、組織的な抵抗は皆無に等しかった。


それと同期して、帝国軍の特殊作戦部隊、その残存潜入班が、水路と地下ルートを駆使して、中国の最高権力の象徴たる中南海の厳重な警戒網を越えていた。彼らの胸には、数カ月前、極秘作戦の最中に散った中村部隊長ら、犠牲となった同志たちの顔が刻み込まれていた。彼らにとって、これは単なる任務ではなく、死者への弔い、そして、この戦争を終わらせるための最後の儀式であった。


中南海の静かな庭園の奥深く。潜入班を率いる無名の隊員が、骨伝導マイクに低く、しかし明確な声で指示を送った。その声は、微細なノイズさえ許さない、鋼のような意志を帯びていた。


「我々が、中南海を制圧する。迷うな、躊躇するな。目標は、中国の最高指導部、その身柄の確保だ。武力抵抗には即座に反撃、ただし殺すな。宮本部隊は、周囲の軍事施設の機能を麻痺させろ!一秒たりとも遅れるな!」


彼らは音もなく、しかし外科手術のような正確さで中枢内部へと深く切り込み、最高指導部の執務機能と通信網を完全に遮断し、機能麻痺に追い込んだ。政治中枢の混乱が、瞬く間に全国へと波及する。その混乱を好機と見た宮本部隊は、降下完了からわずか数時間で北京市内の主要軍事司令部を制圧。中国の広大な指揮系統は、その心臓部から血液の流れを止められ、完全に崩壊した。


時を同じくして、数千キロ離れた沿岸部では、地響きとともに怒涛の如き上陸作戦が展開されていた。


第3機甲師団長、村田 隆司ら、機甲師団と歩兵師団の主力が、上海と広州の沿岸部に揚陸艦から吐き出されていた。彼らは、五カ月間に及ぶ泥沼の戦闘で一度は限界に達した兵站の苦境を乗り越え、完全に補給と再編成を終えた後の、まさに完全な戦闘態勢にあった。彼らの足元を砂埃とともに走り抜けるのは、帝国最新鋭の主力戦車、T-99であった。


村田師団長は、揚陸地点に立てられた戦術司令部で、唸るような興奮を抑えきれずに叫んだ。


「T-99の威力を、奴らに見せつけろ!これまでの戦車とは次元が違う。一気に市街地を制圧し、中国軍の補給路を完全に断て!もはや、彼らに組織的な抵抗の術はない!首都は落ちたのだ!」


その命令が発せられると、上海の街路は瞬く間にT-99の鋼鉄の塊によって蹂躙され始めた。分厚いコンクリートのバリケードを、WA-P弾(高密度装甲貫通弾)が火を噴いて粉砕する。炸裂音と鋼鉄が削れる甲高い音だけが、戦闘の苛烈さを物語っていた。


中国軍は、兵力数においては依然として圧倒的であった。しかし、彼らの組織的な抵抗は、すでにそのたましいを失っていた。最高指導部の消息不明による指揮系統の完全な麻痺、帝国軍の誇る新兵器T-99との圧倒的な性能差、そして何よりも、国家の盾であった核兵器の喪失という、抗うことのできない絶望感が、兵士たちの戦意を根底から奪い去っていった。かつては鉄壁の守りを誇った部隊も、今や武器を投げ捨て、震えながら降伏を求めていた。


かつて泥沼の激戦が繰り広げられた広州の市街地で、第8歩兵師団長、佐々木 隼人の部隊は、今や戦闘ではなく、大量の降伏兵を拘束し、武装解除させるという地味な作業にあたっていた。佐々木は、勝利の陶酔感よりも、五カ月間の極限的な緊張が解けたことによる、耐えがたいほどの深い疲労を感じていた。


その顔には、勝利の笑みではなく、ただ安堵と虚無感が混じり合っていた。しかし、彼は信じていた。この途方もない犠牲と、冷徹な勝利が、神聖日本帝国にとっての**「永遠の平和」**をもたらす、最初で最後の、必要な代償であったのだと。


北京の機能麻痺、沿岸部の壊滅的な制圧、そして全国的な兵士の戦意喪失。五カ月にわたる泥沼の戦闘の末、もはや抵抗は不可能であると判断した中国の最高指導部、その残存勢力は、ついに降伏を決意した。


戦闘開始から5カ月と3日。上海郊外の厳重な警戒が敷かれた施設で、中国軍代表による降伏文書への署名が執り行われた。この瞬間をもって、神聖日本帝国が関与した全ての内戦、そして全ての対外戦争は、公式に終結した。


再び、東京。最高指導者邸の屋上。


唯華は、ゆっくりと、夜明け前の首都のスカイラインを、その瞳に焼き付けていた。五年の時を経て、この街は彼女の思想通りに再生し、今や世界を睥睨する帝国の心臓となった。


五年間の冷徹な再建。24時間で決着をつけた韓国戦。そして、5カ月にわたる中国戦。その全てが、彼女一人の冷徹な決断と、それに一ミリの狂いもなく忠実に応えた幹部たちの努力、そして何よりも国民の絶対的な支持によって行われた。


朝日が昇る直前の、最も静かで、最も冷たい時間。唯華は、傍らに立つ副官に向かって、静かに、しかし深い満足と、確信を込めて言った。


「…美咲。全てが、終わった」


唯華の瞳は、夜空のどの星よりも冷たく澄み渡り、そして、彼女の未来の意志を映すかのように、明確な光を放っていた。


美咲は、すぐに唯華の言葉に応じた。その声には、彼女の主への絶対的な忠誠と、この勝利への揺るぎない確信が満ちていた。


「はい、唯華様。全ては、唯華様のお導き通りに。世界は、今、神聖日本帝国の冷徹な力の前にひれ伏しています」


美咲は、一歩近づき、唯華の冷たい軍服の上から、そっとその肩に手を置いた。その手は、唯華の確固たる、鋼鉄のような意志を、皮膚の上からでも感じ取ることができた。


唯華は、夜明けの光がその顔を照らし始めるのを感じながら、ゆっくりと、しかし力強く宣言した。


「この戦いの犠牲は、決して小さくない。この国の人口の数パーセント、アジアの何万もの命が失われた。だが、この血と犠牲の上に、真の永遠の平和と、統一された日本が、永遠に崩れない基盤をもって築かれる」


彼女は視線をさらに遠く、東の海へと向けた。


「そして、アジアの未来は、もはや他者の手には委ねない。我々、神聖日本帝国が、その掌中に収める。米国の支配も、中国の覇権も、全てが、この一戦で終わったのだ」


唯華の瞳に、かつて宿っていた一瞬の迷いや、人間的な弱さを示す色は完全に消え去っていた。そこにあったのは、ただ冷徹なまでの勝利の確信と、自身の思想に基づく未来への揺るぎない意志だけであった。


「私の戦いは、まだ終わらない。国内の秩序を確固たるものとし、このアジア全域を、私が理想とする秩序の下に置き、永遠の繁栄をもたらす」


彼女は美咲の方を向き直った。その目は、すでに次の段階を見据えている。


「美咲、次の段階の計画を、直ちに準備せよ。それは、アジア統一経済圏の構築、そして、来るべき新世界秩序への介入だ」


「承知いたしました、唯華様。全ては、唯華様のために。私は、その手足となりましょう」


美咲は、再び力強く、そして崇拝の念を込めて頷いた。二人の間には、もはや私情を挟む余地のない、支配者と副官としての、揺るぎない絆と、絶対的な信頼が満ちていた。神聖日本帝国は、今、その冷徹な力と、圧倒的な技術、そして指導者唯華の揺るぎない意志をもって、新たな世界秩序の構築者として、歴史の表舞台に、その冷たい影を落としたのであった。

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