第113話 4つ目のオウブ
『ル、ルイお嬢様……も、申し訳ございません。吾輩はもう限界でございます』
奇御魂の盾が息も絶え絶えといった様子で俺だけにこっそりと念話をしてきた。くまさんは、常に全員にフルオープンで話しかけてくる破邪の剣と違い、用事がある時にその人にのみ話しかけることが多い。
俺も心の中だけでくまさんと会話する。
どうした奇御魂の盾さん? そんな今にも死にそうな声で。
『もうこれ以上は心だけでなく、盾としても真っ白に燃え尽きて灰になってしまいそうです。せめてシーラお嬢様に盾か胸当てとして装備していただく事ができれば、吾輩、見事に復活する事ができるのですが』
燃え尽きたぜ……か。おいおいくまさん。くまさんも元日本人なら知っているだろ? イエスロリータ、ノータッチの精神は? それを破ると、とんでもない事になるんだぜ? くまさんはシーラに触っちゃまずいぞ。見て愛でてる分にはセーフだから我慢するんだ。
『そ、そんな……それでは同時にお目汚しなモノまで視界に入ってしまって、ちっとも回復できないのですが。精神が摩耗していない平常時ならば問題ないのですが……』
うーん、仕方ないなぁ。それじゃあインベントリの中でしばらくの間休憩していてくれるか?
『かしこまりました。少しお休みをいただきます。お嬢様方にはよろしくお伝えください』
カサンドラから腕輪モードになっていた奇御魂の盾を受け取って俺のインベントリへとしまう。
「みんな、くまさんは本来装備できない者でも扱えるようにする為に、調整してくれていたけど、どうやらエネルギー切れらしい。しばらくの間インベントリの中で休んでいてもらう事になった。くまさん無しだと危ないから、カサンドラさんはミューズ号でこれまでみたいに待機していてね。」
「わかりました。奇御魂の盾さん、大丈夫かしら?」
カサンドラがくまさんの事を心配してくれているが、その原因がカサンドラ自身の大き過ぎる胸だという事には気付いていまい。失礼だから知っていても、俺からは教えないけどな。
そう、カサンドラのレベルアップの秘策とは、くまさん(腕輪モード)を身に着けての絶壁愛だったのだ。バリアを張ることで防御が完璧になり、更に戦闘には大きく貢献したとして経験値もしっかりと入って来る。
これにより、激弱ステータスで即死の危険にあふれていたカサンドラも、安全、安心に戦闘に参加できたのだ。資質が無い者が触るとバチッと弾かれるという、例の現象は破邪の剣の入れ知恵で逆にくまさん側で負担してもらった。
はっつぁんが言うには、そもそもバチッとくるのは盾としての特性では無く、くまさんの精神的なものでじんましんの様なものなんだそうだ。くまさんの頑張り次第で、過去にも勇者パーティーの巨乳の戦士がスポット的に使っていた事があったんだそうだ。
『カサンドラの最強チートスキルが必要な時が絶対に来るさかい、レベルを今のうちに上げとかんとあかんのやけど、カサンドラは貧弱やからすぐに死んでしまうやろなぁ、ママが死んだらシーラは哀しみに暮れて立ち直れんやろなぁ。シーラが可愛そうやなぁ』
と、はっつぁんがしれっと、くまさんを煽った結果、くまさんが熱くもえた。
『シーラお嬢様の大ピンチ! ここは吾輩に任せていただきましょう! シーラお嬢様が哀しむ様な事には絶対にさせません!』
と、ひたすら耐えて、カサンドラに使われていたのだ。しかしそれもついに限界を迎えて燃え尽きてしまったらしい。
くまさんありがとう。
君の勇姿は忘れないよ。
そもそも脂質無き者が資質有り、脂質有る者が資質無しとはこれ如何に? とんちか?
だが、冗談抜きでくまさんの頑張りには本当に助けられたな。なにせ三番目の『黃王孵』が眠っているところは、『メタルジェリーの洞窟』だったのだ。
出てくるモンスターは全てメタルジェリー系という『ファンサ5』屈指のレベル爆上げダンジョンだ。このダンジョンでは、メタルジェリーが次々に仲間を呼び合体して、なんと幻のメタルジェリーキングに変化するのだ。
当然、狩って狩って狩りまくった。遂にいくら待っても一匹もポップしなくなる様になるまで乱獲したので、次にメタルジェリーが現れるのは百年後かもしれない。おかげで四人のレベルは短期間で爆上がりできてしまったのがとても嬉しい。
俺、エリー、イーリアス、シーラ、ミーニャ、チョコ、ザックという、いつものパーティーメンバーで四色目の『王孵』のある、『迷宮の古城』ダンジョンへとやって来た。
このダンジョンは、各階がとても広い迷路の様な構造になっており、落とし穴も多数ある。
通常では攻略に何日かかるかわからないが、俺の宝箱回収率100%に燃えたゲーム知識と、リアルラックの持ち主ミーニャの盗賊(今は忍者)としての第六感的な嗅覚が合わさってスイスイと攻略が進んでいく。
中にはあえて落とし穴に引っかかって、落下しないと宝箱にたどり着けない所まであるし、目に見えない隠し通路もいくつもある。しかし俺とミーニャのタッグの前にはそのようなトラップなど、何の障害にもならないのだ。
さくさく進んで、最上階で四色目の『緑王孵』を手に入れた俺達は、帰り道に備えて一度休憩を取ることにした。
この『迷宮の古城』には、文字通りのお宝アイテムが数多く眠っていたので、手に入れたアイテムの事について話し合うのも実に楽しい。
「あぶにゃい!!」
突然ミーニャが立ち上がると、エリーを突き飛ばした!
「きゃっ!」
うっすらと白い透明な何かがエリーの代わりにミーニャに吸い込まれていく!
「なんだ!?」
「ファファファ、我が名は『操影』のマクドジード。またの名は『ゴーストキング』マクドジードである。我が友、死霊魔王ゴルゴンダの刻みし残り香を追って、ようやく追いついたぞ! 貴様らあちこちと移動し過ぎだ!」
そんな!
ミーニャの語尾が『にゃ』じゃなくなっている!?




