第52話、絶望と動乱と混沌と。7
全ての準備が整い、作戦開始の時が迫っていた。唯華は、オンライン会議の画面越しに、全ての幹部と師団長たちを見渡した。彼女の表情は、どこまでも冷徹でありながら、その瞳の奥には、確固たる決意が宿っていた。
「諸君。本日、我々は歴史の転換点に立つ。この日本は、長きにわたり腐敗し、真の自由と尊厳を失ってきた。旧体制は、利権と不正にまみれ、国民の苦しみから目を背けてきた。だが、その時代は、今、終わる。」
唯華の声は、静かでありながら、幹部たちの心に深く響き渡る。美咲は唯華の隣で、その言葉の一つ一つを噛みしめるように聞いていた。
「我々は、この腐りきった日本を『浄化』し、新たな国家『神聖日本帝国』を建国する。これは、全ての民が苦しまない、利権や裏金の無い真の日本を築くための、神聖なる使命である。」
唯華は、少し間を置いた。「諸君には、我々の『8の盟約』を改めて心に刻んでもらいたい。特に、『一般市民及び救助する人を攻撃してはならない』。この一点は、我々の戦いの正当性を担保する上で最も重要である。無辜の命を守ることこそが、我々の正義の根源なのだ。」
「そして、電撃戦である。敵に物資や装備を固められる前に、迅速に掌握を完了し、その直後に宣戦布告の声明文を発信する。間髪入れずに首都東京に向けて再び電撃戦で進軍する。この速度こそが、我々の勝利を決定づける。」
彼女の言葉に、幹部たちの顔には緊張が走り、その眼差しは一段と鋭くなる。総司令官の斉藤隆一は、冷徹なまでの眼差しでモニターを見つめ、自身の部隊が担う役割を再確認していた。
「諸君の健闘を祈る。そして、この戦いの先に、必ずや輝かしい未来が待っていることを、私が約束する。」
唯華はそう言い放つと、静かに頷いた。彼女の言葉は、まるで号砲のように、全ての隊員の心に響き渡った。
「これより、首都陥落の前哨戦を開始する。」
唯華の静かな命令が、各地下基地の司令室に響き渡った。午前3時、漆黒の闇に包まれた山間部から、新日本解放戦線の部隊が一斉に進軍を開始した。
長野県、新潟県、山梨県の全土と、静岡県、千葉県の一部山岳部の掌握は、綿密な計画に基づいて実行された。
長野の地下基地から、第1機甲師団と第1歩兵師団が轟音を立てて地上へと姿を現した。夜間の奇襲攻撃は、まさに電撃戦の真骨頂だった。
吉田悟率いる第1機甲師団のT-72戦車が、先行する偵察部隊の報告を受けて、長野市街へと向けられた。その巨体は、闇夜に潜む鋼の獣のようだった。歩兵戦闘車BMP-2がそれに続き、兵員輸送と火力支援を担う。
加藤勇作率いる第1歩兵師団は、機甲師団に続き、主要な官庁や警察署、通信施設を制圧する役割を担った。彼らは、暗視装置を装着し、夜の闇に紛れて迅速に進軍する。
「目標地点まであと5分。敵の動きはなし!」
無線から報告が入り、加藤は頷いた。分隊ごとに設定された目標を、音もなく制圧していく。県庁、警察本部、通信センター。それらは、ほとんど抵抗を受けることなく、次々と新日本解放戦線の手に落ちていった。警察官たちは、突然の奇襲に混乱し、武装解除されていった。
「鹵獲したパトカーと無線機を確保!敵の情報網を遮断しろ!」
通信班から指示が飛び交い、瞬く間に長野県の情報網は新日本解放戦線によって掌握されていった。
同時刻、陸上自衛隊長野駐屯地では、突如として鳴り響く警報に隊員たちが飛び起きた。しかし、彼らが武装を終える前に、中村健太率いる特殊作戦部隊が既に内部に潜入していた。
「全隊員、武装解除しろ!抵抗すれば命はない!」
拡声器から中村の声が響き渡り、自衛隊員たちは呆然と立ち尽くすしかなかった。駐屯地内の武器庫は開錠され、最新鋭の地対空ミサイルシステムや、小銃、弾薬などが次々と鹵獲されていく。
「ミサイルシステムを優先的に輸送用ヘリで地下基地へ送れ!他の銃火器は、各歩兵師団の予備装備として分配する!」
鹵獲された兵器は、即座に新日本解放戦線の戦力として組み込まれていった。
同様の電撃戦が、新潟、山梨、静岡、千葉の山岳部でも繰り広げられていた。
新潟では、第2機甲師団と第2歩兵師団が、日本海側からの奇襲を敢行。港湾施設や新潟空港を迅速に制圧し、海上からの物資輸送ルートを確保した。
山梨では、第3機甲師団と第3歩兵師団が、甲府市を中心に県内の主要拠点を掌握。富士演習場周辺の自衛隊施設も制圧し、火砲や弾薬を鹵獲した。
静岡の山岳部では、第4機甲師団と第4歩兵師団が、東部方面の防衛線を突破。陸上自衛隊板妻駐屯地や、御殿場周辺の訓練施設を制圧し、大量の装甲車や火砲を鹵獲した。
千葉の山岳部では、第5歩兵師団が、奇襲により千葉県北東部の山間部を掌握。自衛隊の演習場から、迫撃砲や機関銃などを鹵獲した。
これらの作戦は、情報省の山田剛が事前に収集した情報と、内通者である木村、田中からの機密情報によって、驚くべき速さで実行された。自衛隊や警察は、予測不能な規模と速度の攻撃に、完全に意表を突かれた形だった。
夜が明け始めた頃、長野県、新潟県、山梨県の全土と、静岡県、千葉県の一部山岳部は、完全に新日本解放戦線の支配下に入っていた。各占領地には、最低でも1,000人の隊員が駐屯し、鹵獲した兵器で防衛線を構築していた。
「次に、東北地方全域に向けた電撃戦を開始する。」
唯華の指示のもと、新日本解放戦線の部隊は、すでに制圧した地域を足がかりに、さらなる進軍を開始した。
青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島の各県には、それぞれ複数の師団が投入された。
航空戦闘部隊の高橋隼人率いる攻撃ヘリ師団が、上空から敵の防衛線を叩き、陸上戦闘部隊の進軍を援護する。Mi-24攻撃ヘリコプターが、機関砲とミサイルを連射し、自衛隊の車両や陣地を破壊していく。
陸上戦闘部隊の戦車が、主要幹線道路を封鎖し、迅速に都市部へと進攻。歩兵師団が、各官庁、警察署、自衛隊基地を次々と制圧していった。
情報省の山田剛は、各地域の通信網をハッキングし、敵の連携を分断した。これにより、自衛隊や警察は孤立し、組織的な反撃が困難になった。
東北地方の自衛隊基地は、比較的大規模なものが多かったが、電撃戦の速度と、内通者からの情報によって、次々と陥落していった。仙台駐屯地、八戸駐屯地、神町駐屯地など、主要な基地が新日本解放戦線の手に落ち、大量の兵器が鹵獲された。中には、最新鋭の地対空ミサイルやレーダーシステムも含まれていた。
市民生活への影響を最小限に抑えるため、特殊作戦部隊の住民避難誘導班が活躍した。彼らは、事前に確保した情報をもとに、住民を安全な場所に誘導し、混乱を防いだ。
数日後、東北地方全域も、完全に新日本解放戦線の支配下に入った。
東北地方の制圧が完了すると、新日本解放戦線は、間髪入れずに北海道への電撃戦を開始した。
東北地方の港湾施設を拠点として、海上輸送部隊が北海道へと向かう。鹵獲した哨戒艇や潜水艦が、海上自衛隊の動きを牽制し、輸送船団の安全を確保した。
北海道に上陸した部隊は、新千歳空港を真っ先に制圧し、航空戦力の補給拠点とした。航空戦闘部隊の戦闘機師団が、北海道上空の制空権を確保し、敵の航空機を撃墜していく。
札幌市を中心に、北海道内の主要都市を迅速に制圧。陸上自衛隊真駒内駐屯地、旭川駐屯地など、大規模な自衛隊基地も次々と陥落し、大量の戦車、火砲、航空機などが鹵獲された。
情報省と国民啓発省は、ハッキングした通信網とメディアを通じて、新日本解放戦線の正当性を訴えるプロパガンダを展開した。これにより、一部の国民の間では、政府への不信感が高まり、新日本解放戦線への支持を表明する者も現れ始めた。
わずか数日という驚異的な速度で、東北地方全域、北海道、そして長野県、新潟県、山梨県の全土と、静岡県、千葉県の一部山岳部の掌握が完了した。全ての県庁、警察署、自衛隊基地、主要な駅は新日本解放戦線の支配下に入り、鹵獲された兵器は、次の首都陥落に向けた電撃戦の準備に充てられた。各都道府県には、最低でも1,000人の新日本解放戦線隊員が駐屯し、占領地を防衛する体制が整えられた。




