第111話 三人の転職
泥棒猫ミーニャの現在の職業は盗賊だ。
シーフ由来の上級職? である冒険家、怪盗、赤詐欺士などもいくつか混じっているが、どれもネタジョブで実質シーフとさほど変わらないので、これらは却下になる。
赤詐欺士はシーフがレベル99で覚えるスキル『はーとをぬすむ』まで覚えた場合に現れる職業で、赤詐欺士にジョブチェンジしてから『はーとをぬすむ』を使うと、魅了耐性が無い相手にはなんと驚異の99%の成功率を誇るのだ!
ただボスキャラは、状態異常に耐性があるいわゆるボス耐性を持っているので効果がないのと、あまりにも『器用』以外のステータスが貧弱過ぎるので、実質使えないジョブだ。
ゲーム序盤から中盤にこのジョブが使えたら、敵を魅了しまくって同士討ちさせまくれるので、かなり有効なのだが、高火力で通常攻撃を放てる今となっては、雑魚敵は普通に殴って倒すほうが早いんだよなぁ。
高確率でクリティカルヒットが出て、極稀に一撃死を相手に叩き込める『暗殺者』や、魔道士系を選択して『素早く動ける魔道士』を目指すのも悪くないんだが、今回のミーニャの場合、転職先は実質『忍者』一択だ。
なんといっても、ジョブ固有スキル『二刀流』で通常攻撃が二回になるのが大きい。これにアクセサリー枠に装備した『狩人免許』の『みだれうち』を組み合わせれば、通常攻撃が最大八回になる。
さらに『素早さ』と『器用』のパラメーターが攻撃力に加算される『破邪の剣』を装備すれば……ぐふふ、笑いが止まりませんなぁ。レベルさえしっかり上げれば、八回すべてがカンストダメージですよ。
スキル『投げる』で忍術を使って敵全体に魔法系攻撃も仕掛けられるし、強力な武器を投げて防御力が高い敵でも大ダメージを与えられるのも魅力的だ。
難点は防具の装備が軽装しかできないので、前衛ジョブなのに打たれ弱いところだけど……それを補って余りある汎用性の高い高火力アタッカーの出来上がりだ。
あ〜、だけど『暗殺者』の性能に、ミーニャのリアルラックが加わったらいったいどうなってしまうんだろう、という誘惑もあるんだよなぁ。全ての敵を一撃死させたりして……。もしも第三職業への道がひらけたら、次は『暗殺者』だな。
俺の方を見るミーニャと目が合うと、お互いにこくりと頷いた。ミーニャには事前にレクチャー済みである。
「あちしは『忍者』に転職しますにゃ」
「うむ、初めて忍者というジョブが現れた時は、こぞって忍者になった程のポテンシャルのあるジョブじゃ。儂からもお勧めできる。それでは『忍者』になりたいと強く念じるのじゃ」
ミーニャが両手の指を組んで祈りを捧げると、大神官テンチョクの持つ杖の先端が光輝き、ミーニャが光に包まれた。少しの間そうしていたかと思うと、ガクッとミーニャが膝をついた。
「ミーニャ!」
すぐにそばに寄って抱き起こしてあげた。
「大丈夫じゃ、急激なレベルダウンにより、大抵のものはそうなる。すぐに慣れるじゃろう」
心配ではあるが、俺達の時と同じのようだ。
「では次はお主の番じゃ」
そう言って大神官テンチョクが水晶玉を騎士ゴライアに差し出した。
言われた通りにゴライアが水晶玉を握ると、強く光輝き、多種多様な前衛系のジョブが石板にズラリと映し出された。中には魔道士系のジョブも混じっている。
「おおっ! この魔法剣士というのはわくわくするな!」
ゴライアが自分の転職先を色々と眺めてはしゃいでいる。転職のアドバイスを求められているので、俺ものりのりでゴライアの転職先の考察をする。
「ゴライアの転職先のレパートリーが凄いな……」
「おお、そうじゃのう、大輝石の恩恵を受けた光の戦士ではない者が、これ程の数の転職先を選べるとは凄いのう。これ程出るという事は、第二職業を鍛えれば、滅多におらんが第三職業も得られるやもしれんのう」
大神官と、すでに第三職業を得ている貴重な体験者である青魔道士ステラ、ゴライア、俺と四人でわいわいとゴライアにもっとも相応しいと思える職業について考察する。
皆で考えた結果、ゴライアの転職先はレアジョブ『ルーンナイト』に決まった。
『ルーンナイト』はステータス構成がバランスよく高く、ユニークジョブである聖騎士に近いため鍛え甲斐がある職業と言える。第三職業への道がユニークジョブである可能性も高まるだろう。
『ルーンナイト』のもっとも特徴的なところは、なんと言ってもMPを少し消費する事によって、必ずクリティカルヒットを出せる事にある。今まで無駄にそれなりにあったMPが有効に使えるというわけだ。
ボスキャラにももちろん有効なので、回転数を上げるアイテムをアクセサリー装備すれば、相当に強力なアタッカーとなれるだろう。
手順通りに転職が終わって、よろめいたゴライアをステラが支えてあげている。
「では最後はお主の番じゃ」
そう言って大神官テンチョクが水晶玉を黒魔道士ローザに差し出した。
言われた通りにローザが水晶玉を握ると、強く光輝き、魔道士系のジョブが石板にズラリと映し出された。中には戦士系、シーフ系のジョブも混じっている。
「これってどうなの?」
ローザも俺に意見を求めてきたので、遠慮なく考察に加わる事にする。ファンサマニアの俺にとっては実に楽しいひと時だ。だが、遊びではないので真剣に考えている。
今度はローザラブの勇者アイスも加わって、わいわいと話し合う。まあ、他のもしっかりと検証するが、この中では一択なんだがな。
天才魔道士という国の触れ込みで勇者パーティーに加入したというのは本当だったのだろう。伝説的なジョブが混じっている。『賢者』だ。賢者は白魔法、黒魔法、時魔法、召喚魔法を操る事ができるとんでもないジョブだ。
さらに装備できる武具の幅も他の魔道士系よりも広い。それぞれの魔道士の直接の上級職よりも若干威力は劣るが、そんな事はどうでもいいと思える程の素晴らしいジョブだ。
みんなの意見が一致したので、ローザの転職も無事に終わった。
転職が終わって落ち着いたと思ったら、また勇者アイスが俺にちょっかいを出してきた。対抗してゴライアもだ。
それに対して思うところがあるらしい、エリー、ローザ、ステラも混じって、場はワチャワチャしてカオスな状態になってしまった。
「いつからマーダ神殿はカオスな神殿になってしもうたんじゃ……」
大神官テンチョクの嘆きが聞こえてしまった。
無事に三人の転職が終わりました!
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