第118話 七つのオウブ
神鳥の卵に赤、橙、黄、緑の四つの色が柔らかく降り注ぎ始めた。とてもあたたかくて心地良い光だ。ずっとこの光を浴びていたい衝動を抑えて、残り三色の王孵を求めて俺達は再び飛空艇ミューズ号で飛び立った。
アイレスランド島にあるアイレスランドの祠から出て、すぐ西にあるランドル島の『海賊島の秘宝』ダンジョンへと向かうと早速ダンジョン攻略へと乗りだした。
ファンサ5発売当時は、まさかすぐ隣に重要な王孵が隠されているとは当時のプレーヤーも中々気付けず、この情報を手に入れるために世界中を飛び回るハメになった。
だが、当然すでに知識として俺は知っているので、『海賊島の秘宝』ダンジョンの最奥部を攻略して五つ目の王孵、青王孵を手に入れた。
青王孵の次は休憩を取ってから、そのまま西へとミューズ号で向かう。目的地はマーダ神殿の南、広大なマカランタ砂漠のど真ん中にある『大地のへそ』ダンジョンだ。
『大地のへそ』ダンジョンは『古の試練』というクエストを受注してからのみ入れるダンジョンである。クエストの制約により、ダンジョンに入れるのはたった一人だけだ。
俺達のパーティーの場合、状態異常に完全な耐性をもつ『三チャの神器』を装備した『カチモン』の俺か、同じく状態異常に完全な耐性をもつ『平氏装備』に身を固めた『継戦能力最大』のイーリアスの二択になる。
先に世界中を飛び回って、状態異常耐性装備を整えれば、一番いいのは『最強を約束された真の万能戦士』たる『竜王(幼生体)』のシーラだろうな。魔法での殲滅能力が圧倒的だ。
この『大地のへそ』ダンジョンは、こちらはたった一人だというのに、とにかくモブ敵がうじゃうじゃ湧いてくるのだ。しかも、回復させてくれる味方がいないのに、敵モンスターはばんばん状態異常攻撃を仕掛けてくる鬼畜仕様だ。
七つの王孵集めの中でも、最大の難易度を誇る『大地のへそ』ダンジョンだが、今回はダンジョン内の構造をすでに把握している『カチモン』の俺が向かった。
一般職ながら『雑魚狩りからラスボスまでおまかせのバランスブレーカー』とまで呼ばれた女モンクの『カチモン』は伊達ではない。
圧倒的防御力で敵の攻撃は一切寄せ付けず、出会った大量の敵モンスターをとにかく殴る! たまに蹴る! むしろひたすら蹴る! 全体攻撃スキルの『けり』を使いまくる!
更にそこからの、強めの単体モンスター相手にはホークトナックルにて八連撃の嵐だ。
ドドドドッ! ドドドドッ!
ドドドドッ! ドドドドッ!
ドドドドッ! ドドドドッ!
ドドドドッ! ドドドドッ!
全く危なげなく全ての宝箱を回収し、最奥部にて六つ目の王孵、藍王孵を手に入れた。
帰り道もとにかく殴る! ひたすら蹴る!
無事にミューズ号に帰り着いた俺を見て、仲間達は安堵のため息をついた。まあ、ザックの事もあるし、かなり前のめりにダンジョンに突っ込んで行ったからな。みんなが心配する気持ちもわかる。
俺も逆の立場なら、心配で居ても立ってもいられないだろう。
王孵を六つまで集めたら、一度アイレスランドの祠へと戻る。
「「とまりなさい」」
「「おはいりなさい」」
双子の精霊セイとレイのお決まりのセリフを受けながら祠の中に入ると、今回手に入れた青王孵、藍王孵をそれぞれ対応する台座へと据え置いていく。
しばらくすると神鳥の卵に赤、橙、黄、緑の四つの色に加え、青と藍の合計六つの色の光が柔らかく降り注ぎ始めた。とてもあたたかくて心地良い光だ。
ずっとこの光を浴びていたい衝動を抑えて、最後の一つ紫王孵を求めて俺達は再び飛空艇ミューズ号で北東へと飛び立った。
ゲームでは、最後の一つ紫王孵は、実は先程王孵を六つ据え置くまでは、世界中を探してもどこにもない。
六つの王孵を据え置く事で、それがギミックとなり特殊モンスターが発生する。そのモンスターのドロップアイテムとして紫王孵を手に入れる事ができるのだ。
飛空艇ミューズ号は順調に進み、クシャルト大陸とアラーユ大陸の間にあるウボウフ海峡へとやって来た。
暴風海峡とも呼ばれる、このウボウフ海峡をうろついていれば、ナワバリを荒らされたと感じてヤツが現れるはずだ。
「前方から変なやつが!」
イーリアスから警告の声が上がった!
出た!!
特殊モンスター、ティボーン先生のご登場だ!!
ふぅ〜ん!!
ふぅ〜ん!!
巨大なティボーン先生のものすごく荒い鼻息の余波で、飛空艇ミューズ号が大きく揺れる!
飛空艇が破壊されそうだ!
ん!?
バカ野郎!
ティボーン先生のやつ、鼻息でお手玉をして紫王孵をブンブン浮かして遊んでやがる!
落としてなくなったらどうしてくれるんだ!
ん!?
待てよ!?
そこに見えてるって事は?
「ミーニャ、あれヤレるか?」
「ちょっと遠いけど楽勝にゃ」
破邪の剣にとても長いムチになってもらい、ミーニャの腰を縛って、万が一の落下に備える。
「んじゃ、行ってくるにゃ」
あまりにも軽い一言と共に、大ジャンプでティボーン先生のそばまで飛び、交錯した一瞬の隙に紫王孵をスキル『ぬすむ』でスリ盗ると、ティボーン先生の体を足場にしてけり、再びミューズ号へと戻ってきた。
すぐに破邪の剣をはずして、ミーニャをねぎらう。
「ミーニャ! よくやってくれた!」
「にゃはは、あちしにかかれば朝飯前にゃ!」
お気に入りのおもちゃを取られて頭にきたのだろう。
怒り狂ったティボーン先生が襲いかかって来たが、シーラが召喚した聖竜王ファーヴニルの極太ブレスによって、ティボーン先生はあえなく討伐されてしまった。鼻息さえなんとかなれば、わりと楽に倒せるんだよなティボーン先生は。
ついに七つの王孵がそろった!
これで俺達の願いも叶うはずだ!




