第67話、絶望と動乱と混沌と。22
輸入と並行して、神聖日本帝国の国内でも、兵器の生産が急ピッチで進められていた。唯華は、目標とする兵器の総量の3割を国内で生産するよう指示しており、そのための工場が次々と稼働していた。
かつて自動車工場だった場所は、今や戦車や戦闘車両の生産ラインへと姿を変えていた。東京都心から離れた郊外の工業地帯に位置する巨大な工場では、24時間体制で生産が続けられていた。巨大なプレス機が轟音を立て、溶接の火花が飛び散る。熟練の技術者たちが、最新鋭の機械と手作業を組み合わせ、次々と兵器を組み上げていく。
「この溶接、もう少し強度を上げろ!妥協は許されないぞ!」
工場の責任者が、怒鳴り声を上げる。作業員たちは、汗だくになりながらも、黙々と作業を続けていた。彼らの顔には、祖国再建への使命感が宿っていた。彼らは、最高の品質の兵器を生産するために、一切の妥協を許さなかった。
静岡県の沿岸部に位置する巨大な造船所では、上陸艇や駆逐艦、さらには空母の建造が進められていた。巨大な船体が、骨組みから徐々に形を成していく様子は、まさに圧巻だった。ドックには、複数の船体が同時に建造されており、溶接の火花が夜空を彩った。
「主砲の取り付け作業、急げ!予定より3日遅れているぞ!『暁の雷鳴』作戦まで、もう時間がないんだ!」
造船所の責任者が、怒鳴り声を上げる。作業員たちは、溶接マスクを被り、火花を散らしながら作業を続けていた。彼らの顔には、疲労の色が濃く出ていたが、その目には、祖国のために働く誇りが宿っていた。
空母の建造は、特に困難を極めた。全長300メートルを超える巨大な船体は、膨大な資材と時間を要する。しかし、技術省の総力を挙げた努力により、建造は着実に進められていた。甲板には、戦闘機の離発着をシミュレートするための模擬滑走路が設置され、パイロットたちの訓練も開始されていた。建造中の空母の周囲には、厳重な対空警戒網が敷かれ、偵察機やドローンの侵入を許さなかった。
ヘリコプターや戦闘機の生産も、同様に加速していた。航空機工場では、最新鋭の設備が導入され、熟練の航空機技術者たちが、一つ一つの部品を丁寧に組み立てていく。ジェットエンジンの轟音が響き渡り、完成した機体が格納庫へと運び込まれていく。特に、MiG-29やSu-34といった輸入機のライセンス生産も進められ、国内での技術蓄積も図られていた。
これらの国内生産は、神聖日本帝国の経済を活性化させ、多くの雇用を生み出した。国民は、自らの手で国を支えているという実感を得ており、その士気は極めて高かった。唯華の「国民のための経済」という理念は、着実に実現されつつあった。
翌年の3月、神聖日本帝国の建国から約半年が過ぎた頃、唯華は極秘裏に「岩国基地鹵獲作戦」の実行を命じた。目標は、西日本政府が統括する山口県岩国市に位置する在日米軍岩国基地。ここは、米軍の主要な航空基地であり、海兵隊の航空部隊が駐留する戦略的要衝だった。唯華の狙いは、この基地に配備されている最新鋭の航空機や、膨大な量の兵器を鹵獲し、神聖日本帝国の戦力に組み込むことだった。
作戦の指揮を執るのは、特殊作戦部隊長の中村健太。彼は元自衛隊特殊作戦群のエキスパートであり、潜入、破壊工作、要人警護の全てにおいて比類なき能力を発揮する。彼の部隊は、選りすぐりの精鋭500名で構成されていた。彼らは、これまでにも西日本政府軍の小規模な拠点への潜入作戦を成功させており、その練度は極めて高かった。
3月某日、日付が変わる直前の深夜。岩国基地沖合の暗闇の中、神聖日本帝国の特殊作戦部隊を乗せた小型潜水艇が、静かに浮上した。波の音だけが響く中、隊員たちはウェットスーツに身を包み、特殊な水中スクーターを使って海中へと潜行していく。彼らの顔には、最新型の暗視ゴーグルが装着され、暗闇の中でも周囲の状況を鮮明に捉えていた。水深計は、彼らが目標とする水深10メートルを正確に示している。
「目標、海岸線まで残り500メートル。警戒を怠るな。センサーの死角を厳守しろ」
中村部隊長の声が、隊員たちの骨伝導ヘッドセットに響く。冷たい海水が肌を刺すが、彼らの表情は微動だにしなかった。彼らは、事前に情報省から得た詳細な海底地形図と、基地の警備網の死角情報を頭に叩き込んでいた。岩国基地の海岸線は、厳重な監視体制が敷かれているはずだが、彼らはその隙を突くための訓練を重ねていた。
やがて、隊員たちは基地のフェンスが海に接する地点に到達した。フェンスの下には、水中侵入を防ぐための最新鋭のセンサーが設置されているはずだが、中村部隊長は事前に情報省のサイバー部隊が解析した情報に基づき、そのセンサーの死角を正確に把握していた。彼らは、センサーのわずかな隙間を縫うように、静かに水中から顔を出す。
「よし、ここから上陸する。音を立てるな。足元に注意しろ、岩場が滑りやすい」
中村部隊長の指示で、隊員たちは特殊な吸盤付きのフックを使ってフェンスを乗り越え、基地の敷地内へと侵入した。彼らのウェットスーツは、暗闇に溶け込む特殊な素材で作られており、肉眼ではほとんど視認できなかった。彼らの足音は、アスファルトの上を滑るように静かで、まるで存在しないかのようだった。
基地内は、夜間照明が点々と灯り、まるで巨大な影絵のようだった。遠くからは、巡回する米兵の話し声が微かに聞こえてくる。隊員たちは、訓練で培ったカモフラージュ技術を駆使し、影から影へと移動していく。彼らは、基地内の監視カメラの位置や、巡回ルートを完璧に把握しており、一切の接触を避けていた。彼らは、まるで闇に溶け込んだ幽霊のように、音もなく任務を遂行していった。
特殊作戦部隊の最初の目標は、基地内の兵器庫だった。米軍の兵器庫は、厳重なセキュリティシステムで守られている。赤外線センサー、圧力センサー、そして無数の監視カメラ。しかし、情報省のサイバー部隊が、事前にこれらのシステムを解析し、侵入ルートとハッキングコードを中村部隊長に伝えていた。
兵器庫の入り口に到着した隊員たちは、まず監視カメラの死角に入り、ハッキング班がシステムに侵入する。彼らは、特殊な端末を操作し、兵器庫のセキュリティシステムにアクセスした。数秒後、監視カメラの映像が停止し、センサーが無効化されたことを示す緑色のランプが点灯した。
「よし、侵入開始。警戒を怠るな。内部に警備員がいる可能性もある」
中村部隊長の指示で、隊員たちは特殊な工具を使って兵器庫の頑丈な扉をこじ開けた。金属が軋む微かな音が、静寂な夜に響く。扉が開くと、中には膨大な量の銃火器が整然と並べられていた。M4カービン、M16アサルトライフル、M249軽機関銃、M240機関銃、そして様々な種類の拳銃や手榴弾、さらには最新鋭の暗視装置やレーザーサイトまでが、整然と棚に並べられている。
「鹵獲班、急いで弾薬と銃器を確保しろ!優先順位は、アサルトライフル、機関銃、狙撃銃だ!ケースに詰めろ!」
隊員たちは、手際よく銃器を専用の耐衝撃ケースに詰め込み、弾薬箱を運び出す。彼らは、米軍の最新鋭の銃器を手に入れることに、興奮を隠せない様子だった。これらの銃器は、神聖日本帝国の兵士たちの装備を強化し、来るべき戦いに備えるための貴重な戦力となる。兵器庫の奥には、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイルなども保管されていた。これらもまた、鹵獲の対象となった。隊員たちは、可能な限り多くの兵器を運び出すために、最大限の努力を払った。彼らは、運び出した銃火器を、基地内に事前に隠しておいた小型の輸送車両に積み込んでいった。
その間も、基地内を巡回する米兵の姿が、時折、遠くに見えた。しかし、中村部隊長の部隊は、完璧なステルス行動で彼らの目を欺き、一切の接触を避けていた。彼らは、まるで闇に溶け込んだ幽霊のように、音もなく任務を遂行していった。彼らの動きは、まるで訓練された影のようだった。




