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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
第2章、腐敗の黄昏と冷徹なる日の出

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第82話、腐敗の黄昏と冷徹なる日の出

終戦の熱狂と虚無からわずか5年間。廃墟の山から立ち上がった神聖日本帝国の再建は、常識では測れない、異様な速度で進行していた。それは、最高指導者である唯華の掲げる「浄化」と「再建」の哲学が、全土に深く浸透した結果であった。かつて敵を打ち破るために設計されていた国家組織の全ての牙は、今はただ一つの目標――復興へと向けられていた。そのスピードと効率性は、戦前、旧体制を蝕んでいたあらゆる官僚機構の緩慢な腐敗を、文字通り光速で凌駕した。新生日本の心臓は、技術革新と緻密な統制によって、冷徹に、そして力強く鼓動を始めたのだ。


この途方もない再生を推進した最も重要なエンジニアが、技術省大臣・吉岡健太郎であった。内戦の最終局面で、帝国の誇りであった最新鋭戦車T-90が、米軍の劣化ウラン弾(DU弾)によって一瞬にして蒸発したあの屈辱は、吉岡の魂に焼き付いていた。それは彼にとって、単なる敗北ではなく、技術者としての死刑宣告に等しかった。彼の研究室の壁には、弾痕と熱で歪んだT-90の残骸の巨大な写真と、米軍最新鋭M1エイブラムスの、精緻を極めた設計図面が、対比されるように並べられていた。彼は毎日、その両方を睨みつけ、決意を新たにした。「敗北の記憶こそが、最高の駆動源だ」と。


吉岡の目標は、単にインフラを元に戻すことではない。「来るべき最後の戦い」に備えた、絶対防御と絶対攻撃力を兼ね備えた新兵器システムの開発こそが、彼の真の使命であった。彼は都市インフラの刷新という国家規模のプロジェクトと、水面下で極秘に進む兵器開発を並行して統括する、文字通り神聖日本帝国の未来そのものを担うキーパーソンへと変貌した。彼は己に課した一日三時間の睡眠時間を厳守し、その魂の全てを、西側諸国との間に横たわる圧倒的な技術格差を埋めるための、狂気的なまでの革新に捧げた。彼の指先に触れる全てが、国の運命を握っていた。


再建の血液を統制したのは、兵站省大臣・渡辺拓也だった。彼は戦時下、極限的な資源枯渇の中で物資調達と輸送を担った経験から、その手腕をいかんなく発揮した。彼の指揮する兵站省は、復興資材の調達から輸送、そして最終的な配分に至るまでを、一枚の巨大なデジタルマップ上で緻密に統制した。旧体制下に蔓延していた中間搾取や腐敗したサプライチェーンは、彼の冷酷な合理性によって容赦なく排除された。鉄骨、コンクリート、そして核融合炉から送られるエネルギーの全てが、「必要な場所に、必要なタイミングで、誤差なく」届けられる。渡辺の緻密な計画なくして、この再建の速度は実現し得なかっただろう。彼の座右の銘、「兵站の遅延は、敗北に直結する」という哲学は、省内の全職員の行動規範となっていた。


軍事省(旧総司令部)の斉藤隆一総司令官は、この再建期間中も、軍の牙を決して鈍らせることはなかった。彼は、兵士たちを戦闘訓練の傍らに、復興の現場へと労働力として投入した。彼らは、かつて自らの攻撃によって破壊に関与した瓦礫の撤去作業や、崩落したインフラの緊急修復に、汗と泥にまみれて取り組んだ。これは、単なる労働力の補填以上の意味を持っていた。兵士たちは、国を再建する「英雄」としての自覚を、物理的な「奉仕」を通じて確立させられたのだ。これは、新体制への忠誠心を、精神論ではなく肉体的な貢献として確立させる、唯華の周到かつ巧妙な心理策略であった。軍事訓練によって磨かれたその規律と体力は、復興現場でも無類の効率を発揮し、彼らは再建の礎石となった。


新東京は、神聖日本帝国の技術と理想を、最も劇的に、そして象徴的に体現する都市として再生した。吉岡大臣の技術省が主導し、従来の電力網は、開発中の核融合発電プロトタイプ技術を応用した、桁違いに高効率なエネルギーインフラへと一新された。瓦礫と煤煙に覆われていた都心には、耐震性に優れ、さらに対爆性を考慮した複合装甲の外壁を持つ、未来的な高層ビル群が、天を衝くように林立した。それらは単なる業務や居住のための建物ではなく、唯華が目指す「鉄壁の国家」の物理的な象徴であった。


特に、最高指導者邸の周囲は、世界最高水準のセキュリティと通信設備で幾重にも固められ、都市全体が、唯華の意志を迅速かつ正確に実行するための、巨大で有機的な指令センターへと変貌していた。夜間、新東京のスカイラインは、青白い核融合の光によって照らされ、その冷徹な威容は、市民の眼に未来への確固たる希望と、新体制への絶対的な畏敬の念を同時に抱かせた。


一方、新大阪は、西日本の経済および行政の新たな中心地として再生を果たした。旧大阪城周辺は、唯華による武力統一の象徴として、厳粛な文化的な復興の場とされ、その周辺には、最新鋭の金融・商業施設が集中した新しいビジネス街が形成された。


ここでは、治安省大臣・佐藤健二の指導の下、AIを活用した高度な治安維持システムが試験的に導入された。その結果、犯罪率は劇的に低下した。街角に設置された全ての監視カメラは、単なる映像の記録装置ではない。それらは市民の行動パターンをリアルタイムで分析し、数万件に及ぶ過去のデータと照合することで、予兆犯罪を未然に防ぐ「未来の目」として機能した。新大阪の空気は、完全な秩序と監視下にあり、それは新体制が国民に約束する「絶対的な安心」と「秩序」の象徴であった。


吉岡大臣の技術省は、この再建の全てを、来るべき最終決戦のための準備期間と位置づけていた。その決戦とは、手始めに韓国と中国からの「領土奪還」であり、その先に控える「アジアの秩序の再構築」であった。彼は、米軍が誇る圧倒的な技術力に対抗し得る、現実的かつ革新的な新兵器群の開発に、もはや昼夜の区別もなく没頭していた。彼の脳裏には常に、かつての敗北と、その先の勝利のヴィジョンだけがあった。

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