第23話、公安警察や自衛隊の動向。そして内部から崩れる影。
数週間後、日本列島の片隅、闇に包まれた秘密の会合場所で、兵站省の渡辺と外交省の藤原は、新たな密輸計画の最終調整に入っていた。薄暗い部屋には、紙の束が散乱し、二人の顔には張り詰めた緊張感が漂っていた。今回のターゲットは、日本の空を制圧し、上空からの脅威に対抗するための、まさに「空の盾」となる兵器群だった。9K38 Igla携帯式地対空ミサイル、対空火力を補強するZPU-4対空機関砲、そして追加のBMP-2歩兵戦闘車、BM-21グラート多連装ロケットシステム、ZU-23-2対空機関砲、さらにT-72M1主力戦車、MT-LB多目的装甲牽引車、2S3アカーツィヤ自走榴弾砲、9K35ストレラ-10自走対空ミサイルシステム、そしてMi-24ハインド攻撃ヘリコプター。そのリストは、日本の治安機関の目を欺く上で、これまでの密輸とは比べ物にならないほどのリスクを伴うものだった。
渡辺は、硬い表情で藤原を見据えた。彼の声には、抑えきれない焦燥感が滲み出ていた。「藤原、今回のルートは確実なのか? Iglaは、我々の防空能力を劇的に向上させる。ZPU-4も、ヘリや軽航空機に対して絶大な効果を発揮する。BMP-2とグラート、ZU-23-2は、今後の作戦において極めて重要だ。T-72M1は我々の機甲戦力の核となり、MT-LBは多様な任務に対応可能だ。2S3アカーツィヤは強力な火力支援を提供し、ストレラ-10は機動防空の要となる。Mi-24ハインドは、Mi-35Mを補完する。失敗は許されない。携帯式地対空ミサイルはその携行性から、多連装ロケットシステムや自走榴弾砲といった大型兵器の密輸は、これまでの輸送作戦とは比べ物にならないほどのリスクを伴うぞ。」
藤原は、渡辺の不安を打ち消すように、静かに、しかし揺るぎない自信を込めて答えた。彼の指先が、テーブルに広げられた地図の上を滑る。「問題ない、渡辺。これまで築き上げてきた海外のネットワークを最大限に活用する。今回は、ロシア極東の港から小型貨物船に積み込み、日本の北西海岸へと輸送する。偽装は完璧だ。漁船に偽装した我が方の船が、沖合で積み替える手筈になっている。今回の貨物船は、漁業調査船として登録されており、海上保安庁の目を欺くのは容易だ。グラートやZU-23-2、そして戦車や自走砲も、漁具や研究機材、あるいは大型の建設機械と偽装する。船内には、偽の漁業日誌や研究データまで用意している。入港時刻も、潮流や天候を考慮し、最も監視の目が緩む時間帯を選定した。必要であれば、偽の遭難信号を発信し、海上保安庁の注意をそらすことも可能だ。」長年の商社マンとしての経験と、国内外に築き上げた人脈が、彼の言葉に重みを与えていた。
深夜、日本海に面したとある漁港に、一隻の小型漁船がゆっくりと接岸した。船名は偽装され、「海竜丸」と銘打たれた船体は、ごく一般的な漁獲物と偽られた木箱が積まれていた。だが、その中身は、新日本解放戦線が待ち望んだ「空の盾」と「地を焼く火」だった。港には、民間人を装った実行部隊の隊員が七十名以上配置され、厳重な警備を敷いていた。彼らは、密かに運び込まれたAK-103アサルトライフルを携行し、周囲の警戒を怠らなかった。夜の闇が、彼らの活動を隠蔽する。
「迅速に、そして静かに!いかなるトラブルも許されない!夜明けまでには全てを片付けるぞ!」渡辺の指示が、闇夜に響き渡る。木箱が次々と運び出され、待機していた偽装車両に積み込まれていく。その数は、Iglaミサイルが200基、ZPU-4対空機関砲が5門、BMP-2歩兵戦闘車が20台、BM-21グラート多連装ロケットシステムが5基、ZU-23-2対空機関砲が10門、T-72M1主力戦車が20台、MT-LB多目的装甲牽引車が20台、2S3アカーツィヤ自走榴弾砲が7台、9K35ストレラ-10自走対空ミサイルシステムが5基、そしてMi-24ハインド攻撃ヘリコプターが2機にも及んだ。これらの兵器は、厳重に偽装され、地下壕へと向かう幹線道路へと運び出された。
同時に、地下壕へと向かう幹線道路では、情報省の山田が仕掛ける新たな攪乱工作が展開されていた。偽のトラックが不自然なルートを走行したり、監視カメラに誤った情報を流したりすることで、公安警察の目を欺いていた。偽装されたダミー車両が、複数の高速道路を同時に走行し、公安の追跡車両を惑わせる。無線通信も頻繁に傍受され、偽の会話や指示が流されていた。偽の緊急車両の出動情報や、交通事故の発生情報まで流し、公安の注意をそらす徹底ぶりだった。公安の捜査車両が偽の交通事故現場に急行する中、真の輸送車両は静かに闇夜を駆け抜けていく。
長野の地下壕、広大な訓練場では、新たに搬入された兵器の習熟訓練が開始された。
9K38 Igla携帯式地対空ミサイルの実地訓練が、訓練省の斉藤と田中が指導のもと行われていた。隊員たちは、ミサイルの構造、発射手順、そして標的の選定方法を厳しく指導される。斉藤の怒号が響き渡る。「Iglaは、航空機に対する唯一の対抗手段となる。発射のタイミング、そして標的の補足は、0.1秒の判断が命取りになることを理解しろ!敵の航空機は、一瞬の隙も与えてくれない!撃ち落とせなければ、我々が撃ち落とされる!」隊員たちは、模擬標的に向かって何度もミサイルを構え、発射のシミュレーションを繰り返していた。シミュレーター上では、仮想の敵機をロックオンし、ミサイルを発射する訓練が何百回も行われた。彼らは、ミグラントヘリや偵察機を模した標的を正確に補足し、撃墜する訓練を繰り返した。実戦を想定した夜間訓練では、暗視装置を装着し、熱源を感知してミサイルを発射する訓練も行われた。
その隣では、ZPU-4対空機関砲とZU-23-2対空機関砲の操作訓練が行われていた。重厚な機関砲が、隊員の操作によって滑らかに旋回し、仮想の敵機を追尾する。田中が、隊員たちに具体的な指示を与える。「ZPU-4は、その連射能力で敵機を圧倒する。しかし、精密な照準がなければ意味がない。連携を意識しろ!複数の対空機関砲で、敵機を十字砲火で迎え撃つイメージを持て!一点集中で敵を粉砕しろ!ZU-23-2は、その機動性を活かし、より柔軟な対空防御を展開するのだ!」隊員たちは、ZPU-4とZU-23-2の射撃訓練を繰り返し、その圧倒的な火力を体感していた。彼らは、秒間数百発もの弾丸を撃ち出す訓練を、汗だくになりながら繰り返した。さらに、ZPU-4を車両に搭載し、移動しながら射撃する訓練も行われた。
新たに搬入されたBMP-2歩兵戦闘車とT-72M1主力戦車、MT-LB多目的装甲牽引車は、既存のT-80UとBMP-3との連携訓練に組み込まれた。地下壕内の模擬市街地では、複数の戦車と歩兵戦闘車が連携し、歩兵部隊を援護しながら敵陣を突破する訓練が行われた。BMP-2は、2A42 30mm機関砲と9K111 Fagot対戦車ミサイルを装備しており、その火力は歩兵部隊にとって心強い存在だった。T-72M1は、T-80Uと連携し、より大規模な機甲部隊を形成する訓練が行われた。MT-LBは、人員輸送や物資運搬、さらには対戦車ミサイル搭載車両としての運用訓練も行われた。彼らは、車載機関砲の精密射撃訓練、ミサイル発射訓練を繰り返した。特に、戦車と歩兵戦闘車が互いの死角をカバーし、連携して攻撃目標を制圧する訓練は、実戦を強く意識したものだった。
そして、最も目を引いたのは、BM-21グラート多連装ロケットシステムと2S3アカーツィヤ自走榴弾砲の運用訓練だった。地下壕の奥深く、広大な空間に設置された模擬目標に向かって、ロケットや榴弾が発射される。轟音と衝撃が地下壕全体を揺るがし、凄まじい閃光が走る。斉藤は、グラートとアカーツィヤの訓練を特に重視していた。これらは、大規模な市街戦において、決定的な役割を果たす可能性を秘めていたからだ。「グラートの運用は、状況判断が重要だ!目標の座標を正確に入力し、迅速に発射せよ!一度発射すれば、広範囲を壊滅させることができる。その威力を理解しろ!アカーツィヤは、精密な射撃で敵の要塞を粉砕しろ!我々が戦うのは、この腐敗した日本そのものだ!」グラートのロケットは、地下壕の防音壁を揺るがすほどの破壊力を持っていた。彼らは、仮想の敵陣地を想定し、短時間で広範囲にわたる制圧射撃を行う訓練を繰り返した。
さらに、9K35ストレラ-10自走対空ミサイルシステムの運用訓練も開始された。ストレラ-10は、機動性に優れ、地上部隊の防空を担う重要な兵器だった。隊員たちは、移動中の目標を捕捉し、ミサイルを発射する訓練を繰り返していた。
技術省の吉岡は、新たな兵器の導入を検討していた。それは、T-90主力戦車と、2S19 Msta-S自走榴弾砲だ。海外の同志との交渉は進んでおり、近いうちにこれらの兵器も日本へと密輸される可能性が高まっていた。吉岡は、新たな戦車と航空機の調達可能性に興奮を隠せない様子だった。「T-90は、T-80Uの近代化改良型だ。防御力、攻撃力、そして機動性、全てにおいて強化されている。2S19は、我々の火力支援能力を飛躍的に向上させる。これらが加われば、我々の戦力は盤石となる。さらに、MiG-29戦闘機とSu-25攻撃機の運用準備も怠るな。彼らが加われば、日本の制空権も我々のものだ。」彼は、これら新兵器の運用マニュアルを徹底的に研究し、地下壕での運用シミュレーションを繰り返した。戦闘機や攻撃機が日本の空を舞う日もそう遠くはなかった。
唯華の指示は明確だった。彼女は、あらゆる状況に対応できる万全の戦力を求めていた。兵器の数は増え続け、長野の地下壕はまるで巨大な軍事基地へと変貌を遂げていた。




