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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
絶望と動乱と混沌と。

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第49話、絶望と動乱と混沌と。4

氷雨瑠衣の死と、その後の新日本解放戦線の急激な動きは、唯華の日常にも影響を与えていた。学校生活では完璧な優等生として振る舞い、友人たちとの温かい交流を続けているが、その裏では、巨大な「浄化」の計画が着々と進行していた。彼女の瞳の奥には、友人と交わす優しい笑顔と、冷徹な戦略家の顔が、交互に浮かび上がる。


美咲は、唯華の「副官」となってから、その役割の重さを日々感じていた。学校では唯華に「唯華」と呼びかける美咲だが、学校の外で二人きりの時や、新日本解放戦線の活動においては、必ず「唯華様」と敬語で話すことを徹底していた。その切り替えは、彼女のプロ意識の表れだった。唯華も、美咲のその心遣いを理解し、二人の間には新たな信頼関係が築かれつつあった。まるで、深い森の奥で、静かに育っていく巨木のように。


ある日の放課後、いつものようにカフェで勉強会を終え、美咲と二人きりになった唯華は、美咲に尋ねた。窓の外では、夕焼けが茜色に空を染め上げていた。


「美咲。副官としての仕事は慣れたか?」


美咲は、少し緊張した面持ちで答えた。彼女の指先が、カップの縁をなぞる。


「はい、唯華様。まだまだ未熟ではございますが、唯華様のお役に立てるよう、日々精進しております」


唯華は、美咲の真剣な眼差しに、僅かに口元を緩めた。その表情は、普段の冷徹な唯華からは想像もつかない、穏やかなものだった。


「そうか。お前は、この計画において重要な役割を担うことになる。頼りにしているぞ」


唯華の言葉に、美咲の顔がぱっと明るくなる。その瞳には、確かな喜びと、唯華への感謝が宿っていた。


「はい!唯華様のご期待に応えられるよう、全力で務めさせていただきます!」


美咲の言葉には、唯華に対する絶対的な忠誠と、自身の役割への強い責任感が込められていた。唯華は、美咲の成長を間近で見守りながら、彼女の中に芽生えつつある「覚悟」を感じ取っていた。それは、美咲自身もまだ気づいていない、内なる炎のようだった。


休日には、唯華と美咲は、それぞれが持つスマートフォンから、幹部たちとのオンライン会議に参加する。会議の場では、美咲は唯華の指示を補足したり、幹部たちからの質問に唯華の意図を汲み取って答えたりするなど、副官としての役割を完璧にこなしていた。彼女の成長は目覚ましく、唯華も内心でその能力を高く評価していた。彼女の言葉は、会議の進行を円滑にし、唯華の負担を軽減していた。


ある日の午後、唯華と美咲は、新しく完成した神奈川の地下基地を視察に訪れていた。巨大な格納庫には、調達されたばかりの真新しい戦車や戦闘車両が整然と並べられ、整備兵たちが黙々と点検作業を行っていた。金属と油の匂いが、地下空間に満ちている。


「唯華様、こちらの戦闘車両は、最新の装甲が施されており、市街戦においても高い防御力を発揮するかと存じます」


技術省の佐藤浩二が、唯華に説明する。唯華は、無言で戦闘車両の側面に触れ、その感触を確かめた。冷たく、しかし確かな存在感が、彼女の指先から全身に伝わる。


「そうか。人員の配置状況はどうか?」


「はい、既に訓練を終えた隊員たちが、それぞれの持ち場に配置されております。緊急時には、即座に出撃可能です」


唯華は、満足そうに頷いた。美咲は、唯華の隣で、真剣な眼差しで兵器の数々を見つめていた。彼女の瞳には、圧倒されるほどの戦力が映し出されている。


「唯華様、これだけの戦力が整えば、首都制圧も夢ではないかと存じます」


美咲が唯華に囁くように言うと、唯華は静かに微笑んだ。その微笑みの奥には、まだ見ぬ未来への確信が宿っていた。


「まだだ、美咲。まだ、完璧ではない。我々の『浄化』は、ここからが本番だ」


唯華の瞳には、冷徹な光が宿っていた。しかし、その光の奥底には、友人たちとの温かい交流の中で芽生えた、微かな温かさもまた、確かに存在していた。それは、彼女の計画に、これまでにない新たな意味を与えていた。冷酷な使命と、微かな温もり。その二つの光が、彼女の中で複雑に絡み合っている。


日本の地下では、恐るべき巨竜がその咆哮を上げようとしていた。巨大な地下基地の片隅で、着々と準備が進められている「計画」。その全貌は、未だ誰にも知られていない。複雑な情報ネットワーク、最新鋭の兵器開発、そして周到に練られた作戦。日本の治安機関は、焦燥感に苛まれながらも、未だその全貌を掴めずにいる。彼らは、未曽有の危機が迫っていることを予感しながらも、その正体も、規模も、そして目的も把握できずにいた。まるで、深い霧の中にいるかのように。


果たして、彼らはこの巨竜の覚醒を阻止できるのか。あるいは、唯華の「浄化」は、この国を根底から変えてしまうのか。


鈴鹿裕樹は、今日もまた、唯華の隣に座り、彼女の静かな声で勉強を教わっていた。唯華は、彼に数学の問題を丁寧に解説している。その指先が、問題集の上を滑らかに動く。裕樹は、彼女の明晰さに感嘆しながらも、その完璧な横顔の奥に潜む、何か計り知れないものを感じ取っていた。彼は、知らず知らずのうちに、巨大な運命の渦の中に巻き込まれていくことになるのだろうか。彼の心の中に芽生えた、唯華への漠然とした恐れは、やがて現実となるのだろうか。彼が見たものは、ただの妄想なのか、それとも、この国の未来を揺るがす恐るべき真実の一端だったのか。彼の日常は、もう二度と、元には戻らないのかもしれない。彼の視線の先に、微かに揺れる唯華の横顔があった。その顔は、彼にはもう、以前のように無邪気な少女には見えなかった。しかし、その唯華の横顔の奥には、以前よりも、ほんの少しだけ、温かい光が宿っていることを、裕樹はまだ知る由もなかった。その光は、彼女の冷たい使命に、どのような影響を与えるのだろうか。そして、その光が、この国に何をもたらすのか、誰も知る由もない。物語は、まだ始まったばかりだ。

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