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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
第2章、腐敗の黄昏と冷徹なる日の出

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第86話、腐敗の黄昏と冷徹なる日の出

神聖日本帝国が韓国全土を掌握するまでに要した時間は、わずか24時間。その圧倒的な快進撃は、世界に向けて、帝国軍の技術と火力が旧西日本政府軍の時代とは一線を画していることを示す、強力なメッセージとなった。特に、旧態依然とした装備に依存していた韓国軍に対する勝利は、「神聖日本の矛は、アジアの常識を覆す」という唯華の宣言を裏付けるものであった。しかし、次に立ちはだかったのは、世界最大の兵力を誇る中国人民解放軍。その抵抗は、韓国の比ではなかった。


対中国戦の火蓋は、山東半島、かつての青島へと部隊を揚陸させる壮大な上陸作戦から切られた。この最前線に立ったのは、神聖日本帝国軍の誇る第1機甲師団。その師団長、吉田 悟は、荒々しい闘志と冷静な戦術眼を兼ね備えた猛将であり、彼が全幅の信頼を置くT-99主力戦車は、帝国の技術力の結晶であった。


「中国軍の数は多い!恐れるな、諸君!我々が相手にしているのは、泥と砂にまみれた旧世代の装備だ!奴らの兵器は、我々のT-99の装甲を貫けない!T-99は、伊達に『アジア最強の矛であり、盾』と呼ばれているわけではない!装甲は強化複合材、主砲はWA-P弾!すべてが次元の違うスペックだ!我々が、新しい時代の戦いを教えてやる! 全員、突撃用意!敵の戦車隊を粉砕せよ!」


吉田師団長の低く響く咆哮が、戦車のインターコムを通じて全車に伝わる。轟音と共に、帝国の鋼鉄の獣、T-99の戦車群が砂浜を蹴り上げ、内陸へと怒涛の勢いで進撃を開始した。


最初の激突は、内陸部の平原で発生した。中国軍のType-99A戦車が、数に物を言わせて待ち構えていた。夜明け前の薄明かりの中、閃光が迸る。Type-99Aの125mm砲弾が、T-99の前面装甲に直撃する。凄まじい衝撃音が響き渡るが、車体内部への貫通は許されない。T-99の複合装甲は、まるで鋼鉄の壁のように敵弾を弾き返し、その衝撃を乗員に伝えることはなかった。


「弾いた!さすがT-99だ!撃ち返せ!」


吉田の指示と共に、T-99の主砲が火を噴く。砲弾は、タングステン合金のWA-P弾(徹甲弾)。その初速は、Type-99Aの装甲を容易く貫通し、爆発的な破壊力で戦車内部を灼熱の地獄に変える。次々と炎上する中国戦車。彼らは、自国の戦車が、まるで玩具のように破壊されていく光景に、戦意を失いかける。緒戦は、まさに神聖日本帝国軍の圧勝であった。戦果報告が東京の地下深くにある最高指導部に届いた時、技術省大臣の吉岡健太郎は、眼鏡の奥の瞳を潤ませながら、歓喜の声を上げた。


「やった…やったぞ!唯華様!私の技術が、我々の技術が、世界に通用した!我々は、アジアの覇者となる!」


技術の優位性は、疑いようのない事実だった。しかし、その勝利の歓声は長く続かなかった。戦線が内陸深く、特に人口密集地の上海近郊へと延びるにつれて、戦況は一変する。


第4歩兵師団長、佐々木 隼人は、上海郊外の廃墟と化した市街地で、文字通り地獄を見ていた。コンクリートの瓦礫、焦げた車の残骸、そして無数に張り巡らされた狙撃兵の影。


「くそっ…!まただ!右翼のビルからだ!手榴弾!回避しろ!」「敵歩兵、正面のバリケードの裏から再展開!数が多すぎるぞ!倒しても、倒しても、湧いてくる!終わりのない戦いだ!」


佐々木は、自身のT-99のハッチを固く閉ざし、熱と硝煙に満ちた車内から無線機に叫んだ。彼は技術的な優位性を知っていた。T-99の同軸機銃は、一度の掃射で十数名の中国兵を薙ぎ倒す。しかし、その死体の陰から、すぐに倍の数の兵士が這い出してくるのだ。彼らは、整然とした軍隊というよりも、巨大な波、あるいは生命を持った粘土のように、都市の隅々から、地中から、無限に補充されているように感じられた。


「弾薬が尽きそうだぞ!機銃の予備弾倉も残り少ない!どこまでやればいい!支援を要請する!航空支援はまだか!」


佐々木の切羽詰まった声が、無線機を通じて届くが、返ってくるのは雑音に混じった断片的な返答だけだった。中国軍の非効率的で非人道的な人海戦術は、神聖日本帝国軍の精密な「電撃戦」の歯車を狂わせた。彼らは、個々の兵士の命を顧みず、ただひたすらに、物量と飽和攻撃で、T-99の継戦能力の限界を試している。


佐々木は、戦車内部の分厚い装甲に守られながらも、精神的な疲弊に押しつぶされそうになっていた。


「我々は、個々の戦闘では常に勝っている。一対一で、我々の兵士が負けることはない。T-99が破壊されることもない。だが…この戦場全体では、我々は、ゆっくりと、しかし確実に、この巨大な国に飲み込まれている…この国は、あまりにも広大すぎる」


戦線が揚子江を越え、中国内陸部へと細く伸びていくにつれて、別の戦いが始まっていた。それは、兵站線を巡る、ロジスティクスの戦いである。


兵站省大臣、渡辺 拓也は、東京の地下壕の作戦会議室で、青白い顔をしていた。彼は、旧西日本政府軍時代から「精密機械」と呼ばれるほどの正確無比なロジスティクスを誇っていた。しかし、中国大陸の広大さは、彼の持てるすべての計算と経験を超越していた。


「唯華様…限界です。兵站線が伸びきっています。山東省から上海、そしてさらに奥地へと伸びた輸送路は、東京から九州、北海道を通り越して、さらに海を渡るのに匹敵します。中国の内陸は、西日本の比ではありません…」


渡辺は、額の汗を拭いながら、手に持つ報告書を握りしめた。


「燃料と弾薬、そして食料の輸送が、中国軍の散発的なゲリラ攻撃によって深刻に遅延しています。彼らは正々堂々とした戦闘を避け、橋梁の破壊、道路の封鎖、そして補給部隊への狙撃を繰り返しています。このままでは、前線の機甲部隊は、数日中にも継戦能力を喪失します!」


渡辺大臣の報告は、最高指導者唯華の鋭い苛立ちを呼び起こした。彼女の瞳は怒りに燃え、会議室の空気が一瞬にして凍り付いた。彼女の計画では、韓国戦の再現、すなわち、短期間での電撃的な決着が必須であった。


「渡辺。言い訳は聞きたくない。手段を選ばず、輸送ルートを確保しろ!K-01特殊車両を最優先で編成し、特殊作戦部隊を護衛につけろ!一刻も早く物資を前線に届けろ!…そして、斉藤総司令官!」


唯華は、隣に座る最高司令官、斉藤を鋭く睨みつけた。


「何故だ!なぜ、我々は圧倒的な技術的優位性を持ちながら、中国軍の抵抗を完全に打ち砕けないのだ!貴官の報告は、常に『作戦は順調に進んでいる』ではないか!」


斉藤は、その尋問にも動じず、その冷静沈着さを崩さなかった。彼は、目の前のモニターに映し出された、市街戦の凄惨な映像を一瞥し、深く息を吐いた。


「唯華様。彼らは…敗北を認めないのです。確かに、技術的な差は圧倒的です。我々のT-99は、彼らの戦車を凌駕し、歩兵の装備も比較になりません。しかし、彼らは自国の領土、家族のために戦っています。彼らの兵士の士気は、一切低下していません。これは、旧西日本政府軍のような『腐敗した戦意』ではない…彼ら一人一人の心に宿る、純粋な、抵抗の意志です」


斉藤の言葉は、会議室の冷たい空気をさらに重くした。戦闘開始から、すでに2か月が経過していた。神聖日本帝国軍は、依然として上海、青島といった中国沿岸部の主要都市を保持していたが、内陸への進軍は、完全に泥沼の中へと停滞していた。当初の「電撃戦」の目論見は、中国の広大な国土と無限の兵力によって打ち砕かれ、終わりの見えない、泥沼の消耗戦へと変貌していた。最高指導部の会議室の窓の外に広がる東京の夜景は、その重い空気とは裏腹に、静かに光を放ち続けていた。

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