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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
絶望と動乱と混沌と。

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第61話、絶望と動乱と混沌と。16

神聖日本帝国建国から数ヶ月後、唯華は奇跡的な回復を見せ、その顔色には以前のような青白さはなく、健康的な血色が戻っていた。しかし、最高指導者としての彼女の日常は、想像を絶するほど多忙を極めていた。新日本解放戦線の活動スケジュール以外は、すべて唯華自身が管理していた。美咲は、唯華の副官として、唯華が多忙なスケジュールを管理するのを補佐し、彼女の健康状態を常に気遣った。

「唯華様、本日の会議は午前中のみで、午後は休養に充てていただきたいのですが……」

美咲が心配そうに言うと、唯華は静かに首を振った。

「休んでる暇はない。この国を真の理想郷にするためには、私が先頭に立たなきゃ。それに、美咲、私、高校に復学する。」

美咲は驚いて目を見開いた。「高校に、ですか!?しかし、唯華様の身の安全が……」

「問題ないよ。これも、国民へのメッセージ。最高指導者である私が、普通の高校生として学ぶ姿を見せることで、国民は安心するだろう。それに、学校は社会の縮図だ。国民の生の声を、直接聞くことができる。情報収集の場としても重要だ。」

唯華の決意は固かった。彼女は、最高指導者としての職務をこなしながら、再び高校生としての生活を送ることを決意したのだ。美咲は唯華の安全を確保するため、厳重な警備体制を敷いた。唯華が登校する際には、武装した護衛車両が数台連なり、学校の周囲には私服の警備員が配置され、校舎内にも唯華の動向を監視する目が光っていた。しかし、唯華の護衛に関する具体的な状況や警備の詳細は、唯華と美咲、そして神聖日本帝国の幹部以外には知らされておらず、唯華自身もそのことについて口にすることはなかった。友人たちと過ごす際には、警備員たちは唯華のすぐ近くにいるものの、周囲からは気づかれないように細心の注意を払って護衛しており、友人たちには唯華がただ普通に遊んでいるようにしか見えなかった。

唯華が復学したのは、以前通っていた私立紫電高校だった。校門をくぐる唯華の姿は、瞬く間に生徒たちの間に広まった。ざわめきが校庭を包み込み、誰もが唯華の姿を凝視した。かつては優等生として知られていた彼女が、今や東日本を統治する最高指導者となったという事実は、生徒たちに大きな衝撃を与えた。畏怖と好奇心が入り混じった視線が、唯華に突き刺さった。

唯華のクラスメイトたちは、彼女の変化に戸惑いを隠せなかった。以前の唯華は、どこか近寄りがたい雰囲気を持っていたが、今の彼女は、その冷徹な眼差しの奥に、計り知れない威厳を宿していた。休み時間には、唯華の周りに人だかりができ、生徒たちは恐る恐る質問を投げかけた。

「神月さん、本当に日本を分断したの?」「テレビで見た裁判、あれは本当だったの?」「徴兵制って、私たちも行かなきゃいけないの?」

唯華は、一つ一つの質問に、冷静かつ丁寧に答えた。彼女の言葉には、最高指導者としての責任と、国民への真摯な思いが込められていた。しかし、神聖日本帝国の内情や、進行中の活動内容については、決して口にしなかった。友人たちとの間では、彼女はあくまで普通の高校生として振る舞い、国家の機密に関わる話は一切しなかった。

「神聖日本帝国は、国民の幸福のために存在するんだ。旧体制の腐敗を浄化し、真の平和と繁栄をもたらすことが、私の使命だから。徴兵制は、国民一人ひとりが自国の防衛意識を高め、連帯感を育むために必要不可欠なものだよ。みんなが、この国の未来を担う一員なんだから。」

唯華の言葉は、生徒たちの心に深く響いた。最初は恐れていた生徒たちも、唯華の真剣な眼差しと、力強い言葉に、次第に畏敬の念を抱くようになった。彼女の言葉には、人を惹きつける不思議な力があった。一部の生徒たちは、唯華の言葉に感銘を受け、自らも帝国の建設に貢献したいと考えるようになった。

唯華の日常は、学校と最高指導者としての執務の往復だった。授業中は真剣にノートを取り、教師の質問には的確に答えた。その学力は以前と変わらず、常にトップクラスを維持していた。放課後には、唯華自身が手配した専用の部屋で、幹部たちとのオンライン会議や報告書の確認を行った。山積する書類の山を前に、唯華は深夜まで執務に追われた。睡眠時間は極端に短く、美咲は常に唯華の体調を心配していた。唯華の顔には、疲労の色が隠しきれないこともあったが、彼女は決して弱音を吐かなかった。

しかし、唯華の高校生活は、最高指導者としての顔だけではなかった。彼女には、佐藤美咲(副官でもある)、鈴木花音、田中里奈という、いつも一緒にいる親友がいた。放課後になると、美咲、花音、里奈は唯華の周りに集まり、まるで以前と変わらないように他愛のない会話を交わした。

「唯華、今日の数学の小テスト、難しかったねー!」と、クラスで一番明るい性格の、ショートカットの女子、佐藤美咲が声を弾ませた。彼女の笑顔は向日葵のように明るく、人懐っこい。美咲は唯華の副官としての顔とは別に、学校では唯華の最も身近な友人として、その心の支えとなっていた。

「ねー、唯華はいつも満点なのに、どうしてそんなにできるの?私なんて、いつも赤点ギリギリだよー」と、おっとりとした雰囲気の長身の女子、鈴木花音が穏やかな笑みを浮かべて唯華に尋ねた。花音は、唯華の知性に常に感嘆し、彼女の隣にいるだけで安心感を覚えるようだった。

そして、その隣には、お洒落で流行に敏感な田中里奈が、ファッション雑誌から抜け出してきたかのような洗練された雰囲気で立っていた。彼女たちの視線は、期待に満ちて唯華に注がれている。里奈は、唯華の私服選びや、休日の過ごし方について、いつも興味津々だった。

美咲は、そんな友人たちのやり取りを微笑ましく見守りながらも、唯華の顔色をそっと窺っていた。彼女は、唯華が無理をしていないか、常に気を配っていた。唯華が少しでも疲れた表情を見せると、美咲はさりげなく「唯華、少し休憩しない?」と声をかけ、唯華の体調を気遣った。

唯華は、そんな友人たちの前では、最高指導者としての重圧を一時的に忘れ、普通の女子高生に戻ることができた。彼女たちは、放課後には校内のカフェテリアで新作のスイーツを試したり、週末には唯華の厳重な警備の下、ショッピングモールに出かけたりした。友人たちとの時間は、唯華にとって、唯一心を休めることができる貴重なひとときだった。彼女たちは、唯華が最高指導者であるという事実を理解しつつも、彼女を一人の友人として接してくれた。そのことが、唯華の心を支えていた。

「唯華、今度の連休、みんなで映画見に行かない?新作のラブコメだよ!予告編見たけど、すっごく面白そうだったよ!」と花音が提案すると、里奈も「いいじゃん!唯華もたまには息抜きしないと!美咲も一緒に行こうよ!あのカフェの新作パンケーキも食べに行きたいし!」と目を輝かせながら続いた。

唯華は、少し考えてから、美咲に視線を送った。美咲は小さく頷いた。

「分かった。」

「もちろん!唯華と一緒ならどこでも楽しいよ!」「うん、大丈夫!」と花音と里奈は声を揃えて喜び、唯華の顔にも微かな笑みが浮かんだ。その笑顔は、最高指導者としての冷徹な表情とは異なり、年相応の少女のあどけなさを感じさせた。

そして、唯華の隣の席には、鈴鹿裕樹が座っていた。彼と唯華の間には、常に微妙な距離感があった。裕樹は唯華をかつてのクラスメイトとして親近感を抱いていたかもしれないが、唯華にとって彼はあくまで「ただのクラスメイト」の一人であり、それ以上の感情はなかった。裕樹は、唯華の隣で静かに授業を受け、時折、唯華の横顔を盗み見る。彼の心の中には、唯華への複雑な感情が渦巻いていた。畏敬の念、戸惑い、そして、かつての親友を理解したいという切ない思い。彼は、唯華が放つ圧倒的なオーラに、近づくことを躊躇していた。

放課後になると、裕樹は唯華に声をかけることが日課になっていた。

「あの、神月さん……今日の数学の、ここがどうしても分からなくて……」

裕樹は、恐る恐る唯華にノートを見せた。彼の顔は、いつも少し赤らんでいた。

唯華は、にこやかに裕樹のノートに目をやり、優しい声で尋ねた。「あら、鈴鹿君。ここが分からないのね。大丈夫、一緒に見てみようか。」彼女にとって、裕樹はあくまで「ただのクラスメイト」であり、それ以上の感情は抱いていなかった。しかし、国民へのメッセージとして「普通の高校生」を演じる以上、クラスメイトの頼みを無下にはできなかった。

「え、あ、はい!ありがとう、神月さん!」

唯華は、美咲に視線を送り、美咲は唯華の意図を察し、すぐに警備員に連絡を取り始めた。

図書室の一角、唯華が座る席の周囲は、目立たないように警備員が配置され、他の生徒は近づかないように誘導されていた。唯華は、裕樹の隣に座ると、彼のノートを広げた。

「ここは、この公式を使えばいいんだよ。なぜこの公式を使うのか、その原理から説明するね。よく聞いてて。」

唯華は、簡潔かつ的確に、裕樹が理解できない問題を解説した。その説明は、教師よりも遥かに分かりやすく、裕樹は唯華の知性に改めて驚嘆した。唯華の指が、スラスラとノートの上を滑り、複雑な数式が解き明かされていく。裕樹は、唯華の横顔を盗み見ながら、その冷徹な美しさに息をのんだ。

「わ、分かった!ありがとう、神月さん!すごくよく分かった!」

裕樹は、唯華の解説に感動し、目を輝かせた。唯華は、そんな裕樹の反応に優しく微笑んだ。

「よかったね。でも、時間だよ。これ以上は付き合えないから。次からは、もっと自分で考えるようにね。」

唯華はそう言い残し、立ち上がった。裕樹は、唯華の後ろ姿を見送りながら、彼女の背中が、かつてよりもずっと大きく、そして遠く感じられることに気づいた。彼との会話においても、唯華は神聖日本帝国の具体的な内情や活動内容に触れることはなく、あくまで一般的な助言や、国家の理念に関わる抽象的な言葉に留めた。彼の心の中には、唯華への理解を深めたいという切ない願いと、彼女の圧倒的な存在感に対する畏怖が、複雑に絡み合っていた。

ある日の放課後、唯華は校舎の屋上で一人、東京の街を見下ろしていた。夕焼けに染まるビル群は、かつての面影を残しつつも、どこか新しい生命力を感じさせた。唯華は、静かに呟いた。「この国が、真の平和を享受する日は、いつ訪れるのだろうか……」その時、屋上のドアが開き、美咲が中に入ってきた。「唯華様、こんなところで何をなさっているのですか? もうお時間です。」美咲の声に、唯華は振り返った。その顔には、一瞬、最高指導者としての厳しい表情が浮かんだが、すぐにいつもの落ち着きを取り戻した。「美咲か。少し、考え事をしていただけだ。もう時間か。分かった。」唯華はそう言って、美咲と共に屋上を後にした。彼女の意識は、すでに最高指導者としての未来へと向かっていた。



神聖日本帝国の国内統治が安定し、国民生活が改善の兆しを見せる一方で、西日本政府との関係は一層冷え込んでいた。西日本政府は、国際社会に向けて神聖日本帝国を「非合法な独裁政権」と非難し続け、東日本への経済制裁や軍事介入を強く求めた。しかし、神聖日本帝国の強固な防衛体制と、国民からの一定の支持を背景に、国際社会は具体的な行動に出ることを躊躇していた。


国連安全保障理事会では、日本の情勢を巡る議論が紛糾していた。アメリカは、日本の分断が東アジアの安全保障に与える影響を懸念し、西日本政府への支援を強化する姿勢を見せた。最新鋭の軍事装備の供与や、合同軍事演習の実施が検討され始めた。一方、中国やロシアは、日本の内政問題として静観する姿勢を崩さず、むしろ神聖日本帝国との関係構築を模索する動きを見せていた。しかし、神聖日本帝国は、中国、朝鮮、ロシアなどの国とは手を組むことはなかった。特に中国は、東日本が持つ技術力や資源に注目し、水面下で貿易交渉を打診した。EU諸国は、経済的な混乱を懸念し、日本との貿易関係の維持を模索した。特に、半導体や自動車部品のサプライチェーンへの影響は甚大であり、各国政府は日本への経済使節団の派遣を検討し始めた。国連安全保障理事会では、連日、日本の情勢を巡る激論が交わされたが、各国の思惑が交錯し、具体的な解決策は見出せないままだった。世界は、新たな日本の誕生を、不安と期待が入り混じった眼差しで見つめていた。



神聖日本帝国の統治が盤石になりつつある中、新たな脅威が水面下で動き始めていた。旧体制の残党や、唯華の「浄化」の理念に反発する者たちが、西日本へと逃れ、反神聖日本帝国勢力として組織化されつつあったのだ。彼らは、西日本政府の支援を受け、東日本への破壊工作や情報攪乱を企てていた。


ある夜、神聖日本帝国の国境警備隊が、不審なドローンを発見した。それは、西日本から飛来したもので、帝国の軍事施設を偵察していることが判明した。情報省は、このドローンが西日本政府の支援を受けた反体制組織によるものであると断定し、警戒レベルを引き上げた。


唯華は、この報告を受けると、美咲に静かに命じた。「美咲、西日本に潜伏している旧体制の残党と、彼らを支援する勢力の情報を徹底的に洗い出せ。そして、彼らがこれ以上、帝国の秩序を乱すことがないよう、早急に対処せよ。」


美咲は、唯華の言葉に迷いなく頷いた。彼女の瞳には、最高指導者の命令を遂行する鋼の意志が宿っていた。神聖日本帝国は、内政の安定と国際社会への対応に追われる一方で、新たな脅威との戦いにも直面することになった。唯華の「浄化」の道は、まだ多くの困難が待ち受けているようだった。


物語は、唯華が最高指導者としての重責と、高校生としての日常の狭間で葛藤しながら、新たな脅威に立ち向かっていく姿を描いていく。神聖日本帝国は、真の平和と繁栄を築き上げることができるのか、そして唯華は、本当に「神」となるのか。その答えは、まだ誰も知らない。

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