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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
神月唯華の高校生活!(日常編)

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第36話、神月唯華の高校生活!2

放課後、唯華と裕樹が図書館で勉強している。静寂に包まれた図書館の奥には、数冊の参考書を広げた生徒たちがまばらに座っている。唯華はいつも通り、誰もいない奥の席を選び、ノートパソコンを開いていた。その姿勢は、いつもと同じく完璧で、周囲の喧騒とは隔絶された、彼女だけの空間を作り出しているようだった。裕樹は、彼女の隣で自分の問題集と格闘している。鉛筆が紙を擦る音だけが、静かに響いていた。


唯華のノートパソコンの画面には、高校の教材とは異なる、見慣れないグラフやデータ、そして時折、無機質な文字列が羅列される。それは、複雑なアルゴリズムの羅列や、暗号めいたメッセージのように見えた。裕樹は、視界の隅でそれを捉えては、自身の心臓がざわつくのを感じていた。彼女が集中して勉強している横で、密かに別の「作業」を進めていることを、裕樹は知っていた。その作業は、まるで彼女のもう一つの顔を象徴するかのように、どこか秘密めいていて、冷たい雰囲気をまとっていた。彼女は時折、ヘッドセットを装着し、小さな声で何かを話し始める。その声は、囁くような音量で、内容までは聞き取れないが、まるで会議のような、しかし秘密めいた会話だった。唯華の横顔は、いつもの穏やかな表情とは異なり、どこか張り詰めたような、鋭い視線を画面に向けていた。その姿は、裕樹に拭い去れない違和感を抱かせた。


ある日、唯華が席を立った隙に、裕樹は好奇心と不安に駆られて唯華のノートパソコンの画面を盗み見た。彼の心臓は激しく鼓動し、まるで今にも飛び出しそうだった。画面には、複数のチャットウィンドウが開かれており、そこにはやはり「唯華様」という呼びかけと、先日の事件で公安警察が掴みきれなかった「新日本解放戦線」の文字がちらりと見えた。その文字が目に飛び込んできた瞬間、裕樹の全身に電流が走ったような衝撃が走った。さらに、奪還作戦の成功を祝うようなメッセージや、新たな「基地」に関する進捗報告、そして「兵器」という物騒な単語が目に飛び込んできた。その一つ一つの言葉が、彼の心を深く突き刺した。


裕樹の心臓は、激しく鼓動した。やはり、自分の疑念は当たっていたのだ。しかし、彼の目に映ったのは、一瞬で消え去った画面の断片に過ぎず、明確な証拠と呼べるものはなかった。唯華が戻る気配を感じ、彼が慌てて顔を上げると、画面はすでに元の教材の画面に戻されていた。まるで、最初から何もなかったかのように。彼は、この恐るべき事実を、誰にどう話せばいいのか分からなかった。もし、唯華が本当にテロ組織のトップだとしたら、自分がそれを告発することで、どんな危険が降りかかるか想像もつかなかった。彼の脳裏には、映画で見たような報復劇が鮮やかに浮かび上がった。


裕樹は、唯華が戻ってくる前に慌てて目をそらした。彼の顔は青ざめ、額には冷や汗が滲んでいた。呼吸が浅くなり、指先が震える。唯華は、そんな裕樹の変化に気づいたようだったが、何も言わずにただ静かに彼の隣に座った。彼女の表情は、いつもと変わらず穏やかで、しかしその奥底に潜む冷徹な意志を、裕樹はより強く感じるようになった。その穏やかな笑顔が、かえって彼を恐怖させた。


「鈴鹿くん、この問題、できた?」


唯華の声は、いつもと同じように優しかった。その声は、まるで何事もなかったかのように、日常の平穏を装っている。しかし、その優しさが、裕樹には一層恐ろしく感じられた。彼女の完璧な仮面の下に、どんな闇が隠されているのか。裕樹は、その真実を知ることが、自分にとっての命取りになるのではないかという恐怖に囚われていた。彼は、唯華の異常性を感じながらも、その正体を暴く術も、勇気も持ち合わせていなかった。ただ、唯華の隣に座り、いつも通り勉強を教わることしかできなかった。彼の心の中では、漠然とした不安と、唯華への理解できない感情が渦巻いていた。その複雑な感情は、彼を深い迷路へと誘い込んでいくようだった。



唯華は、学校での日常と、組織の最高指導者としての顔を完璧に使い分けていた。彼女にとって、学校での時間は、目的達成のための「偽装」であり、同時に、世間の情報や人間の心理を観察するための貴重な場でもあった。クラスメイトたちと交わす何気ない会話の中にも、彼女は社会の動向や人々の感情の機微を読み取ろうとしていた。学校という小さな社会は、世間の縮図であり、彼女にとっての実験場だった。友人の悩み、教師の言葉、ニュースに対する生徒たちの反応…その全てが、彼女の計画をより盤石なものにするための情報として、彼女の頭脳に刻み込まれていく。


夜、自室のクアトロモニターが煌々と光を放つ中で、唯華は再び冷徹な指導者へと変貌する。部屋の照明は落とされ、モニターの光だけが彼女の顔を照らし出す。その瞳には、昼間の学校で見せる柔らかな光は宿っておらず、ただ冷たい光が宿っていた。モニターに映し出される、奪還された隊員たちが新たな地下基地で訓練に励む姿。彼らは整然と動き、指示に忠実に従っている。新たに密輸された膨大な兵器群の映像。最新鋭の銃器、高性能な爆薬、そして何よりも目を引くのは、都市を破壊するほどの威力を秘めたと推測される大型兵器の設計図だった。それら全てが、彼女の「浄化」のビジョンを着実に具現化していく。彼女は、モニターに映る一つ一つの映像を、まるで自らの手で作り上げた芸術作品を眺めるかのように、満足げに見つめていた。その表情には、一切の迷いや躊躇が見られなかった。


彼女の瞳は、遠い未来、浄化された日本の姿を鮮明に捉えていた。現在の腐敗した社会、形骸化した正義、そして閉塞感に満ちた人々の心を、すべて洗い流し、新たな日本を創造する。それが彼女の掲げる「浄化」だった。血と硝煙の彼方に広がる、新たな日本の黎明。それは、彼女にとって、どんな犠牲を払っても成し遂げるべき、絶対的な未来像だった。そのビジョンのためには、どんな手段も厭わない。彼女の胸には、揺るぎない確信が宿っていた。


そして、日本の地下では、恐るべき巨竜がその咆哮を上げようとしていた。巨大な地下基地の片隅で、着々と準備が進められている「計画」。その全貌は、未だ誰にも知られていない。日本の治安機関は、焦燥感に苛まれながらも、未だその全貌を掴めずにいる。彼らは、未曾有の危機が迫っていることを予感しながらも、その正体も、規模も、そして目的も把握できずにいた。果たして、彼らはこの巨竜の覚醒を阻止できるのか。あるいは、唯華の「浄化」は、この国を根底から変えてしまうのか。


鈴鹿裕樹は、今日もまた、唯華の隣に座り、彼女の静かな声で勉強を教わっていた。彼は、知らず知らずのうちに、巨大な運命の渦の中に巻き込まれていくことになるのだろうか。彼の心の中に芽生えた、唯華への漠然とした恐れは、やがて現実となるのだろうか。彼が見たものは、ただの妄想なのか、それとも、この国の未来を揺るがす恐るべき真実の一端だったのか。彼の日常は、もう二度と、元には戻らないのかもしれない。彼の視線の先に、微かに揺れる唯華の横顔があった。その顔は、彼にはもう、以前のように無邪気な少女には見えなかった。

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