第51話、絶望と動乱と混沌と。6
「最高指導者である唯華様の副官として、佐藤美咲を任命する。彼女は私の指示を補佐し、組織運営の円滑化に尽力する」
唯華は、幹部たちを前に、新たに加わった美咲を紹介した。美咲は、一歩前に進み出て、深々と頭を下げた。その顔には、緊張と、唯華への絶対的な忠誠が入り混じっている。
氷雨瑠衣の死から2か月、新日本解放戦線は怒涛の勢いで準備を進めていた。唯華の自宅、壁一面を覆い尽くすクアトロモニターに囲まれた秘密の司令室では、連日深夜まで幹部たちとのオンライン会議が開催されている。唯華の指示は具体的で、その言葉一つ一つに、揺るぎない決意と緻密な戦略が込められていた。室内の空気は、張り詰めた緊張感と、確かな達成感に満ちている。
唯華はモニターに映し出された広大な地図を指し示した。そこには、東北地方から中部地方、そして北海道の一部まで、赤く塗りつぶされた広大な領域が示されている。
「静岡、山梨、新潟、群馬、福島、栃木、茨城、千葉、埼玉、神奈川。これらの県境付近、特に人目につかない山奥の地下に構築された軍事拠点は、全て完成したな?」
国家評議会議長の佐々木賢治が、冷静沈着な声で応じた。「はい、唯華様。目標期日を若干前倒しで、全ての軍事拠点の構築が完了いたしました。兵站省、技術省、そして訓練省の尽力により、計画は滞りなく進行しております。」
財政省大臣の大野義明は、額の汗を拭いながら補足した。「物資の調達も順調でございます。戦車200両以上、攻撃用ヘリ150機、輸送用ヘリ100機、戦闘車両300両、戦闘機50機が、各拠点に分散して配備され、いつでも出撃可能な状態です。予備部品、燃料、弾薬も潤沢にございます。」
兵站省の渡辺拓也は、物流の最適化について報告した。「各基地への物資輸送ルートも確立され、有事の際には迅速な補給が可能です。また、鹵獲した兵器の輸送計画も練り終えております。」
技術省の吉岡健太郎は、自信に満ちた表情で語った。「兵器の最終点検も完了し、全ての機体が最高の状態を維持しております。新兵器の開発も順調で、実戦投入を待つのみです。」
唯華は満足そうに頷いた。美咲は唯華の隣で、真剣な眼差しで報告を聞いていた。彼女の瞳には、圧倒されるほどの戦力が映し出されている。
「訓練の進捗はどうか、斉藤総司令官。」
総司令官の斉藤隆一が、背筋を伸ばして答えた。「隊員15,000人全ての訓練が完了し、練度は極限まで高められています。各師団、部隊は、唯華様の『8の盟約』を徹底的に叩き込み、規律は完璧です。いつでも首都陥落の前哨戦に移行できます。」
唯華は、彼らの報告を聞きながら、静かに目を閉じた。この2か月間、彼女の指揮のもと、新日本解放戦線は巨大な軍事組織へと変貌を遂げていた。
「では、首都陥落の前哨戦となる『東北地方全域、北海道、長野県、新潟県、山梨県の全土と、静岡県、千葉県の一部山岳部を掌握する電撃戦』の最終シミュレーションを開始する。」
唯華の言葉で、クアトロモニターには詳細な日本地図が映し出された。赤く点滅する掌握予定地域、そしてそこへ向かう青い矢印が、新日本解放戦線の進軍ルートを示している。
情報省の山田剛が、公安警察官の木村と自衛隊情報本部員の田中から得た最新情報を元に、敵戦力の配置と予想される抵抗を報告した。「長野、新潟、山梨、静岡、千葉の山岳部においては、自衛隊の駐屯地はいくつか存在しますが、その防衛体制は手薄です。警察の抵抗も限定的と予測されます。しかし、東北地方や北海道は、比較的自衛隊の規模が大きく、本格的な抵抗が予想されます。」
シミュレーションは、様々なシナリオに基づいて行われた。第1機甲師団の吉田悟、第1歩兵師団の加藤勇作が、それぞれ自身の部隊の動きを説明する。航空戦闘部隊の高橋隼人が、制空権確保のための詳細な航空戦術を提示し、特殊作戦部隊の中村健太が、重要拠点の潜入と制圧について説明した。
シミュレーションが進行するにつれ、モニター上の地図は刻一刻と変化していく。青い矢印が次々と赤く塗りつぶされていく中、いくつかの問題点も浮上した。
「東北地方の主要都市における市街戦において、一般市民の巻き込みが避けられない可能性があります。我々の『8の盟約』第一条、『一般市民及び救助する人を攻撃してはならない』に抵触する恐れがあります。」総司令官の斉藤が眉をひそめた。
唯華は冷静に指示を出した。「市民への被害を最小限に抑えるため、特殊作戦部隊による事前の住民避難誘導を徹底せよ。また、制圧後直ちに医療衛生省による支援活動を開始する。映像班を同行させ、プロパガンダにも利用せよ。」
次に、兵站省の渡辺拓也が補給ルートの脆弱性を指摘した。「北海道への海上輸送ルートにおいて、海上自衛隊の哨戒艇による妨害が考えられます。輸送部隊の護衛を強化する必要があります。」
「外交省の藤原、海外の協力者を通じて、陽動を仕掛けろ。海上自衛隊の戦力を分散させるのだ。そして、海上においては、鹵獲した小型哨戒艇や潜水艦を最大限に活用し、敵の動きを封じ込めろ。」唯華は即座に対応策を命じた。
シミュレーションの結果、いくつかの課題が浮上したが、それらに対する迅速な対応策が検討され、計画はさらに洗練されていった。唯華は、深紅に染まったモニターの地図を見つめ、静かに呟いた。「完璧だ。これならば、電撃戦は成功する。」
シミュレーション会議の後、唯華は新日本解放戦線のサーバー上のオンラインで、幹部たちに新たな組織図と兵力図を発表した。
「この組織図は、来るべき『浄化』を完遂するための最適な体制である。各員の役割を再確認し、任務を全うせよ。」
最高指導部
最高指導者:神月 唯華
全組織の最終決定権と指揮権を持つ。都内での学業を優先し、基本的に東京の自宅の唯華の部屋からクアトロモニターを通じて指揮を執る。高度な暗号化が施された専用回線を通じて、地下壕の各責任者に直接指示が伝えられる。
副官:佐藤 美咲
最高指導者の指示を補佐し、組織運営の円滑化に尽力する。唯華と同様に自宅からオンラインで会議に参加し、唯華の意図を汲み取って幹部たちからの質問に答える。
国家評議会
最高指導者の諮問機関。各省庁の最高責任者で構成される。最高指導者の決定を補佐し、重要事項に関する意見具申を行う。
議長:佐々木 賢治(60代、元大手企業経営者、組織運営の経験豊富、冷静沈着な判断力)
実行部隊(総員15,000名)
総司令部
総司令官:斉藤 隆一(50代、元特殊部隊教官、実践的な戦闘経験と指揮能力に優れる)
副総司令官:田中 慎吾(40代、元警察SAT隊員、市街戦、近接戦闘のエキスパート)
陸上戦闘部隊
第1機甲師団(戦車50輌、歩兵戦闘車50輌、隊員300名)
師団長:吉田 悟(30代、元自衛隊機甲科、戦車操縦のエキスパート)
構成: T-72主力戦車隊(50輌)、BMP-2歩兵戦闘車隊(50輌)
第2機甲師団(戦車50輌、歩兵戦闘車50輌、隊員300名)
師団長:青木 健太(30代、元自衛隊機甲科、精密な車両運用に長ける)
第3機甲師団(戦車50輌、歩兵戦闘車50輌、隊員300名)
師団長:村田 隆司(30代、元自衛隊機甲科、地形判断に優れる)
第4機甲師団(戦車50輌、歩兵戦闘車50輌、隊員300名)
師団長:林 裕也(30代、元自衛隊機甲科、市街戦での機動戦術に優れる)
第1歩兵師団(隊員1000名)
師団長:加藤 勇作(30代、元自衛隊普通科、歩兵戦術のエキスパート)
構成: 突撃班、狙撃班、機関銃班、対戦車班、防空班、医療支援班
第2歩兵師団(隊員1000名)
師団長:山本 剛(30代、元自衛隊普通科、夜間戦闘、奇襲作戦に長ける)
第3歩兵師団(隊員1000名)
師団長:西村 大輔(30代、元自衛隊普通科、山岳戦、ゲリラ戦のエキスパート)
第4歩兵師団(隊員1000名)
師団長:佐々木 隼人(30代、元自衛隊普通科、市街戦、拠点制圧に長ける)
第5歩兵師団(隊員1000名)
師団長:宮本 徹(30代、元自衛隊普通科、防御戦術、陣地構築に長ける)
航空戦闘部隊(総員200名)
部隊長:高橋 隼人(30代、元自衛隊ヘリコプターパイロット、Mi-24の操縦技術習得中)
攻撃ヘリ師団(5個師団、各30機)
輸送ヘリ師団(4個師団、各25機)
戦闘機師団(5個師団、各10機)
特殊作戦部隊(隊員500名)
部隊長:中村 健太(30代、元自衛隊特殊作戦群、潜入、破壊工作、要人警護のエキスパート)
構成: 偵察班、潜入班、破壊工作班、住民避難誘導班、メディア工作班
支援部隊(隊員300名)
部隊長:岡田 裕也(30代、元自衛隊衛生兵、医療、救助活動のエキスパート)
構成: 衛生班、通信班、工兵班、補給班、兵器整備班
各省庁(総員1,000名)
総務省
大臣:佐々木 賢治(国家評議会議長兼任)
財政省
大臣:大野 義明(50代、元金融機関勤務、資金調達、資産運用、経理のプロ)
兵站省
大臣:渡辺 拓也(40代、元自衛隊補給部隊、物資調達、輸送、保管、流通の管理)
情報省
大臣:山田 剛(40代、元公安警察官、情報収集、分析、対情報工作のプロ)
技術省
大臣:吉岡 健太郎(40代、元自衛隊整備士、兵器の整備、開発、研究の統括)
訓練省
大臣:斉藤 隆一(総司令官兼任)
医療衛生省
大臣:杉山 真一(50代、元医師、医療活動、衛生管理、負傷兵の治療)
外交省
大臣:藤原 浩司(50代、元商社マン、海外ネットワーク、密輸ルートの開拓)
国民啓発省
大臣:井上 秀樹(40代、元メディア関係者、プロパガンダ、国民への広報活動)
治安省
大臣:佐藤 健二(50代、元警察官、内部の規律維持、情報漏洩対策)




