第155話 それぞれの戦い① (三人称多元視点)
ヴィクトリア聖国の聖都セイダードで、シェンヒム大司教はよくとおる声で大音声で叫んだ。
「たった今、大輝石の声が届きました! 皆さん、聖女エリーは今まさに大魔王を打倒せんと、魔王軍の本拠地に攻め込んでいるそうです! 今こそ我々教会の聖職者や神殿騎士は一丸となって、大魔王の放ったモンスターを駆逐するのです!」
「「「おおー!」」」
活発化したモンスターの総攻撃により、一時は聖都セイダードの結界ギリギリまで押されていた防衛線は、シェンヒム大司教の話を聞いて奮起した人々の力で再び息を吹き返した。
「こちらの事は心配いりません。少しでも多くモンスターを受け持って、邪魔素生無塔にモンスターが行かないようにしましょう。 大魔王との決戦は頼みましたよ、我が弟子エリー、そして守護天使ルイよ」
姿の見えぬ愛弟子にそう言い残すと、得意のレクイエムでアンデッドモンスターを倒しながら、シェンヒム大司教も前線へと繰り出した。前へ前へと……更に前へと……
モロダジャナ王国の飛空艇ドックでは、高ランクの冒険者達を乗せて、次々にビーギン村へと離陸していた。荒くれ者の冒険者をまとめているのは、シュドウの同僚の武闘派の飛空艇技師達だ。
すでにシュドウより魔導無線機で詳細な連絡を受けており、モンスターが集中して集まってくる邪魔素生無塔のあるビーギン村付近へと冒険者達を輸送中だ。
先に出発した飛空艇は、ビーギン村付近で冒険者達を降ろした後にマリンバード王国へと向かい、そちらでも兵士、冒険者を輸送する手はずになっている。
「良いかお前ら! 俺達のエリーちゃんを安心させてやれ!」
「「「おおー!!」」」
吟遊詩人として数々の路上ライブをおこない、ズイーブド大陸各地にファンがいるエリーの人気は、留まるところを知らない。
アラーユ大陸のマーダ神殿では、テンチョク大神官が転職待ちや転職後の猛者たちに激を飛ばしている。
「良いか、お主らは世界各地から集まったツワモノ達じゃ。視点を変えてみよ。モンスターが向こうからわざわざやって来ておるのじゃ。それすなわちレベルを上げ放題ということじゃぞ! じゃんじゃんレベルを上げてマーダ神殿に戻ってきなさい。特別にお布施は無しで転職を導いてしんぜよう」
通常の人生では得られない第一・第二職業でのレベルカンストを目指して、世界屈指の猛者たちが意識を改めた。「俺達は襲われる側じゃない、狩るのは俺達の方だ」と。
ブーグリの勇敢な戦士グリが、ブーグリの仲間と共に西へと進む。アラーユ大陸の邪魔素生無塔のある場所はブーグリの洞窟からそう遠くはなかった。
「ぽっくんの友達のルイを助けるポク〜!」
しかし、その歩み(飛行)はとても遅かった。いつ辿り着けるかは、誰にもわからない……
水の大輝石からいち早く詳細を伝えられた水の勇者ケオルグは、水の巫女メアリーの真の姿である水竜モードの背中に乗って高速で移動している。すでにクシャルト大陸に上陸し、邪魔素生無塔のある場所へと川をさかのぼっている。
共にジャマソーナ塔の破壊に向かうのは『海牛宮』を守護する水闘士でもある弟子のバトルジュゴンだ。
そして、頼りになる仲間がもう一人。
『漢女宮』を守護する水闘士マルコである。
マルコはルイとのタイマン勝負で負けを覚悟した時に、死を擬態していた。自ら発光して消失のエフェクトを偽装した後に、真の姿である小さなクマノミの姿になって隠れてやり過ごしていたのだ。
「我ら水の大輝石に連なる者として、クシャルト大陸の塔は命をかけてでも落としてみせる! 大魔王は頼むぞ!」
現在生きている中で、最も勇者らしい勇者、カエルの勇者ケオルグはそう自らに誓った。
火の国ではクマンモ八世が、女王太子ベアトリス、火の巫女ホルンを両脇に従えて、クマンモ戦士団と共に火の大輝石のあるソーア大火山を守護していた。
「儂ら火の国の王族は、火の勇者であったクマンモ一世の遺志を継ぎ、火の大輝石と国民を守りきるんじゃもん! みな、踏ん張るのじゃもん!」
カナリメアン大陸では旧ジョアーク帝国の帝国兵と、旧レジスタンスの面々がお互いに助け合って各地のモンスターを蹴散らしている。
竜騎士ケインは、飛竜モードになったローズの背中に乗り仲間と共に飛び立った。共に行くのは旧レジスタンスのフーリオ、サリア、ガオ、そして暗黒騎士レオナルドだ。
ミンクは暫定政府のトップとして旧帝都で全体の指揮をとっている。ミンクは指導者としての能力も高く、戦略飛空艇師団『黒い翼』をうまく使い、淀みなく各地へ人員を派遣していた。
ドワーフ王国ではエレーナ=スゲーナ=ドワジカシフ女王自ら前線に立ち、あらゆる武器を駆使してモンスターを屠っていた。
「わっはっはっ! 新技術を用いた武器の試し斬りにちょうど良い機会が訪れたぞ! みなのもの! 存分に検証して、鍛冶師としてさらなる高みを目指すぞ」
ムキムキマッチョのドワーフ軍団を率いてエレーナ女王は無双していた。
カッファリ大陸では、たまたまクエストをクリアする為に訪れていた勇者アイスが調子にのっていた。
「やっぱり俺がいないと世界は助からないんだな」
「勇者様さすがです〜!」
「ルイの願いは俺が叶える!」
「あなた達はいくら鍛えても、本当に変わらないわね。今後が心配になるわ」
カッファリ大陸の邪魔素生無塔のある場所へと飛空艇グローリーは突き進む。




