第71話、絶望と動乱と混沌と。26
作戦開始まで、残りわずか数時間。唯華は、大きなモニターに映し出された幹部たちの顔を見つめながら、最終確認を進めた。幹部たちの顔には、緊張と期待が入り混じっていた。
「斉藤総司令官、九州方面の各師団は、既に上陸地点の沖合に展開しているな?上陸艇の最終チェックは完了したか?」
モニターの向こう側で、斉藤総司令官が力強く頷いた。彼の背後には、夜の海に浮かぶ無数の艦艇が映し出されていた。
「はい、ゆい姉。全て準備は万端です。熊本、鹿児島、宮崎の三ヶ所への上陸部隊は、いつでも作戦を開始できます。兵士たちの士気も極めて高く、皆、ゆい姉のために戦うことを誇りに思っております」
「よし。田中副総司令官、山陰方面の部隊は?上陸地点の気象状況は?」
田中副総司令官が、鋭い眼差しで答えた。彼の声には、絶対の自信が漲っていた。
「お任せください、ゆい姉。島根、鳥取、兵庫の日本海側の気象状況は、全て把握済みです。波も穏やかで、上陸には最適な状況です。特殊部隊は、既に潜水艇から発進し、海岸線に接近中です。奇襲は必ず成功させます」
「吉田師団長、四国方面は?」
吉田師団長が、背筋を伸ばし、力強く敬礼した。
「はい、ゆい姉。高知、徳島への上陸部隊は、敵の警戒網の死角に潜んでいます。上陸後、直ちに内陸部へ進攻し、四国を制圧してみせます」
「青木師団長、北陸方面は?」
青木師団長が、自信に満ちた表情で答えた。
「ゆい姉、北陸は我々が突破口を開きます。福井、石川、富山の上陸地点は、敵の防衛が手薄です。日本海側からの上陸は、敵の意表を突くことができるでしょう」
「村田師団長、東海方面は?」
村田師団長が、力強く頷いた。
「承知いたしました、ゆい姉。東海を制圧し、本州中央部への道を切り開きます。静岡、愛知、三重の三ヶ所に上陸部隊を投入し、西日本政府の経済活動を麻痺させます」
「最後に、山田師団長。国境線に展開している主力部隊は?いつでも電撃戦を開始できるな?」
山田師団長が、力強く答えた。彼の背後には、無数の戦車が整然と並び、その砲身を西へと向けていた。
「ゆい姉、国境線からの突破は、我々が責任を持って行います。第4機甲師団は、圧倒的な火力と機動力で敵の防衛線を粉砕し、東京から大阪への最短ルートを確保します。敵の防衛線は、必ずや粉砕してみせます」
全ての幹部からの報告が終わり、唯華は、満足げに頷いた。彼女の瞳は、まるで日本の未来を全て見通しているかのようだった。
「よし。これで、全ての準備は整った。これから、作戦決行まで、各部隊の通信は完全に秘匿される。何か問題が発生した場合は、私の直接の指示を待て。そして、各自、自軍の士気を最大限に高め、最高の状態で戦いに臨むように。この戦いは、我々が日本の未来を切り拓くための、聖戦だ。必ずや勝利を収めるのだ」
唯華の言葉は、幹部たちの心に深く刻まれた。彼らは、皆、力強く敬礼し、それぞれの持ち場へと戻っていった。作戦会議室には、再び静寂が戻った。美咲は、唯華の隣に立ち、静かに彼女を見つめていた。
「唯華様…」
「いよいよだね、美咲。私たちが、この国の未来を賭けた、最後の戦いが始まる」
唯華が、モニターに映し出された日本地図を見つめながら呟いた。その瞳には、勝利への確信と、そして、かすかな悲しみが宿っていた。彼女は、この戦いが多くの犠牲を伴うことを理解していた。しかし、彼女は、この戦いを避けることはできなかった。彼女は、神聖日本帝国の最高指導者として、この戦いを始める義務があった。
「唯華様…」
美咲が、唯華の肩にそっと手を置いた。唯華は、美咲の温かい手に、少しだけ安堵の表情を見せた。
「ありがとう、美咲。私は、一人じゃないんだね」
「はい、唯華様。私たちは、いつも唯華様と共にいます」
美咲の言葉に、唯華は優しく微笑んだ。
五月某日、午前4時。夜明け前の静寂な空気に、突如として緊張が走った。神聖日本帝国の最高指導者・神月唯華の声明が、テレビ、ラジオ、インターネットを通じて、西日本全域に向けて一斉に放送された。
「西日本政府に告ぐ。旧体制の腐敗に蝕まれ、国民の幸福を顧みない貴政府に対し、神聖日本帝国は宣戦を布告する。我々の目的は、貴政府を打倒し、国民を解放することにある。これは、旧体制の腐敗を『浄化』し、真の平和と繁栄をもたらすための、聖戦である。国民の皆が、安心して暮らせる国を築くため、私は全てを捧げる。国民の皆は、神聖日本帝国の旗の下に集結せよ。そして、我々の勝利を、信じて待っていてほしい」
唯華の凛とした声が、西日本全域に響き渡った。国民啓発省が制作したプロパガンダ映像では、唯華のカリスマ性が強調され、彼女が「救世主」であるというメッセージが、国民の心に深く刻まれた。そして、宣戦布告からわずか数分後、神聖日本帝国の総司令官・斉藤が指揮する「暁の雷鳴」作戦が、ついに開始された。最初に火蓋が切られたのは、西日本政府が最も警戒していなかったであろう、九州、山陰、四国、北陸、東海の各地域だった。
九州方面
斉藤総司令官が指揮する上陸部隊は、熊本、鹿児島、宮崎の三ヶ所に、同時多発的に上陸を開始した。ホバークラフト型の上陸艇が、波を切り裂き、海岸線へと猛スピードで向かっていく。艇内には、第1機甲師団、第2機甲師団の兵士たちが、戦闘服に身を包み、AK-47アサルトライフルを握りしめ、出撃の時を今か今かと待っていた。
「上陸開始!橋頭堡を確保しろ!敵の抵抗を粉砕しろ!」
上陸艇のハッチが開くと、兵士たちは怒涛のように海岸線へと飛び出した。T-90主力戦車が、その巨体で砂浜を駆け上がり、BMP-3歩兵戦闘車が、その強力な機関砲で敵のトーチカを粉砕していく。上陸地点の西日本政府軍は、神聖日本帝国の圧倒的な火力と奇襲に、完全な混乱に陥った。彼らは、まさかこんなにも大規模な上陸作戦が行われるとは、夢にも思っていなかったのだ。
「馬鹿な…何が起こったんだ!?こんな大規模な上陸作戦、ありえないだろ!」
西日本政府軍の指揮官が、絶叫する。しかし、時すでに遅し。神聖日本帝国の兵士たちは、既に内陸部へと進攻を開始していた。熊本からは九州中央部へ、鹿児島からは九州南部へ、宮崎からは九州東部へと、三つの方面から一斉に進攻を開始した。空からは、Ka-52攻撃ヘリコプターが、機関砲と対戦車ミサイルで敵の抵抗拠点を次々と破壊していく。九州は、一瞬にして神聖日本帝国の手に落ちようとしていた。
山陰方面
田中副総司令官が指揮する上陸部隊は、島根、鳥取、兵庫の日本海側に上陸を開始した。山陰地方は、山岳地帯が多く、敵の防衛が手薄だった。特殊作戦部隊は、事前に潜水艇から発進し、海岸線に接近していた。彼らは、岩国基地鹵獲作戦で培った経験を活かし、完璧なステルス行動で敵の警戒網を突破した。
「上陸開始!奇襲だ!敵に反撃の隙を与えるな!」
特殊作戦部隊は、静かに海岸線へと上陸し、内陸部へと進攻を開始した。彼らは、敵の指揮所や通信施設を破壊し、西日本政府軍の指揮系統を麻痺させていった。その数分後には、第3機甲師団が上陸を開始し、島根からは中国山地を越え、広島方面へ。鳥取からは岡山方面へ。兵庫からは京阪神方面への進攻ルートを確保した。山陰地方の西日本政府軍は、奇襲と内陸部からの攻撃に、混乱に陥った。彼らは、まさか日本海側から攻撃されるとは、想像もしていなかったのだ。
四国方面
吉田師団長が指揮する上陸部隊は、高知と徳島に上陸を開始した。四国は、比較的防衛が手薄な地域であり、神聖日本帝国は、この地域を早期に制圧することを目的としていた。
「上陸開始!四国を制圧しろ!敵の抵抗を粉砕しろ!」
吉田師団長の声が、兵士たちのヘッドセットに響き渡る。第4機甲師団が、上陸後、直ちに四国中央部へ進攻を開始した。高知からは愛媛方面へ、徳島からは香川方面へ進み、四国全域を制圧する準備を整えていた。西日本政府軍は、四国が攻撃されるとは予想しておらず、防衛網は脆かった。神聖日本帝国の兵士たちは、怒涛の勢いで進攻を続けた。
北陸方面
青木師団長が指揮する上陸部隊は、福井、石川、富山に上陸を開始した。ここもまた、敵の意表を突くための上陸地点だった。
「上陸開始!北陸は、我々が突破口を開く!敵の抵抗を粉砕しろ!」
青木師団長の声が、兵士たちのヘッドセットに響き渡る。第5機甲師団が、上陸後、直ちに内陸部へ進攻を開始した。福井からは滋賀方面へ、石川からは岐阜方面へ、富山からは長野方面への進攻ルートを確保した。西日本政府軍は、北陸の防衛を軽視しており、神聖日本帝国の電撃的な攻撃に、全く対応できなかった。
東海方面
村田師団長が指揮する上陸部隊は、静岡、愛知、三重に上陸を開始した。この地域は、西日本政府の経済活動が活発なため、迅速な制圧が求められていた。
「上陸開始!東海を制圧し、本州中央部への道を切り開け!」
村田師団長の声が、兵士たちのヘッドセットに響き渡る。第6機甲師団が、上陸後、直ちに内陸部へ進攻を開始した。静岡からは山梨方面へ、愛知からは岐阜方面へ、三重からは奈良方面への進攻ルートを確保した。西日本政府軍は、東海地方への攻撃に、全く対応できず、神聖日本帝国の圧倒的な火力に、次々と陣地を奪われていった。
国境線からの電撃戦
そして、上陸作戦開始からわずか数分後、東西日本の国境線に展開している主力部隊が、一斉に電撃戦を開始した。山田師団長が指揮する第4機甲師団は、圧倒的な火力と機動力で、西日本政府軍の防衛線を突破した。T-90主力戦車が、その強力な主砲で敵の戦車を次々と破壊し、BMP-3歩兵戦闘車が、兵士たちを乗せて敵の陣地へと突入していく。空からは、Su-34爆撃機が、敵の重要拠点を爆撃し、MiG-29戦闘機が、敵の航空機を次々と撃墜していった。
「全軍、前進!敵の防衛線は、既に粉砕された!躊躇うな!大阪を目指せ!」
山田師団長の声が、兵士たちのヘッドセットに響き渡る。兵士たちは、その言葉を胸に、猛然と進攻を続けた。西日本政府軍は、多方面からの攻撃に混乱し、指揮系統が完全に麻痺していた。彼らは、どこから攻撃されているのか、何が起こっているのか、全く理解できなかった。神聖日本帝国の圧倒的な火力と機動力、そして奇襲作戦は、西日本政府軍を完全に圧倒していた。彼らは、神聖日本帝国がこれほどまでの戦力を有しているとは、夢にも思っていなかったのだ。
最高指導者邸の地下深くにある作戦会議室で、唯華は、クアトロモニターに映し出された戦況を見つめていた。西日本全土の地図が、次々と神聖日本帝国の支配下に変わっていく。彼女の瞳には、勝利への確信と、そして、この戦いが、日本の未来を左右する聖戦であることを信じる、強い光が宿っていた。
「…美咲。作戦は、順調に進んでいるな」
唯華が、静かに言った。美咲は、唯華の隣に立ち、力強く頷いた。
「はい、唯華様。全ての作戦は、計画通りに進んでいます。このまま行けば、数日のうちに、西日本政府を打倒できるでしょう」
唯華は、美咲の言葉に、満足げに頷いた。
「そうか。それはよかった。だが、気を緩めるな。本当の戦いは、これからだ」
唯華は、モニターに映し出された大阪の地図を、じっと見つめていた。彼女は、この戦いが、まだ始まったばかりであることを知っていた。西日本政府の打倒、そして旧体制の「浄化」。それが彼女の使命だった。
この物語は、まだ始まったばかりだ。




