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ある日私は、革命家という名のテロリストになった。  作者: 水鳥川倫理
公安警察や自衛隊の動向。そして内部から崩れる影。

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第16話、公安警察や自衛隊の動向。そして内部から崩れる影。

バンが大山を運び込んだのは、市街地から離れた海岸沿いの工業地帯にひっそりと佇む、古びた工場だった。長らく閉鎖され、錆びついたトタン屋根と崩れかけた壁が、その廃墟感を際立たせている。しかし、その内部には、「新日本解放戦線」が秘密裏に設営したコンクリート製の地下室があった。


バンの扉が開けられ、目隠しをされた大山が引きずり出される。彼の身体はまだ意識が朦朧としており、抵抗する力はない。数段の階段を降りると、ひんやりとした湿った空気が肌を刺した。地下室の入り口は、分厚い鉄製の扉で厳重に閉ざされている。その扉を開けると、そこは完全に外界から隔絶された空間だった。


地下室は、簡素な作りだった。壁と床は打ちっぱなしのコンクリートで、冷たい灰色の世界が広がる。天井には裸電球が一つぶら下がっており、その弱々しい光が、部屋全体を薄暗く照らしている。空気は重く、カビのような匂いがわずかに漂っていた。


部屋の中央には、錆びたパイプ椅子と、それに固定された金属製の机が置かれている。机の上には、ペンとノート、そして一本の懐中電灯が無造作に置かれていた。壁には、日本地図が貼り付けられており、いくつかの都市に赤色の印がつけられているのが、薄暗がりの中でも見て取れる。


大山は、そのパイプ椅子に乱暴に座らされ、手足を机に固定された。目隠しと猿ぐつわはそのままにされている。彼は、何が起こっているのか理解しようと、頭を必死に回転させていたが、状況は全く掴めない。ただ、漠然とした恐怖が彼の心臓を締め付けていた。


数分後、地下室の扉が再び開かれ、唯華が静かに足を踏み入れた。彼女は、黒いロングコートを羽織り、その顔は暗がりの中でほとんど見えない。しかし、彼女の瞳だけが、冷たい光を放っていた。


「大山巌議員。ようこそ、私たちの秘密の場所へ」


唯華の声は、地下室に静かに響き渡った。その声は、普段の学校での柔らかな声とは全く異なり、感情のこもらない、研ぎ澄まされた刃のような響きを持っていた。


大山は、唯華の声を聞き、驚きに目を見開いた。その声には聞き覚えがあった。しかし、それが誰の声なのか、確信が持てない。恐怖と混乱が、彼の心を支配する。


唯華は、大山の前に進み出て、懐中電灯を手に取った。そして、その光を大山の顔に直接当てた。突然の強い光に、大山は顔を背けようとするが、拘束されているため叶わない。


「これから、あなたには、私たち『新日本解放戦線』の質問に、全て答えていただきます」


唯華の言葉は、まるで氷のように冷たかった。



唯華は、大山の真正面に立ち、その表情をじっと見つめていた。彼女は手に持った懐中電灯の光を大山の顔に向けたまま、静かに口を開いた。


「大山議員。あなたは、長年にわたり政界に身を置き、この国の舵取りを担ってこられました。しかし、その裏で、数々の不正行為に関与し、私腹を肥やし、国民の信頼を裏切ってきたことは、紛れもない事実です」


唯華の言葉は、淡々としていながらも、容赦なく大山の心に突き刺さった。大山は目隠しをされているため、唯華の表情を見ることはできないが、その声から伝わる冷徹な気迫に、背筋に悪寒が走った。


「…何を、言っているんだ…?私は…私は何も…」


猿ぐつわを外された大山が、掠れた声で反論しようとする。彼の声は、憔悴と恐怖でか細い。しかし、唯華は彼を遮った。


「無駄な抵抗はやめてください。私たちは、あなたの全ての不正を把握しています。あなたが、某企業からの不正献金を受け取り、その見返りに便宜を図ったこと。あなたが、国民の血税を私的に流用し、贅沢な生活を送っていたこと。そして、あなたが、自身の保身のために、多くの罪なき人々を犠牲にしてきたこと…全て、詳細な証拠を握っています」


唯華は、机の上に置かれたファイルを手に取り、その中から数枚の書類を抜き出した。そして、それを大山の目の前に広げて見せた。大山は目隠しをされているため、書類の内容を読み取ることはできないが、唯華の言葉の重さに、彼の顔から血の気が引いていく。


「…そんなはずはない…誰かが…私を陥れようとしているんだ…」


大山は必死に否定するが、唯華の追及は止まらない。彼女の声は、一切の感情を挟まず、ただ事実を羅列する。


「私たちは、あなたのような『旧体制』の象徴を、この国から一掃するために活動しています。あなたの不正は、この国を蝕む癌です。そして、私たちは、その癌を外科手術によって、完全に切除するつもりです」


唯華の言葉は、まるで手術を執り行う外科医のように冷静で、感情が全く感じられない。それがかえって、大山に底知れぬ恐怖を与えた。


「何を…するつもりだ…?まさか…殺すのか…?」


大山は、震える声で尋ねた。彼の顔は、もはや恐怖で青ざめている。


「殺す?いいえ、そんな生ぬるいことはしません。私たちは、あなたの生命を奪うことよりも、はるかに恐ろしい『罰』をあなたに与えます」


唯華は、ゆっくりと大山の顔に近づいた。その距離が、大山の恐怖を一層募らせる。唯華の冷たい吐息が、大山の顔にかかる。


「私たちは、あなたの全ての不正を、この国の国民に白日の下に晒します。あなたがこれまで隠し通してきた醜悪な真実を、全ての人々に知らしめるのです。そして、あなたの社会的な死を、あなたの目で、耳で、感じ取っていただきます」


唯華の言葉に、大山の身体は硬直した。社会的な死。それは、彼にとって、肉体的な死よりも恐ろしいものだった。これまで築き上げてきた名声も、地位も、全てが崩れ去る。国民からの嘲笑と憎悪が、彼を永遠に苛むことになる。


「私たちは、あなたの口から、全ての真実を語らせます。あなたが関与した全ての不正、あなたが知りうる限り全ての政治家の腐敗を、詳細に、包み隠さず話していただきます。それが、あなたがこの場所から生きて出る唯一の道です」


唯華は、大山を解放する唯一の条件を突きつけた。


大山は、全身で震えながら、唯華の言葉を反芻していた。全てを話せば、社会的な死が待っている。しかし、話さなければ、ここで何をされるかわからない。彼の脳裏に、様々な情報が錯綜する。


「お前に…何を話せば…満足なんだ…」


大山は、絞り出すような声で尋ねた。彼の声は、もはや蚊の鳴くようだった。


「全てです。あなたが知っている、この国の闇の全てを。誰が、どのような不正に関与し、誰が、その恩恵を受けていたのか。具体的な日付、場所、人物、金額…全てを詳細に話していただきます」


唯華は、大山にノートとペンを差し出した。


「さあ、始めましょう。あなたの『告白』を」



大山は、唯華の冷徹な眼差しに、ついに観念した。彼は震える手でペンを握り、ノートに文字を書き始めた。最初は、たどたどしく、断片的な情報だった。彼の文字は震え、途中で何度も途切れた。しかし、唯華の執拗な尋問と、彼女が提示する証拠の数々に、大山は次第に追い詰められていく。


唯華は、大山の言葉の矛盾や、隠蔽しようとする意図を瞬時に見抜き、的確な質問をぶつけた。彼女の質問は、まるで外科医がメスで病巣を抉り出すかのように、大山の内なる闇を暴いていく。


「それは事実と異なりますね。あなたが受け取った献金は、提示された金額よりもはるかに高額だったはずです。なぜ、嘘をつくのですか?」唯華の声は、あくまで静かだが、その中に有無を言わせぬ圧があった。


「その会議に、あなたは出席していなかったはずです。なぜ、そこにいたかのように話すのですか?誰を庇っているのですか?」


「その裏金は、一体どこへ消えたのですか?まさか、全てがあなたの懐に入ったとでも言うつもりですか?」


唯華は、常に冷静で、感情的になることは一切なかった。彼女の言葉は、まるで精密機械のように正確で、大山は逃げ場を失っていく。大山は、唯華がこれほどまでに自分のことを調べていたことに驚き、そして畏怖を覚えた。まるで、自分の人生の全てを彼女に見透かされているかのようだった。


「…わかった…話す…全て話す…だから…命だけは…」


大山は、ついに嗚咽を漏らしながら、全てを告白し始めた。彼の口から語られるのは、政治家たちの醜悪な裏金工作、談合、利権漁り、そして国民を欺くための情報操作の実態だった。彼は、自身の不正だけでなく、他の政治家たちの不正についても、詳細に語った。彼が知る限りの、この国の闇の全てを。


唯華は、大山の告白を、一言一句聞き漏らすことなくノートに記録していく。彼女の顔には、一切の感情が浮かんでいなかった。ただ、冷徹な分析と、次なるステップへの思考が、その瞳の奥で渦巻いているのが見て取れた。


「…全て話した…これで…いいだろう…?」


数時間が経過し、大山は疲れ果てた表情で、唯華に尋ねた。彼の顔は青ざめ、目には生気が失われている。髪は乱れ、服も皺だらけだ。


「まだです。私たちには、あなたに語っていただきたいことがあります。それは、あなたが私たち『新日本解放戦線』のために、これから何をするか、です」


唯華の言葉に、大山は絶望の表情を浮かべた。彼は、唯華が自分を解放する気がないことを悟った。



唯華は、大山の告白を終えると、ノートを閉じた。彼女の顔には、微かな達成感が浮かんでいた。しかし、それは決して感情的なものではなく、あくまで計画の一歩が進んだことへの冷静な評価だった。


「大山議員。あなたの告白は、私たちにとって非常に価値のある情報でした。これにより、私たちは、この国の腐敗した構造を、国民に明確に示すことができます」


唯華は、そう言いながら、大山の前に一つのタブレットを置いた。タブレットの画面には、「新日本解放戦線」のロゴが表示されている。


「しかし、これだけでは終わりません。私たちは、あなたに、私たちの『浄化』に協力していただきたい」


大山は、タブレットの画面を凝視した。彼の脳裏に、最悪のシナリオがよぎる。彼の口元が震えている。


「どういうことだ…?私に、一体何をしろと…?」


大山は、かすれた声で問い返した。


「簡単です。あなたは、私たちの指示に従い、世論を誘導していただきます。私たちの主張が、いかにこの国にとって必要なものであるか、そして、旧体制がいかに腐敗しているかを、あなたの言葉で、国民に訴えかけていただくのです」


唯華の要求は、大山にとって、屈辱以外の何物でもなかった。これまで自分が築き上げてきた名声と信頼を、自らの手で破壊し、自分を捕らえたテロリストたちの傀儡になる。それは、彼にとって、まさに生き地獄だ。


「…できない…そんなこと…」


大山は、震える声で拒否した。彼の表情は、苦痛に歪んでいる。


「できます。私たちには、あなたが従わない場合に備えて、あなたをさらに追い詰めるための情報が、まだたくさんあります。あなたの家族に関する情報、あなたの資産に関する情報、そして、あなたがこれまで隠してきた、さらなる醜聞…これらが全て世に出ることを、あなたは望まないでしょう?」


唯華の言葉に、大山は身体を硬直させた。彼は、自分の弱みを全て握られていることを悟った。家族、財産、そしてこれまで守り続けてきたプライバシー。全てが、唯華の手に落ちている。


「選択肢は、あなたにはありません。私たちに協力し、新たな日本を築くための礎となるか、それとも、この地下室で、あなたの全てを失うか。選ぶのはあなたです」


唯華の言葉は、大山に最後の選択を迫った。


大山は、もはや抵抗する気力も失っていた。彼は、自分の人生が、完全に唯華の手に握られていることを痛感した。絶望と諦めが、彼の心を支配する。


「…わかった…協力しよう…」


大山は、力なく頷いた。その目には、もはや生気はなかった。彼の顔は、まるで蝋人形のように無表情だった。


唯華は、その答えに満足したかのように、微かに唇の端を上げた。


「賢明な判断です、大山議員。これで、あなたは私たちの『同志』となることができます。そして、新しい日本を築くための、重要な役割を担うことになるでしょう」


唯華は、タブレットの画面に、大山に語らせるべきメッセージを表示させた。それは、彼がこれまで主張してきた内容とは真逆の、社会の変革を求める過激な内容だった。大山は、そのメッセージを読み上げながら、自分の魂が少しずつ死んでいくのを感じていた。



大山巌が拉致されたというニュースは、日本社会に衝撃を与えた。メディアは連日、大山の失踪を報じ、警察は大規模な捜索を開始した。しかし、一切の手がかりは見つからない。


その一方で、インターネット上では、「新日本解放戦線」の活動が活発化していた。唯華が大山から引き出した情報が、匿名で次々と暴露されていく。大山巌の不正献金、他の政治家たちの汚職、企業との癒着…これまで隠されてきた闇が、白日の下に晒されていく。国民は、そのあまりの腐敗ぶりに、怒りと失望を募らせていた。


そして、数日後、インターネット上の動画サイトに、一本の動画がアップロードされた。それは、拘束された大山巌が、憔悴しきった表情で、自身の不正と、この国の政治の腐敗を告白する内容だった。彼の言葉は、まるで台本を読み上げているかのように淀みなく、しかし、その瞳には、深い絶望が宿っていた。


この動画は、瞬く間に拡散され、日本社会に大きな衝撃を与えた。国民の怒りは頂点に達し、政府への不信感は決定的なものとなった。デモや抗議活動が全国各地で勃発し、社会は未曾有の混乱に陥った。


公安警察の黒崎は、その動画を見て、顔を歪ませた。彼の拳は、ぎゅっと握り締められている。


「やはり…彼らが狙っていたのは、これだったのか…」


黒崎は、大山が「新日本解放戦線」の傀儡となり、世論を誘導していることに気づいていた。しかし、動画の拡散を止めることはできない。既に国民の間に、怒りの炎が燃え上がっているからだ。


「彼らは、政治家を拉致するだけでなく、彼らを道具として利用し、社会を動かそうとしている…恐ろしい奴らだ…」


黒崎は、自身の無力さに歯噛みした。彼の目には、焦燥と苦渋が入り混じっていた。


一方、自衛隊の藤田も、この状況に危機感を募らせていた。彼の眉間には深い皺が刻まれている。


「社会が、急速に不安定化している。このままでは、内乱に発展しかねない…」


藤田は、司令部で、部下からの報告を聞いていた。報告内容は、「新日本解放戦線」の活動が、より組織的かつ計画的になっていることを示唆するものだった。


「武器の調達ルートは、未だ不明。サイバー攻撃も、高度すぎて追跡が難しい。そして、何よりも厄介なのは、彼らが世論を巧みに操っていることだ」


部下の一人が、厳しい表情で報告する。彼の声には、疲労が滲んでいた。


藤田は、窓の外に広がる夕焼け空を見つめた。この美しい日本の空の下で、今、社会が音を立てて崩れようとしている。


「彼らが、次に何を仕掛けてくるか…予測はできない。しかし、我々は、最悪の事態に備えなければならない」


藤田は、深く息を吐き出した。そして、部下たちに毅然とした声で命令を下した。


「全隊、警戒レベルを最高に引き上げろ。不穏な動きがあれば、即座に報告。そして、万が一、国民の生命や財産に危害が及ぶ事態が発生した場合、躊躇なく行動を開始する準備を怠るな」


藤田の言葉には、強い決意が込められていた。彼は、この国の平和と秩序を守るために、自らの命を賭ける覚悟をしていた。彼らの敵は、見えない存在だが、その脅威は現実のものとして彼らの目の前に迫っていた。



学校では、大山議員のニュースが大きな話題になっていた。クラスメイトたちは、怒りや驚き、そして不安が入り混じった表情で、そのニュースについて語り合っていた。


「まさか、大山議員があんなことになってたなんて…信じられないよ」と山田彩香が、大きな瞳を見開いて言う。


「本当に、この国の政治家って、どこまで腐敗してるんだろうね…」と佐藤美咲が、溜息をつきながらつぶやく。


そんな中、唯華は、普段と変わらない穏やかな表情で、クラスメイトたちの話を聞いていた。彼女の心の中では、計画が順調に進んでいることへの満足感と、次なる段階への思索が渦巻いていた。


唯華は、大山議員の告白動画が社会に与える影響を正確に予測していた。国民の怒りを煽り、旧体制への不信感を決定的なものにする。それが、彼女の「浄化」の第一歩だった。


(これで、国民の心は、私たちの『真実』を受け入れる準備が整った。次は、彼らに、具体的な『行動』を促す段階だ。)


唯華は、次のターゲットをすでに絞り込んでいた。それは、大山巌以上に、この国の「旧体制」を象徴する存在だった。そして、その人物を「浄化」することで、彼女の「新しい日本」への道は、さらに大きく開かれるだろう。


放課後、唯華は再び、チャットルームで「同志」たちと連絡を取り合っていた。彼女の指が、素早くキーボードを叩く。


「大山巌の件で、社会は混乱の極みにあります。我々の情報が、国民の意識を大きく変えました」と、ある同志が報告する。


「次なるターゲットの選定と、具体的な行動計画の最終確認をお願いします」と、唯華の指示は、的確で迷いがなかった。彼女の声は、まるで冷たい鋼のように、その決意を物語っていた。


鈴鹿裕樹は、唯華の背中を、廊下からじっと見つめていた。彼の表情は、不安と困惑に満ちている。唯華の周りで起こっている出来事が、あまりにも大きすぎて、彼の理解を超えていた。しかし、彼の中に芽生えた唯華への違和感は、日増しに大きくなっていた。


(神月さん…一体、何をしているんだ…?)


裕樹は、唯華の完璧な優等生としての顔の裏に隠された、もう一つの顔を、漠然とではあるが感じ取っていた。それは、彼の「親切で頭の良いクラスメイト」のイメージとはかけ離れた、冷徹で、そして全てを支配しようとするかのような、恐ろしい顔だった。


しかし、裕樹には、唯華に直接問いただす勇気はなかった。彼は、このまま、唯華の影に怯えながら、日常を過ごすしかないのかと、不安に駆られていた。彼の心には、確かな予感があった。


それは、唯華の行動が、この社会に、そして彼自身に、大きな影響を与えることになるだろうという、不吉な予感だった。そして、その予感は、やがて現実となる。新たな犠牲と、さらなる混乱の波が、すぐそこまで迫っていた。


夜が更け、唯華は自宅の書斎で、日本地図を広げていた。赤色のペンで記された印は、さらに増えている。彼女は、その地図をじっと見つめ、静かに、そしてゆっくりと、その指を滑らせた。


(松原先生。あなたの言う『甘さ』は、この腐敗した社会には通用しない。私は、この国の癌を、根こそぎ切除する。痛みなくして、真の再生はない。)


唯華の唇から漏れたその言葉は、まるで世界の運命を支配するかのような、冷たい響きを帯びていた。彼女の心には、一切の迷いはなかった。彼女は、もう引き返すことのできない道を歩んでいることを理解していた。そして、その道の先に、どんな未来が待っていようとも、彼女は決して止まることはないだろう。


その頃、鈴鹿裕樹は、唯華の異変に気づき始めていた。彼女の表情、言葉、そして行動の全てが、以前とは異なる。彼は、唯華が何をしようとしているのか、漠然とした不安を抱きながらも、その真実を突き止める勇気を持てずにいた。しかし、彼の心には、確かな予感があった。


それは、唯華の行動が、この社会に、そして彼自身に、大きな影響を与えることになるだろうという、不吉な予感だった。そして、その予感は、やがて現実となる。新たな犠牲と、さらなる混乱の波が、すぐそこまで迫っていた。

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