第75話、絶望と動乱と混沌と。30
東京郊外の防衛線に、西日本から引き抜かれた神聖日本帝国の部隊が、次々と到着した。彼らは、長距離の移動に疲労困憊の状態だったが、故郷を守るために、武器を手に取り、防衛線へと向かった。
「お前たち!故郷を守るために、戦うんだ!家族や友人を守るために、戦うんだ!」
斉藤総司令官が、兵士たちに檄を飛ばす。兵士たちの顔には、疲労の色が濃く出ていたが、その目には、故郷を守るという、強い決意が宿っていた。
しかし、米軍と西日本政府軍の攻撃は、休むことを知らなかった。東京湾からの艦砲射撃は続き、東京の街は、次々と破壊されていく。そして、空からは、米軍の爆撃機が、東京郊外の神聖日本帝国の防衛線へと爆弾を投下していく。
「くそっ…!キリがない…!」
村田隆司師団長が、悔しそうに叫んだ。彼の部隊は、米軍の爆撃に、次々と命を落としていく。
「村田師団長!ここを突破されますと、唯華様のいる場所まで敵が…!」
「わかっている!しかし、どうすれば…!」
村田師団長が、絶望に満ちた表情で叫んだ。
その時、東京の空に、MiG-29やSu-34といった、神聖日本帝国の戦闘機が姿を現した。西日本から引き抜かれた戦闘機師団が、東京へと戻ってきたのだ。
「高橋部隊長の仇は、我々が取る!敵の戦闘機を、一機残らず撃墜しろ!」
新たな航空戦闘部隊長となった、元自衛隊のパイロットが叫んだ。彼の部隊は、米軍のステルス戦闘機と、再び空中戦を開始した。東京の空は、戦闘機同士の空中戦で、激しい火花を散らした。
そして、名古屋、大阪、広島、博多でも、激しい戦闘が続いていた。米軍と西日本政府軍の上陸部隊は、神聖日本帝国の防衛線を突破し、市街地へと侵入。市街地では、神聖日本帝国の部隊と、米軍、そして西日本政府軍との間で、激しい市街戦が繰り広げられた。
「絶対に、ここを突破させてはならない!」
第4機甲師団長・林裕也が、名古屋の街中で、M1エイブラムスとT-90主力戦車を交戦させていた。T-90の砲弾がM1エイブラムスを直撃するが、M1の重厚な装甲には、なかなか歯が立たない。しかし、T-90も、M1エイブラムスの劣化ウラン弾に、次々と撃破されていく。
「林師団長!早く退却を!」
「馬鹿を言うな!ここを突破されたら、名古屋の街が戦場になる!市民の命は、どうなるんだ!」
林師団長は、自らの命を顧みず、T-90を操り、M1エイブラムスへと突っ込んでいった。彼の機体は、M1エイブラムスの砲弾を浴び、爆発した。
最高指導者邸の地下深くにある作戦会議室。唯華は、モニターに映し出された日本全土の戦況を、血が滲むほど唇を噛み締めながら見つめていた。
「…林師団長が…戦死…」
山田大臣の報告に、唯華は、絶望の淵へと突き落とされた。彼女は、自分の下した決断が、多くの命を奪っていく現実を、受け入れられずにいた。
「どうして…どうして…!私が…こんなにも無力だなんて…!」
唯華は、声を上げて泣き始めた。彼女の涙は、モニターに映し出された、炎に包まれる日本地図の上に、次々と落ちていく。
「…唯華様…」
美咲が、唯華の肩にそっと手を置いた。
「美咲…私は…間違っていたのかもしれない…!私は、この国を救いたかった…!でも…私がやったことは…この国を、さらなる混乱と絶望の淵へと突き落としただけなのか…!?」
唯華の悲痛な叫びは、美咲の胸に深く突き刺さった。美咲は、唯華の震える体を、優しく抱きしめた。
「違います、唯華様。唯華様は、何も間違っていません。唯華様が始めたこの戦いは、この腐敗した日本を『浄化』し、真の平和と繁栄をもたらすための、聖戦です。唯華様は、一人ではありません。私たち全員が、唯華様と共に戦っています。だから…どうか…諦めないでください…!」
美咲の言葉に、唯華は顔を上げた。彼女の瞳には、涙が溢れていたが、その瞳の奥には、かすかな光が宿っていた。
「美咲…ありがとう…」
唯華は、美咲の言葉に、再び立ち上がる勇気を得た。彼女は、再び最高指導者としての顔に戻り、モニターに映し出された戦況を、鋭い眼差しで見つめた。
「…山田大臣。全方面の戦況を、もう一度報告せよ」
唯華の凛とした声に、山田大臣は、驚きに目を見開いた。
「は、はい!北陸方面は、米軍と西日本政府軍の猛攻に、防衛線が崩壊寸前です!東海方面も、名古屋が包囲され、防衛線は崩壊寸前です!九州方面は、博多が陥落寸前です!山陰方面も…」
山田大臣の報告に、唯華は、静かに頷いた。
「…わかった。全方面の部隊に、本土への撤退を命じる。そして、東京にいる全戦力を、東京郊外に集結させよ」
唯華の命令に、山田大臣は再び驚きに目を見開いた。
「唯華様…!それでは、西日本を…!」
「西日本は、一時的に諦める。今は、故郷を守ることが先決だ。東京郊外に全戦力を集結させ、米軍と西日本政府軍を迎え撃つ」
唯華は、悲痛な表情で言った。彼女は、西日本を制圧するという、自らの夢を、一時的に放棄することを決めたのだ。
東京郊外の防衛線。神聖日本帝国の全戦力が、そこに集結していた。戦車、戦闘車両、歩兵、そして、東京の空を守るために、西日本から戻ってきた戦闘機師団。彼らは、故郷を守るために、米軍と西日本政府軍を迎え撃つ準備を整えていた。
「総司令官、全戦力が集結しました。いつでも、反撃を開始できます」
斉藤総司令官の言葉に、唯華は、ビルの屋上から、力強く頷いた。
「よし。美咲、各師団長に、最終指示を出す。斉藤総司令官、田中副総司令官は、東京の防衛線を死守せよ。吉田師団長、青木師団長、村田師団長は、それぞれ札幌、仙台、新潟への増援部隊を率い、米軍と西日本政府軍を迎え撃て。林師団長の仇を討て」
唯華の指示に、幹部たちは皆、力強く敬礼した。
「承知いたしました、ゆい姉!」
唯華の瞳には、もはや絶望の色はなかった。彼女の瞳は、故郷を守るという、強い決意に満ちていた。
「…さあ、反撃の狼煙を上げよう。美咲」
「はい、唯華様。作戦は、順調に進みます」
美咲は、唯華の隣に立ち、力強く頷いた。二人の間には、言葉以上の絆と信頼が満ちていた。
「…この戦いは、まだ終わらない。私は、絶対に、諦めない…!」
唯華の叫び声は、東京の空に響き渡った。彼女は、故郷を守るために、再び立ち上がったのだ。
五月某日、夜が明け、朝日が東京の街を照らす頃。東京郊外の防衛線から、神聖日本帝国の反撃が開始された。戦車が、轟音を立てて前進し、戦闘車両が、その強力な機関砲で敵の陣地を粉砕していく。空からは、戦闘機が、米軍の戦闘機と空中戦を開始した。
神聖日本帝国の反撃は、米軍と西日本政府軍の予想を上回るものだった。彼らは、神聖日本帝国が、これほどまでの戦力を温存していたとは、夢にも思っていなかったのだ。
「くそっ…!なぜだ…!なぜ、まだこんなにも戦力が残っているんだ…!」
米軍の指揮官が、絶叫する。
「お前たち!唯華様のために、戦え!我々の故郷を守るために、戦え!」
斉藤総司令官の叫び声が、兵士たちのヘッドセットに響き渡る。兵士たちは、その言葉を胸に、猛然と反撃を続けた。
東京の街は、再び戦場となった。崩れ落ちるビル、飛び交う銃弾、そして、空を埋め尽くす戦闘機の轟音。しかし、神聖日本帝国は、この戦いに、勝利することを信じていた。彼らは、故郷を守るために、戦い続けた。この戦いは、まだ始まったばかりだ。




