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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
革命のための最初の犠牲者。

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第6話、革命のための最初の犠牲者。2

唯華の日常は、以前にも増して熱気を帯びていた。学校の授業、放課後の図書室での調べもの、そして夜のオンライン活動。その全てが、彼女の中で繋がり、「日本を変える」という大きな目標に向かって収束していく。彼女の瞳は、常にその目標を捉え、燃え盛る炎のように輝いていた。学校では、優等生として振る舞い、誰にでも分け隔てなく接する唯華は、クラスの人気者だった。特に鈴鹿裕樹とは、放課後も一緒に図書館で勉強したり、他愛のない話で盛り上がったりと、親しい友人関係を築いているように見えた。しかし、唯華の心の中では、彼らとの関係はあくまで表面的なものであり、深い共感を覚えることはなかった。



唯華が立ち上げた匿名アカウント群は、瞬く間にその影響力を拡大させていった。彼女の言葉は、まるで渇いた大地に降る恵みの雨のように、鬱屈した感情を抱える若者たちの心に染み渡る。彼らは、唯華の投稿に「いいね」を押し、「リツイート」し、そして「コメント」で熱烈な支持を表明した。


「唯華さんの言う通りだ! この国は変わるべきだ!」「既存のメディアは真実を報道していない! 唯華さんの情報こそが真実だ!」「俺たちも唯華さんと一緒に、この国を変えたい!」


唯華のコメント欄は、常にこのような熱狂的な言葉で埋め尽くされていた。彼女は、そうしたコメントの一つ一つに目を通し、時に煽るような言葉で、時に冷静な分析で、支持者たちの感情をさらに高ぶらせていった。


コミュニティのメンバーは、唯華の指示に従い、彼女が投稿した情報や主張を積極的に拡散した。唯華は、世の中の出来事を独自の視点で分析し、その本質を浮き彫りにするような投稿を続けた。例えば、既存の経済システムの問題点や、教育制度の不備、政治の透明性の欠如など、多くの人々が漠然と感じていた社会への不満を、明確な言葉で表現した。そうした情報が、瞬く間にSNSを駆け巡り、多くの若者の共感を呼んだ。唯華は、そうした状況を冷静に分析し、「世論は動かせる」という確信を深めていった。コミュニティの陰に不穏な空気が漂うことはなかった。メンバーたちは、唯華の思想に深く傾倒しつつも、現実世界での言動は常に穏やかで、表面的には「善良な市民」として生活していた。彼らは、唯華と同じように、オンライン上での活動と現実世界での振る舞いを明確に区別していた。


夜が更けると、唯華は自室のパソコンの前に座り、コミュニティのチャットルームを開く。そこでは、日中よりもさらに活発な議論が繰り広げられていた。


「この国の問題の根源はどこにあるのだろう?」「どうすれば、もっと良い社会を築けるだろう?」「新しい日本を創造するために、私たちに何ができるだろう?」


唯華は、そうした言葉に耳を傾けながら、キーボードを叩く。彼女の言葉は、メンバーたちの向上心に、さらに拍車をかけるものだった。


「私たちは、新しい日本を創造する。そのために、既存の秩序を冷静に分析し、あるべき姿を追求する必要がある」「臆病者はいらない。真の勇気と知性を持つ者だけが、この変革を成し遂げられる」


唯華の言葉に、メンバーたちはさらに熱狂する。彼らは、唯華を「救世主メシア」と呼び、彼女の言葉を「聖典」のように崇めるようになっていた。唯華は、オンラインコミュニティのメンバーたちとの繋がりこそが、「真の仲間」との繋がりだと感じており、決して孤独ではなかった。



鈴鹿裕樹は、唯華の変化を最も近くで見守っていた一人だった。唯華が授業中に鋭い質問を投げかけ、教師を唸らせるたび、裕樹は誇らしい気持ちになった。休み時間に、クラスメイトが唯華の周りに集まり、彼女の言葉に耳を傾ける姿を見るたび、裕樹は胸の奥が温かくなるのを感じた。以前の唯華からは想像もできない、「強い光」を放つ彼女に、裕樹はますます惹きつけられていった。


しかし、その輝きが増すにつれて、裕樹の胸には拭い去れない不安が募っていった。唯華の瞳の奥に宿る、時折見せる「鋭く、研ぎ澄まされた光」が、裕樹を不安にさせるのだ。それは、知的な好奇心とは異なる、ある種の「狂気」にも似た光に見えた。


ある日の昼休み、裕樹は思い切って唯華に話しかけた。


「神月さん、最近、すごく楽しそうだね。授業でも、いつも積極的に発言してるし」


唯華は、一瞬だけ裕樹に目を向け、小さく微笑んだ。


「うん。色々と考えるのが、楽しくなってきたんだ」


唯華の言葉に、裕樹は胸をなでおろした。しかし、その後に続く唯華の言葉に、裕樹の心は再びざわついた。


「この国は、変えなきゃいけない。そのためには、もっと知識が必要だし、もっと多くの人に私の考えを理解してもらう必要がある」


唯華の言葉には、以前よりも増して「強い決意」が宿っていた。裕樹は、唯華が単なる知的好奇心からではなく、何か大きな目的のために突き進んでいることを感じ取った。


「神月さんは、何を目指しているの?」


裕樹は、恐る恐る尋ねた。唯華は、少しだけ沈黙した後、裕樹の目を真っ直ぐに見つめた。


「この国を、もっと良くすること。そのために、私にできることは何でもするつもりだよ。」


唯華の瞳には、揺るぎない決意と、わずかな「危険な光」が宿っていた。裕樹は、その光に言いようのない畏怖の念を抱いた。唯華の言葉は、まるで宗教の教義のように、裕樹の心に重くのしかかった。


裕樹は、放課後、一人で校庭のベンチに座っていた。唯華の言葉が、頭の中で何度も反響する。


「神月さんは、どこへ向かおうとしているんだろう…?」


裕樹は、唯華のことが心配でたまらなかった。彼女の才能が、間違った方向へと向かってしまうのではないか。彼女の「純粋な情熱」が、何か恐ろしいものへと変貌してしまうのではないか。裕樹は、唯華を救いたいという気持ちと、彼女の「熱い想い」を理解したいという気持ちの間で揺れ動いていた。



学年主任の松原先生は、唯華の変化に強い懸念を抱いていた。当初は、唯華の知的な好奇心と、秘められた才能が開花したのだと喜んでいた。しかし、最近の唯華の言動や、クラスでの発言を聞くにつれて、その考えは変わっていった。


唯華は、学校や授業中、クラスメイトや鈴鹿のいる前では、社会や教科書に対する批判を一切口にしなかった。しかし、教師の言葉を遮り、自らの主張を滔々と述べることはあった。その言葉には、論理的な裏付けがあるものの、どこか「攻撃的」で、「排他的」な響きが含まれていた。


ある日の社会科の授業中、日本の経済成長についての解説が行われていた。教師が、戦後の復興から高度経済成長期を経て、日本が世界の経済大国へと成長した過程を説明していた時、唯華は突然手を挙げた。


「先生、それは表面的な数字に過ぎません。その裏には、環境破壊や労働者の搾取、そして格差拡大といった、目を背けられない問題が隠されています。教科書に書かれていることは、都合の良い美化された歴史に過ぎないのではないでしょうか?」


唯華の鋭い質問に、教師は一瞬言葉に詰まった。クラスメイトたちは、唯華の言葉に静まり返った。その場にいた松原先生は、唯華の言葉に「強い違和感」を覚えた。彼女の言葉は、単なる批判に留まらず、既存の社会システム全体を否定するような響きを持っていたからだ。


授業後、松原先生は社会科の教師に唯華について尋ねた。


「神月さんは、最近、発言が鋭くなってきているようですね。何か気になっていることはありますか?」


社会科の教師は、困ったように首を傾げた。


「確かに、神月さんの発言は鋭いものが多いです。ただ、知的な好奇心からくるものだと思っていましたが…」


松原先生は、唯華が以前提出した社会科のプリントの内容を思い出した。そこには、確かに社会に対する深い洞察力と、既存のシステムへの強い不信感が溢れていた。しかし、その時には、単なる「優秀な生徒の考察」として受け止めていた。


「神月さんの知的好奇心は素晴らしいものですが、その方向性が少し気になります。彼女は、何か特定の思想に傾倒しているような…」


松原先生は、自分の直感を信じ、唯華を注意深く観察することにした。彼女の言葉、行動、そして何よりもその瞳の奥に宿る、燃え盛るような情熱が、一体どこへ向かおうとしているのか。松原先生の胸には、唯華の将来に対する、漠然とした「不安」が広がっていた。


ある日、松原先生は唯華のSNSのアカウントを特定した。そこには、彼女の過激な思想が匿名で発信され、多くの若者たちがそれに共感し、熱狂している様子が克明に記されていた。松原先生は、唯華のオンライン活動の「危険性」を肌で感じた。彼女のカリスマ性が、もし誤った方向へと向かえば、取り返しのつかない事態になるかもしれない。


松原先生は、唯華と直接話すことを決意した。しかし、どのように切り出せばいいのか、言葉を選んだ。唯華の「純粋な情熱」を否定することなく、彼女の「危険な思想」を諭すことができるのか。松原先生は、教育者としての経験と責任の重さを感じていた。



唯華は、自身の変化が周囲に与える影響については、ほとんど意識していなかった。彼女の頭の中は、日本を変えるという使命感と、そのための具体的な計画で満たされていた。オンラインコミュニティでの活動は、唯華にとって、「真の自分」を表現できる場所だった。現実世界では理解されない自分の思想が、ここでは熱狂的に支持される。その事実に、唯華は「深い喜び」を感じていた。


唯華は、もはや後戻りはできないと感じていた。彼女の思想は、社会科の先生の言葉によって肯定され、オンラインコミュニティでの活動によって、さらに強固なものへと変貌していた。彼女は、自分が「選ばれた存在」であり、日本を変える「使命」を帯びていると確信していた。


学校での授業中、唯華は教科書に書かれた内容を、以前にも増して「批判的な目」で見るようになっていた。彼女にとって、それは「真実ではない」もの、「都合よく作られた」ものに過ぎなかった。教師の言葉も、彼女の耳には、「既存のシステムを擁護する」ものとして響く。しかし、彼女はそれらを心の中で反論するだけで、決して表には出さなかった。


クラスメイトや鈴鹿とは学校にいる時や遊んでいるときは、笑顔で接し、仲が良いように装っていた。しかし、心の奥底では、彼らを「自分とは違う存在」として、どこか見下していた。


「この国は、私がいなければ変わらない。私が、この国を救うんだ。」


唯華は、自らの使命感を胸に、夜のパソコンの前に向かう。そこには、彼女を「救世主メシア」と崇める、熱狂的な信者たちが待っている。唯華の指が、キーボードの上を軽やかに滑る。彼女の言葉は、オンラインの匿名性を盾に、現実世界では吐き出せない不満や怒りを抱える若者たちの心を掴み、その思想をさらに「危険な方向」へと加速させていく。


唯華の描く「革命」の絵図は、着実にその輪郭を現し始めていた。しかし、その絵図の先に何があるのか、彼女自身もまだ知る由もなかった。それは、希望に満ちた未来なのか、それとも誰も予期せぬ「破滅」へと続く道なのか。

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