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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
絶望と動乱と混沌と。

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第70話、絶望と動乱と混沌と。25

五月へのカウントダウンが始まった。岩国基地鹵獲作戦の成功は、神聖日本帝国にとって大きな弾みとなったが、最高指導者・神月唯華が掲げた目標は、いまだに遠大なものとして天を衝いていた。戦車3万両、戦闘車両5万両、ヘリ2万機、戦闘機5万機、爆撃機1万機、銃火器100万丁、上陸艇1,000隻、艦船300隻。これらは、腐敗した西日本政府軍を圧倒し、わずか数日で電撃的な勝利を収めるために必要な、最低限の戦力だった。


四月に入ると、兵站省大臣・渡辺拓也の指揮の下、兵器の輸入と国内生産は、文字通り「狂気の沙汰」と呼べるほどの速度で進められた。まるで、この世の終わりを告げるかのように、北海道の稚内港や東北の八戸港には、夜の闇に紛れて巨大な輸送船団が次々と姿を現した。航跡を残さず、秘密裏に神聖日本帝国の領海へと入港する船団は、旧ソ連圏の同志からの支援物資を積んでおり、開かれたコンテナの中には、最新鋭の兵器がぎっしりと、しかし無機質に詰め込まれていた。


「急げ!夜明けまでには全ての荷揚げを完了させるんだ!一秒たりとも無駄にするな!」


渡辺大臣の怒声が、夜空に響き、埠頭の喧騒に混ざり合う。彼の顔には、数日間にわたる徹夜作業の疲労が深く刻まれていたが、その瞳は、目標達成への執念に燃え、一切の迷いを許していなかった。巨大なガントリークレーンが、けたたましい機械音を立てながら唸りを上げ、次々とコンテナを陸揚げしていく。運び出されたT-90主力戦車は、漆黒の夜空の下でその圧倒的な存在感を放ち、BMP-3歩兵戦闘車も、その無骨な姿を現して、兵士たちの士気を高めていく。埠頭には、油と火薬の匂いが充満し、まさに「嵐の前の静けさ」とは程遠い、激しい活動が繰り広げられていた。


技術省大臣・吉岡健太郎もまた、渡辺大臣に劣らず、昼夜を問わず各地の工場を飛び回っていた。かつて日産やトヨタの自動車工場だった場所は、今や戦車や戦闘車両の生産ラインへと姿を変え、24時間体制でフル稼働していた。静岡県の造船所では、全長300メートルを超える空母の建造が最終段階に入り、巨大な船体が、夜間の溶接の火花に照らされて、いよいよその全貌を現そうとしていた。火花が夜空を彩り、ハンマーで鉄を叩く音が、まるで未来への凱歌のように力強く響いていた。


「主砲の取り付け作業、急げ!最終調整だ!『暁の雷鳴』作戦まで、もう時間がないんだ!」


吉岡大臣の声が、造船所の巨大な建造物にこだまする。作業員たちは疲労困憊の状態だったが、祖国再建への使命感が彼らを突き動かしていた。彼らは、最高の品質の兵器を生産するために、一切の妥協を許さなかった。彼らの手によって生み出される兵器は、神聖日本帝国の未来を切り拓くための、希望そのものだった。


四月末までに、神聖日本帝国は、驚異的な速度で以下の兵器を揃えることに成功した。


戦車:29,500両


T-72、T-90、レオパルト2などの輸入戦車に、国産の新型戦車が加わり、目標の3万両に肉薄していた。その重厚な装甲は、西日本政府軍のM1エイブラムスを凌駕し、主砲の命中精度も飛躍的に向上していた。


戦闘車両:48,000両


BMP-2、BMP-3などの歩兵戦闘車、BTR-80などの装甲兵員輸送車、そして多連装ロケットシステムが、部隊の機動力を飛躍的に向上させ、戦場のあらゆる局面に対応できる力を与えていた。


ヘリコプター:19,800機


Mi-24、Ka-52などの攻撃ヘリコプター、Mi-8などの輸送ヘリコプターが、空からの支援を可能にし、戦場の優位性を確保していた。


戦闘機:49,000機


MiG-29、Su-34などの輸入機に加え、鹵獲したF/A-18、F-15J、そして国産のステルス戦闘機が、空の制空権を握る準備を整えていた。


爆撃機:9,500機


Su-34、Tu-22などの超音速爆撃機が、敵の重要拠点を一瞬で破壊する能力を持っていた。


銃火器:95万丁


AK-47、M4カービンなどのアサルトライフル、SVD、M24などの狙撃銃、RPK、M249などの機関銃が、兵士一人ひとりの手に渡り、彼らの戦闘能力を最大限に高めていた。


上陸艇:980隻


ホバークラフト型や揚陸艦型など、様々な種類の上陸艇が、各上陸地点へと部隊を迅速に輸送する準備を整えていた。


艦船:285隻


駆逐艦、軍艦、空母、潜水艦、輸送艦が、神聖日本帝国の領海を護り、上陸作戦を支援する準備を整えていた。


目標の95%以上を達成したことを知った唯華は、満足げに頷いた。しかし、彼女の顔に笑顔はなかった。


「渡辺大臣、吉岡大臣。よくやった。しかし、残りの5%が、最後のピースとなる。五月までに、必ず目標を達成するんだ。西日本政府軍を圧倒するためには、一兵卒、一丁の銃、一隻の艦船が、勝利を左右するのだからな」


唯華の言葉に、両大臣は力強く敬礼した。彼らの背後には、祖国再建への揺るぎない決意が宿っていた。


最後の夜

五月某日、日付が変わる直前の深夜。神聖日本帝国の首都、旧東京。最高指導者邸の地下深くにある作戦会議室は、時計の秒針の音さえも吸い込まれるような、深い静寂に包まれていた。大きなモニターには、日本全土の地図が映し出され、西日本政府の主要都市や軍事拠点が、不気味な赤色で点滅していた。


唯華は、一人、指揮官席に座っていた。彼女の隣には、副官である佐藤美咲が、静かに控えていた。美咲は、唯華の顔に浮かんだ深い疲労の色に気づいていたが、何も言わなかった。彼女は、唯華が背負う孤独を、誰よりも深く理解していた。


「美咲、コーヒーを淹れてくれるか」


唯華が、静かに、しかし、その声には疲労が滲み出ていた。美咲は無言で頷き、コーヒーメーカーのスイッチを入れた。豆を挽く音と、湯が注がれる音が、静寂な部屋にわずかな生活感を吹き込む。立ち上るコーヒーの香りが、二人の間を満たした。


「あのね、美咲。学校を休学してから、もう半年が経つんだね」


唯華が、窓の外の夜空を見上げながら、遠い目をして呟いた。


「はい、唯華様。あっという間でしたね」


美咲が、温かいコーヒーカップを唯華に差し出しながら、静かに答えた。


「みんな、元気にしているかな。花音や里奈、それに、鈴鹿くんも…」


唯華が、まるで自分の存在が遠い過去の出来事であるかのように、寂しげな表情で呟いた。美咲は、その言葉に胸を締め付けられる思いだった。彼女は、唯華がどれだけ、あの「普通の高校生」としての時間を大切に思っていたかを知っていた。


「きっと、元気ですよ。唯華様、心配しないでください。みんな、唯華様が必ず戻ってきてくれると信じていますから」


美咲の言葉に、唯華は優しく微笑んだ。最高指導者としての冷徹な表情とは異なり、年相応の少女のあどけなさを感じさせるその笑顔は、美咲にとって何よりも心を和ませるものだった。


「ありがとう、美咲。そう言ってくれると嬉しい。でもね、美咲。私は、もうあの頃には戻れないかもしれない」


唯華の言葉に、美咲は驚いて唯華の顔を見つめた。その瞳には、悲しみと不安が入り混じっていた。


「唯華様…」


「私は、もう神月唯華じゃない。私は、神聖日本帝国の最高指導者だ。国民の未来を背負う者だ。この国を『浄化』し、真の平和をもたらすためには、どんな犠牲も厭わない。たとえ、私が私であることを、失ったとしてもね」


唯華の言葉は、美咲の心に深く突き刺さった。美咲は、唯華の言葉の裏にある、深い孤独と、揺るぎない決意を感じ取っていた。


「唯華様…私たちは、いつでも唯華様の味方です。たとえ、世界中が唯華様を敵に回しても、私たちは、唯華様と共に戦います。唯華様が、一人で戦っているわけじゃない。私たちが、唯華様と共に戦っているんです」


美咲は、唯華の冷たくなった手をそっと握りしめた。唯華は、美咲の温かい手を力強く握り返し、再び優しく微笑んだ。


「ありがとう、美咲。君がいてくれて、本当に嬉しい」


唯華の瞳には、ほんの少しだけ、涙が浮かんでいた。しかし、それはすぐに消え去り、彼女の瞳は、再び鋭い光を放ち始めた。彼女は、再び最高指導者としての顔に戻っていた。


「さあ、美咲。もう時間がない。最終確認を始めよう」


唯華が、モニターに映し出された地図を指差しながら言った。美咲は、無言で頷き、唯華の隣に立った。二人の間には、言葉以上の絆と信頼が満ちていた。

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