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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
第2章、腐敗の黄昏と冷徹なる日の出

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第81話、腐敗の黄昏と冷徹なる日の出

終戦の熱狂と疲弊が冷めやらぬ神聖日本帝国において、最高指導者唯華が最初に着手したのは、新国家の鉄の意志を示す、血塗られた序章であった。それは、彼女の掲げる「腐敗した旧体制の打倒」という大義を、国民の精神に永遠に刻み込むための、厳粛かつ非情な「浄化の儀式」であった。


戦犯裁判の舞台は、旧体制の権威そのものを象徴していた東京の旧国会議事堂であった。かつて議論と妥協の場であったこの建物は、今や新体制の絶対的な裁きの場へと変貌していた。大理石のホールは、厳重な警備によって完全に鉄壁と化し、漆黒の戦闘服に身を包んだ特殊作戦部隊の隊員たちが、彫像のように微動だにせず立っていた。法廷内の空気は、分厚い鉛のように重く、その厳粛な雰囲気は、旧体制の終焉が不可逆であり、新体制の絶対的な正当性が、揺るぎないものであることを、視覚的に国民に訴えかける役割を果たした。被告席には、旧西日本政府の最高幹部、各省庁の主要幹部、そして米軍と結託して非人道的な兵器使用を許可した軍事指導者など、合計521名が座っていた。彼らの顔は、憔悴と、これから下されるであろう運命への恐怖で青ざめ、つい数ヶ月前まで彼らが発していた傲慢な権威の影は、どこにも残されていなかった。


この裁判という巨大な儀式の裏側を、冷徹に設計し、指揮したのは情報省大臣 山田 剛である。山田は、裁判を単なる法廷闘争としてではなく、新体制の正当性を確立し、旧体制の腐敗を国民の集合意識に再認識させるための、巨大なプロパガンダの場として機能させた。

「国民は、自分たちが何から解放されたのかを知る必要がある。この裁判は、感傷に流されてはならない」山田は、編集室の暗がりで、複数のモニターに映る法廷映像を見つめながら、鋭い指示を出した。「恐怖や同情ではない。論理と証拠によって、旧体制を断罪するのだ」

メディア工作班は、裁判の記録を徹底的に編集し、毎日、国営放送のプライムタイムで公開した。編集のハイライトは、終始、旧幹部たちの自己保身に終始する醜い応答と、それに対比される新体制側の論理的な優位性を強調するように構成された。

「彼らの愚かさと私欲を、全国民の眼前に晒せ。旧体制に同情する余地など、一片たりとも残してはならない」山田の声には、感情の機微は一切なかった。


裁判は、国家評議会議長 佐々木 賢治を裁判長とし、公正を期すという名目で進められたが、その実態は、旧体制の罪を糾弾し、新体制への絶対的な忠誠を促すための、計算し尽くされた儀式であった。


最も国民の注目を集め、裁判の核心を成したのは、技術省大臣 吉岡 健太郎の証言であった。内戦時、技術者としてT-90戦車の敗北を経験した吉岡は、旧体制への深い恨みと、科学者としての絶対的な倫理観から、証言台に立った。彼の証言は、感情論に流されることなく、冷酷なまでに正確な科学的証拠に基づいて旧体制を断罪した。

吉岡は、壇上に設置された大型スクリーンに、旧西日本軍が米軍と共同で使用した劣化ウラン弾(DU弾)の残骸の分析画像を映し出した。

「唯華様…」証言を始める前、吉岡は傍聴席の最前列に座る唯華に向かって深く一礼した。その一礼は、新体制への忠誠であると同時に、技術者としての贖罪の念をも含んでいた。

彼は静かに、しかし断罪の響きを持つ声で証言を始めた。「米軍が使用したM1エイブラムスの砲弾には、劣化ウランが使用されていました。これは、短期的な破壊力に留まらず、長期的な放射能汚染を引き起こし、無差別な市民の生命、そしてこの国の土地を、永続的に脅かすものです。これは、国際法上の非人道的な兵器に他なりません」

続いて映し出されたのは、押収された機密通信記録のログであった。青白い光が、被告たちの青ざめた顔を照らす。

「この兵器の使用を、旧西日本政府の林田国防大臣と山村総司令官が、米軍の圧力の下、その危険性を認識しながら容認していたことが、この通信記録から明らかになっています。彼らは、国民の安全と国土の未来よりも、自らの保身を優先した。彼らの罪は、技術者としての、そしてこの国に生きる者としての、私の理解を超えています」

吉岡の科学的かつ冷酷な証言は、国民の間に燻っていた旧体制への怒りを劣化ウラン弾の非人道性という一点に集中させた。この具体的な「罪」こそが、プロパガンダの最も鋭い刃となった。


佐々木 賢治裁判長の無機質な声によって、厳然たる判決が下された。その判決は、新体制の効率的かつ実用的な価値観に基づいて、521名の戦犯の運命を三つに区分した。


処刑(極刑):48名。内訳:非人道兵器(劣化ウラン弾)の使用承認に関与した軍事・政治指導者、及び大規模な汚職・私腹を肥やし続けた旧政府の最高幹部。彼らは、新体制の礎を築く上で、その存在自体が不要な「負の遺産」と断じられた。


終身懲役または長期懲役(20年以上):165名。内訳:戦争を長期化させた主要な軍事指導者、及び旧体制下で重大な汚職や人権侵害に関与した中堅幹部。彼らは、腐敗の根幹に近すぎたため、新体制の再建後の「労働力」としては不適切と判断され、社会から永久に隔離された。


労働刑(強制的な復興作業):308名。内訳:旧政府の末端幹部や、軍事作戦への関与が軽微であった者。彼らは、自らが破壊に関与した国の復興に、過酷な肉体労働を通じて貢献させられることとなった。彼らの存在は、新体制による「贖罪」という名の強制労働力として利用された。


処刑の執行は、判決からわずか3日後に、都内郊外に秘密裏に建設された軍事施設の一角で行われた。情報漏洩と混乱を徹底的に避けるため、処刑は非公開で実行された。冷たいコンクリートと鉄筋に囲まれたその執行の場は、湿った土と油の臭いが混じり合い、新体制の幹部たちにとって、その「非情なる正義」を深く刻み込む儀式となった。

執行は、総司令官 斉藤 隆一の直接監督下にあり、選ばれた特殊作戦部隊の精鋭50名は、感情を一切排除した「道具」としてそこに立っていた。彼らの呼吸は均一で、まるで一つの機械のようだった。

斉藤の前に連行された48名の戦犯たちは、白い囚人服を着せられ、目隠しをされることを許されなかった。彼らは、己の死を直視させられた。彼らの顔は恐怖に歪み、中には魂が抜けたかのような虚ろな表情の者もいたが、斉藤の目は、彼らを個人として見てはいなかった。彼らは、新体制の邪魔となる「処理すべき残骸」でしかなかった。

斉藤は、低く、威圧的でありながら、一切の熱情を感じさせない声で、断罪の最終宣告を告げた。その声は、冷たいコンクリートの壁に反響し、場の重さをさらに増幅させた。

「貴様らが、己の私欲と保身のために、この国を、そして多くの国民の命を、戦争と腐敗の泥沼に突き落とした罪は、万死に値する」斉藤は、冷徹な視線を戦犯たちに向けたまま続けた。「貴様らの死は、新しき神聖日本帝国の礎となる。故に、安らかに眠ることは許されん」

斉藤が、白手袋をはめた右手を、硬質な機械の動作のように振り下ろす。

その瞬間、50名の特殊作戦部隊の隊員たちが、一糸乱れぬ正確さで一斉に銃を構えた。銃声はわずか30秒。短く、乾いた銃声が連続して響き渡り、48名の体は、冷たいコンクリートの上に、音もなく、そして急速に崩れ落ちた。地面に染み出す鮮血は、冷たい鉄の臭いと混じり合い、すべてが終焉したことを静かに告げていた。斉藤は、わずかに一瞥した後、背を向けた。


最高指導者 唯華は、この執行の様子を、地下にある司令室のパソコンで、美咲と共に静かに見つめていた。薄暗い光の中で、彼女の表情はまるで大理石の彫像のように無感情であった。彼女の瞳の奥には、この国を「浄化」し、理想郷を築くためには、こうした非情な決断が、理として必要不可欠であるという、冷徹な決意だけが宿っていた。 執行完了の報告を受け、唯華は静かに口を開いた。 「…美咲」 彼女の声は静謐で、命令の重みだけがあった。「この死が、彼らの罪の終わりではなく、新体制の始まりであることを、全国民に知らしめよ。恐怖と希望は、常に表裏一体でなければならない」 「承知いたしました、唯華様」美咲は、感情の機微を一切排除した、正確な声で応じた。「国民啓発省が、適切に報道を行います。国民は、この処刑を『未来のための外科手術』として、正しく理解するでしょう」 神聖日本帝国の黎明は、かくして血塗られた「浄化の儀式」によって、完成されたのである。

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