第102話、終わりの始まり
ナチス第4帝国との戦争終結から三ヶ月後。神聖日本帝国は、全世界の国家に対し、無条件降伏を要求し、これを受諾させた。地球上から、戦争を仕掛ける主権国家は消滅した。
東京、最高指導者邸。
唯華は、全世界に向けて、神聖日本帝国による『世界統一政府』の樹立を宣言した。
「本日をもって、この地球上に存在する全ての主権国家は、その地位を喪失する。人類は、長年の戦争と、腐敗したイデオロギーによる苦難から解放される。我々、神聖日本帝国は、この世界を『神聖世界統一政府』として統一し、唯華の『絶対的な秩序』の下に置くことを宣言する」
彼女の宣言は、世界中のニュースネットワークを通じて放送された。その言葉は、冷徹で、感情を一切含まないが、長年の戦火に苦しんだ世界にとっては、一つの『救い』の言葉でもあった。
世界統一政府樹立から一ヶ月後。神聖日本帝国は、その勝利を全世界に示すため、東京で壮大なパレードを挙行した。
パレードの舞台は、皇居前の広場から、銀座、そして東京駅へと続く、大通りであった。沿道には、世界統一政府の新しい旗(旭日旗をベースに、地球の紋章を組み合わせたもの)が、誇らしげに掲げられていた。
パレードの主役は、もちろん、最高指導者・神月唯華その人であった。
午後2時。パレードが最高潮に達した時。
漆黒の生地に銀色の装飾が施された軍服、右肩から胸にかけて金色の飾緒が輝き、漆黒の短めのスカート姿の唯華は、オープンカーの最上座に立っていた。彼女の身長は160cm前後と小柄だが、均整の取れたスタイルと、整った目鼻立ちの可愛らしい顔立ちが、その冷徹な威厳を一層際立たせていた。
彼女の背中には、彼女のトレードマークである対戦車ライフルが、重厚に背負われていた。
唯華の乗るオープンカーの周りを、斉藤総司令官、田中副総司令官、そして美咲が、厳重な警備で固めていた。
沿道に集まった観衆は、熱狂的な歓声を上げ、神聖日本帝国軍のT-99戦車と、世界統一政府の新しい秩序を象徴する行進を、熱狂的に迎えた。唯華は、その歓声に対し、感情を排した、しかし微かな満足を込めた笑みを浮かべた。
「美咲。見て。これで、全世界は一つになった。我々の『大いなる犠牲』は、報われたのだ」唯華は、静かに美咲に囁いた。
「はい、唯華様。この瞬間こそが、永遠の秩序の始まりです」美咲も、感極まった表情で答えた。
その瞬間、遠く離れた、東京駅前の高層ビルの屋上から、乾いた、しかし重い銃声が一つ響き渡った。
それは、第4帝国との戦争で故国を失った、旧ドイツ軍人の元将校による、最後の抵抗であった。彼は、ナチス第4帝国の狂信的なイデオロギーではなく、ただ「主権」を奪われた祖国の復讐を胸に、この日を待っていた。
元将校が使用したのは、対人用に改良された特殊な長距離狙撃ライフルであった。
弾丸は、唯華の防弾ガラスを、僅かに狙撃角度をずらして貫通し、彼女の胸の心臓のわずかに下を、正確に撃ち抜いた。
唯華は、一瞬、その美貌に驚きと、そして微かな安堵の表情を浮かべた。
「…美咲…」
彼女は、その一言だけを呟き、その小柄な体を、静かにオープンカーの座席に横たえた。彼女の漆黒の軍服は、鮮血のような赤に染まっていった。
斉藤総司令官と田中副総司令官は、瞬時に狙撃方向を特定し、警護部隊に緊急指示を出したが、時すでに遅し。唯華の体は、すでに冷たくなっていた。
最高指導者・神月唯華の暗殺は、世界統一政府樹立の、わずか一ヶ月後に起こった。
唯華の暗殺は、全世界に衝撃を与えた。
しかし、幹部たちは、唯華が残した最終命令を、冷静に遂行した。
唯華は、自身の死が、新たな世界秩序の完成に不可欠な『儀式』となることを、予期していたのだ。彼女は、生前、幹部たちに一つの機密文書を残していた。
「私の死は、旧世界の権威の完全な終焉を意味する。圧政の象徴である私を闇に放り込み、真に平和な、新しい世界統一政府を樹立せよ」
唯華の死後、世界統一政府は、その強大な軍事力と技術力をもって、全世界の武装解除を完了させた。
そして、神聖日本帝国は、その名を捨て、『世界統一政府(Global Unity Government, GUG)』へと改組した。
斉藤総司令官、佐々木議長、そして美咲らは、唯華の遺志を継ぎ、その強権的な統治体制を、より人道的な、しかし絶対的な秩序を保つ体制へと移行させた。
圧政の象徴であった最高指導者・神月唯華の名は、歴史の表舞台から消え去り、「狂信的な独裁者」として、闇に放り込まれた。
しかし、彼女の残した『E-M02』による情報統制、そして『T-99』に代表される技術による軍事力の絶対的な均衡は、全世界の戦争とテロの芽を、根底から摘み取った。
全世界は統一され、神聖世界統一政府は、戦争もテロもない安全な世界へと生まれ変わった。それは、唯華が血と鉄をもって求めた、冷徹で、しかし絶対的な「永遠の秩序」の完成であった。
東京のパレード会場には、唯華の血の跡は消え去り、今や世界統一政府の平和の旗が、穏やかな風に翻っていた。
人類は、一人の小柄で冷徹な少女が起こした、血塗られた世界大戦を経て、ついに、恒久的な平和を手に入れたのである。その平和は、唯華の冷たい意志と、彼女が背負った対戦車ライフルの重さの上に、静かに築かれていったのだった。




