第164話 大魔王デスジード
「ぴえぇ〜〜〜!」
ザックがよくとおる澄みきった鳴き声を発し、『復活の炎』を全員にかけた。温かい炎が心と身体に染みわたり、ハッとする。
想定外の大魔王とシン・死天王の登場に、心が敵にのまれてしまっていたようだ。
正常な思考で敵の分析をはじめる。
強敵との戦いでは、開幕一番に『復活の炎』をかけて、予め仮死状態になった途端に復活できるように備える必要がある。
自分で言った事だが、ザックが俺に何を言われなくともちゃんと状況を理解して使ってくれた事が嬉しい。お陰で冷静になる事ができたよ。ありがとう、ザック!
大魔王デスジードの見た目はゲームの時と同様に、魔道士然としたローブをまとい、顔には仮面を付け、全身をダークブルーの軽鎧で守っていた。右手に大剣、左手には何らかの宝珠を持ち、腰には様々な呪具をぶら下げている。
「ファファファ、『深淵の光』!」
大魔王デスジードがバフをはぎ取る特殊スキル『深淵の光』を使ってきた!
あらかじめかけておいた、シーラの魔法とエリーの歌や調合薬によるてんこ盛りのバフが消えてしまった!
だが『深淵の光』は短い間に連続使用はできなかったはずだ。
「オクちゃん来て! オクトロス召喚!」
ドドドッ!
シーラが召喚したオクトロスが即死攻撃の『たこですみません』を使った後に、更に頭上に留まって敵の攻撃に対して防御体制をとる。さすがに即死はしてくれなかったか。
「クリちゃん来て! クリスタルドラゴン召喚!」
連続魔法で続けてクリスタルドラゴンが召喚され、仲間たち全員に対して魔法を反射する障壁をはった。
エリー、ザック、シーラが再びバフをかけまくるが、敵も悠長に待ってはくれない!
傷つくと無限増殖に無限再生する触手で、海月魔王クラーゲンが攻撃してきた!
イーリアスが聖魔剣フォルバガードと聖竜の牙で対処する!
極熱魔王のツーヘッドドラゴンが防御無視の即死級の物理攻撃を繰り出し襲いかかるが、ミーニャがヘイトを稼ぎ引きつけている。
「ファファファ、『深淵の闇』!」
大魔王デスジードが魔法攻撃に対して高い防御力を備える特殊スキル『深淵の闇』を使った!
百獣魔王ディラグノスもスタン効果のある咆哮をあげたあと猛然と攻撃してきた!
ディラグノスの攻撃は俺が受け持ち、渡り合う。
死霊魔王ゴルゴンダが特殊魔法『デスフレア』を放ち、状態異常攻撃を内包した、恐るべき大爆発が俺達に降り注いだ。しかし、魔法障壁で反射してシン・死天王へと向かい爆発した!
だが、奴らは平然としている。
死霊魔王は魔法を跳ね返されるのを理解し、攻撃魔法を使わずに回復や、補助魔法を使うように切り替えてきた。
先ほどから死天王の奴らは、それぞれの大輝石で戦ったときはあれだけ騒がしく喋っていたのにも関わらず、シン・死天王になってからはスキルや魔法の発動に必要な呪文しか唱えていない。
本人の人格はなく、AIによるオートバトルをしているような感じなのか?
極熱魔王のツーヘッドドラゴンが左右の首からそれぞれ青と赤のブレスの光を発し、その光が中心で混じりあっている。光はみるみる内に大きくなり、白くバチバチと輝いていく。
まずい!
あれは問答無用で瀕死状態にする『心ない悪魔』か!?
「ホークト流水映心!」
バシュゥゥーー!
極熱魔王の瀕死砲撃は、『護る!の腕輪』と水映心の見切り効果により、事なきを得たが、極熱魔王は危険だ!
皆と連携して隙をつき、ホークト流百烈拳を叩き込む!
「あ〜たたたたたたた!!」
ドドドドドドドドドドドド!
ずずずっという音をたてて掻き消えていく、極熱魔王!
だが、次の瞬間には両手をかざした死霊魔王からの光により、再びずずずっと極熱魔王が再生してきた!
死霊魔王のやつ、蘇生魔法かネクロマンシーかはわからないが、せっかく一体倒したのになんてことをしてくれたんだ!
「我らのうらみ」
百獣魔王の発した声と共に目に見えない無数の針に全身を刺し貫かれるような痛みが俺の身体中をはしった!
「「「「「あああっ!」」」」」
くっ!? 一体でも倒すと、『配下のうらみ』と同様の攻撃までしてくるのか!?
ならばシン・死天王の本体っぽい、でっかい心臓みたいなやつを潰すしかないのか!?
それともダメージを負うのは覚悟でセオリー通り回復役に徹しているっぽい死霊魔王を先に排除すべきか。
「ファファファ、先ほどから観察してみれば、お前たちはただ人でありながら、それぞれにとんでもない防御力をもっているようだな」
大魔王か!
さっきからバフにデバフ、特殊攻撃とうざいから、手すきになる一瞬の隙を付いて、イーリアスとシーラとチョコが大魔王に向かって牽制の攻撃を飛ばしているんだが、硬すぎる障壁にはじかれて大魔王まで届かないんだよな。
「だがそれもこれまでだ。闇の力は満ちた。シン・死天王よ、あれを使うが良い」
シン・死天王達が、それぞれの大輝石の色を黒く濁らした様な色の光を立ち昇らせる。
なんだ!? 大魔王が何かの力をシン・死天王に集めていたのか!? 俺がゲームでも見たことのないスキルだ!
「「「「絶対防御無視破壊光線」」」」
「ぐおおおっ!?」
俺達全員に向けてそれぞれに飛んできた闇色の光に体を貫かれた!
「がはっ」
カチモンの俺にまで一撃でここまでのダメージを与えるなんて!?
チャクラで素早く回復しつつ振り返ってみると、HPの低いエリーが戦闘不能になっている!?
しかし、『復活の炎』の効果ですぐに蘇生し、全回復したようだ……危なかった……追い討ちがきたら誰かが真死になってもおかしくない攻撃だった……敵も連続しては攻撃できないのか?
仲間たち全員の回復をはかりつつ、敵の攻撃に備えていると、再びシン・死天王も大魔王も激しく攻撃してきた。
態勢を立て直した俺達も、凄まじい戦闘音とスキルの光をたてて戦う。
今はまだなんとか渡り合えているが、少しずつこちらが押し込まれているのを感じる。
だが、シン・死天王を一撃で仕留める方法は閃いた。その為の下準備をエリーに少しずつしてもらう。
それよりも問題は大魔王デスジードの強固な障壁だ。何か突破口を見つけないと……
『我らのうらみ』を喰らわないようにする為には死天王を一人ずつ倒すわけにもいかない。決定打を与えることなく、かつ、ゆとりを与えずダメージを積み上げ、ひたすら耐えるしかない。
『竜の牙』と『エリクシル』を調合して作るレベルを20上げる『ドラゴンパワー』とエリーのレベルを上げる歌スキル『えいゆうの歌』のひたすらの重ねがけで、俺のレベルがぐんぐん上がって極まってきたのを感じる。
どちらの方法でレベルを上げても各種ステータスは上限の999までしか上昇しないが、レベルも表記上は999まで上げる事ができる。
「ファファファ、シン・死天王よ、あれを使え。我はそのままトドメをくれてやろう」
またさっきの攻撃か!?
あっ!?
「イーリアス! ペルセウスの盾だ!」
「おうとも!」
イーリアスが瞬時にペルセウスの盾をインベントリから取り出し、聖竜の牙と入れ替える!
「大魔王へ向けてくれ!」
「まかせろ!」
「「「「絶対防御無視破壊光線」」」」
突撃したイーリアスが、闇色の光の出どころをおさえ、ペルセウスの盾で絶対防御無視破壊光線を受け止めて反射した!
あまりの威力に反射した後に粉々になるペルセウスの盾。だがスキルを跳ね返す効果は正しく発動し、大魔王デスジードを守る堅固な障壁をも貫き壊した!
更に一瞬の技後硬直の隙に、俺はシン・死天王の本体と思わしき巨大な心臓に猛然と突っ込む!
エリーの補助でレベルを上げまくってからの……
「ホークト流究極奥義! 無双転性!」
防御無視で『使用者のレベル✕100の固定ダメージ』を相手に与えるホークト流の究極奥義、無双転性でシン・死天王の巨大な心臓周囲を高速でぐるぐる回りながら、急所をめった打ちにする。
究極スキルの一撃で核の心臓の方をぶっ壊す!!!
ヂュドォドーン!
凄まじい轟音とともに、シン・死天王はバラバラに砕け、その後光のエフェクトへと変わった。




