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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
公安警察や自衛隊の動向。そして内部から崩れる影。

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第33話、公安警察や自衛隊の動向。そして内部から崩れる影。

満月が空高く昇り、銀色の光が東京のビル群を静かに照らしていた。時刻は午前2時。都市の喧騒が遠のき、静けさが増す頃、警視庁本部周辺は、微かな車の走行音と、時折聞こえるパトカーのサイレンの音だけが響いていた。


その静寂を切り裂くように、東京のあちこちで、小規模な異変が起こり始めた。新宿の駅ビルで火災報知器が誤作動を起こし、渋谷のスクランブル交差点近くのATMがハッキングされ、謎のメッセージが画面に表示された。霞が関の政府機関のウェブサイトが一時的にダウンし、各所の電話回線には、不審な爆破予告が立て続けにかかってきた。公安警察の各部署には、混乱と焦りが広がっていた。


「新宿で爆破予告!渋谷でもシステムダウン発生!各所から不審物情報が上がっています!」


無線がひっきりなしに鳴り響く。黒崎と白石は、司令室で怒鳴り声にも似た指示を飛ばしていた。黒崎の顔には、苛立ちと同時に、どこか不吉な予感が滲んでいた。


「全て陽動だ!だが、対処しなければならない。各所に応援を回せ!だが、警視庁本部の警備は絶対に緩めるな!」


黒崎は、陽動であることは理解していたが、市民の安全を無視するわけにはいかなかった。戦力は分散され、警視庁本部周辺の警備は薄くなる。唯華の情報省による緻密な情報操作が、見事に公安の目を欺き、戦力を拡散させていた。


警視庁本部地下の特別留置施設。厚い鋼鉄製の扉の向こうでは、疲労困憊した公安警察官たちが、仮眠をとりながらも警備を続けていた。彼らは、数日間にわたる不審な情報と、逮捕されたテロリストたちの頑なな沈黙に精神をすり減らしていた。


その頃、警視庁本部の地下深くに広がる複雑な配管やケーブルダクトの中を、数人の影が音もなく進んでいた。中村健太率いる特殊作戦部隊、潜入班のメンバーだ。彼らは、最新鋭の暗視ゴーグルを装着し、超小型ドローンで事前にマッピングされた地下通路の立体図を頭に叩き込んでいた。特殊な吸着ブーツは、どんな壁面でも音を立てずに移動することを可能にし、彼らの動きは、まるで影そのものだった。


「ターゲット施設まで残り50メートル。監視カメラ、全て無効化済み」


先頭を行く隊員が、小型の通信機で中村に報告する。彼の声は、囁き声に近かったが、鮮明に中村の耳に届いた。


「よし。静かに進め。警備員には非致死性ガスを使用する。絶対に殺傷するな」


中村の指示に、隊員たちは無言で頷く。彼らは、唯華の命令を忠実に守り、不必要な流血を避けることを最優先としていた。


施設内部へと続く通気口の格子が、音もなく取り外された。潜入班の隊員たちは、訓練された動きで次々と内部へと滑り込んでいく。彼らが最初に遭遇したのは、仮眠室で休憩中の警備員たちだった。隊員の一人が、特殊な形状のサイレンサーを装着した非致死性ガス銃を取り出し、静かにガスを散布した。甘い香りのガスが室内に充満し、数秒後には警備員たちが静かに意識を失っていく。彼らは、深い眠りに落ちたように見えた。


次に現れたのは、廊下の巡回警備員だった。彼らは、疲労からか、わずかに足音が大きくなっていた。潜入班の隊員は、巡回ルートの死角から飛び出し、瞬時に警備員を拘束した。警備員の口には、特殊な粘着テープが貼られ、手足は拘束帯で固定された。意識を失わせるガスも使用され、彼らは完全に無力化された。これらの動きは、訓練された無駄のない動きで、一瞬たりとも音を立てなかった。


特別留置施設の核心部へと進むにつれて、警備はさらに厳重になっていった。しかし、偵察班が事前に把握していた情報が、彼らの侵入を可能にしていた。監視カメラの死角、レーザーセンサーの隙間、そして警備員の巡回間隔。全てが計算され尽くしていた。彼らは、まるで透明人間のように、警備の網をすり抜けていく。


「目的の房、確認。対象、全て生存」


中村の通信機に、留置房に到達した隊員からの報告が入った。中村は、短く「了解」と返答し、さらに奥へと進む。


留置房の扉は、電子ロックで厳重に守られていた。破壊工作班の隊員が、特殊な装置を扉のロック部分に設置する。小さな電子音が数回鳴り、カチリ、とロックが解除される音がした。扉がゆっくりと開き、薄暗い房の中に、憔悴しきった様子の隊員たちが横たわっていた。


「大丈夫か」


隊員の一人が、優しく声をかける。拘束されていた隊員たちは、突然の出来事に驚き、警戒の目を向けた。しかし、彼らの目には、見慣れた特殊作戦部隊のエンブレムが映っていた。その瞬間、彼らの目に希望の光が宿った。


「唯華様からの命令だ。お前たちを解放しに来た。今から脱出する。指示に従え」


中村が冷静に告げる。隊員たちは、疲労困憊の体を引きずりながらも、素早く立ち上がった。彼らの目には、深い忠誠心と、再び戦場に立つという決意が宿っていた。


奪還された隊員たちは、特殊作戦部隊の指示に従い、静かに脱出経路を進んでいった。彼らは、拘束されていた間に与えられた偽装用の服に着替え、完全に民間人に偽装された。脱出経路の途中には、破壊工作班が仕掛けた通信傍受対策や、GPS攪乱装置が作動しており、公安の追跡を困難にしていた。


警視庁本部から数キロ離れた地点では、偽装された冷蔵車や建材運搬車が待機していた。奪還された隊員たちは、それらの車両に分乗し、事前に設定された複数の脱出ルートへと散っていく。高速道路の裏道、人里離れた山道、そして深夜の交通量の少ない一般道。情報省の山田は、公安の追跡を欺くための偽の車両追跡データや、架空の目撃情報を流し、彼らを別の方向へと誘導していた。


陽動の混乱が続く中、警視庁本部地下の特別留置施設では、異変に気付いた警備員が、倒れている仲間を発見し、緊急通報を発した。


「緊急事態発生!特別留置施設で、警備員が倒れている!被疑者が……被疑者がいなくなっている!」


司令室に悲鳴のような報告が響き渡る。黒崎は、その報告を聞いて、血の気が引くのを感じた。彼の顔は蒼白になり、額には冷や汗が滲んでいた。


「何だと!?まさか、陽動は……」


彼の脳裏に、最悪のシナリオがよぎった。白石もまた、同様に言葉を失っていた。


「陽動は、我々の目を欺くためのものだった!彼らの真の目的は、囚われた仲間たちの奪還だったのだ!」


黒崎は、机を叩き、激しい怒りと悔しさに声を荒げた。


「すぐに追跡しろ!全ての戦力を動員し、奴らを捕まえろ!東京から一歩も出すな!」


しかし、時すでに遅し。特殊作戦部隊は、完璧な作戦遂行能力と、唯華の情報操作によって、既に警視庁本部の厳重な警備網を突破し、夜の闇へと消えていた。満月の光が、その成功を静かに見守っているかのようだった。

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