第154話 城崩し
「絶壁愛!」
デスジード城は一本の柱を皮切りに、連鎖して次々に崩れていった。まさに城崩し。
前世の職業である大工を長年やっていると、建物の強度が足りなさそうな所が何となく分かるんだよな。
そこに都市伝説的に大工に伝わる、日本のお城の『城崩し』のお話。
落城の際に、死なば諸共で敵兵を葬るこの仕組みは、一本の柱を取り除くことで城が丸ごと崩れ落ちるという……まことしやかに伝わっているが創作話らしいのだが、ここでは現実となった。
瞬影のケンタジードが奇御魂神社を破壊した時にも思ったんだよな。建物って破壊不能オブジェクトじゃないんだなって。
現実となったこの世界では建物に干渉できる。
ゲームの名残なのか、なんなのかはわからないが、デスジード城の柱は凄く細いんだよな。魔法的力で守られて破壊不能じゃなくて良かったよ。
守られていたのなら、それはそれでぶっ壊れるまで殴って壊すけどな。なんせ俺は『脳筋道を極めし者』なんて称号をもらってるくらいだから。『パワーこそ力だ』の精神で、どんな罠も殴って解決だ!
俺達がいるセーフゾーンは頑丈に作られていたようで持ちこたえている。念の為張ってもらった絶壁愛の下支え効果もあったのかもしれない。俺達は無傷だ。
城の崩壊が収まると、瓦礫の下から無数の光のエフェクトが立ち上る。
さしもの精鋭モンスター達も、上から降り注ぐ圧倒的質量攻撃の前ではひとたまりもなかったようだ。
大多数は葬ったようだが、大HPや高い防御力をもつモンスターや、物理攻撃が効かない霊体系モンスターが瓦礫を押しのけ、すり抜けて俺達に再び襲いかかってきた。
エリーのレクイエム、イーリアスの聖剣技、シーラの魔法、ミーニャの忍術、チョコとザックの魔法と遠距離攻撃で次々に残ったモンスター達を倒していく。
俺は姿の見えない皇帝コムゲーンに対して警戒を続ける。あれだけの力をもつ男だ。きっと消えてはいまい。
俺達パーティーの猛攻を受け凄まじい戦闘音をたてて、みるみる内にモンスターは減っていく。
「うごぉー!」
ドゴッ!
大きな瓦礫がこっちに吹っ飛んできた!
盾役の俺が素早く反応して叩き壊す!
皇帝コムゲーンが復活してきた!
皇帝コムゲーンが次々と飛ばしてくる瓦礫をスキル真空把で弾き返し迎え撃つ。
「誘惑!」
「ホークト流水映心!」
死ぬまで解けない皇帝コムゲーンの秘技誘惑を見切りスキル水映心で破る。『護る!の腕輪』の効果により、味方全体に見切りスキルが派生して、誰一人誘惑にかかる者はいない!
「魔法剣サンダザム! 雷空烈斬り!」
ズガガン!
初戦以上の凄まじい威力だ!
だがカチモンの俺がしっかりと防御をすれば、そこまでのダメージはない! オーラを纏わせた腕でしっかりと受けた!
「ブラッディスクリュード!」
グジャジャジャッ!
闇堕ち勇者の使う防御無視の貫通攻撃が、俺の右脇腹をえぐる!
しかし神チャ衣ナドレスにはばまれて、右脇腹に気合いを入れて受け止めたカチモンの俺には大した効果はない!
俺が守りに徹している間に、仲間達が全てのモンスターを倒し終えた。ここからはずっとおらのターンだぜ!
「オラオラオラオラ!!」
俺のオーラパンチの連撃で牽制しつつ、対ボス戦用の陣形を組み直し、全員でよってたかって皇帝コムゲーンをめった打ちにする
「ぷえ〜!」
「ぴえ〜!」
「メーテオ!」
「ドレインチッス!」
「阿修羅斬。」
「乱れ打ちにゃ!」
「ホークト流百烈拳! あ〜たたたたたたた!!!」
ドドム!!!
「ウボァー!」
硬質なガラスが繊細に砕けるような澄んだ音をたてて、皇帝コムゲーンが光のエフェクトと共に消えていった。
今度こそ逃がす事なく仕留める事ができたな。
「みんなお疲れ!」
「ルイちゃん……とんでもないことをしちゃったね……」
「良いんだよ、敵の城なんだし。俺達は無事で敵は全滅。万事解決さ」
「ボスはやり過ぎにゃ! あちしも死んじゃうかと思ったにゃ!」
城の深部におびき寄せ、逃れられない状況にして俺たちを殺すという、大魔王デスジードの作戦は城ごとぶっ壊してやったぜ。
くっくっくっ。
ねぇ、大魔王さん、今どんな気持ちぃ?
自慢の城まで破壊されちゃって、追い詰めたつもりが俺達は全員ピンピンしている。
ねぇねぇ、大魔王さん? 今どんな気持ちぃ?
おっとふざけている場合じゃないね。実際『城崩し』がなかったら、かなりのピンチだったしな。
それに俺達が手を出せない世界各地の方は、今どうなっているのか……
スクリーンがわりの天井がなくなってしまったから、世界の様子がわからないのは困るんだけど。
映像カモン!
あれ?
大魔王さんからの音沙汰なしだな。ファファファ笑いが聞けないのは残念だけど、こっちはこっちで当初の予定通り四つの塔の攻略をしますか。
「世界各地の事もあるし、俺達はこのまま急いで塔の攻略をしよう。事前に説明していたように、四つの塔はそれぞれの方角の四つの大輝石に対応している。そして四つ同時に機能を停止しないとエネルギーが暴発して爆発してしまうから、必ず同時に止めないといけない」
「魔導無線機を使って連絡を取るんだね」
「そう。これがあればタイミングを逃す事はないからね。四つの塔をそれぞれ護るモンスターがいるから、予定通り風の塔はエリーとチョコに、火の塔はミーニャに、水と土は……全体の統括もしている土にいるのは多分『アークシャドウ』だ。イーリアス、頼んでいいか?」
「無論だ。むしろ試練を乗り越えた私が決着を付けなければいけない相手だ。他に譲るつもりはない」
「それじゃあイーリアスに任せるよ。シーラも一緒によろしくね」
「うん! まかせて!」
「俺とザックが水の塔を……!?」
「ボス!」
俺の首に大鎌の刃が滑り込んできている!?
「はあっ!」
ガッ!
危なかった!?
大鎌をはじくのが遅れていたら首を持っていかれていたのか!?
「あら? 惜しかったネェ」
スーっと目に目えなかった姿が現れ、そこにいたのは大鎌をもちピエロの格好をした人型の魔族だった。
こいつは……デスジード城二階のフロアボス、ヴァンパイアロードか!?
「まさかお城が壊されちゃうなんて、奇術師の僕でもびっくりのイリュージョンだヨ。仕方ないからこちらから出向いてあげましタ。驚いてくれたかナ?」
「ボスここは、あちしがやるにゃ」
「いや、こいつは性格が悪い搦手でくる! 俺が相手をするからミーニャは予定通り火の塔に行ってくれ! シーラ! シーラには俺の代わりに水の塔を頼む! ザック、シーラを頼むぞ!」
ヴァンパイアロードは漢女宮の水闘士マルコのように、対戦相手が増えるとステータス補正が入る厄介な相手だ。
一対一が望ましい。
「ふふふ、行かせると思うのかイ? デスジード城の死神と言われる、このローテジードが全員あの世に案内してあげるヨ」
「はっ、お前の手の内はわかっているんだぞ? 殺らせると思うのか? みんな、ここは俺に任せて先に行け!」




