第100話、終わりの始まり
西海岸を橋頭堡とした神聖日本帝国軍は、内陸へと怒涛の勢いで進撃した。一方、ヨーロッパ大陸から派遣されたナチス第4帝国軍は、大西洋を越え、ニューヨークとボストンへの上陸作戦を敢行した。
両軍の戦略は、事前に唯華とシュタイナーの間で合意されていた。ナチス第4帝国軍は、アメリカの東部、金融と政治の中心地を占領し、神聖日本帝国軍は、技術と軍事の中心である西海岸と中央部を掌握する。
米軍は、二正面作戦を強いられ、すでにボロボロであったC4ISRシステムは、完全に崩壊した。
アメリカ中央部、カンザス州。
ここで、神聖日本帝国軍と、ナチス第4帝国軍の先鋒部隊が、勝利の抱擁を交わすはずだった。しかし、それは、新たな冷戦の始まりを象徴する、奇妙な邂逅となった。
吉田師団長と、ナチス第4帝国の前線指揮官、ヨーゼフ・ミュラー大佐が、廃墟となった農場の納屋で対面した。
「吉田師団長!我々、第4帝国軍が、ついに貴国と手を組み、腐敗したアメリカを打ち破った!」ミュラー大佐は、興奮気味に、その狂信的なイデオロギーをむき出しにして、握手を求めた。
吉田は、その熱狂的な手には触れず、冷静沈着に応じた。「ミュラー大佐。我々の目的は、あくまでアメリカの支配構造の破壊にあり、貴国のイデオロギーに共鳴するものではない。境界線は、事前に合意したミシシッピ川だ。これ以上の東への侵入は、作戦違反と見なす」
ミュラー大佐の顔が、一瞬にして凍り付いた。「何だと?これは、我々の共同の勝利ではないのか!東洋の猿が、我々の勝利に水を差すつもりか!」
「言葉を選べ、大佐」吉田は、T-99の砲塔を、ミュラー大佐の背後にいるナチス兵に向けさせた。「この勝利は、我が国の技術と、唯華様の冷徹な戦略によってもたらされた。貴軍の役割は、陽動と、東部の占領に過ぎない。このミシシッピ川が、新たな世界秩序の境界線だ」
この冷たい対立が、アメリカ全土に広がった。
米大統領は、すでにワシントンD.C.が陥落したことで、メキシコへの亡命を余儀なくされていた。国民の戦意は完全に喪失し、E-M02による情報麻痺、そしてT-99の圧倒的な技術力の前に、アメリカ合衆国は、ついに降伏文書に署名した。
米本土での戦闘は、わずか三ヶ月で終結した。
アメリカとの戦争終結後、世界は、神聖日本帝国(DJE)とナチス第4帝国(Fourth Reich)という二つの超大国によって、完全に二分された。ミシシッピ川が、東西を分ける、新たな鉄のカーテンとなった。
神聖日本帝国の勢力圏: アジア全域、ロシア極東、太平洋諸島、北米大陸西半。
ナチス第4帝国の勢力圏: ヨーロッパ全域、ロシア西部、大西洋諸島、北米大陸東半。
両国は、形式的には「世界平和同盟」を名乗っていたが、その実態は、イデオロギー、技術、そして資源の支配を巡る、極度の緊張状態にあった。唯華の掲げる「絶対的な秩序と技術支配」と、シュタイナーの「アーリア人種優越主義と狂信的なナチズム」は、水と油であった。
東京、最高指導者邸地下。
唯華は、美咲、斉藤総司令官、そして外交省大臣・藤原浩司を前に、ホログラムで映し出された世界地図を前に、冷徹な分析を始めた。
「美咲。ナチス第4帝国の軍事力、特に核兵器の無力化技術に関する情報の進捗は?」
美咲は、即座に答えた。「唯華様。彼らは、我々から供与されたT-99の技術を必死に解析し、旧式戦車の近代化を急いでいます。しかし、我々のE-M02のコア技術、そしてD-W10の超極超音速技術のブラックボックスは、彼らには永遠に解読できません。彼らが持つ核兵器は、既に我々の技術省によって、遠隔で無力化する準備が整っています」
斉藤総司令官は、懸念を表明した。「唯華様。彼らの狂信的な士気は侮れません。また、彼らは我々の技術を真似て、大西洋に『潜水艦要塞』を建設しています。我々が太平洋で『フドウ』を建造したように、彼らもまた、非対称技術で対抗しようとしています」
唯華は、冷たい笑みを浮かべた。「斉藤総司令官。彼らのイデオロギーは、短期的には強力な武器となるが、長期的には彼らの技術的限界と傲慢さによって、彼ら自身を滅ぼす。彼らは、自分たちが世界を救った『真の救世主』だと信じている。この傲慢さこそが、我々が彼らを打倒する鍵となる」
外交省大臣・藤原浩司が、経済的な状況を報告した。「ナチス第4帝国は、占領地で苛烈な人種差別政策と経済収奪を行っており、占領地でのゲリラ活動が激化しています。一方、我々の属領統治は、恐怖と同時に、先進技術による生活水準の向上ももたらしており、相対的に安定しています。彼らは、資源と労働力を浪費しています」
唯華は、最終的な決断を下した。「ナチス第4帝国は、この世界の癌細胞だ。腐敗した民主主義を破壊するという共通の目的は果たされた。今こそ、彼らを排除し、全世界を真の『絶対的な秩序』の下に置く時だ」




