第26話、公安警察や自衛隊の動向。そして内部から崩れる影。
新日本解放戦線のオンラインコミュニティは、水面下で活動を活発化させていた。唯華の「浄化」という理念に共鳴する若者たちが、インターネットを通じて次々と組織に加わっていった。彼らは、社会の閉塞感、未来への漠然とした不安、既存の秩序に対する不満を抱えていた。唯華の言葉は、そんな彼らの心に深く突き刺さった。訓練省の斉藤と田中は、隊員の募集を強化し、実行部隊の数を増やしていった。
「我々の理念に共鳴し、この腐敗した日本を変えたいと願う者よ、今こそ立ち上がれ。新日本解放戦線は、新たな未来を築くための力を求めている。勇気ある者、我々の元へ集結せよ。」オンラインコミュニティに流れるメッセージは、若者たちの心に響いた。それは、単なる過激な言葉ではなく、彼らの心の奥底に潜む「何かを変えたい」という渇望を刺激するものだった。失われた未来への希望、社会への不満、閉塞感。そうした感情を抱えた若者たちが、唯華の掲げる「浄化」という言葉に救いを求め、共感を覚えた。彼らは、オンライン上で与えられた指示に従い、人知れず各地の訓練施設へと集結していった。それは、まるで漆黒の闇に吸い込まれるかのように、静かに、しかし確実に進行していた。
訓練は、長野の地下壕だけでなく、新たに建設された地下基地の一部でも開始された。基礎体力訓練、銃器の分解・組み立て、射撃訓練、格闘術、戦術訓練、救急医療、心理戦など、内容は多岐にわたった。早朝から深夜まで、彼らは肉体と精神の限界に挑み続けた。新たに加わった隊員の中には、元自衛官や元警察官、あるいは海外での軍事経験を持つ者も含まれており、彼らが訓練の質を向上させる上で大きく貢献した。彼らは、それぞれの経験と知識を惜しみなく提供し、新日本解放戦線の訓練水準を格段に引き上げた。最終的に、実行部隊の隊員数は、目標の2,000人に到達した。彼らは、唯華の指揮のもと、日本を「浄化」するための尖兵として、その能力を日々高めていた。彼らの瞳の奥には、唯華への絶対的な忠誠と、自らの手で新たな日本を築くという揺るぎない決意が宿っていた。
しかし、完璧に見えた唯華の計画にも、予期せぬ亀裂が生じた。東京の公安警察本部に、黒崎の焦燥感は日増しに募っていた。新潟と長野の県境付近で確認される不審な電波と大型車両の目撃情報は、以前と変わらず彼のデスクに積み重なっていた。しかし、決定的な証拠は掴めず、彼の直感は、まるで巨大な蜘蛛の巣に絡め取られたかのように、空回りするばかりだった。
「長野方面への不審な物流情報は、依然として途絶えていません。しかし、全て正規の輸送許可証と積載証明書を携帯しており、偽装を見破ることができません。彼らは我々の裏をかいているとしか思えません。まるで、我々の思考を先読みしているかのようです。何かが、この国で水面下で蠢いている…それが何なのか、どうしても掴めない。この不可解な状況は、日本の安全保障を脅かす重大な事態に発展しかねません。このままでは、取り返しのつかないことになる。」部下からの報告に、黒崎は奥歯を噛み締める。情報漏洩の可能性を疑い、公安警察の木村と自衛隊情報本部の田中を密かに監視させていたが、彼らは表面上は忠実な職務をこなし、これまで具体的な証拠は一切見つかっていなかった。唯華の情報省の山田が、完璧な偽装と攪乱工作を行っていたからだ。公安の捜査網は、巧みに張り巡らされた偽の情報によって、まるで手綱を引かれたかのように翻弄されていた。
「木村と田中については、引き続き監視を続けろ。だが、現時点では彼らの動きに不審な点は見られない。我々は、奴らの手玉に取られているのかもしれない。奴らは我々の思考パターンを熟知しているとしか思えない。これは、日本の安全保障を揺るがす事態に発展する可能性を秘めている。このままでは、取り返しのつかないことになる…。」黒崎は、自身の無力感に苛立ちながらも、冷静さを保とうと努めていた。彼の直感は、日本のどこかで恐るべき力が形成されつつあることを告げていたが、具体的な「点」を結びつける「線」が、どうしても見つからないのだ。彼は、日本を覆う不穏な空気を感じ取っていた。公安内部でも、この原因不明の事態に、疲労と不信感が募り始めていた。
「上層部からの圧力も強まっています。これ以上の成果が出なければ、捜査の縮小も検討されると…。我々の存在意義が問われています。しかし、我々は諦めるわけにはいきません。この国の未来のために、何としても奴らの尻尾を掴まなければならない。日本の夜明けは、我々の手にかかっているのだ。」部下の一人が、恐る恐る口を開いた。黒崎は拳を握りしめた。彼は、もはやこの事態が単なるテロ組織の活動ではないことを直感していた。背後にいるのは、より巨大で、より巧妙な、日本の根幹を揺るがす勢力だ。しかし、彼は諦めなかった。この日本で何か恐ろしいことが起こっているという直感は、彼を突き動かし続けた。彼は、独自の情報網を駆使し、海外の協力機関にも接触を図っていたが、確かな情報は得られていなかった。彼の焦燥感は、日に日に募るばかりだった。日本の未来が、まさに彼の双肩にかかっているかのようだった。彼は、自身のデスクに置かれた日本の地図を睨みつけ、どこかに隠された「巨竜」の巣を探し続けていた。
公安警察内部に潜む「新日本解放戦線」の内通者を炙り出すため、黒崎は巧妙な罠を仕掛けた。彼は、部下を装った捜査官に、偽の物流情報を掴ませ、それをわざと唯華の内通者である木村と田中にリークさせたのだ。情報は、公安が特定の地域での監視を強化するという内容で、組織の注意をそらすためのものだった。
唯華の情報省の山田は、その情報を受け取り、即座に実行部隊の移動ルートを変更するよう指示した。彼らは黒崎の罠に気づかず、偽の情報にまんまと乗せられてしまった。しかし、それは黒崎の狙い通りだった。偽の情報に踊らされた実行部隊の一部は、公安がすでに監視を強化していたルートへと誘導されてしまったのだ。




