第144話 神威の胸当て
土の大神殿をあとにして『ロストワールド』を出た俺達は、不死鳥のザックに乗って浮遊大陸ズイーブドへと向かった。
カサンドラやシュドウ達の待つ飛空艇ミューズ号と合流する為に北へ北へと飛んでいくと、前方から一隻の飛空艇が飛んできた。
あれは!?
目を凝らしてよく見ると、その飛空艇は勇者パーティーのグローリー号だった。
またか……この広い世界で本当によく会うな。
「「おお〜い!」」
残念ながら向こうからも見つかってしまったようなので、無視をして進路変更するわけにもいかなくなってしまった。
北へ向かうザックに並ぶように進路変更をして隣り合ってきた勇者アイス一行。
「行ったことがないはずなのに、色々知っているルイはやっぱりのじゃのじゃ神様の使いだったようだ。確信したよ! だからご神託通りに俺と結婚しよう!」
「ことわる! お前はローザといちゃついてろ!」
俺との結婚の目はないと散々言っているのに、勇者アイスはまだわかってくれないらしい。そんな事を言うとゴライアまで興奮して、なにを言い出すかわからないので勘弁して欲しい。
目覚めたあとの勇者アイスの奴は、今まで散々ぶっ飛ばしてやったというのに、妙に俺に懐いてきやがったな。あれか? エムか? エムなのか?
違うか、アイスが自分で言ってるし、のじゃロリ女神のせいか!
のじゃロリのやつ、ホントにろくなこと言わないな!
……懐かれても困るんだが。
俺達ができるだけ最短でクリア出来るように、時短のためにクエストの情報を渡して面倒ごとを押し付けてるだけなんだけどな。
あっ、そうだ!
どうせ武器は余るし、封印城ワイダーンの攻略を手伝わせるか。
あそこは一度入ったら、全てのガーディアンを倒すまで外に出られないから、いらない武器は押し付けてついでに勇者パーティーを強化しよう。
「お前らどこまで進んだ?」
「『白金の髪飾り』は手に入れたし、バハヌートを味方に付けたぞ」
はやいな。もうそこまで進んだのか……じゃあワイダーン城での闘いは大丈夫だろう。
「次のクエストを終わらせたら……お前らにその気が有るなら、合同ででかいダンジョンの攻略するか? 良いところに連れて行ってやるぞ」
「「ついにルイが俺にデレた!」」
「デレてない! ゴライアもアイスも勘違いするな! 勇者パーティーらしいお仕事をしてもらおうと考えただけだ!」
「しかし、デートのお誘いなんだろう?」
「違う!」
勘違いしてきたゴライアと勇者アイスに、封印城ワイダーンの座標を教えると、七日後の朝に合流する事を伝えて追い払った。
何がデートだ!
勘違いしないでよね!
封印城ワイダーンの中では別々に攻略するんだから、断じて違う!
俺に男と結ばれる気はない!
アクシデントを乗り越えて、無事にカサンドラ達と合流すると、ドワーフ王国『ホーリラ』へとやって来た。
さっそく世界最高の鍛冶職人としても名高い、当代一の鍛冶職人ドワジカシフ女王に面会して事情を話す。
「そうであるか。聖竜素材を扱う事によって、我らの腕も相当に上がっている。神の名を冠する胸当ての合成か……このエレーナ=スゲーナ=ドワジカシフ、謹んで承ろう」
仰々しい感じになってしまったが、エレーナさんなら大丈夫! ちょいちょいで合成できますよ。
禊を済ませて、鍛冶場にて『風雷神の胸当て』『水神の胸当て』『火神の胸当て』『地神の胸当て』を並べてエレーナ女王が合成に取り掛かったが、何をやっても胸当てはいっこうに一つに合体しなかった。
あれ!?
ゲームだと、光るエフェクト一つで簡単に合成できていたのに!?
「ルイよ、合成できぬとは、我らが未熟ですまぬ」
「いや、エレーナ王なら絶対に合成できるはずなんです! なにか……なにか違和感とか、思いつく事とかないですか?」
俺の必死の訴えに首を横に振る。
「なんというか、胸当て一つ一つが完全な力を持っていて、うまく重なってくれない感じなのだ。なにか中和させるような……それぞれのつなぎになるような素材を合わせれば合成はできるかもしれんが……大輝石の加護を持つような強い力を持つなにかを……」
悩みながら、合成できない原因を考察してしぼりだしてくれたエレーナ女王。
まいったな、ここにきて未知の素材探しか……
「私を使ってください」
一同で、なにか良い方法はないかと考えていると、アルファがポツリと言った。
「私は土の巫女として大輝石との親和性が高く、更により大きな加護も与えていただきました。私が時代を越えて今こうしてここにいるという事は、これこそが真のお役目だったのでしょう。今ここで私の生命を素材として使って、世界を救ってください」
「アルファ!? だめだよ! そんなこと!」
ダズーのみならず、俺も皆もそう思っている。
「だけどこのままだと! 世界が滅んでしまうかもしれない! ルイさん達は大魔王と闘わなくてはいけませんから、これは私の役目なんです……元々はるか前に終わっていた生命を今ここで使うだけです!」
「だからってそんな!?」
皆が必死でアルファを説得している間に、俺も打開策を必死に考える。
なにか、なにか良い方法は他にないのか!?
このままだとアルファが思い詰めて先走ってしまいそうだ。
なにか……そうだ!
「エレーナ王! これをつなぎとして触媒に使ってみてください!」
そう言って俺はインベントリから『ティラのしっぽ』を取り出した。
「土の大輝石の大きな加護を得ていた漢の一部です」
「むぅ、確かに強い力を感じる……よし! 今すぐにやってみよう!」
再び四つの胸当てと、ティラのしっぽを使い合成を行うエレーナ女王とドワーフ鍛冶師達。
全てがカッと一度強く光ると、穏やかな虹色の光のエフェクトをまとって一つの胸当てが現れた。
『神威の胸当て』を手に入れた!




