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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
絶望と動乱と混沌と。

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第46話、絶望と動乱と混沌と。1

唯華の高校生活は、完璧な優等生としての振る舞いと、友人たちとの温かい交流によって彩られていた。しかし、その輝かしい日常の裏には、中学時代の深い心の傷と、世界を変えようとする壮大な野望が隠されていた。



朝の光が差し込む教室で、唯華はいつものように一番早く学校に到着し、参考書を広げていた。静寂を破るのは、ページをめくる音と、唯華が書き込むペンの音だけ。数学の難解な公式を、まるでパズルのように解き明かしていくその集中力は、周囲のどんな些細な音にも乱されることはない。時折、唯華はふと、コバルトブルーの毛先を指でくるくると遊ばせる。その仕草は、クールな装いの中に潜む愛らしさを覗かせ、周囲の視線をさらに惹きつけていた。


チャイムが鳴り、クラスメイトたちが続々と登校してくる。美咲、花音、里奈が唯華の席に駆け寄り、「唯華ちゃん、おはよう!」と声をかける。唯華は顔を上げてにこやかに微笑み、「おはよう」と応じる。その笑顔は、もはや完璧さに隠された冷たさを感じさせず、柔らかな光を宿しているようだった。


授業が始まると、唯華は一変して、鋭い知性を放つ「優等生」に戻る。現代文の授業では、難解な評論について教師が意見を求めると、唯華は迷うことなく手を挙げた。


「この筆者は、現代社会における情報過多の問題提起として、断片的な情報が持つ危険性を指摘していると考えます。私たちは、SNSなどで溢れる情報に流されがちですが、その情報の真偽や背景を深く考察する能力が求められているのではないでしょうか。情報の受動的な消費ではなく、能動的な解釈が重要であるというメッセージが込められているように感じます」


彼女の淀みない、論理的な発言に、クラスメイトたちは静かに聞き入る。教師も感心したように頷き、「神月さんの言う通りだ。さらに深掘りするとすれば、どのような点が挙げられるだろうか?」と、唯華にさらに思考を促す。唯華は少し考え、再び口を開いた。


「情報のフィルタリング機能が発達したことで、私たちは自分にとって心地よい情報ばかりに触れ、異なる視点や意見を排除しがちです。これにより、社会全体の多様な意見が失われ、分断が進む可能性も考えられます。情報の消費者が、自らの意思で多様な情報源に触れ、多角的に物事を捉える姿勢を持つことが、この問題の解決に繋がるのではないでしょうか」


その深い洞察力に、クラスメイトたちからも感嘆の声が漏れる。唯華の言葉は、常に本質を捉え、聞き手の思考を深める力を持っていた。


数学の授業では、複雑な図形問題が出題された。クラスの誰もが頭を悩ませる中、唯華はホワイトボードに吸い寄せられるように、すらすらと補助線を引いていく。そして、最小限の計算で、あっという間に解答を導き出した。


「この問題は、円周角の定理と相似を利用すると、よりシンプルに解くことができます。まず、補助線を引くことで…」


唯華は、分かりやすい言葉で、思考のプロセスを解説していく。その説明は、まるで霧が晴れていくように明快で、難解だった問題が、瞬く間にシンプルな形へと変わっていく。美咲が「唯華、天才すぎる!」と小声で呟くと、花音と里奈も深く頷いた。唯華の知的な輝きは、もはやクラスの生徒たちにとって、畏怖の対象ではなく、頼りになる存在となっていた。


昼休みになると、唯華は美咲、花音、里奈と連れ立って学食へ向かう。賑やかな学食の喧騒の中、4人はいつもの席に座り、それぞれ好きなメニューを注文する。唯華は、美咲たちと同じハンバーグ定食を頼んだ。


「ねぇ、みんな!最近始まったドラマ『恋は気まぐれカメレオン』見た!?あの主演の俳優、顔面が国宝級じゃない?!」美咲が目を輝かせながら言った。


「見た見た!分かる!特にあの告白シーン、キュン死するかと思った〜!」花音も大きく頷き、夢見るような表情を浮かべる。


「てかさ、あのヒロインの子も可愛いよね。毎回衣装も可愛いし、メイクも真似したい!」里奈がスマホを取り出し、ドラマの公式SNSを見せながら言った。


唯華は、彼女たちの熱量に少し圧倒されながらも、楽しそうに話を聞いていた。恋愛ドラマは、彼女の生活には全く縁のないものだったが、友人たちの話を聞いていると、なぜか心が温かくなるのを感じる。


「…そういえば、あの最終回、どうなるんだろうね。結局、幼馴染と結ばれるのかな?」唯華が、少しだけ好奇心を含んだ声で尋ねると、美咲たちは「え!唯華も見てたの!?」と驚きの声を上げた。


「見てるよ。暇な時にね」唯華は、少し照れたように微笑んだ。


「いや〜、私は幼馴染と結ばれてほしいな〜!なんか、ずっと隣にいた存在ってエモくない?」美咲が熱弁を振るう。


「でもさ、新しく転校してきたイケメンも捨てがたいよね。あんなイケメンにまっすぐ気持ちをぶつけられたら、私だったらコロッと行っちゃう!」花音は、胸に手を当てて想像する。


「結局、ヒロインがどういう選択をするのか、見どころだよね。来週が楽しみ!」里奈も、ドラマの展開に期待を寄せる。


彼女たちの他愛もない会話は、唯華にとって、これまで知らなかった「普通」の感情や価値観に触れる貴重な時間だった。



放課後、唯華はいつものように図書館の奥まった席で、分厚い参考書を広げていた。難解な数式の羅列を追う唯華の脳裏には、先週末の友人たちとの楽しい記憶がかすかに蘇る。甘いパンケーキの香り、カラオケで響いた友人たちの歌声、そして何よりも、彼女たちの純粋な笑顔が、唯華の集中を阻むように脳裏をよぎる。


そんな唯華の背後から、不意に声がかけられた。


「神月さん、ちょっといいかな?」


唯華は、思考の流れを断ち切られたことに微かに眉をひそめ、ゆっくりと顔を上げた。そこに立っていたのは、クラスメイトの氷雨瑠衣だった。彼は、唯華のイメチェン後、彼女に注がれる視線の中でも、ひときわ熱のこもった視線を向けていた男子の一人だ。これまでの唯華は、完璧な容姿と知性で常に注目を集めていたが、それはどこか遠巻きに見るような、畏敬の念を込めた視線だった。しかし、唯華の髪が顎のラインで切り揃えられたショートボブに変わり、漆黒の髪から毛先に向かって深みのある藍色から鮮やかなコバルトブルーへと変化するグラデーションが施された時、そしてオーバーサイズの黒いパーカーに繊細なレースのキャミソール、ゆったりとした黒いショートパンツとごつめの厚底スニーカーという、これまでの清楚な優等生スタイルとは一線を画したクールでどこか儚げな装いを見た時、氷雨瑠衣は、唯華に恋に落ちたのだ。


唯華は、瑠衣の顔をじっと見つめる。彼は、少し緊張した面持ちで、唯華を見つめ返していた。


「私に何か?」


唯華の声は、いつものように感情の起伏を感じさせない平坦なものだった。瑠衣は、一瞬たじろいだが、意を決したように言葉を続けた。


「その…ちょっと、話したいことがあるんだ。校舎裏に来てくれないかな?」


唯華は、またか、と思った。最近、やたらと校舎裏に呼び出す男子が増えていた。告白だろう。唯華は、もっと勉強したいし、新日本解放戦線のことを考えたいのに、と内心で舌打ちした。しかし、これまでの彼女であれば即座に断っていたはずの誘いを、なぜかその日は断りきれなかった。友人たちとの交流を経て、唯華の心には、これまでとは異なる微かな変化が起きていたのかもしれない。


「…分かった」


唯華が小さく頷くと、瑠衣の顔がぱっと明るくなった。唯華は参考書を閉じ、鞄を手に立ち上がった。瑠衣は、唯華が一歩足を踏み出すたびに、そのコバルトブルーの毛先が揺れるのを、食い入るように見つめていた。彼の心臓は、高鳴り続けていた。

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