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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
絶望と動乱と混沌と。

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第64話、絶望と動乱と混沌と。19

「ゆい姉」としての顔を持つ一方で、神月唯華は、私立紫電高校の普通の女子高生としての日常も送っていた。最高指導者邸の執務室から、彼女は再び制服に着替え、学校へと向かう。厳重な警備体制は変わらないが、学校では、彼女はあくまで「神月唯華」として振る舞った。


「唯華、今日の古文の授業、難しかったねー!助動詞が全然覚えられないよー!」


放課後、美咲、花音、里奈が唯華の周りに集まってくる。美咲は、学校では唯華の親友としての顔を完璧に演じ、唯華の体調を常に気遣っていた。


「古文は、文法をしっかり理解すれば大丈夫だよ。何度も音読して、体に染み込ませるのが一番だよ。」


唯華は、優しく微笑みながら答えた。その笑顔は、最高指導者としての冷徹な表情とは異なり、年相応の少女のあどけなさを感じさせた。


「ねー、唯華はいつも満点なのに、どうしてそんなにできるの?私なんて、いつも赤点ギリギリだよー」


花音が、おっとりとした口調で唯華に尋ねる。


「努力あるのみだよ、花音。それに、勉強は楽しいものだよ。新しい知識を得ることは、世界を広げることだからね。」


里奈が、ファッション雑誌を片手に唯華に話しかける。「唯華、今度の週末、新作の服を見に行かない?唯華に似合いそうな服がたくさんあったんだ!」


唯華は、少し考えてから、美咲に視線を送った。美咲は小さく頷いた。


「うん、いいよ。たまには息抜きも必要だもんね。」


友人たちとの時間は、唯華にとって、最高指導者としての重圧から解放される唯一のひとときだった。彼女たちは、唯華が最高指導者であるという事実を理解しつつも、彼女を一人の友人として接してくれた。そのことが、唯華の心を支えていた。


そして、唯華の隣の席には、鈴鹿裕樹が座っていた。彼と唯華の間には、常に微妙な距離感があった。裕樹は、唯華の圧倒的なオーラに近づくことを躊躇しつつも、かつての親友を理解したいという切ない思いを抱いていた。


「あの、神月さん……今日の物理の、ここがどうしても分からなくて……」


放課後、裕樹は恐る恐る唯華にノートを見せた。彼の顔は、いつも少し赤らんでいた。


唯華は、にこやかに裕樹のノートに目をやり、優しい声で尋ねた。「あら、鈴鹿君。ここが分からないのね。大丈夫、一緒に見てみようか。」


唯華にとって、裕樹はあくまで「ただのクラスメイト」であり、それ以上の感情は抱いていなかった。しかし、国民へのメッセージとして「普通の高校生」を演じる以上、クラスメイトの頼みを無下にはできなかった。


図書室の一角、唯華が座る席の周囲は、目立たないように警備員が配置され、他の生徒は近づかないように誘導されていた。唯華は、裕樹の隣に座ると、彼のノートを広げた。


「ここは、この法則を使えばいいんだよ。なぜこの法則を使うのか、その原理から説明するね。よく聞いてて。」


唯華は、簡潔かつ的確に、裕樹が理解できない問題を解説した。その説明は、教師よりも遥かに分かりやすく、裕樹は唯華の知性に改めて驚嘆した。唯華の指が、スラスラとノートの上を滑り、複雑な数式が解き明かされていく。裕樹は、唯華の横顔を盗み見ながら、その冷徹な美しさに息をのんだ。


「わ、分かった!ありがとう、神月さん!すごくよく分かった!」


裕樹は、唯華の解説に感動し、目を輝かせた。唯華は、そんな裕樹の反応に優しく微笑んだ。


「よかったね。でも、時間だよ。これ以上は付き合えないから。次からは、もっと自分で考えるようにね。」


唯華はそう言い残し、立ち上がった。裕樹は、唯華の後ろ姿を見送りながら、彼女の背中が、かつてよりもずっと大きく、そして遠く感じられることに気づいた。彼との会話においても、唯華は神聖日本帝国の具体的な内情や活動内容に触れることはなく、あくまで一般的な助言や、国家の理念に関わる抽象的な言葉に留めた。彼の心の中には、唯華への理解を深めたいという切ない願いと、彼女の圧倒的な存在感に対する畏怖が、複雑に絡み合っていた。



神聖日本帝国の国内統治が安定し、軍事力増強が着々と進む一方で、国際社会の反応は依然として複雑だった。日本の分断という前代未聞の事態に、各国は対応に苦慮していた。


アメリカは、西日本政府への支援を強化する姿勢を見せていた。最新鋭の軍事装備の供与や、合同軍事演習の実施が検討され始めた。太平洋艦隊は、日本近海に展開する空母打撃群の規模をさらに拡大し、神聖日本帝国への牽制を強めた。


「日本の安定は、東アジアの安全保障に不可欠だ。我々は、民主主義と自由を守るため、西日本政府を全面的に支援する。」


アメリカ国務長官は、国際会議の場でそう宣言したが、神聖日本帝国の強固な防衛体制と、国民からの一定の支持を背景に、具体的な軍事介入には踏み切れないでいた。


一方、中国やロシアは、日本の内政問題として静観する姿勢を崩さなかった。彼らは、神聖日本帝国が西側諸国と対立することで、自国の影響力拡大の好機が訪れると見ていた。特に中国は、東日本が持つ技術力や資源に注目し、水面下で貿易交渉を打診してきた。しかし、唯華は、中国やロシアとの安易な連携は、帝国の理念に反すると判断し、これらの申し出を全て断固として拒否した。


「神聖日本帝国は、いかなる外国勢力にも依存しない。我々は、自らの力でこの国を築き上げる。中国やロシアとの連携は、帝国の独立性を損なう可能性がある。彼らの思惑に乗るつもりはない。」


ゆい姉は、幹部たちにそう告げ、外交省に指示を出した。


EU諸国は、経済的な混乱を懸念し、日本との貿易関係の維持を模索していた。特に、半導体や自動車部品のサプライチェーンへの影響は甚大であり、各国政府は日本への経済使節団の派遣を検討し始めた。神聖日本帝国は、EU諸国との貿易関係は維持しつつも、政治的な干渉は一切受け入れないという姿勢を明確にした。


国連安全保障理事会では、連日、日本の情勢を巡る激論が交わされたが、各国の思惑が複雑に交錯し、具体的な解決策は見出せないままだった。世界は、新たな日本の誕生を、不安と期待が入り混じった眼差しで見つめていた。



神聖日本帝国の統治が盤石になりつつある中、新たな脅威が水面下で動き始めていた。旧体制の残党や、唯華の「浄化」の理念に反発する者たちが、西日本へと逃れ、反神聖日本帝国勢力として組織化されつつあったのだ。彼らは、西日本政府の支援を受け、東日本への破壊工作や情報攪乱を企てていた。


ある夜、神聖日本帝国の国境警備隊が、不審なドローンを発見した。それは、西日本から飛来したもので、帝国の軍事施設を偵察していることが判明した。情報省は、このドローンが西日本政府の支援を受けた反体制組織によるものであると断定し、警戒レベルを引き上げた。


唯華は、この報告を受けると、美咲に静かに命じた。


「美咲、西日本に潜伏している旧体制の残党と、彼らを支援する勢力の情報を徹底的に洗い出せ。そして、彼らがこれ以上、帝国の秩序を乱すことがないよう、早急に対処して。彼らの動きは、全て私に報告するように。」


美咲は、唯華の言葉に迷いなく頷いた。彼女の瞳には、最高指導者の命令を遂行する鋼の意志が宿っていた。神聖日本帝国は、内政の安定と国際社会への対応に追われる一方で、新たな脅威との戦いにも直面することになった。ゆい姉の「浄化」の道は、まだ多くの困難が待ち受けているようだった。


物語は、唯華が最高指導者としての重責と、高校生としての日常の狭間で葛藤しながら、新たな脅威に立ち向かっていく姿を描いていく。神聖日本帝国は、真の平和と繁栄を築き上げることができるのか、そして唯華は、本当に「神」となるのか。その答えは、まだ誰も知らない。


鈴鹿裕樹は、唯華が「ゆい姉」と名乗り始めたことを、テレビのニュースで知った。最高指導者としての彼女が、より国民に寄り添う姿勢を見せようとしているという報道に、裕樹の心は複雑な感情で揺れ動いた。学校では、相変わらず「神月さん」と呼んでいるが、彼の心の中では、唯華の存在はますます遠く、そして巨大なものになっていくのを感じていた。


放課後、図書室で唯華に数学を教えてもらう時間は、彼にとって唯一、彼女と個人的に接することができる貴重な時間だった。しかし、その時間でさえ、唯華はあくまで「普通の高校生」を演じているだけで、彼女の本当の顔、最高指導者としての顔は、決して彼に見せることはなかった。


「神月さん、本当にすごいよ。何でも知ってるんだから。」


裕樹は、唯華の解説を聞きながら、感嘆の声を漏らした。唯華は、優しく微笑むだけだった。その微笑みの裏に、どれほどの重圧と決意が隠されているのか、裕樹には知る由もなかった。


ある日、裕樹は、勇気を出して唯華に尋ねた。


「あの、神月さん……神聖日本帝国って、これからどうなるの? 西日本との関係とか、やっぱり戦争になってしまうの?……」


唯華は、一瞬、その表情を曇らせた。しかし、すぐにいつもの落ち着きを取り戻し、裕樹の目を見据えた。


「鈴鹿君。神聖日本帝国は、国民の平和と繁栄のために存在する。そして、そのために必要なことは、全てやる。戦争は、決して望ましいことじゃない。でも、国民を守るためなら、どんな犠牲も厭わない。それが、私の、そして神聖日本帝国の決意だよ。」


唯華の言葉は、静かでありながら、裕樹の心に重く響いた。彼は、唯華の瞳の奥に、揺るぎない信念と、そして微かな悲しみが宿っているのを感じた。彼女は、本当にこの国のために、全てを捧げようとしているのだと。


裕樹は、唯華の言葉に、何も答えることができなかった。彼の心の中には、唯華への畏敬の念と、彼女が背負う重責への理解、そして、かつての親友が、あまりにも遠い存在になってしまったことへの寂しさが、複雑に絡み合っていた。彼は、唯華が放つ圧倒的なオーラに、近づくことを躊躇していた。しかし、彼の心の中に芽生えた、唯華への漠然とした恐れは、今、確かな現実として彼の前に立ちはだかっていた。


物語は、まだ始まったばかりだ。ゆい姉が率いる神聖日本帝国は、来るべき「暁の雷鳴」に向けて、着々と準備を進めている。そして、鈴鹿裕樹は、その歴史の大きなうねりの中で、自分の居場所を探し続けるだろう。唯華の瞳の奥に微かに宿る温かい光が、この新たな帝国に、どのような影響を与えるのか、そしてこの国に何をもたらすのか、誰も知る由もない。

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