第32話、公安警察や自衛隊の動向。そして内部から崩れる影。
作戦は、以下の三段階で構成された。全ての段階で、唯華の情報省による緻密な情報操作が伴う。
第一段階:陽動と攪乱
情報省の山田が、公安内部にさらなる偽情報を流し、彼らの目を分散させる。具体的には、都内各所で同時多発的に小規模なテロ行為を装った事件を起こし、公安の戦力を分散させる。これは、あくまで陽動であり、犠牲者を出さないよう細心の注意が払われた。山田は、事前に用意していたフェイクニュースサイト、SNSアカウント、そして匿名掲示板を駆使し、偽の情報を拡散させた。
「偽装爆破予告、不審物情報、ハッキングによる政府機関のウェブサイト改ざん……。公安のシステムを一時的に麻痺させ、彼らの注意を別の場所へ向かせる」
山田は、淀みなく計画を説明した。彼の言葉には、公安を手のひらで踊らせる自信が滲んでいた。彼は、公安が持つ情報収集能力と分析能力を逆手に取り、彼らが最も信頼する情報源に偽の情報を流し込むことで、彼らの判断を狂わせるつもりだった。
陽動班は、公安の注意を逸らすため、都内の交通網や公共施設を標的にした偽の脅迫電話や、ウェブサイトの改ざん、サイバー攻撃を敢行する。これらはすべて、公安のシステムを混乱させ、人員を分散させるための陽動に過ぎない。
第二段階:潜入と奪還
中村健太率いる特殊作戦部隊が、公安の目を掻い潜り、特別留置施設へと潜入する。彼らは、最新鋭のステルス装備と、都市型戦闘に特化した訓練を受けている。潜入ルートは、地下鉄の廃線、下水道、あるいは隣接する建物の地下通路などを利用する。彼らは、警備の死角を突くための高度な偵察訓練を受けており、侵入経路を事前に完璧に把握していた。
偵察班は、事前に警視庁本部の周辺を徹底的に調査し、監視カメラの死角、警備員の巡回ルート、地下施設の配管図や電力系統図まで詳細に把握していた。彼らは超小型ドローンやサーモグラフィーを駆使し、警備体制の僅かな隙間をも見逃さなかった。
潜入班は、警視庁本部の地下に広がる複雑な配管やケーブルダクトを抜け、音もなく施設内部へと侵入する。彼らは特殊な吸着ブーツや超小型ドローン、レーザーセンサーなどを装備し、侵入経路上の障害物を全て無力化する準備を整えていた。彼らの動きは、まるで影そのものであり、警備システムのセンサーをかいくぐり、一切の痕跡を残さない。
「我々の隊員は、闇に溶け込み、音もなく侵入する。警備の死角を突き、完璧なタイミングで行動を開始する」
斉藤の言葉には、隊員たちへの揺るぎない信頼が込められていた。彼らは、公安の監視カメラの死角や、警備員の巡回ルートを完璧に把握していた。潜入経路も複数用意され、有事の際には即座に代替ルートに切り替えられるよう、訓練を重ねていた。
奪還の際には、物理的な破壊ではなく、精密な無力化を徹底する。催眠ガスや非致死性兵器を使用し、警備員を無力化する。あくまで、逮捕された仲間を奪還することが目的であり、不必要な戦闘は避ける。彼らは、拘束された仲間たちを無傷で救出することを最優先とした。
破壊工作班は、万が一の事態に備え、施設の通信網や電力供給システムを一時的に麻痺させるための準備を整える。しかし、彼らの真の任務は、奪還した仲間が逃走する際に、公安の追跡を困難にするための障害を設置することだった。
「彼らは、日本の治安機関の人間だ。我々の『浄化』の対象ではない。不必要な流血は避ける」
唯華の言葉に、幹部たちは深く頷いた。彼女は、あくまで「浄化」という理念に基づいて行動し、無用な犠牲は避けるべきだと考えていた。
第三段階:脱出と隠匿
奪還した隊員たちは、事前に用意された複数の脱出ルートを使い、首都圏外の新たな地下基地へと移動する。脱出経路には、高速道路の裏道や、人里離れた山道などが選ばれ、偽装された車両が複数台用意される。公安の追跡を振り切るため、GPS攪乱装置や、偽の通信を発信するシステムも導入される。情報省は、公安の追跡を欺くための偽の車両追跡データや、架空の目撃情報を流し、彼らを別の方向へと誘導する準備を進めていた。
「彼らを、新たな地下基地で保護する。そこで、彼らは新たな訓練を受け、真の『解放戦士』として生まれ変わるだろう」
田中が、力強く宣言した。彼の声には、仲間たちを必ず救い出すという強い決意が込められていた。
唯華は、この作戦にかける思いを、幹部たちに語った。その声は、静かでありながらも、確かな重みを持っていた。彼女の瞳の奥には、今もなお、逮捕された仲間たちへの深い悲しみが宿っていたが、それを押し殺し、冷静さを保ち続けていた。
「彼らを助け出すことは、単なる人質奪還ではない。それは、日本の治安機関に対する、我々の最初の、そして最も重要な『宣戦布告』だ」
彼女の瞳は、激しい感情の炎を宿していた。その炎は、悲しみと怒り、そして揺るぎない覚悟が混じり合った、複雑な輝きを放っていた。しかし、その輝きは、決して弱さを見せるものではなかった。むしろ、その感情の深さが、彼女の決意を一層強固にしているようだった。彼女は、自らの心の奥底で燃える炎を、彼らの前では決して表に出さなかった。
「彼らを奪還することで、公安は動揺し、その存在意義が問われるだろう。そして、我々の存在を、この日本中に知らしめることができる。我々は、この国の腐敗を浄化し、真の秩序をもたらすために、いかなる困難も乗り越える」
唯華の言葉は、幹部たちの心を震わせた。彼らは、唯華の悲しみと、その悲しみを乗り越えようとする強い意志を感じ取っていた。彼らは、唯華の言葉に、彼ら自身の使命と存在意義を見出した。彼らの心には、唯華への絶対的な忠誠と、仲間を救い出すという共通の目標が深く刻まれた。彼らは、唯華の「浄化」のビジョンに、自らの人生を捧げることを改めて誓った。
「日本の夜明けは、我々の手にかかっている。そして、その夜明けを掴むために、我々は今、行動を起こす」
唯華の言葉は、静寂な会議室に響き渡り、幹部たちの心に深く刻まれた。彼らは、この作戦の成功が、新日本解放戦線の未来を左右する重要な分岐点となることを理解していた。唯華の瞳の先には、既に解放された仲間たちと、新たな日本の姿が鮮明に映し出されているかのようだった。その視線の先には、血と硝煙の彼方に広がる、新たな日本の黎明が広がっていた。それは、彼女にとって、どんな犠牲を払っても成し遂げるべき、絶対的な未来像だった。




