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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
絶望と動乱と混沌と。

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第59話、絶望と動乱と混沌と。14

大裁判が終わり、旧国会議事堂の議場には、血の匂いと、重苦しい沈黙だけが残された。世界中に配信された映像は、人々の心に深い爪痕を残し、その衝撃は計り知れないものだった。唯華は、疲労困憊の身体で高台から降り、美咲に支えられながら臨時医療施設へと戻った。彼女の腹部の傷は、再び痛み始めていた。鈍い痛みが、脈打つように腹部に響く。

「唯華様、本当にご無理をなさいました。すぐに休んでください。」

美咲の声は、感情を抑えきれずに震えていた。唯華の顔色は相変わらず青ざめていたが、その瞳には、燃えるような達成感と、揺るぎない決意が宿っていた。それは、血と汗と、そして犠牲の上に築かれた、確かな手応えだった。

「美咲……これで、第一段階は完了した。あとは、この国を真に『浄化』するだけだ。」

唯華の言葉は、静かでありながら、議場に残る血の匂いを一掃するかのようだった。美咲は、唯華の言葉に静かに頷いた。彼女の心には、最高指導者への深い信頼と、この新たな、しかし困難な道のりへの覚悟が満ちていた。


裁判の直後、東日本全域では一時的に混乱が広がった。街角では、旧体制の象徴が引き倒され、歓喜の声と怒号が入り混じった。しかし、その混乱は長くは続かなかった。神聖日本帝国軍は、まるで精密機械のように迅速かつ組織的に行動した。情報省は、旧体制の残党狩りを徹底的に行い、抵抗勢力の芽を根こそぎ摘み取った。夜陰に紛れて行われる逮捕劇、旧政府機関の幹部たちが次々と拘束される映像は、国民に旧体制の完全な終焉をまざまざと見せつけた。彼らは、唯華の掲げる「浄化」の理念に反する活動を行っていた者たちとして、公正な審判にかけられた。その中には、かつて日本の行政を動かしていた、傲慢なエリートたちも含まれており、彼らの逮捕と処罰は、国民の長年の鬱憤を晴らすかのように報じられた。


国民の反応は、まさに二極化していた。長年の腐敗と停滞に苦しんでいた人々は、唯華の断固たる行動に一筋の光を見出し、熱狂的に彼女を支持した。街頭では、「よくぞやってくれた!」「これが本当の正義だ!」「我々の血税を食い物にした悪党どもに天罰を!」といった声が、地鳴りのように沸き起こった。特に若者や貧困層の間では、唯華を救世主と崇める動きが加速した。彼らは、旧体制では決して得られなかった「公正な未来」を、唯華に託したのだ。各地で自発的な「唯華様を支持する会」が結成され、彼女の肖像画や旗を掲げて街を行進する姿も見られた。その熱狂は、まるで宗教的な高揚にも似ていた。


一方で、突然の変革に戸惑い、深い不安を感じる人々も少なくなかった。特に、旧体制に恩恵を受けていた富裕層や、変化を恐れる保守的な層からは、唯華を「冷酷な独裁者」「テロリスト」「日本の歴史を破壊する者」と非難する声も上がった。彼らは、自由や民主主義が失われるのではないかという根源的な懸念を抱き、一部は西日本へと避難する動きを見せた。新幹線や飛行機は、西日本への脱出を試みる人々でごった返し、空港や駅は混乱の極みに達した。切符を求める長蛇の列、家族との別れを惜しむ声、そして未来への不安に顔を歪める人々の姿がそこにはあった。しかし、神聖日本帝国は、国民啓発省を通じて、新たな国の理念と目標を徹底的に周知した。テレビ、ラジオ、インターネット、あらゆるメディアを通じて、旧体制の腐敗がいかに深刻であったか、そして神聖日本帝国の清廉さが、いかに国民の幸福に繋がるかを訴えるプロパガンダが展開された。その放送は、旧体制のメディアが流していたニュースを完全に凌駕し、国民の意識を新たな方向へと導いていった。


国際社会の反応は、依然として複雑だった。日本の分断という前代未聞の事態に、各国は対応に苦慮していた。アメリカは、長年の同盟国である日本の混乱を深く憂慮し、軍事的な介入も視野に入れていると示唆したが、神聖日本帝国の電撃的な制圧と、国民の一部からの熱狂的な支持を前に、慎重な姿勢を崩さなかった。太平洋艦隊は警戒態勢に入り、空母打撃群は日本近海に展開したが、具体的な行動には移らなかった。その巨大な艦影は、日本の沖合に重くのしかかっていた。中国やロシアは、日本の分断を静観しつつも、東アジアの勢力図の変化を注視し、自国の国益を最大化するための戦略を練り始めた。特に中国は、日本の分断を自国の影響力拡大の好機と捉え、神聖日本帝国との水面下での接触を試みた。EU諸国は、経済的な混乱を懸念し、日本との貿易関係の維持を模索した。特に、半導体や自動車部品のサプライチェーンへの影響は甚大であり、各国政府は日本への経済使節団の派遣を検討し始めた。国連安全保障理事会では、連日、日本の情勢を巡る激論が交わされたが、各国の思惑が交錯し、具体的な解決策は見出せないままだった。世界は、新たな日本の誕生を、不安と期待が入り混じった眼差しで見つめていた。



唯華の療養期間中、美咲の指揮のもと、神聖日本帝国軍は驚くべき速さで再編と拡大を進めた。旧自衛隊の残存兵力や、新日本解放戦線に共鳴する若者たちが次々と入隊し、その規模は飛躍的に増大した。新兵たちは、唯華の掲げる理想に燃え、その瞳には強い光が宿っていた。旧警察組織も再編され、神聖日本帝国の治安維持部隊として機能するようになった。

「兵士一人ひとりが、帝国の礎となるのだ。規律を重んじ、国民を守る盾となれ!我々は、旧体制の腐敗から国民を解放したのだ。この誇りを胸に、任務を遂行せよ!」

美咲の指示は厳格でありながら、兵士たちの士気を高揚させた。その声は、訓練場に響き渡り、兵士たちの背筋を伸ばさせた。軍は、陸海空の各部隊に再編成され、最新鋭の兵器が優先的に配備された。旧自衛隊の装備に加え、情報省が開発した高性能な偵察ドローンや、AIを搭載した無人兵器の導入は、軍の戦闘能力を飛躍的に向上させた。夜空を舞うドローンの影は、帝国の監視の目を象徴していた。特に、都市部でのゲリラ戦や、情報戦に特化した特殊部隊の育成にも力が入れられた。兵士たちは、最新の戦闘シミュレーションシステムで訓練を重ね、仮想敵との戦闘を繰り返した。仮想空間で血と汗を流し、その身体能力は極限まで高められ、精神面でも「唯華様への絶対的な忠誠」が徹底的に植え付けられた。


そして、神聖日本帝国建国から二ヶ月後、唯華の指示により、徴兵制が導入された。これは、国民の義務として、18歳以上の全ての健康な男女に兵役を課すもので、その目的は「帝国の防衛と、国民の精神の鍛錬」とされた。徴兵制の導入は、国民の間で賛否両論を巻き起こしたが、国民啓発省による「国民皆兵」の重要性を訴えるプロパガンダと、旧体制の腐敗に対する国民の不満が相まって、比較的スムーズに受け入れられた。徴兵を拒否する者には、重い罰則が科せられることが明記され、国民は選択の余地なく、新たな義務を受け入れた。徴兵検査場には、不安と期待が入り混じった若者たちが列をなし、その顔には新たな時代への戸惑いが浮かんでいた。彼らの表情は、希望と諦念の間で揺れ動いていた。

徴兵された若者たちは、各地に新設された訓練施設で厳しい訓練を受けた。彼らは、単なる兵士としてだけでなく、「帝国の臣民」としての意識を叩き込まれた。訓練は、体力だけでなく、精神力も鍛えるもので、早朝からの長距離走、極限状態でのサバイバル訓練、そして帝国の歴史と唯華の理念を学ぶ座学が組み合わされた。教官たちは、旧自衛隊の精鋭や、新日本解放戦線の古参兵であり、彼らの指導は厳しくも情熱的だった。訓練の様子は、定期的に国民啓発省のメディアで公開され、国民の連帯感を高める役割を果たした。訓練を終えた兵士たちは、誇らしげに帝国の紋章を身につけ、新たな使命に燃えていた。彼らの瞳には、かつての不安はなく、確固たる決意が宿っていた。


軍の展開は、東西日本の国境線に集中された。新潟、長野、静岡、そして関東、東北、北海道の境界線には、厳重な警備網が敷かれ、最新鋭の監視システムが導入された。国境沿いには、高圧電流が流れる有刺鉄線が張り巡らされ、地雷原が広がり、自動小銃を搭載した監視塔が等間隔に設置され、不法な越境を許さない「鉄の壁」と化した。その壁は、物理的な障壁であると同時に、人々の心に深い溝を刻みつけた。夜間には、赤外線カメラや熱感知センサーが国境線を監視し、わずかな動きも見逃さなかった。西日本との間に不必要な衝突を起こさないため、軍は防御態勢を主としたが、万が一の事態に備え、常に臨戦態勢を維持した。空には偵察機が飛び交い、地上には戦車や装甲車が配備され、国境線はまさに「鉄の壁」と化した。国境の街では、住民の往来が厳しく制限され、かつての活気は失われていた。検問所では、武装した兵士たちが厳しく身分をチェックし、不審な人物は即座に拘束された。


また、神聖日本帝国は、独自の情報網を構築し、西日本政府の動きを常に監視した。旧自衛隊の残党や、西日本に逃れた旧体制の要人たちの動向も徹底的に追跡され、帝国の安全保障を脅かすあらゆる脅威は、未然に排除された。情報省のサイバー部隊は、西日本政府のネットワークに深く侵入し、機密情報を収集した。彼らは、西日本政府の内部情報を傍受し、その弱点を探り続けた。軍は、単なる武力組織ではなく、帝国の秩序を維持し、国民の安全を守るための「守護者」としての役割を担うことになった。兵士たちの間では、「唯華様のために」「帝国の栄光のために」というスローガンが浸透し、その士気は極めて高かった。彼らは、唯華の言葉を絶対的なものとして信じ、その命令には命をかけて従った。

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